ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。   作:大塚ガキ男

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まただ・・・また文字数が10000を越えているだと・・・!?

今回は、鈴ちゃん成分一割。セシリアちゃん成分一割。一夏成分一割。五反田成分七割です。



14話

「・・・・・・その、お店は・・・しないんだ」

 

「うちの両親離婚しちゃったから・・・・・・。あたしが国に帰る事になったのもそのせいなんだよね」

 

 

 

 こっちに戻ってきたって事は、またお店やるの?またお店モードの鈴ちゃんが見れるの?という問いに対する答えがこちらである。

 なんてこった。まさかこんな所でシリアスに入ってしまうとは。

 常にふざけているオレには重い。重過ぎる。

 こんな時、オレはなんて言えば良いのかも分からない。

 

「・・・何か考えてるみたいだけど、何も言わなくて良いから。慰めとか同情とか本当やめてね」

 

 考えてる事がバレてしまった。鈴ちゃんに視線で「良いのか?」と問う。

 

「もう終わった事だから」

 

 それもそうか。俺が今更何かを言った所で鈴ちゃんの心には響かないだろう。

 ・・・・・・でも、やっぱり寂しそうだな。

 あんなに楽しそうな家族だったのに。

 よし、とオレは思い付く。

 それは決して、鈴ちゃんへの慰めの言葉ではない。

 

「話は変わるけどさ、今度久し振りにどっか遊びに行かねェ?」

「ソレ、変えたつもりなわけ?」

「・・・・・・オレの中では変わったんだよ」

「まぁ良いけど。——それで?どこに連れてってくれるの?」

「あー、一夏ちゃんと弾ちゃんにも聞いてみないとなァ」

「は?」

「・・・どした?」

「え、一夏と弾もいるの?」

「いない方が良い?」

「い、いや?そういうわけじゃないけど!——あたし、用事を思い出しそうだからやっぱりその日はパスで!」

 

 まだ何日に遊ぶかも決めてないんですけど。

 まあ良いか。用事を思い出しそうならば仕方無い。

 弾ちゃんも、鈴ちゃんが帰ってきたって聞けば喜ぶだろうな。

 IS学園に入学してから——更に言えば、一夏ちゃんと共に試験会場でISを動かしてから、会えなくなっていた親友の顔を思い出しながらぼーっとしていると、パシュー、と電車のドアのような音を立てて入り口のドアが開いた。

 

「——光也さん!」

 

 ドアの前に金色の何かがいたなァと何となく脳が認識した頃には、いつの間にかその人はベッドで上体を起こしているオレの腹部に抱き着いていた。その衝撃でオレの身体のどこかがメキリと嫌な音を立てる。

 

「御身体に異常は御座いませんか!?鬼神の如き活躍をなされたと思えば、いきなり倒れてしまうんですもの!わたくしとの決闘の時もそうでしたが、二回目とは言えやはりヒヤリと致します!本当はすぐさま駆け付けたかったのですが——」

「あ、ありがとう!セシリアちゃん!オレは大丈夫だから!」

 

 呪文のように流れるセシリアちゃんの言葉を礼で中断させる。ついでに痛む身体を必死に動かしてサラサラの髪も撫でれば、セシリアちゃんは「い、いえ・・・!」と頬に手を当てて冷静さを取り戻してくれる。

 ・・・・・・こんな形で女の子の扱い上手くなりたくねェんだけど。

 

「コホン、お見苦しい所を見せてしまいました」

「いや、別にオレは大丈夫だけど。むしろバッチコイって言うか——いってェ!」

 

 ニヤケながらそう言ったら、鈴ちゃんに頭をはたかれる。

 

「この助平!成長したのはISの操縦技術だけね。他は中学の頃から何も変わってないわ」

「それを言ったら鈴ちゃんこそ、その言葉の体現者と言っても過言ではないんじゃ。あ、嘘嘘。ほら、落ち着いて?胸に手を当てて、深呼吸」

「へぇ、あたしの胸が中学の頃から変わってないって?」

 

 駄目だ。迂闊に中学の頃の話をすると鈴ちゃんの地雷に触れてしまう。地雷原を歩いたつまりはなくても、地中に埋まっている地雷がモコモコとオレの足元まで移動してくる!

 

「違う!(見た目が)ちっちゃくて可愛いって意味だ!」

「どこがちっちゃいってのよぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無人機が乱入してきた事件も一段落付いた六月の休日。オレと一夏ちゃんは久し振りに、中学からの親友である弾ちゃんの家を訪ねる事にした。

 書くのがかったるい外出届も、千冬ちゃんに書き方を教えてもらいながら何とか書き上げ、無事に受理された。

 そんな訳で堂々とIS学園の敷地外を歩きながら弾ちゃんの家へ向かっている途中。車が走ってんのを見るのとか久し振りだなァとか考えながら歩いていると、一夏ちゃんが

 

「・・・最近、さ」

「んだよ」

「箒が・・・・・・その、可愛く見えるっていうか」

 

 トンデモない事を抜かしやがった。

 

「ハァ?箒ちゃんは元々可愛いだろうが」

「そういうのじゃないんだ。元々可愛いけど、最近は特に可愛く見えるんだよ」

 

 頬をぽりぽりと人差し指で掻きながらそんな事をほざく一夏ちゃん。自分の中での箒ちゃんに対する意識が変化している事に気が付き、戸惑っているらしい。一ヶ月以上同室で暮らしておいて、やっとかよとも思ったが、それはそれ。今は鈍感野郎の心中の変化を喜ぶべきだろう。

 オレはその変化の答えを知っているので、教えてやる事にした。

 

「そりゃアレだよ。恋だ」

「こ、恋!?」

「箒ちゃんの事、可愛いと思うんだろ?」

「あ、あぁ」

「んじゃあ恋だ。それ以外に考えられねェ」

「その理屈でいくと光也はどうなるんだよ。女子を見る(たび)に可愛い可愛い言ってるじゃないか」

「あぁそうだよ。オレは年がら年中恋しっぱなしだな。女の子だーいすき」

「・・・その台詞、間違っても鈴とかの前で言うなよ」

「は?」

「何でもない。それで、仮に恋だとしたら、俺はどうすれば良いんだ?」

 

 どうすれば良いんだって、おいおい。

 オレは一夏ちゃんの台詞を鼻でフゥ〜と笑いながらやれやれと首を横に振る。

 

「そりゃ、やる事って言ったら一つだろ。——告白だ」

「は、はぁ!?本気で言ってるのか!?」

「あぁ。本気の本気、超本気だぜ。だってアレだろ?今までそんな感情出てこなかったんだろ?」

「・・・確かに。今までは可愛いとか美人とかは思っても、それ以降は特に何も思い浮かばなかったけど」

 

 ヤベェなコイツ。女の子見て欲情とかした事ねェのか?一夏ちゃんの不能疑惑が再び急浮上だぞ。

 

「箒は、何か違うんだよな。近くにいるとドキドキするって言うか、緊張するって言うか。話し掛けようと声を出したら箒と被っちゃって照れながらも気まずくなったりとか。すぐ隣で箒が寝てるんだなって考えると不思議と眠気が消えたりとか。

 この前手料理を作ってもらったんだけど、あの時は本当にヤバかった。死ぬんじゃないかってくらい心臓がバクバクしてた」

「甘ったりィー。んだよコイツ惚気(のろけ)やがって」

「の、惚気てねぇよ!」

「はいはい。そォーですねー」

 

 こんなにニヤニヤしながら語る一夏ちゃん初めて見たわ。

 これはガチだな。自分では気付いてないだけで、本気で箒ちゃんの事を好いてやがる。

 兎にも角にも、一夏ちゃんは箒ちゃんにラブドッキュンらしい。

 ぶっちゃけ箒ちゃんも一夏ちゃんに対して同じような想いを抱いているので、告っちまえば即美男美女カップル成立!何だが。

 こちらから告白を急かしても、あまり良くはないだろう。こういうのは、本人が自分の気持ちに納得言ってからじゃねェと。

 

「まぁ、今すぐに告白しろとは言わねェよ。一夏ちゃんが告白したいって思った時に告白すれば良いんじゃねェの?」

「・・・それもそうだな。よし、ありがとう」

「気にすんな。糖分摂取には丁度良かった」

「糖分?」

「何でもねェよ。ほら、着いたぜ」

 

 そうこうしている内に、いつの間にか弾ちゃんの家の前に到着していた。

 五反田食堂。

 弾ちゃんこと五反田 弾(ごたんだ だん)のお家が営んでいるお店の名前だ。

 今日は弾ちゃんの部屋で駄弁ったりゲームしたりする予定なので、弾ちゃんの家の構造上、食堂を突っ切って入るのではなく、裏口から二階の弾ちゃんの部屋へと入らなくてはならない。

 メールで弾ちゃんに『着いたぞバカヤロウコノヤロウ』と送る。すぐに『待ってろ』と返信が来た。

 

「久し振りだな、一夏。それに、たけし師匠」

 

 弾ちゃんが家の前に出てくる。一夏ちゃんが「何でたけし師匠!?」と驚いていたが、気にするまい。

 赤髪のロン毛。加えて、ヘアバンド。アクションゲームだったら物語の終盤までには死んでるか入院してそうな容貌をしているのが弾ちゃんだ。

 

「久し振りじゃんかよ、うーい!」

 

 弾ちゃんに近付き、肩ポン。

 

「その通りだな、おい!」

 

 弾ちゃんも肩ポンで返す。

 

「オレと遊べなくて寂しかったか?おーら!」

 

 ドン。

 

「寂しかったぜ、おい!」

 

 ドス。

 

「そりゃ嬉しい限りで、ふんっ!」

 

 ガス。

 

「今日はめいいっぱい遊ぶぞ、せいッ!」

 

 ズドン。

 言葉を交わす毎に上がっていく肩ポンの威力。切れた息を整える為に一度深呼吸してから、二人同時に相手を睨みながら。

 

「「・・・殺す!」」

 

 あまりの痛さに殺意が芽生えた。

 

「——っておい!なんだそれ!」

 

 途中まで違和感無くぼーっと見てたけど、可笑しい事に気付いた一夏ちゃんに止められる。それを合図に、オレと弾ちゃんも表情を笑顔に戻した。

 

「冗談は兎も角、本当に久し振りだよなァ。受験の後もバタついて遊べてなかったし」

「俺も、何度か誘おうとはしたんだけどな。忙しそうだったからやめといたんだ」

 

 久し振りの再会に思わずテンションが上がる。もう少しふざけたいが、ここは店先。弾ちゃんに導かれ、取り敢えず続きは部屋でする事に。

 弾ちゃんの部屋。各自適当に座り、ゲームでもするかという話になり、あの大人気ゲーム『IS VS(インフィニット・ストラトス ヴァースト・スカイ)』を起動。

 その最中。一夏ちゃんと弾ちゃんがやってるのをベッドでゴロゴロしながら見ていると、弾ちゃんが隣でコントローラーを握って白熱している一夏ちゃんにこう言った。

 

「で?」

 

 一文字でそう言われても、よく分からない。一夏ちゃんは

 

「で?って、何がだよ?」

 

 と返す。

 

「だから、女の園の話だよ。良い思いしてんだろ?」

「してねぇよ」

「嘘を吐くな嘘を。お前のメール見てるだけでも楽園じゃねえか。何そのヘヴン。招待券ねえの?」

「招待券は無いし、ヘヴンな訳でもない。数十人からの視線が常に自分と光也の二人に集中してるんだぞ?経験した事あるか?・・・本当、光也がいてくれて助かったよ」

「でもアレだろ?メールで聞いてる限りだと、鈴も転入してきたらしいじゃねえか。下手すると——」

「あぁ、それに関しては当分先になると思う。まだ気付いてないっぽいから」

「はぁ!?一夏と言い、どんだけ鈍感なんだよアイツ」

「は?何言ってるんだよ。鈍感なのはアイツだけだ。俺はむしろ鋭い方だぞ」

「はいはい。鋭利鋭利」

 

 小声で話している為、何の話をしているのかはよく分からない。てか、何もしてないと眠たくなってくるな。寝ても良いかな?良いよな?

 弾ちゃんのベッドを勝手に使い、布団に潜り込む。中学の頃はしょっちゅう三人でこの部屋に集まっていたからか、落ち着くんだよな。

 

「大体、何であそこまでやられていて、鈴が俺の事好きだっていう発想になるのかが分からない」

「本当それだよな——あ、汚ねえ!最後ハイパーモードで削り殺すのナシだろ〜・・・」

「やっぱイタリアのテンペスタは強いわ。というかエグいわ」

 

 あー暇だ。なんか二人はイタリアのパスタの話してるし、話に入れなくて暇なのも相まってスッゲェ眠たい。

 あー、眠い・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・おい、光也のヤツ寝やがったぞ」

 

 ふと、後ろがやけに静かな事に気付いた弾が、振り返って光也を見てみる。そこには、いびきをかきながら寝ている光也の姿があった。一夏も振り返り、苦笑い。

 

「さっきまで弾と殴り合いしてたとは思えない睡眠ぶりだな」

「じゃれ合いって言えよ。それだとなんか物騒じゃねえか」

「じゃれ合いで済む威力には見えなかったんだが・・・」

「で、話は戻るが」

 

 弾が、もう一度女の園について一夏に問おうとした瞬間。訪問者によってドアが勢い良く開かれた。

 

「お(にい)!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに——あ、一夏さん」

 

 ドアを開いた(瞬間の姿勢が片足を腰の位置程度まで前に上げた状態だったので、恐らく蹴り開けた)少女、五反田 蘭(ごたんだ らん)は弾にそう怒鳴ってから、室内にいるのが弾だけではない事に気が付いた。

 

「おう、久し振り。邪魔してる」

 

 蘭に向かって手を上げて挨拶をする一夏。蘭の記憶では、もう一人を入れていつもの三人だったような。一夏に問う。

 

「って事は、光也さんも来てますか!?」

「あぁ、そこで寝てる」

 

 一夏が指差した方を見ると、弾のベッドで寝ている光也を発見。蘭がそれを見てホッとしていると(何故ホッとしたのかは不明)、弾が兄として注意をしてくる。

 

「蘭、お前ノックくらいしろよ。恥知らずな女だと——」

 

 しかし、その注意も蘭には全く効いていなかった。むしろ、瞬時に立場が逆転。蘭がギロリと弾を睨む。

 

「・・・なんで、言わないのよ・・・・・・」

「言ってなかったっけか?言ってねえか。言ってなかった気もする。言ってないよな。わ、悪かった」

 

 蘭が眼力を強める毎に、反論が弱々しくなる弾。遂には謝罪。

 

「そうだ、光也も起こそうか」

「え!?ちょっと、今の格好は恥ずかしいって言うか・・・」

「多分気にしないから大丈夫だろ」

 

 一夏の提案に蘭が自らのラフな格好を見直して断ろうとするが、一夏は気にせず光也の肩を揺する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、光也。起きろ」

 

 むくり。

 上体を起こして目を擦る。あー寝てたのかと知らぬ間に寝ていた自分に驚き。

 

「おはよう」

「・・・あい」

 

 眠てェー。どうしてこんなに眠いんだよ。アレか?昨日遅くまで熱心にネットサーフィンをしていたのがいけないのか。何を調べてたのかって?よせやい、野暮な事聞くんじゃねェよ。着衣云々の事なんて調べてねェって。

 伸びを一つ。幾分晴れた眠気と共に、入り口に立っている美少女に気付く。

 

「蘭ちゃんじゃん!」

 

 一文に『ん』を三つも使ってしまうくらいには喜んでいる。

 兄である弾ちゃんと同じようにヘアバンドを使い、赤い髪を纏めている。ホットパンツにノースリーブのシャツ。

 とてもラフ(エッチ)な格好だ。

 

「いやー、嬉しいなー。弾ちゃんに加えて蘭ちゃんにも会えるなんて!」

「光也さんも相変わらずですね。どうですか?IS学園に入学したそうですけど」

「あぁ。美少女に囲まれた生活を送ってるぜ」

「あ゛?」

「落ち着け、蘭。虚勢だ」

「な、なーんだ!確かに、光也さんが女の人に囲まれるなんて有り得ないですもんね!」

「おぉい!決め付け良くないよォ!あと蘭ちゃんも納得しないで!」

 

 五反田兄妹の酷い言い様に泣きそうになっていると、一夏ちゃんが助け船を出してくれた。

 

「光也の言ってる事、合ってるぞ」

 

 それに驚くはやはり五反田兄妹。蘭ちゃんは額を押さえてくらりと壁に手を付き、弾ちゃんが凄い勢いで詰め寄ってきた。

 

「嘘だよな!?嘘って言ってくれよ!お前に限ってハーレムは絶対有り得ねえよな!?」

「おいおい、オレを誰だと思ってるんだ?今女子のハートを奪いに奪っているスーパーハンサムボーイ、唐澤光也様だぞ?」

 

 髪を指で搔き上げる。弾ちゃんが、「クソ!お前となんか絶交だ絶交!無様に死ね!!」と本気で意外そうにキレていた。そこまで意外か?オレってそんなにモテそうに見えないのか?

 

「いや俺が言いたかったのは、クラスに男が二人しかいないからどうしても女子に囲まれてる生活になるんだよなって事なんだけど」

 

 一夏ちゃんの一言で、高笑いをしていたオレを含めて固まる三人。おい弾ちゃん。みるみる内に笑顔になるな。

 

「光也、一生親友だ!」

 

 五月蝿ェ馬鹿。ヘアバンド引っ張りまくってゴムビロビロにすんぞ。

 

「あ、そうだ。良かったら、光也さんと一夏さんもお昼どうぞ。お昼、まだですよね?」

「おう、食べる食べる!」

「あー、うん。俺もいただこうかな」

「じゃあ、下の食堂で・・・」

 

 蘭ちゃんがドアを閉めて出て行く。

 あ、そうか。じっちゃんのご飯食べるのも久し振りな訳か。アレ凄い美味いんだよなァ。楽しみだ。

 一夏ちゃんと言い鈴ちゃんと言い、なんだかオレの周りには美味い飯がいっぱいあるなァ。

 

「光也は、よく蘭の事をちゃん付けで呼べるよな。俺なんか絶対無理だ」

「そうか?普通に蘭ちゃんって呼べるけど」

「それに、蘭に限らずだよ。思い返してみれば、クラスの女子も皆、下の名前+ちゃん付けだろ」

「あー、言われてみればそうかもな」

 

 一夏ちゃんの疑問に、弾ちゃんも同調。確かに言われてみれば、鈴ちゃんも箒ちゃんも千冬ちゃんも束姉も、皆ちゃん付けで呼んでる気がする。

 いつからだと問われればそれに明確な答えを返すのは難しい。少なくとも中学生の時には皆ちゃん付けだったような。

 

「何でだろうな。その子と親しくなりたいからフランクに呼んでるんじゃねェの?」

 

 皆可愛いし。オレとしては必要以上に仲良くしておきたいし。

 オレの言葉に、二人も「あー」と納得。

 

「二人もちゃん付けで呼べば良いのに」

「出来るかよ。妹にちゃん付けしだしたら俺はもう終わりだぞ」

 

 言われて、弾ちゃんが『おい、蘭ちゃん』と呼び掛けている状況を思い浮かべてみる。確かにヤバい。

 

「——って、ちょっと待て光也。お前、蘭と親しくなりたいのか?」

「何言ってんだよ弾ちゃん。当たり前だろ」

「・・・・・・お前は今日から五反田家出禁だ」

「何でだよ!」

「同い年の弟はいらねえからだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂。

 入った瞬間に弾ちゃんが「うげ」と嫌そうな声を出す。後ろを付いてきていたオレと一夏ちゃんも、弾ちゃんの左右から店内を覗く。

 オレ達の昼飯が用意しているテーブルには、蘭ちゃんが立っていた。おい、何『うげ』とか言ってんだ弾ちゃん。せめて『うほ』って言えよ。

 ・・・それはそれで気持ち悪ィか。

 

「何か問題でも?あるならお兄一人だけ外で食べれば?」

「何という兄妹愛。弾ちゃん、良い妹ちゃんを持ったな」

「本気で言ってんのかこのタコ」

「まあまあ、四人で食べれば良いだろ。他のお客さんもいるし、早く座ろうぜ」

 

 それもそうだ。席に着く。四人テーブルに座る席順としては

 

 

  一夏 | 弾

  ——————

  光也 | 蘭

 

 

 という感じだ。さり気無く蘭ちゃんの隣に座れたので良し。

 皆はカボチャ煮定食なのだが、オレは甘い物(カボチャが甘いのだ)が食べられないので、

 

「おいガキ。オメェはこれでも食ってろ」

 

 出されたのはここの鉄板メニュー『業火野菜炒め』。

 

「おー、ありがとな!じっちゃん!あとで肩揉むぜ!」

「肩揉まれる程老いてねぇよボケ。・・・・・・はぁ、オメェみたいのが息子だと良かったんだがな。なぁ?弾」

「へいへい・・・俺も頑張りますよ」

 

 モグモグ。お昼を食べる。食べ物を噛みながら話すとじっちゃんがブチ切れるので、食事の合間合間で会話を入れる。

 

「・・・そう言えば、蘭ちゃん着替えた?」

「は、はい!どうですか?」

「超可愛い」

「あ、ありがとうございます・・・!」

 

 礼を言うのはこちらの方だ(キメ顔)。

 真っ白なワンピース。似合ってるし、赤い髪が映えて何だか素晴らしいし、何よりワンピースとニーソックスの間の絶対領域。絶対・・・領域!最高過ぎる!

 

「どこか出掛けんの?」

「い、いえ、そういう訳では・・・」

「イメチェン?」

「違います」

「あ、分かった!さっきのは汗かいたから洗濯してるんだろ!」

「違います!」

 

 違った。

 

「なぁ一夏。俺は妹と親友がイチャついてる姿を正面から見なければいけないという苦行を強いられている訳だが」

「自覚してないからセーフだと思うぞ」

「自覚してないから怖いんだろうが。光也の野郎、無自覚で好感度バンバン上げてやがるぜ?」

「後が怖いパターンだな。無自覚って怖い」

「お前も人の事言えねえだろ」

「何の事だ?」

「・・・ハァ」

「食わねえなら下げるぞガキ共!」

 

 厨房から飛んでくるじっちゃんの叱責。慌てて食事を再開する。あのムキムキアームで拳骨でもされた日には、頭蓋骨が陥没してしまう。

 千冬ちゃんの次に怒らせてはいけない人だ。

 

「IS学園ってどんな感じなんですか?」

 

 蘭ちゃんからの問い。弾ちゃんの時の女の園云々の下世話な疑問ではなく、単純にどんな感じなのか気になっているのだろう。一夏ちゃんに流す。

 

「え、俺?」

「当たり前だろ。オレからまともな答えが出ると思うなよ」

「それもそうだ・・・。——まぁ、入ってすぐは座学の授業だな。同じ時期だとクラス代表とか決めたり。その後にようやくISの基本的な飛行操縦訓練、実技が始まる。五月にクラス対抗戦やって、今に至るって感じかな」

 

 ふむふむ、と蘭ちゃんが一夏ちゃんの話を真面目に聞いている。弾ちゃんは何やらニヤニヤとしながらオレに問うてきた。

 

「実技って事は、クラスメイトのISスーツ姿が見れるのか?」

「そりゃ授業だからなァ。見放題だ」

「クッ、羨ましい」

「弾ちゃん。・・・あまり、良い事ばかりじゃあねェんだぜ?」

「何だよ光也。お前だって嬉しいんだろ?」

 

 オレの一言に弾ちゃんがそう言ってきた。あぁ、嬉しいとも。IS学園に入学して良かったと心から思える程喜んださ。

 だが、弾ちゃん。お前は知らないだろう。

 

「嬉しいのは勿論だが、男子も似たようなピチピチISスーツを着るんだぞ」

「は?それがどうか——まさか!?」

「そう、あんまし女の子をジロジロ見てると・・・危ないんだ!」

 

 元気良く言い放った瞬間、オタマが飛んできた。オタマはオレの頭に勢いよく当たってから、運良くテーブルの器の間に落ちた。

 勿論返しに行かなければならない。

 

「蘭の前で下手な事言うんじゃねぇぞガキ・・・!」

「も、申し訳ございませんでしたァ」

 

 厨房にオタマを返しに行くと、鬼のような形相のじっちゃんが待っていた。ヒュバッとオタマをオレのアタマの寸前で止め、それを何度か繰り返す。次はこれで直接殴るからなというアピールだ。

 その迫力にちびりそうになりながらも、席に戻る。座った瞬間に何故か蘭ちゃんに太ももをつねられた。

 

「女子と同室を許してるとか、学園側は頭可笑しいとしか考えられねえな」

「いや、俺は別に良いんだけどな」

 

 オレが怒られている内に、話は進んでいたらしい。IS学園で妄想を膨らませる弾ちゃんと、現実を見せる一夏ちゃんの図が出来上がっていた。

 

「・・・もしかして、光也さんの同室も女性ですか」

「え、オレ?オレは一人部屋だけど」

「一人部屋だけど、毎日のように女子が遊びにきてるぞ」

 

 一夏ちゃんによる追加情報。次は脇腹をつねられた。どちらも、対面の二人には見えていないんだから凄ェよな。痛がるオレを二人が不思議そうな顔で見てるぜ。

 

「・・・決めました。私、来年はIS学園を受験します」

「え?」「マジ?」「ハアァ!?」

 

 突然の決意。それに、一夏ちゃん、オレ、弾ちゃんの順に三者三様のリアクションで返す。

 

「このままじゃ光也さんが簡単にハニートラップに引っ掛かる駄目人間になりかねませんから。やっぱり私が見てないとっ」

「何だその理由!トチ狂ってんのかお前は!」

 

 弾ちゃんが席を立って怒鳴ると、厨房からまたもやオタマが飛来。

 額をさすりながらオタマを返しにいき、先程の声量を反省してか、小さめの声でオレに囁いてきた。と言っても、オレと弾ちゃんの席は対角線上。その囁きは一夏ちゃんと蘭ちゃんにも聞こえてしまっている。

 

「おい、光也。お前からもどうにか言ってやれよ」

 

 確かに。

 蘭ちゃんがIS学園を受験すると志すのは立派だ。

 だが、素直に応援出来ない理由が大きく分けて二つ。

 志望理由と適性問題。

 

「そんな理由で志望して大丈夫なのか?面接とかあったらどう答えるんだ」

「そこは変えようと思えば幾らでも変えられますから」

 

 ・・・それもそうだ。

 となると、もう一つの適性に関する問題。

 

「あと、そんなに簡単に入れるもんじゃねェからな。幾ら志しても、ISに対する適性が無けりゃ受験もさせてもらえねェらしいし」

「ふっふっふ、これを見て下さい」

 

 蘭ちゃんがポケットから一枚の紙を取り出す。紙面には、『IS簡易適性試験 判定A』の文字。

 いつの間に適性試験なんて受けにいってたのかよ。

 

「問題は既に解決済みです」

 

 しっかりしてるなァと蘭ちゃんに関心しつつ、疑問が浮かぶ。

 

「そういや蘭ちゃんって今メッチャ良い所通ってるんじゃなかったか?わざわざ受験しなくてもそのまま大学までエスカレーター式で・・・・・・みたいな」

「そうだ。何もわざわざIS学園を受験しなくても良いじゃねえか。あそこは推薦も無えんだぞ」

「お兄と違って、私は筆記で余裕なの。——だから、私が入学したらISの指導をお願い出来ませんか?」

「話を聞く限りだと、逆にオレの方が教わりそうなんだが」

「良いから、YESかNOで答えて下さい!」

 

 二年生に上がったオレ。一年生になった蘭ちゃん。放課後の個人練習。

 うーん、胸トキメク。

 そもそも、もう止める理由が無いのだ。

 さすれば、オレの答えは一つ。

 

「YESだ!任せとけ!」

 

 それに「はい、約束ですよ!」と笑顔で元気良く答えてくれる蘭ちゃん。その笑顔を見ていると、今から二年生に上がるのが楽しみになってきた。

 唯一の問題があるとすれば、ルリちゃんの力を借りなきゃオレはただの雑魚野郎だって事だろう。

 あー、そろそろ真面目に練習しないといけねェのかなァー。

 

 

 

 




遂に、UA100000を突破し、戴いた感想も50を越えました!ありがとうございます!
UAがジワジワと増えていくのを日毎にニヤニヤしながら見てます!
感想を下さった皆様!為になる御指摘、心舞い踊る御感想をありがとうございます!とても励みになります!

ここまでテンション上げといてアレなのですが、来週の投稿は遅れると思います・・・。
と言うのも、27日に自身の人生最大のビッグイベントが待っていますので。25日から新幹線で石川県に行きます。
多分その三日間は書く暇が無いくらいの忙しさだと思うので・・・。



遂に次回、転校生!!

どのキャラが好き?

  • 一夏ちゃん
  • 箒ちゃん
  • セシリアちゃん
  • 鈴ちゃん
  • シャルちゃん
  • ラウラちゃん
  • 千冬ちゃん
  • 束ちゃん
  • 蘭ちゃん
  • 弾ちゃん
  • 光也

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