ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
今回のお話は、興が乗って勢いで書いたので、後ほど訂正を入れると思います。
「遂に今日か・・・・・・」
「今日だなァ・・・・・・」
朝の食堂。一夏と、その対面に座る光也が遠い目をして呟いた。窓の外の景色を見ているのか、それとも別の何かを見ているのか。一夏の隣に座る箒は、そんな二人に注意をする。
「何だ二人共。食事中にそんな顔をするんじゃない」
「でもさ、箒。この一週間俺はまともな特訓をしてないんだが。不安になるのも仕方無いだろ」
「そう言やそうだな。初日はオレと一緒に居たけど、次の日から何してたんだ?」
「箒に頼んだんだよ。どこかの誰かさんはいつの間にか束さんとイチャ付き始めるし。その後は千冬姉に連れてかれてるしで頼りにならないからな」
「だとしたらアレか。一夏ちゃんと箒ちゃんは今日迄毎日、放課後は二人きりで良い雰囲気になってたっつうのか!?」
「そ、そんな訳無いだろう。真面目に特訓をしていたぞ」
光也の言葉を否定する箒だが、嬉しそうに言われても説得力は皆無というものだ。ジト目で光也が箒を見詰めてみる。
「な、何だ」
「いや、別にー?楽しかったんでしょーねー」
「そう言う光也も、あの遊び以降は何してたんだ?」
「聞きたいか?」
「聞かせたいのか?」
「聞かせたいな」
「じゃあ、話してくれよ」
「おう。分かり易く言うとだな・・・・・・生きてる事って素晴らしい」
「バッチリ分かり難いんだが!?」
「よせ、一夏。恐らく光也は怪しい宗教に嵌ったのだろう。そっとしておいてやれ」
「そうだったのか」
「な訳ねェだろ。美人で可愛い千冬お姉様に毎日扱いてもらってたんだ。・・・・・・扱いてもらうってなんかエロくね?」
「分かる」
「一夏!?」
「冗談はさて置き、千冬ちゃんのお陰で身体が重くて重くて。筋肉痛が二日間で終わってラッキーだったぜ」
二人の女性に甘えるという特訓名義のおふざけが千冬にバレた翌日から、光也は放課後毎日千冬に稽古をつけてもらっていた。
放課後から最初の二時間は、ISについて理解を深める為の座学(覚えが悪いと千冬からのありがたいオシオキ付き)。
夕飯を食べた後は、消灯時間ギリギリ迄実技。と言っても、ISに乗って行う実践形式の稽古ではなく、光也が千冬に一方的にボコボコにされるだけの時間だったが。
アレは絶対に私情を含んでいたーー光也はその時の稽古についてこう語る。
とは言え、光也はその時間が無駄だとは決して思わなかった。戦術理論が役に立ち、千冬からの一方的な暴力が気付かぬ内に光也の反射神経を磨き上げている。
という話ではなく。
ただただ単純に、千冬のような美人と二人きりでいられたのが嬉しかっただけ。美人と二人きりならそれは稽古に限った話ではない。例えば罰として、可愛い子と放課後に教室の掃除をしていても嬉しいと感じるしーーぶっちゃけ、光也としては美人や可愛い子と一緒にいられるならどんな状況でもバッチコイなのだ。
「見ろ、箒。光也はちゃんと特訓してたらしいぞ」
「う、五月蝿い!こっちだって特訓はしていただろう。何が不満なのだ!」
「なぁ光也。俺と箒は、この一週間何してたと思う?」
「愛を育んでたんじゃねェのか?」
殴られた。
「最近、一夏ちゃんが暴力的で泣きそう・・・」
「で、何してたと思う?」
「あー、分からん。訓練機が借りれてない事は確かなんだが。座学オンリーとか?」
「不正解。オレと箒はこの一週間、ひたすら剣道をしていたんだ」
「は?」
「何も不思議ではないだろう。一夏と光也は決闘をするんだからな」
「・・・・・・一夏ちゃん、骨くらいは拾ってやるからな」
「・・・・・・おう、頼んだ」
「何だその顔は!」
「箒ちゃん。決闘がISで行われるのは分かってるよな?」
「当たり前だ」
「箒ちゃんって、ISについて一夏ちゃんに何か教えてあげた?」
「コイツはそれ以前の問題だ。私と離れてから、すっかり腑抜けてしまっている」
「だから、剣道で感を取り戻させようと?」
「う、うむ。お陰で、幾分かはマシになった」
「・・・・・・あれ?そう言われると、箒ちゃんの特訓もあながち間違いではねェのか?」
「み、光也?」
顎に手を当てて考え始めた光也に、不安気に声を掛ける一夏。この場面で、一夏が光也と箒のどちらを信用しているのかが分かってしまう。それはただの付き合いの差なので、そんな一夏を見て箒が光也に嫉妬しているのも可笑しい事なのだが。
恋する乙女は盲目、という事で。
長い思考の末、光也は一夏の目を見ながら口を開いた。
「一夏ちゃん」
「お、おう」
「そろそろ行かなきゃ間に合わねェぞ」
「は?」
トレーを持ち、立ち上がる光也。慌てて一夏と箒も立ち上がった。
「え、ちょ、おい!何を考えてたんだ!?」
決闘直前。
「織斑と唐澤には、専用機が用意されている」
「専用機って確か・・・・・・オルコットさんも持ってるアレだよな」
「あぁ」
「で、千冬姉。何でーー」
「学校では織斑先生と呼べ」
「お、織斑先生。どうしていきなり専用機が?」
「詳しい事は知らんが、アイツが妙にやる気でな。織斑の機体に関しては、日本が製作を手掛ける予定だったんだが・・・途中で計画が頓挫したんだ。それをアイツが強引に引き継いで完成させたという形になる」
「・・・・・・束さんが」
その名に思い至り、納得する一夏。天災にかかれば、ISの製作など容易いのかも知れないな。と思った。
光也と束以外は誰も知らない事だが、光也の機体に関しては束が一から作ったモノだ。『みっくんにおねだりされたら』と鼻息荒く、赤い鼻水が出る程に自慢の脳をフル回転させて、目の下に濃い隈を作りながら製作していたのは内緒。
「オルコットはもう準備が出来ている。織斑と唐澤、どちらから出るのかは決めているよな?」
「は、はい」
「勿論だぜ、千冬ちゃん」
二人は笑顔で返答し、それから千冬に背中を向けた。顔を近付けて、千冬にバレないように小声で話す。
「とは言いつつ、決めてなかったよな。どっちから出る?」
「あー、光也から出たらどうだ?千冬姉に特訓の成果見せたいだろ?」
「いやいや、一夏ちゃんこそ。幼馴染に良い所見せないでどうすんだよ。ここで一発ドカンとぶちかまして、クラスの女の子からの不能疑惑を払拭しとこうぜ」
「俺クラスの女子からそんな疑惑かけられてんの!?」
「不可能って言われるよかマシだろ。・・・・・・良いか?一夏ちゃん。お前は色んな人に期待されてるんだ。千冬ちゃんを始め、箒ちゃんにクラスメイトの女の子。二、三年生のお姉様方もスーパールーキー織斑一夏ちゃんを一目置き始めてる。・・・・・・あ、『スーパールーキー織斑一夏』って横棒いっぱいあるよな」
「折角心に響きそうだったのに何て事言うんだよ」
「まぁ、つまりだ。一夏ちゃんは横棒が五つも使えるくらい凄い奴だって事だ。自信持って先陣切っとけ」
「理由付けが訳分かんないな、それ。・・・だけど、親友にそこまで言われたんだ。俺もやるしかーーって、危ない!危うく乗せられる所だった!」
「チッ」
「俺は最初なんて嫌だからな!二番手として光也とオルコットさんの試合を見ておいた方が有利だし、オルコットさんも体力を消耗してるから俺が勝てる可能性が上がるだろ!」
「本性表しやがったなこの野郎!そもそも、オレはこの決闘自体まだ納得してねェ事を忘れるなよ!誰の所為で巻き込まれたと思ってんだ!!」
「何だと!?」
「おぉう!?」
「止めんか、馬鹿共」
内容を聞かれていたらしく、二人揃って出席簿で叩かれた。その衝撃で気絶して決闘から逃れようと思った光也だが、バレない訳がないので止めておいた。
「唐澤、お前から行け」
「えぇ!?」
「よっしゃ!」
「納得出来ませんって!どうしてオレなんすか!?」
抗議の声を上げる光也。その瞳には『徹底抗戦』と書かれていて、容易には納得しない意思が感じ取れた。
千冬は光也に近付き、光也の肩に手を置いて優しく語り掛けた。
「・・・先陣切って戦う男と、その後から戦う男。果たして、女子の目にはどちらが印象的に映るのだろうな?」
「そりゃァ、勿論ーー」
いや、待てよ?と光也は口から出そうになった結論を寸での所で呑み込む。
確かに二番目の方が、セシリアの動きをよく見ていれば最初に出るよりかは試合になるかも知れない。しかしだ。幾ら不恰好でも、幾ら泥臭くても、最初に出て戦った方が男の子らしいのではないか?
光也は考える。この学園に入学した理由を。何故自分はIS学園に入学したのかを。
モテる為だろう?女の子とキャッキャウフフする為だろう?
光也は知らない内に、心の中で炎をメラメラと燃やしていた。そうだ、二番手よりも、先陣切って戦う方が滅茶苦茶格好良いじゃん。とモテる為の算段を立てていた。
(良いぜ、やってやるよ!セシリアちゃんを傷付けずにどうにかしてセシリアちゃんに勝ち、可愛い女の子達から黄色い声援を貰うんだ!これはハイスピード学園ラブコメじゃねェ!イチャイチャハーレム学園ラブコメだ!!)
「千冬ちゃん、オレ、やるよ」
「フッ・・・そうか」
光也の決意を聞いた千冬の顔はどこか嬉しそうだった。
「オレの機体はどこに?」
「あぁ、それなら」
「ここにあるよ!」
千冬が指差した先には、うさ耳を付けた超絶美人が愛らしい笑顔を振りまきながら光也に手を振っていた。
「・・・束姉って、そんなポンポン出てきて良いのか?」
「束さんの行動は、誰にも制限出来ないのだよ!ってそれよりも、これがみっくんの機体ーー名付けて
「こま、い・・・・・・」
束の口から出た、光也の専用機の名前。
氷魚。
光也は氷魚に触れながら、その名を呟いていた。
青と言うには薄過ぎて、水色程濃くもない。かと言って透明な訳ではなく、光也の脳にはしっかりと氷魚の色が認識されている。冬の朝、湖に張った氷のような色に近いかも知れない。
氷魚の装甲を優しく撫でる。
氷魚越しに向こうの景色が見えたりはしないが、どこか色が薄く見える。半透明?
「気に入ってくれたかな?束さんの自信作なんだけど」
「束さん・・・・・・ありがとうございます!滅茶苦茶格好良いです!」
「う、うん。どう致しまして」
女子に手を上げるのは嫌うが、それは女子に限った話。光也も普通の男の子。やはり、テレビの向こうの『敵をバッタバッタと薙ぎ倒すロボット』というモノに憧れを抱いているのだ。それが現実にやってきた嬉しさのあまり、束の手を取って感謝の言葉を述べる。手を取られた束の顔は、平静を装いながらも赤面していた。
「氷魚、か」
改めてその名を言葉にする。
(なんと言いますか・・・・・・感慨深い。世界に四百幾つかしかないISの内の一つが、今オレの目の前にーーしかも、オレの専用機として立っている。燃えてきた)
「さて、感謝の言葉を述べるのもそこら辺にしておけ。唐澤、準備しろ」
「あれ、ちーちゃん嫉妬?」
光也と束の間に入った千冬は光也に決闘の準備を促し、何か千冬の気に触る事をほざいた束にはアイアンクローを御見舞いしておいた。
「まずは起動させてみろ」
「あい」
光也は千冬に言われた通り、自分の心を惹き付けて止まない氷魚に手を触れた。瞬間、氷魚と接触している右手の手のひらから様々な情報が流れ込んでーー
「・・・・・・」
「どうした、唐澤。アリーナを使える時間は限られているんだぞ?早くしてくれ」
「・・・・・・」
「唐澤、ふざけているのか」
「・・・・・・・・・・・・」
「光也?」
遂には名前で呼んでしまう程、千冬は戸惑っていた。千冬の言葉に光也が反応しない事など、出会ってから今迄一度も無かったからだ。どんな時でも、千冬の声を聞けば鬱陶しいほどの反応を見せるのが光也なのだ。
しかし、今の光也は異常だった。千冬の言葉に耳を貸さず、ISに手を触れたまま動かない。業を煮やした千冬は光也に近付き、肩を揺すった。
「おい、大丈夫か?」
「・・・・・・、ち、千冬ちゃん」
「どうしーー泣いているのか?な、何があったんだ!」
「ヤバいかも知んねェ・・・・・・」
「あ、ああ。大丈夫だ、落ち着け。ほら、これで涙を拭くと良い」
「あ、あざっす」
スーツのポケットからハンカチを出し、涙目の光也に手渡す。光也は礼を言ってからそれを受け取り、ゴシゴシと目元を擦った。
落ち着かせる為に、数回深呼吸をさせてから千冬は光也に問うた。
「一体どうしたんだ?」
「千冬ちゃん・・・・・・」
嗚咽を抑えるように、一度言葉を切ってから、光也は言った。
「ISが起動出来ねェ」
短編として、ベタですけど、ヒロインが全員ヤンデレ化とか面白そうだなぁ。何よりヤンデレ好きだから書きたい気持ちはある。
タグを追加しました。色んな方から光也と一夏のやり取りを褒めていただき、愛されてるなぁ〜と喜びながら追加しました。この作品をよく表したタグなのではないかと思います。
どのキャラが好き?
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一夏ちゃん
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箒ちゃん
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セシリアちゃん
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鈴ちゃん
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シャルちゃん
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ラウラちゃん
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千冬ちゃん
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束ちゃん
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蘭ちゃん
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弾ちゃん
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光也