ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。   作:大塚ガキ男

26 / 41
やっぱり戦闘シーンは苦手。



12話

「ちょ、鈴ちゃん!?」

 

 遠くなり、乱暴に閉められたドアを隔てて見えなくなった背中。部屋に残されたのは、オロオロとドアとオレとを交互に見ているセシリアちゃんと、鈴ちゃんに手を伸ばしたままの姿勢で硬直するオレ。

 部屋に気まずい空気が流れる。

 その空気に耐え兼ねたのか、セシリアちゃんが恐る恐る口を開いた。

 

「あ、あの。光也さん。わたくしは」

「よしてくれ、セシリアちゃん。何も言わなくて良い」

「・・・・・・はい」

 

 雑談を続けられる空気ではなくなったので、セシリアちゃんにお休みと別れの挨拶をして退室してもらう。

 部屋にはオレ一人。いつもなら暇だなァと退屈に思うのだが、今ばかりは有り難かった。

 

「・・・・・・」

 

 テレビを観ても、窓の外を眺めても、横になって目を瞑っても。

 脳裏に鈴ちゃんの泣き顔がこびり付いて離れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーてな事があったんだ」

「・・・・・・」

 

 翌日の朝六時。箒ちゃんに頼んで一夏ちゃんを貸してもらい、食堂の片隅で一夏ちゃんに昨日起こった話をした。

 一夏ちゃんはオレの話を聞いている最中はずっと腕を組んでおり、一言も口を挟まなかった。いつにも無く真剣な表情に、話している間オレの口内は渇きっぱなしだった。

 話終わってから十秒程経って、ようやく一夏ちゃんが一言。

 

「光也・・・お前最低だな」

 

 グサリと胸に刺さった。

 言い訳の仕様が無い程の事実なので、肯定。

 

「あぁ、オレは最低だ。鈴ちゃんを泣かせちまったんだからな」

「それもそうだけど、俺が一番最低だと思っているのはーー光也自身、何故鈴を泣かせてしまったのかを理解していない事だ」

 

 その口振りだと、一夏ちゃんはもう理解しているらしい。

 あの場にいなかったのに?と思うかも知れない。

 だが、一つ覚えていてほしい。

 一夏ちゃんが鈍感なのは、自身への恋愛感情に対してだけなのだ。

 オレは、鈴ちゃんの恋を応援していたつもりだった。鈴ちゃんにさり気なく一夏ちゃんの好物を教えたり、用事を思い出したと言って、二人きりにさせてみたり。

 今回の件も、オレの意志は変わらずに今までのような事を実行しようとした。

 ・・・・・・だが、それはどうやら間違いだったようで。鈴ちゃんを泣かせてしまった。

 

「一夏ちゃんに正解を乞うってのは、多分違ェと思うんだ」

「その通り。それは光也が鈴に直接聞かなきゃいけない事だぞ。・・・まぁ、自分で思い出すのが一番良いんだけどな」

 

 そう締め括ると、一夏ちゃんは立ち上がった。食堂から出て行くその背中に、オレは礼を言う。

 

「ありがとな、一夏ちゃん」

「何言ってるんだよ。困った時は相談に乗ってやるのが親友だろ?」

 

 ニッと笑って、

 

「あとは頑張れ。もう女子を泣かせたら駄目だからな?」

 

 サムズアップ。イケメンは華麗に去っていった。

 恐らく、部屋に戻って箒ちゃんと一緒に改めて朝食を食べに来るんだろう。

 あー、オレも頑張らなきゃなァ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早過ぎる登校。誰一人と居ない教室で、オレは自席にて考えていた。勿論、鈴ちゃんの事である。

 しかし、どうしても途中で鈴ちゃんの泣き顔が浮かび上がり、集中力が切れてしまう。

 何故鈴ちゃんは泣いてしまったのか。昨日の、鈴ちゃんが泣く寸前に言った自分の台詞を思い返してみる。

 

『忘れる訳ねェだろ。確か、一夏ちゃんに食べさせる酢豚を作る練習の味見役だったよな。まぁ任せとけって。一夏ちゃんの胃袋と心を掴むその時まで、オレは鈴ちゃんを応援するぜ』

 

 ・・・・・・うーん。何が間違っていたのか。『一夏ちゃんの胃袋と心を掴むその時まで、オレは鈴ちゃんを応援するぜ』っていうのが拙かったのか?確かにこれだと、言外に一夏ちゃんの胃袋と心を掴んだらその後はもう応援しねェからな。と言っているみたいだ。

 こういう事か?

 しかし、それだと鈴ちゃんの『女の子との約束をちゃんと憶えてないなんて男の風上にも置けないヤツ!犬に噛まれて死ね!!』という台詞と噛み合わなくなってしまう。

 そもそも、オレが憶えていた約束の内容が鈴ちゃんの記憶の物とは違うので、オレが自分の台詞を幾ら添削した所で正解には辿り着けないのだ。

 

「・・・・・・よし」

 

 鈴ちゃんに会ったら謝ろう。許してもらえるとは限らないが、行動を起こさないよりは幾分マシだ。謝って、オレと鈴ちゃんの記憶の相違点について話し合うとしよう。

 そう決意したものの、今日のお昼には、早くもオレの考えは甘かったのだと自覚させられる事になる。

 

「お、鈴ちゃん!昨日はーー」

 

 食堂にて待っていると(セシリアちゃんの誘いは断った)、鈴ちゃんが現れた。声を掛ける。

 

「っ、・・・・・・」

 

 しかし、無視されてしまった。

 まだ諦めないぞ!

 放課後。二組の教室に入って鈴ちゃんの所まで行ってみる。

 

「やあ鈴ちゃーー」

「っ!・・・・・・」

 

 反応は返してもらえたが、まだ視線も合わせてくれなければ話してもくれない。

 鈴ちゃんは逃げるように教室から出て行き、オレは鈴ちゃんの席の前でポツンと声を掛けた姿勢のまま固まるのだった。

 

 

 

「鈴ちゃん!」

 

「おーい!そこのツインテールが良く似合ってる美少女〜!」

 

「この間はーー」

 

「そろそろクラス対抗戦だなーー」

 

 

 

 

 

 と、こんな感じで。学園内の至る場所で鈴ちゃんを待ち伏せし、会話を試みようとするのだが。上手くはいかない。

 クラス対抗戦が明日に迫っている今日も、結果は同じだった。

 

「・・・ここまでくると、流石に可哀想だな」

 

 無視されまくっているオレを見ての感想。一夏ちゃん。

 

「いや、これはオレに科せられるべき罰なんだ」

 

 可哀想な訳があるかっての。こっちは女の子を泣かせちまったんだぞ。

 

「そうだとしても、こんな関係のまま学園生活を続けるつもりなのか?」

 

 一夏ちゃんがオレに問うてくる。オレは返した。

 

「なァに。まだ策はある」

「へぇ、どんなのだ?」

「一夏ちゃんと鈴ちゃんはクラス対抗戦で戦うよな?そうすると、必ず勝者と敗者に分かれる訳だ。一夏ちゃんが勝った場合は、落ち込んでいる鈴ちゃんを慰めに行って好感度を上げる。鈴ちゃんが勝った場合は、おだてまくってご機嫌を取る」

「ダンディな大人の男はやる事が違うな」

「五月蝿ェ!オレみたいな屑にはもうこんなやり方しか残ってねェんだよ!うわあああああああん!!」

「無視され過ぎて頭がおかしくなったか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴ちゃんに謝れないまま迎えたクラス対抗戦当日。オレは観客席にて双眼鏡片手に二人の試合が始まるのを待っていた。一組の女の子達は大体オレの近辺で纏まっていて、どちらが勝つかと賭けをしたりして試合を待っていた。

 満員御礼。

 アリーナの客席は満席で、二人の登場を今か今かと待ち構えている。

 周りが全員女子だからか、熱気も甘みを帯びていて、呼吸するのが一々楽しい。

 ・・・って、駄目だ。今はふざけてる場合じゃない。

 箒ちゃんは嫌々ながらもオレの左隣に座り、不安そうな顔で一夏ちゃんの登場を待っている。

 セシリアちゃんは当然の如くオレの右隣に座っていた。

 

「そろそろですわね・・・」

「・・・あぁ」

 

 オレもセシリアちゃんも真剣な顔なのだが、肩が触れ合ってるわセシリアちゃんがゆっくりと体重を預けて始めてるわでイマイチ締まらない。

 やがて、一夏ちゃんと鈴ちゃんがアリーナに現れた。

 二人の会話が放送を通じて観客席にも届く。

 

『先に言っておくけど、あたし今すっっっごくイラついてるから、手加減とか出来ないから』

『手加減なんか、したとしても雀の涙くらいだろ?そんなの必要無い。全力で来い』

『言うじゃない』

『皆が応援してくれてるんだ。頑張らないとな』

 

 一夏ちゃんったら、その一言一言で箒ちゃんと鈴ちゃんのライバルを増やしてる事に気付いてんのかね?

 双眼鏡で見る限り、鈴ちゃんは今の発言にそれ程怒りを感じていないらしい。余裕の笑みを浮かべている。

 

『それでは両者、試合を開始して下さい』

 

 試合の開始を告げるアナウンス。その直後に、鈴ちゃんが青龍刀よりももう少し異形の刀で一夏ちゃんに斬り掛かった。

 なんだあの展開速度・・・。流石は代表候補生と言うべきか、初めて見る鈴ちゃんの戦闘は、オレにとって衝撃的だった。

 一夏ちゃんも慌てて『雪片弐型(ゆきひらにがた)』を展開させて、それを弾く。鈴ちゃんには劣るが、放課後に真面目に特訓してきた一夏ちゃんはその成果が現れていた。

 

『ふうん、初撃を防ぐなんてやるじゃない。けどーー甘いっ!!』

 

 防がれた鈴ちゃんは少し驚いているようだ。想像以上に一夏ちゃんがISを動かせているからだろう。セシリアちゃん相手に接戦を繰り広げたという情報を聞いていても、やはり百聞は一見に如かず。聞くのと見るのとでは、違うのだ。

 しかし、鈴ちゃんはまだ何かを隠しているようで、何回か一夏ちゃんに自身の攻撃を捌かれたあと(捌かれたというよりは、敢えて捌かせたと言った方が良いかも知れない。余裕の表情が一片も崩れていないからだ)、鈴ちゃんの専用機『甲龍(シェンロン)』の肩アーマーがスライドして、発光。

 それだけで、一夏ちゃんがよろけた。

 

『今のはジャブだからねっ』

 

 牽制(ジャブ)の後にくるのは、本命(ストレート)。よろけた一夏ちゃんに、更に強力な一撃。一夏ちゃんは落とされ、衝撃で地面を滑りながらも体制を立て直す。

 

「何だあれは・・・?」

 

 箒ちゃんが、今の見えざる攻撃を見てそう言った。オレも全く同じ感想だ。何も見えないのに、あそこまでダメージを受けるなんて。パントマイムの類いかと一瞬疑った程だ。

 箒ちゃん(+オレ)の問いに、セシリアちゃんが答える。

 

「衝撃砲ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で衝撃自体を砲弾化して撃ち出すーーブルー・ティアーズと同じ第三世代兵器ですわ」

 

 ・・・つまり、見えない砲身から見えない砲弾を撃ち出しているらしい。

 オレはセシリアちゃんの説明を聞き、鈴ちゃんの強大さにごくりと喉を鳴らした。

 見えない砲弾を避け、鈴ちゃんに近付き、バトンのように振り回される両刃青龍刀に加えて衝撃砲でも攻撃されながら、近接戦で勝つ事などーー出来るのか?

 一夏ちゃんは必死に衝撃砲を避け続けているが、それでも避け切れずに何発かは被弾してしまっている。

 どう見ても劣勢なこの状況。

 しかし一夏ちゃんは、こう言った。

 

『鈴ーー本気で行くからな』

 

 マジカッケェな一夏ちゃん。クラスの皆の方を見ると、試合前の賭けの事など忘れて黄色い悲鳴を上げていた。

 

『そんなの当たり前じゃない!格の違いってのを見せてあげるわよ!』

 

 ほんの二ヶ月前。受験の前日までのオレなら、こんな光景を見るとは夢にも思っていなかっただろう。

 熾烈で苛烈。自由自在に空を翔ける二人に、オレは気付かない内に口を開いていた。

 美しい。

 綺麗だ。

 月並みの感想を浮かべながら、双眼鏡を掴んでいる手に力が入るのが分かった。

 頑張れ、と応援するクラスの女の子達。それに倣って恥ずかしがりながらも小さな声で一夏ちゃんを応援する箒ちゃん。真剣な顔で試合を見守るセシリアちゃん。

 クラス代表決定戦の時には味わえなかった、客席の空気。熱気で肌がピリピリと震える。

 

「が、頑張れーー」

 

 オレも負けじと双方にエールを送ろうと声を上げた瞬間。

 衝撃砲によるものではない、

 外部からの接触を許さない強固なアリーナの遮断シールドを貫通して、

 アリーナ中央に何かが、

 

 堕ちてきた。

 

 

 

 




良い所で切ろうとしたら少し短くなってしまいました。
次回は、今回よりは長くなると思います。

時間別のUAを見てみたら、多い時には一時間に800人近くの方が見て下さっていたようで。
ありがとうございます!

どのキャラが好き?

  • 一夏ちゃん
  • 箒ちゃん
  • セシリアちゃん
  • 鈴ちゃん
  • シャルちゃん
  • ラウラちゃん
  • 千冬ちゃん
  • 束ちゃん
  • 蘭ちゃん
  • 弾ちゃん
  • 光也

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。