ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
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今回の文字数は10000と少しです。
前回の
倍です。
アリーナに堕ちてきた謎の物体。何事かとそちらを見るが、着地した時に何をしたのか地面が燃え上がっている。爆煙で、シルエットしか視認出来ない。
『な・・・何だ?』
戸惑う一夏ちゃんの声が放送を通じて流れる。
オレや観客席の皆の心境も似たようなものだった。騒つき、先程までの熱気はいつの間にか冷め始めている。
『一夏!試合は中止よ!すぐにピットに戻って!!』
『お前はどうするんだよ!』
『あたしが時間を稼ぐ』
『あたしがって・・・。女を置いてそんなこと出来るか!』
『アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょうが!』
代表候補生として正体不明の何かを相手取り、初心者である一夏ちゃんを逃がそうとする鈴ちゃん。
男として、鈴ちゃんを置いてはいけないとアリーナに留まろうとする一夏ちゃん。
両者の主張がぶつかり合った言い争い。それも、謎の物体の周囲で上がっていた爆煙が晴れた事により中断された。
否。正確に言うならば、物体が放ったビームが爆煙のカーテンを貫き、それによって爆煙が掻き消され、ビームの向かった先の一夏ちゃんと鈴ちゃんも言い争いを止めて回避したーーだ。
回避する際に一夏ちゃんが鈴ちゃんをお姫様抱っこしていて、アイツはこんな状況でもやっぱりイケメンなんだなと思った。
爆煙が晴れ、双眼鏡を覗いて見た物体の正体。
「・・・・・・
オレの知っているISとは全く違う形に、思わず声に出してしまった。
オレが今まで見てきたISといえば、人が乗っているのだと即座に分かる形状をしていたのだが。
女の子の脚やら腕やらが眩ばゆく主張されている形状していた筈なのだが。
しかし、アリーナに堕ちてきたアレは違った。肌の色ーー露出している部分は見当たらず、ただただ黒。本当に人が乗っているのかと疑ってしまう程だ。
正体不明のISからの攻撃は一度に終わらず、続いてもう一回、もう二回と二人にビームを放っている。二人も、空を飛び回って回避。
真耶ちゃんが放送で二人にアリーナから脱出しろと呼び掛けてはいるが、一夏ちゃんは「俺と鈴でアイツを食い止める」と言って聞かない。
観客席の女の子達は我先にと観客席入り口のドアから逃げようとするが、何故だかドアは開かず、ドア前は混沌とした状況になっている。
異常事態に怯え、泣いてしまっている子。
開けてと叫びながら閉じられたドアを叩く子。
かく言うオレも、こうして淡々と現在の観客席から見た状況を語ってはいるが、本心はビビりまくっている。しかし、女の子がいる手前、情け無い姿は見せられまいと平常心を装ってるだけ。
席に座ったまま、動かない。
席に座ったまま、動けない。
「セシリアちゃん、アレ・・・何だか分かる?」
兎にも角にも、今するべきは落ち着く事と現状把握。オレは、視線をアリーナの方に固定しながら隣のセシリアちゃんに問うた。
「さあ・・・・・・。IS、なのでしょうけれど」
双眼鏡をセシリアちゃんに渡して
考えられるのは、アレを誰が操縦しているのかという事。
操縦している人がいるのなら、何の目的で?
操縦している人がいないのなら、誰がアレを動かしている?
そんな疑問。
「あんなISがあるのか?」
「見た事がありませんわ、あんなIS」
「そもそも人乗ってる?」
「乗っていなければおかしいのですわ。ISを無人操作出来るなんて聞いた事がございませんし」
「そういうモノなのか」
「はい」
そう言われるが、どうにも釈然としない。
「でも、オレにはそうは思えねェんだよな。見れば見る程人が乗っているようには見えねェし。ほら、動きがどことなく機械じみてるっつうか。方向転換とか上昇下降もなんつーか・・・わざわざ一度考えてから行動しているような感じ?」
「言われてみれば、アレの中に人が入っているとしたら不気味ですわね。素人でもISから補正が入ってもう少し融通が利くでしょうし、そもそも素人がこんな事をしでかすとは考えられませんわ。装甲も、あそこまで肌を隠す必要がありませんし」
「だよな。あんなにエッチなISスーツ着てるのに。勿体無ェ」
「・・・・・そ、そうではなく、単純に装甲で隠す必要が無いからです。ISにはシールドも絶対防御もありますし」
「あ、確かにそうか。・・・・・・んで、セシリアちゃん。常識云々の話じゃなくーー先入観を抜きにして考えるなら、アレをどう見る?」
「そうですわね。・・・無人機かも知れませんわ。と言いますか、光也さんがそう言うなら問答無用でわたくしもそう思います。あれは確実に無人機ですわ」
「え、えぇー?・・・・・・ま、まぁ取り敢えず、ありがとうな」
ビックリする程オレを肯定してくれたセシリアちゃんの解答に戸惑いつつも、礼を言った。
「いえいえ。それとーーどうでした?」
「何が?」
「わたくしの回答です。わたくしを試したのですよね?」
・・・・・・はい?。
何を言われたのか一瞬理解出来ず、アリーナから視線を逸らしてセシリアちゃんの方を見る。
「わたくしがISの事をキチンと理解しているか試すーーこんな状況でもわたくしをお試しになられるその御考えは、わたくしなどではとてもとても。理解が及びませんでしたわ」
「いやいや!分からなかった事を質問しただけだからな!?」
「またまた、御冗談を」
「こんな状況でも平常運転かよ!」
「それで、どうでしたか?」
「・・・最高でしたよ!」
答えないと終わらない気がしたのでそう返すと、セシリアちゃんは嬉しそうに笑顔を綻ばせてみせた。それに癒されつつも、二人はどうしているのだろうと視線を前に戻した。
オレが言えた事ではないが、今はふざけている場合ではない。
鈴ちゃんが衝撃砲で援護し、隙を見て一夏ちゃんが
オレは、それを見てるだけなのか?
「光也さんは、お逃げにならないのですか?」
隣のセシリアちゃんが、そんな事を問うてきた。オレは精一杯の強がりを込めてこう返す。
「二人が戦ってるんだ。オレだけが逃げる訳にはいかねェだろ。・・・まぁ、そもそもドアが開かねェみたいだし、逃げられないんだけどな」
「では、わたくしもお供致しますわ」
薄々分かってはいたが、セシリアちゃんも席を立ったりはしないらしい。オレの隣で、背筋を伸ばしたまま戦いの行く末を見守っている。
『クソ!全然当たらねぇ!』
『しっかり狙いなさいよ!』
『狙ってるって!』
再び始まる口喧嘩。そこを狙って放たれるビーム。二人は何とか避けられたが、ビームはそのまま真っ直ぐ突き進み、オレの前の遮断シールドをいとも容易く破壊した。
吹き荒れる爆風。散弾のように飛んでくるコンクリートの欠片が、直撃はせずにオレの頬を掠めて綺麗に後方に流れていく。セシリアちゃんも怪我はしていないようで、安心。女の子達も、ドアの前に殺到していたのが幸いし、怪我人はゼロ。
「か、神の奇跡ですわ・・・!」
身体が硬直して動けなかっただけのオレを見てセシリアちゃんが隣で何か言っていたが、触れないでおく。
シールドが一枚破られて、どこか遠く感じていたアリーナでの戦いがとても間近に感じる。
二人は必死に戦っているのに、オレは何も出来ない。
オレはこのまま観客席で、一夏ちゃんと鈴ちゃんが戦っているのを見ているだけなのか。
俯き、頭を抱える。視界に映るのは足元に転がるコンクリートの欠片と、オレのベルトに引っ掛けられたキーホルダー型の
視線をもう少し前に移せば、ビームによって円形に抉られた観客席。その部分だけ遮断シールドが破られており、誰でも出入りが出来る状態。
・・・、
・・・・・・、
・・・・・・・・・。
あるじゃん、オレにも出来る事。
「み、光也さん?」
席を立ち上がったオレを見て、セシリアちゃんが声を掛けた。
「ちょっと行ってくるわ」
ルリちゃんを引っ掛けていたベルトから取り、握る。
席を飛び越え、抉られた観客席からアリーナに飛び降りる。
「ルリちゃん、頼む」
地面を踏み締め、言う。身体がISに包まれ、ISに乗った分だけ視線が高くなった。
久し振りの操縦だなァ。
何しろ、戦う相手の殆どが女の子なのだ。IS自体は嫌いじゃないが、女の子と戦うとなれば話は別。女の子と戦わないとなると、必然的に授業以外でのISに乗る機会が無くなってくる。
一夏ちゃんと箒ちゃんの放課後の特訓に入れてもらっても良かったんだが、出来れば二人の邪魔はしたくなかった。
という訳で、ISの操縦をサボりにサボりまくっていたオレは、入学から一ヶ月くらい経った今でも操縦がおっかなびっくりなのだ。
操縦のウォーミングアップとしてのそのそと歩きながらルリちゃんに話し掛けた。
「おーいルリちゃん。聞こえてる?」
『・・・・・・・・・・・・何よ』
名を呼ぶと、えらく不機嫌そうな声が返ってきた。
「もしかして機嫌悪い?」
『クラス代表決定戦で久し振りに暴れられたかと思えば、飛行操縦の実習まで一度も会いにも来ないし。そりゃ機嫌も悪くなるっての』
「だから他の人が乗ろうとしても動かなかったのか」
『そうよ。メチャクチャ腹立ってたから全部無視してやったわ。・・・・・・コッチはアンタの事認めてやったっていうのに』
「ゴメン」
謝る。
他の子は無視しても、何だかんだオレは乗せてくれたのだから、ルリちゃんも中々に天使だよな。
・・・さて、戦況的にあまり長々とお話をしている場合じゃないんだよな。オレは早速本題に移る事にした。
「ルリちゃん、また前みたいに暴れてくんね?」
『何?アタシを使って敵をボコボコにしてオレTUEEEEE!ってワケ?あ〜ヤダヤダ。こういう時だけ頼ってくる都合の良い男って嫌いだわー』
「いや本当、ルリちゃんにしか頼めないんだって。ルリちゃんがいなきゃオレってばただの雑魚野郎だし」
『うんうん』
「だから、ルリちゃんの力を借りてェんだ。親友がピンチなんだよ」
『もっと』
「ルリちゃん様!どうかこの私めにその御力を貸していただけないでしょォか!」
『えー、でもぉ、どうしよっかな〜』
脳内で土下座を極め込む勢いでお願いするも、ルリちゃんはまだ答えを勿体ぶっている。
『アタシ、最近全然運動してないから暴れ足りないのよね〜。手加減してとか言われてもなぁ〜』
「え?」
その一言に、一筋の光明を見出した。
『?』
「・・・ルリちゃん、戦う相手が人間だと思ってた?」
『何、違うの?』
「ふっふっふ、ルリちゃん。相手はあの白っぽいのでもピンクっぽいのでもない。真っ黒の無人機だ!」
『無人機?・・・って事は』
「あぁ、手加減は無用だぜ!百パーセントでボコボコにしちゃえ!」
そう言ってあげると、ルリちゃんの声が聞こえなくなった。
どうした?声を掛けようかと考えていると、突然ドクンと身体が揺れ、脳に這入り込まれた。この感覚は二回目だが、全然慣れねェなこりゃ。
「い、いきなりかよ」
どうやらルリちゃんはこの状況を戦うに値すると判断してくれたらしく、早くもオレの脳に這入り込んで戦闘態勢に移ろうとしている。
「ルリちゃん、改めて確認な。相手はあの真っ黒な無人機一体だけ。一夏ちゃんと鈴ちゃんーー白っぽいのとピンクっぽいのには手を出さないでくれ」
『えー』
「えーじゃないよ、えーじゃ。お願いだよォ、な?」
『・・・・・・ったく、しょうがないわね』
ぶつくさ言いながらも了承。
深呼吸。
無人機と戦う二人。
そこに割り込むオレの後ろには、事態の収束を待つ女の子達が居る。
どういう訳かドア等が動かなくなっており、教師陣の応援は望めず。
オレ等で何とかしなければならない状況。
ルリちゃんが何とかしてくれなければならない状況。
『じゃあ、全部這入るから』
「了解ーー」
・・・・・・よし、これでオレの身体の主導権はルリちゃんに移された訳だ。
あとは意識が手放されるのを待つだけ。
線のように後ろに流れる景色。ルリちゃんが操るオレの拳が無人機に炸裂した。吹き飛ぶ無人機。どうやらルリちゃんは、まずは二人と無人機の距離を離す事を先決したらしい。距離が離れるとビームが来るのではないか?と思ったのだが、どういう訳か無人機はアリーナの端まで飛ばされたきり、反撃をしてこない。
突如として乱入してきたオレを、一夏ちゃんと鈴ちゃんの二人が信じられないモノを見るような目でこっちを見ていた。
「光也!?何してんのよこんな所で!」
「親友が命懸けで戦ってんのに、黙って見てられるかっての」
そう言い返すも、鈴ちゃんから返ってくるのは叱責の言葉ばかり。まぁ、鈴ちゃんからしたらオレは一夏ちゃんよりも駄目なド素人にしか見えないのかもな。
だがな、鈴ちゃん。
クラス代表決定戦で
「確かに、光也が代表候補生に勝ったって聞いた時は驚いたし、凄いと思ったわよ!ーーけど、だからと言ってアンタがここに来るのは間違ってるっ!」
「まぁまぁ、正直有り難いだろ?実際、俺達二人だけじゃアイツを倒せていない訳だし」
「そうだけど・・・・・・」
・・・・・・って、あれ。そういえば普通に話せてね?
以前のクラス代表決定戦の時は確か、ルリちゃんが身体を動かしている時はオレは何も出来ずに自然とオチていた筈なのだが。
どうして今回はオチない?
おーい、ルリちゃん?
心の中でそう呼び掛けてみるが、返答は無い。ただ、ラファール・リヴァイブがウズウズと戦闘を待ちわびているだけだ。
これはこれで良いのか?と思うが、よく考えるとルリちゃんの挙動に合わせる様をーー自分の身体が悲鳴を上げる様を、意識がハッキリしたまま見ていなければならない訳だから寧ろキツいわ。
そもそも意識がある状態で全速力とか出した事ねェんだけど、大丈夫か?
オレがこれから始まる戦闘に対する不安を抱いていると、一夏ちゃんがこんな事を言ってきた。
「・・・そう言えばアイツ、攻撃してこないな」
「オレ等の仲間に入れてほしいんじゃね?」
「違うと思う」
「オレ等の会話を聞いてて混ざりたいけど混ざれない恥ずかしがり屋さんなんだよ、きっと」
「絶対違うと思うぞ!」
「冗談はこれくらいにして・・・機械だからじゃねェの?」
「え、アイツって機械なのか?」
「そんなわけ無いでしょ。ISは人が乗っていないと動かないんだから」
絶対にね、鈴ちゃんはそこを強く強調した。
「さっき観客席でセシリアちゃんと話してたんだよ。人が乗っているにしては、動きが機械じみてるってな」
「機械じみてる?」
一夏ちゃんの問いに、オレは答える。
「あぁ。ーーてか、人間なら、オレ等がベラベラお喋りしてるような絶好の隙を見逃す筈がないだろ」
「あっきれた。『そういう作戦を実行している人間だ』って言われればそれまででしょうに」
「・・・・・・それもそうだ!」
「手のひら返すの早過ぎだろ!あんなにビシッと決まってたんだからもうちょっと自信持てって!」
「いやでも、鈴ちゃんの言ってる事も百理くらいあるしさァ」
あの
相手と戦う理由を無くしてしまう。
まぁ、あの時は止められなかった訳だけど。
いやでも、オレの今の状態って前回と何か違うみてェだし、もしかしたら止められるのかも?
そんな風に考えていると、一夏ちゃんが名案を出してくれた。
「じゃあ、千冬姉に聞いてみれば良いんじゃないのか?」
「それだ!ーーね〜ェ!千冬ちゃ〜ん!!」
『ね〜ェ!千冬ちゃ〜ん!!』
一方、千冬と真耶サイド。
千冬は、一夏と光也の間抜けさに目頭を押さえていた。隣で、遮断シールドのシステムクラックを実行している一部の三年生に対して通信を掛けている真耶も、通信中にも関わらず苦笑いを洩らしているくらいだ。
光也からの呼び掛けに、戦闘中に相手から意識を外すなど何事かと説教の一つでも入れてやろうかと考えたが、あの正体不明のISがいつ、また攻撃を再開してくるか分からない以上、あまり時間を掛けてもいられなかった。
「唐澤、鳳、織斑、聞こえるか」
『聞こえてるぜ!千冬ちゃん!』
「あのISだがな。正直な所、有人か無人かはまだ分からん」
千冬がそう言うと、アリーナの三人は何やらまた議論を交わし始めたので、千冬は「だが」と語気を強めに続ける。
「IS学園の遮断シールドを突き破って侵入してきた不届き者なのは確かだ。安否どうこうについてはこちらからは要求しない。ーー潰せ」
「アンタのお姉さんってあんなにイカれてたっけ?人が乗ってるかも知れないのに潰せとか言ってるわよ。男らし過ぎない?」
「多分その台詞、千冬姉にも聞こえてると思うぞ」
鈴ちゃんがヤバいって顔をしている。可愛い。
「んで、どうする?千冬ちゃんはあぁ言ってるけども、オレとしては女の子が乗ってるかも知れないんだったら攻撃出来ねェんだが」
「そんな事言ってる場合?そもそも、光也ってセシリアに勝ったんでしょ?攻撃出来てるじゃない」
「いや、アレはーー」
今は話せないけどちゃんとした事情がありませて。と言おうとしたのだが、突然しゃっくりのような感覚に襲われて中断された。
気を取り直して、もう一度。
「よし、ぶっ殺そう」
「「どんな心境の変化!?」」
「あれ?いや、違うんだ。オレはただアイツを完膚無きまでにグチャグチャにしてやりたいだけなんだ!」
「変わってないし、寧ろ悪化してるからな!?」
身体に覚えのある、発言が思い通りにいかないこの感覚。もしかしなくても、ルリちゃんだな!?クソ、いきなりどうしたって言うんだよ!
あっという間に発言の自由が(物理的に)奪われる。気付いたら、もうどれだけ頑張ってもオレの意思が声に出る事はなくなっていた。
「あーもう。アタシが発言を許可してあげてれば、女の子が乗ってるなら戦えないとかほざいちゃって。甘過ぎじゃない?」
「み、光也?何その口調。いきなりどうしちゃったわけ?」
「貧乳、少し黙ってなさい」
「なあんですってぇ!?!?」
「落ち着けって鈴!今お前達二人で殺り合われたらマジで勝てなくなるから!」
どうやら、今まで話せていたのはルリちゃんによるただの気まぐれだったらしい。嬉しいような嬉しくないような。
兎にも角にも、オレの発言タイムは終わってしまったようで。鈴ちゃんに対しての貧乳発言に「嗚呼、無事に終わっても後が怖ェな・・・」とか思いながら、もうどうにでもなれと諦めるのだった。こうなったら、オレが介入出来る事は無い。
あの時のように、どうしようもない倦怠感がじんわりとオレを襲う。
オチそうになる意識の中、もうオレは三人の会話だけが薄らと聞こえてきた。
「兎に角、アイツはぶっ殺す。これは確定事項よ」
「倒すのは俺も賛成だけど、何か作戦でもあるのか?誰かがアイツの注意を引き付けないと、倒すのは難しいと思うぞ」
「そんなの要らないって、かったるい」
「え?」
「アタシが正面からぶっ潰すから、アンタ等二人は各自適当な所で援護。以上!じゃあ始め!!」
「ちょっと光也!?アンタ一体どうしちゃったのよーー」
「・・・気が付いたか」
目を覚ましたのとほぼ同時に、千冬ちゃんの声。なんだこの最高過ぎる寝起きシチュ、と内心うはうはしながら身体を動かすと、やっぱりと言うか何と言うか、身体中を激痛が駆け抜けた。あんまし気軽に激痛激痛言ってると痛くなさそうだけど、オレは変わらず滅茶苦茶痛いので、ベッドに再び全体重を預けた。
「また操作をラファール・リヴァイブに任せていたのだろう?」
「そうなんだよ。相手が無人機だって言ったら張り切っちゃって。ーーそれで、どうだった?」
「敵ISは大破。人が乗っていたらまず助からないような有り様だ。半々の確率の賭けだったのが・・・無人機で良かったな」
潰せと言った張本人とは思えない発言だったが、千冬ちゃんの口から出た無人機という単語に、ひとまず胸を撫で下ろす。本当に良かった。もしも女の子が乗っていたら、オレは今頃危なかったかも知れない。立場的にも、オレの精神的にも。
「織斑と鳳にも、ラファール・リヴァイブの事はしっかり説明しておけよ」
「絶対しなきゃ。貧乳発言の事を一刻も早く弁解しないとオレの身がただじゃ済まない・・・!」
攻撃力的にも口撃力的にも鈴ちゃんの方が上なので、戦ってもまず勝てない。
そもそも戦えない。
どうにかして鈴ちゃんが怒る前に事情を説明しとかないとな。
そんな事を考えていると、千冬ちゃんがふっと笑った。
「どしたん?」
「いや、何でもない。元気そうでなによりだ。・・・私は後片付けがあるから戻る。光也も、部屋に戻りたければ誰かに手伝ってもらえ」
「お、おう。了解」
千冬ちゃんはそう締め括ると、颯爽と退出した。
・・・最後に名前で呼んでもらえた。やったぜ。
どれだけの速度での動きなら身体は痛くないのか実験をしていると、ドアが開いた。やってきたのは一夏ちゃん。正確には、箒ちゃんに耳を引っ張られて涙目になりながら歩いている一夏ちゃんと、箒ちゃんだ。
「何その面白い入室方法」
「よう光也、元気かって痛い痛い痛い痛い!」
「よう光也、じゃないだろう!」
「それくらい良いじゃないかよ!何が不満なんだ!」
「・・・全部だ!」
「全部かよ!」
一夏ちゃんと箒ちゃんの夫婦漫才を見ていてもしょうがないので、一夏ちゃんに問うた。
「何でそんな状態に?」
一夏ちゃんが、耳を引っ張られた(箒ちゃんの身長に合わせて少し膝を屈んだ)ままの姿勢で言う。
「先生方の到着を待たずに無茶したのが駄目なんだと」
「当たり前だ!勝てたから良いものの、もしもの事があったらどうするつもりだ?」
「まぁまぁ。あの時の、正体不明のIS相手に一歩も引かなかった一夏ちゃんって、箒ちゃんからみたら格好良かったんじゃねェの?そんなに責めてやるなって」
オレの言葉で、あの時のカッチョ良い一夏ちゃんを思い出したのだろう。箒ちゃんの頬が赤くなってきた。
「ん?どうしたんだ、箒。熱でもあるのか?」
「な、何でもない!私はもう行くからな」
一夏ちゃんに顔を覗き込まれて更に顔を赤くした箒ちゃんは、恥ずかしさに耐え兼ねて出て行ってしまった。
どうしたんだろうな、と後頭部を掻きながら一夏ちゃんがそう言った。
「箒ちゃんも帰ったみたいだし、一夏ちゃんも帰れば?てか帰れよ」
「お?ボクシングでもするか?」
身体を動かせない今の状態でボクシング等やろうものなら、一夏ちゃんによる一方的な虐めになる事は必至。頭を下げる。
「悪かった。このままずっと居てくれ」
「・・・それはそれで気持ち悪いな」
どうやら、オレが意識をオトしていたあの後の戦いでも一波乱あったらしい。
箒ちゃんが放送で一夏ちゃんに檄を飛ばし、それに気付いた無人機に攻撃されかけたり(無人機に集中している
セシリアちゃんも途中からスターライトmkIIIで援護射撃をしてくれたり。
色んな人が援護をしてくれたお陰で、あの無人機を倒せたと言っても過言ではない。
ルリちゃんはどう思っているかは分からないが、良い風に感じていてくれていると嬉しいなァ。
後でもう一度迎えに行くから。夕飯を食べに行くという一夏ちゃんにそう言われ、また部屋の中は一人。
「・・・ふわぁ」
一夏ちゃんが来るまで暇だし、もう一度眠るとしますか。
「光也・・・・・・」
「あ?」
誰かに呼ばれた気がして、目が覚めた。目を開けると、目の前には目を潤ませてこちらにゆっくりと近付いている鈴ちゃんの顔。驚いたのはオレも鈴ちゃんも同じだったようで。
「何起きてんのよ!」
ビックリついでに距離を取られた。傷付く。
「鈴ちゃんが呼んだんじゃないのかよ」
「ごちゃごちゃ言わないの!」
「えぇ・・・」
鈴ちゃんはベッドに座った。すぐには帰らないらしい。嬉しいなァ。
部屋を見渡しても鈴ちゃん以外の姿は見えないので、やって来たのは鈴ちゃん一人のようだ。
窓の外を眺める。
すると、鈴ちゃんが。
「試合、無効だってさ」
「あ、そうなんだ。それはそれは何と言うか」
残念だったなと言うべきか良かったなと言うべきか迷う。迷っている内にタイミングを逃してしまったので、言わない事にした。
「あ、そうそう。あの酢豚の話なんだけどさ」
酢豚、という単語に鈴ちゃんの肩がピクリと反応した。
無人機のせいで忘れていたが、一応オレと鈴ちゃんは気拙い関係だったのだ。
実はアリーナ内に乱入した時も、まだ無視されてるんじゃないかとか不安だったんだが、普通に反応してくれて嬉しかったりする。
鈴ちゃんは何を言おうか考えている風だったので、オレが先に質問。
「あれって、もしかして告白だった?」
オレがそう思ったのは、決して自意識過剰による判断ではない。
思い返すと、オレが鈴ちゃんに一夏ちゃんの情報を教えてる時って笑顔じゃなかった気がするんだよな。
だから、もしかしたら一夏ちゃんの事ってそこまで好きじゃないんじゃないか?とか思った。
・・・・・まぁ、ぶっちゃけ言われた時の記憶が曖昧で、毎日と酢豚って単語しか言われた確証を得られていないのだ。
だからオレは、『毎日酢豚を作ってあげる』というちょっと捻った告白かと思ったのだ。
ほら、『オレの為に毎朝味噌汁を作ってくれ』って有名な口説き文句もあるじゃん?
そんな事を意識がオチる直前にふと思ったのだが、どうだろう。
オレに向けられた告白だったら嬉しいなァとか考えながら、真実の確認。
不意に来たオレからの質問に鈴ちゃんの顔は「へ!?」と赤くなっている。窓の外の夕焼けとお揃いだ。
「そ、」
「そ?」
唇を震わせながら、鈴ちゃんが頭文字を言った。
鈴ちゃんは立ち上がり、オレの目の前まで来た。これはもしかして、もしかするんじゃねェか!?
鈴ちゃんENDいっちゃうんじゃねェですか!?
オレは、いつでもキスOKと言わんばかりに目を閉じる。
さあ、いつでも来い!
「そ、そそそそ、そう、そそ、いや、えっと、そのーーち、違うわよ!!」
「ぐおぉ」
目を閉じていたオレが感じたのはキスの柔らかい感触ではなく、脳天に落とされた鋭いチョップの感触だった。
何で今回こんなに長く書けたんだろうってくらいの文字数で自分でもビックリ。
多分、次からはこんなに長くはならないと思います。
どのキャラが好き?
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一夏ちゃん
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箒ちゃん
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セシリアちゃん
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鈴ちゃん
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シャルちゃん
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ラウラちゃん
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千冬ちゃん
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束ちゃん
-
蘭ちゃん
-
弾ちゃん
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光也