ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。   作:大塚ガキ男

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大塚ガキ男は千冬ちゃん大好きだけど、束ちゃんも同じくらい好きなんだぜってお話です。


3話

「うへぇ、広い・・・」

 

 寮迄の道を歩きながら、そんな感想を覚える。緑いっぱいの景色。潮の匂いも微かに香る、とても学園の敷地内だとは思えない自然の豊かさ。弁当を作れば、外で食べるのも中々に乙かも知れないなァ。今度一夏ちゃんに作ってもらおうっと。光也は思った。

  千冬に蹴り飛ばされた後、光也は乱れた教室を掃除させられ、それから部屋番号を知らされた。光也の心中としては『何でオレが片付けなきゃいけねぇの』という怒りではなく、『何気に待っててくれてる千冬ちゃん優すぃー!!』という単純な喜びだった。

  放課後の教室に異性と二人きり(真耶は用事があって先に職員室に戻った)。光也としてはとても美味しい思いをしたのだろう。

  一度靴を履いて敷地内を歩き、光也は寮へ向かう。外はもう薄暗かった。

 

「千冬ちゃん、寮はまだ先?」

「・・・チッ」

「おや、投げキッスかな?」

 

 腕を組み、嫌そうな顔をしながら隣を歩く千冬に話し掛ける。何故居るのかと訊かれれば、光也がお願いしたから。

  掃除を終えた光也は寮へ向かおうとしたのだが、寮迄の道のりが分からないので千冬に泣き付いたのだ。ついでに抱き付いた。返事は拳で戴いたが、隣をこうして歩いてくれているという事は、肉体言語で言えばあの拳はOKという意味なのだろう。

 

「寮はもう少しだ。ほら、見えるだろう」

「へー、アレがオレと千冬ちゃんの愛の巣かァー」

「よくもまぁ、お前は懲りもせず恥ずかしい言葉を・・・」

「本心ッスから」

「・・・・・・」

「オレ知ってるよ。千冬ちゃんが時折黙り込む時は、大体恥ずかしがってる時だって」

「ッ、貴様ーー」

「あ、パンツ見えそう」

「ーー!?ッーー!!」

「ウゲェ」

 

 顎を蹴り砕こうと右脚を上げた千冬だが、光也の一言によってすぐさま攻撃パターンを変更。わざと光也に当たらないように脚を縮ませて一回転。そのスピードを維持したまま、更に遠心力も加わった右拳で光也の頬に叩き込んだ。間抜けな声を発しながら光也が宙を舞う。

 

「あまり、教師を、からかうなよ・・・!」

「ず、ずびばぜんでじだ」

「さて、寮はここだ。夕食の時間には遅れないように」

「後で千冬ちゃんの部屋遊びに行くからねー!」

「では、私は防犯としてデストラップを張り巡らせておくとしよう」

「やだなァ千冬ちゃん。オレは千冬ちゃん本人以外からの暴力は嫌なんだぜ?トラップなんて愛の無い攻撃は・・・」

「そもそもお前は暴力を振るわれないように努力をしろ。その腐り切った性格と根性を直せば、女子からもモテるんじゃないか?」

「畏まりました織斑先生。不肖、唐澤光也。微力を尽くして織斑先生の期待に応えたいと思います」

「・・・・・・中々に気味が悪いな」

「どうしろって言うんですかァ!」

「普通の方が幾分かマシだ」

 

 それだけ言い残して、千冬は去って行った。寮の玄関でポカンと立ち尽くす光也。

  取り敢えず、紙に書かれた番号を頼りに自分の部屋へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで?一夏ちゃんはそんな所で蹲って何してんの?」

 

 光也が部屋を探していると、廊下の隅で蹲っている一夏を見付けた。一夏のすぐ側の部屋のドアには、部屋の内側から何かで突き刺したような穴が幾つも空いている。

 

「わ、訳有りでして・・・」

「へぇ。箒ちゃん関連?」

「何で分かったんだ!?」

「当たり前だろ。この学校に在籍する男子はオレと一夏ちゃんだけ。まだ初日だから女の子から虐められたという線は消されるし、そもそも一夏ちゃんは女子とまともに話せていない。千冬ちゃんはオレと歩いてたし、真耶ちゃんが一夏ちゃんを凹ませられるとは思えない。一夏ちゃんと気軽に話せて、尚且つ一夏ちゃんをそこ迄の状態に出来る人物は限られてくるって訳よ」

「いや、オルコットさんにやられたって可能性もあるだろ」

「一夏ちゃんのその台詞が、オレの仮説を真実に変えてるんだぜ。あと、そのドア。何か棒状の物で内側からドアを貫いた跡。確か千冬ちゃんは、一夏ちゃんと女の子が同室だと言っていたから、同室の女の子は箒ちゃんで確定。セシリアちゃんが銃で撃ち抜いたら、そんな跡にはならないからな。箒ちゃんは確か、剣道の全国大会で優勝する実力の持ち主だったよな?だけど、そんな箒ちゃんはーーっつうか人は理由も無くドアに穴を空けたりしないし、そこで落ち込んでる一夏ちゃんが何かやらかしたとしか考えられない。良からぬ事をやらかしてしまった一夏ちゃんに腹を立てた箒ちゃんが、そうだな・・・竹刀か木刀で一夏ちゃんに攻撃。部屋から逃げてドアを閉めたは良いが、怒りが収まらない箒ちゃんはドア越しにも関わらず一夏ちゃんに突きを放ったーーこんな感じか?」

「・・・・・・光也、お前凄いな!」

「よせやい」

「それで性格と口調直したらモテモテじゃん!」

「おい待て一夏ちゃん。それは逆に言えば『性格と口調を直さない限りオレはモテない』という事か?」

「・・・・・・そ、そんな事ないんじゃないか?」

「否定が弱々しい!ーーまぁ、そんな所で蹲ってるのも邪魔だし、飯食いに行かねぇか?腹減っただろ」

「あー、確かに。いや、でもなぁ」

「箒ちゃんと食堂で居合せるのが気不味いか?」

「・・・うん」

「・・・・・・仕方無ぇなぁー。一夏ちゃん、オレの部屋来い」

「へ?」

「オレが食堂からご飯持ってきてやるから」

「え、いや、悪いって」

「そんな事気にする仲じゃねぇだろ。ほら、これ持って先行っててくれ」

「・・・・・・ありがとうな」

「気にすんな」

 

 一夏に部屋番号と鍵を渡し、ウインクを一つ。感謝の言葉を背中に受けながら食堂へ向かう光也。その姿はどこからどう見てもイケメンであった。

  一つ、光也のイケメン度を下げるような一言を加えるならば。

  光也は、食堂の場所を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

「あれあれェ?そこにいらっしゃるのは箒ちゃんじゃありませんか」

「話し掛けるな。今の私は機嫌が悪い」

「そう怒るなって。ほら、一夏ちゃんも悪気があった訳じゃないんだしさ」

「ッ、光也、お前何故それを」

「名探偵光也さんの頭脳にかかれば、このくらい朝飯前ってな。あ、もう夜か」

「・・・ツッコまないからな」

「箒ちゃんも知ってるだろ?一夏ちゃんが昔から『あぁ』なのは」

「まぁ、それは・・・」

「折角意中の人と同室なんだぜ?仲が険悪なままじゃ勿体無いって」

「・・・・・・そうだな、私も少しばかりやり過ぎたかも知れない」

「うん。一夏ちゃんにはオレからも言っとくからさ。箒ちゃんも許してやってくれよ。じゃあね〜」

「お、おい!」

「?」

「そ、そのあ、ありがと・・・う」

「おう、その可愛い顔を一夏ちゃんに見せてやれよ。イチコロだぜ?一夏だけに」

「上手くない」

「はいはい、そりゃすいませんねっと」

 

 トレーを二つ持ちながら、ヘラヘラしてその場から去る光也。散々迷いながらもなんとか食堂に辿り着けたし、ノルマ以上に可愛い女の子と話せたし。光也はとても満ち足りていた。

  箒と光也が話していたのは食堂。偶然今の会話の節々を聞いていた女子生徒数人は、この出来事について、口を揃えてこう語った。『ふざけてない光也君は普通にイケる』と。

 

「ーーあ、」

 

 部屋に戻ろうとトレーを慎重に運んでいると、前方から綺麗な金髪を揺らしながら歩いてくるセシリアと出会った。セシリアとしては『出遭った』かも知れないが。

 

「こんな所で再会するなんて、やっぱりオレとセシリアさんは運命かな?」

「食堂だから会うのは当然ですわ」

「当然は、実は偶然。偶然も、いずれは必然に。必然を繰り返せば、いつかは当然に」

「な、何ですの?」

「適当に言っただけ。じゃあ、また明日!」

「適当でしたか・・・・・・けど、真面目な顔も出来るじゃありませんか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、オレだ。開けて」

「お帰り、ありがとうな」

「良いって事よ。オレも一夏ちゃんとゆっくり話したかったしな」

 

 一夏にドアを開けてもらい、部屋に入る。夕飯の乗ったトレーをテーブルに置いてから部屋を見渡した。

 

「流石は国立」

「俺も、最初入った時同じ事思った」

「そうか。・・・まぁ、一人で使うにしちゃ、この部屋はちょっと広過ぎるな」

「光也は寂しがり屋だからな。ちょくちょく遊びに来るよ」

「それは構わねぇが、箒ちゃんの事も忘れんなよ?」

「おう、ちゃんと箒にも声掛けとく」

「そういう意味じゃねぇんだけどなァ」

「?」

「何でもない。飯にしようぜ」

 

 暫し、夕飯タイム。適当に選んだセットが一夏の好物で「光也は分かってるな!」と笑顔で言われて罪悪感が芽生えたり、食後には、今度の休日に街に遊びに行こうという話をしたり。その中で、一夏は千冬から言われた重要な命令を思い出した。

 

「そう言えばさ、千冬姉から光也に勉強教えてもらえって言われてたんだよな」

「教えてもらうんじゃなくて、あくまでもサポートだ」

「何が違うんだよ」

「前者は、甲斐甲斐しい世話焼き幼馴染タイプ。後者は、分からなかったら小馬鹿にしつつもヒントはくれるツンデレタイプだ」

「えぇー・・・」

「そう言うな。ぶっちゃけ、オレもISはそこまで詳しくないんだぜ?」

「え、でも授業の時には分からない所は無かったよな?」

「だから、アレは事前に勉強していたかどうかの差だ」

「・・・・・・教えてくれないのか?」

「目をウルウルさせても無理だーーてか、教えるまでも無いっていうのが本音だな」

「?」

「読んで、太字で書いてある場所とその前後を覚えるだけだ。操縦やら射撃やらに使う公式もまだ教わってねぇからな」

「暗記が重要って事か・・・・・・」

「あぁ。でも、覚え方のコツくらいなら教えてやれるか」

「・・・・・・光也!」

 

 下げてから上げる。女子に対して使う筈の恋愛テクを知らぬ間に一夏に使っていた光也。一夏はあっさりとそのテクに嵌り、光也に尊敬の眼差しを向ける。光也は頬を掻きながら腕時計で時間を確認。

 

「勉強はまたの機会だな・・・。そろそろ帰った方が良いんじゃねぇの?箒ちゃんも心配してると思うぜ?」

「あれ、もうこんな時間か。付き合ってくれてサンキュな」

「オレは寂しがり屋だからな。大歓迎だ」

 

 空になった食器を乗せたトレーを持って、一夏が部屋から出て行く。持っているトレーは、さり気なく二人分。

 

「やっぱ、お前イケメンだよ」

 

 一人になった室内で、光也は改めて実感するのだった。

  気持ちを切り替え、風呂に入ろうと荷物が纏められたボストンバッグに手を伸ばした。今日のパンツは何色にしようかな〜と鼻歌混じりに考えているとーー

 

「アレ、何でオレの荷物があるんだ?」

 

 疑問。一夏と同じように光也も、今日の放課後に初めて、今日から寮生活を送るという事を知らされたのだ。一夏は千冬に荷物を手配してもらっていたが、さて、自分はどうして?光也がそれっぽい理由を模索していると、ベストなタイミングでスマホに着信。手に取って画面を見ると、見知った人物からの着信だった。すぐに通話ボタンを押す。

 

「もしもし?」

『あ、やっほーみっくん!元気してた?』

「た、束姉さん?どうしたんですか」

『もう!敬語はやめてって前から言ってるじゃん!』

「あ、すみませーーごめん」

 

 掛けてきた相手は篠ノ之束。篠ノ之箒の姉に当たる人間であり、ISを作った張本人でもある。天才を通り越して天災と呼ばれる程の才能の持ち主だが、人を覚える事に関しては凡人よりも遥か下。知り合いと認識出来るのは、自身の妹である箒と、千冬と、千冬の弟の一夏。そして、何故か光也。篠ノ之家の両親は一応認識出来るものの、辛うじてというレベルだ。

  そんな束からの突然の電話。光也が緊張しない筈がなかった。天災云々の話ではない。何せ、美人。千冬と負けず劣らずの、単語の頭に超が付く程の美人。光也が小さい頃から可愛がってもらった(ちなみに、その頃の束も美少女だった)、スーパー美人なのだ。

 

『束さんは、最近みっくんと話せなくて寂しかっただよ?兎は寂しいとーー』

「死んじゃうんだよな。ごめん、こっちも忙しくて・・・」

『分かってるならよろしい!』

「それで、今日はどうした?」

『えっとね、荷物届けたんだけど気付いた?』

「荷物って、これ束姉が持ってきてくれたのか?」

『もっちろん!それにしても、IS学園の警備も薄いよね。ペラッペラだよ』

「そ、それは束姉が特殊なだけじゃないか?普通の人は誰も這入れないって」

『凄い?ねぇ、束さん凄い?』

「えぇ、そりゃ凄いよ。尊敬しちゃう」

『本当!?結婚したくなる?』

「うん、束さんみたいな美人さんと結婚したいなァ」

『へへへー』

 

ちょっとした軽口(勿論本心だが)のつもりの光也の発言に、嬉しそうに笑う束。光也は胸の高鳴りを抑え切れなかった。

 

(何だこの可愛い生き物!オレをどうするつもりなんだ!結婚?冗談だとしても結婚したいに決まってるでしょぉぉぉぉ!)

 

「荷物、ありがとうございました。さっぱり忘れてたので助かります」

『あ、敬語だ』

「おいおい、束姉。聞き間違いだろ?」

『むー、まぁ良いけどさ。時にみっくん』

「はいはい?」

『専用機欲しい?』

「専用機?何それ」

『みっく〜ん・・・・・・やれば出来るんだから頑張りなよ。何なら束さん直々に教えてあげるよ?』

「魅力的な提案だけど、パスで。集中出来ない」

『束さんが可愛いからかな〜?』

「うん、そう」

『ふぇ?』

「それで、専用機って何?」

『今トンデモナイ事を言われた気がしたぞ?あれあれ〜?』

「気の所為だよ。それで、専用機って?」

『あぁ、基本的には自分だけのISって感じかな。欲しい?』

「欲しい?って。オレ今日授業で習いましたよ。ISのコアは限られていて、新しいISは作れないって」

『・・・・・・ねぇ、みっくん。みっくんが束さんの事を普通の女の子として見てくれるのはすっごい嬉しいよ?でも、束さんが誰か忘れてない?』

「・・・・・・あ、そっか」

『と言っても、後はみっくんの答えを聞くだけなんだよね。もう大体出来ちゃってるし』

「出来ちゃってるの!?」

『欲しい?』

「う・・・・・・欲しいです」

『おねだりしてみて?』

「束姉さん。オレ、専用機欲しいな〜?」

『まっかせなさい!!』

 

 それから、声が聞こえなくなる。光也は通話が切れたのだと思い、着替えを準備し始めた。その最中、ぽつりと先程の会話の感想を漏らす。

 

「全く、美人で可愛いって。束姉さんは何回オレのハートを撃ち抜けば気が済むんだよ」

 

 実は繋がっていた電話には気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 

「・・・・・・後で遊びに来ると言っていたのだがな」

 

 入学祝いと称してささやかながらお菓子を準備していた千冬は、消灯時間になるまで部屋で一人、光也を待ち続けていたのだった。

 

 

 




ぶっちゃると、光也の専用機を普通のにするつもりはありません(良い意味でも悪い意味でも)。

余談ですが、自分へのクリスマスプレゼントとしてラブアンドパージ買いました。でもメモリーカードをまだ買ってないのでプレイ出来ません泣

どのキャラが好き?

  • 一夏ちゃん
  • 箒ちゃん
  • セシリアちゃん
  • 鈴ちゃん
  • シャルちゃん
  • ラウラちゃん
  • 千冬ちゃん
  • 束ちゃん
  • 蘭ちゃん
  • 弾ちゃん
  • 光也

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