ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。   作:大塚ガキ男

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どうも、大塚ガキ男です。お久しぶりですね。


蘭ちゃんとのきっかけ。下

 

 

 

 

ヒュウ、と急に呼吸が苦しくなるのが感じ取れた。呼吸を正す為。それから、精神を落ち着ける為、取り敢えずの深呼吸。数回繰り返してから、電話越しの会話を再開。

 

「……マジ、なのかよ」

『冗談でこんな電話する訳ねぇだろ!家族総出で大慌てだわ!』

 

それもそうだ。弾ちゃんは、悪ノリこそするが、こういった()()()()()()は間違っても口にするような男ではなかった。

 

「そうだな。悪ィ。──ンで、今日、蘭ちゃんは外出の予定とか言ってなかったか?」

『それがよ。蘭の奴、思春期だからか知らねぇけど行く先を家族に教えねぇんだよ。今までは、言わなくても門限は守るから大して気にもしてなかったんだが……。今日はそれは仇になっちまった。電話も出てくれねぇし、どうすりゃ良いんだよ、クソ!』

 

電話の向こうで、ドンッと弾ちゃんが何かに当たる音が聞こえる。荒れる弾ちゃんを宥めながら、話を進める。

 

「蘭ちゃんの友達に聞いてみた?」

『俺が蘭の友達の連絡先を持ってる訳がねぇだろ』

「小学生の時、連絡網ッてあったろ。全員が一緒の中学で友達ッて訳じゃないかも知んねぇけどさ」

 

それでも、やってみる価値はあると思うぜ。

弾ちゃんにそう告げると、電話口から息を呑む声が聞こえてきた。

 

『……光也、お前冴えてるな』

「よせやい」

『まぁ、取り敢えず片っ端から電話掛けてみるわ。ありがとうな』

「おう。また、何か分かったら連絡してちょーだい」

『おう。じゃあな』

「バイバーイ」

 

ブツッ。

通話が終わった事もあり、弾ちゃんと話している時は緊迫感やら焦りやらで耳に入らなかった雨音が、先程よりもより強く窓を叩く。この雨の中、蘭ちゃんが外出してしまっているかと思うと、オレは居ても立ってもいられなかった。

 

 

 

 

 

 

ビニール袋に入れたバスタオル数枚と蘭ちゃんの分の雨合羽(一番手っ取り早い準備がこれしか思い浮かばなかったのだ)を手に、向かい風に抗いながら住宅街を走り抜ける。この強風の中で、傘なんて何の意味も為さないと思っていたオレは、雨合羽を着用していた。それでも向かい風で顔はビショビショになるが、今のオレには大して関係無かった。

弾ちゃんの話では、蘭ちゃんの行き先は分からず、家族内の誰も知らないとの事。蘭ちゃんに電話は繋がらない為、台風による電波障害、蘭ちゃんの携帯の電池切れ、雨による水没から来る故障、何かの拍子で紛失した等、色々な可能性が考えられる。一通り可能性を考えてみたが、どれかが合っていたとしても繋がらない事には変わりないので、頭を振って思考を切り替える。

今は繋がらない原因を考えている場合じゃないだろ。蘭ちゃんが無事かどうか、それだけを考えなければ。

蘭ちゃんの同級生には今、弾ちゃんが電話を掛けていて、オレはその結果が分かるまでジッとしてられなかった。

ただそれだけの話。

弾ちゃんが小学校時代の蘭ちゃんのクラスメイトに片っ端から電話を掛けて、それで蘭ちゃんの居場所が分かれば万々歳。その場合は、ただ台風の中オレが一人ぼっちで散歩していたいう事実が残るだけなので何ら問題は無い。

しかし、小学校時代のクラスメイトに電話を掛けて、万が一居場所が分からなかった場合。これが一番まずい。どこかしらの屋内にいるにしても、この雨の中じゃ帰れないだろうし、もしどこか屋外で動けなくなってしまっているなら、今行動してても遅いくらいなのだ。

頼む。友達の家とか──それでなくても屋内で無事に居てくれ。

そんな、一番ハッピーなオチを願いながら。

弾ちゃんは色んな所に電話を掛け。

オレは蘭ちゃんを探し回るのだった。

 

 

 

 

 

 

住宅街を抜け、ここら辺の学校の小中学生が利用している学区内の通学路に入る。普段は見慣れた風景も、台風の最中となれば印象もガラリと変わる。進行方向の向こうから、側溝から溢れた雨水が土を混じらせて川のように流れている。靴に関しては、家を出る前のオレが長靴よりも走り易さを重視してしまいランニングシューズで来てしまった(長靴を履いてもどうせ濡れると思った)のでくるぶしから下はもう水浸しだ。

先程と走っている方角は変わったので、向かい風ではなく横風に変わったのが少しの幸いか。

雨合羽の内側、スウェットのポケットに入れた携帯が震えている。近にあった公園に入り、公園の真ん中にある大きな木の陰で雨宿りをする。雨を全て凌いでいる訳では無いが、それでも道路脇でそのまま携帯を確認するよりかは格段にマシだった。

携帯を開く。弾ちゃんから電話が掛かってきていた。

 

「もしもし」

『光也、駄目だった。蘭のヤツ、同級生は居場所知らないってよ』

 

簡潔。それでいて、悔しそうな一言。

 

「そっか。じゃあ、また何か手を考えなくちゃならねェな」

『おう。この雨だからよ、外には出れねぇし──っておい!何だよその雨風の音!光也、お前まさか外にいるんじゃねぇだろうな!?』

「いねェよ」

『嘘吐くな!おい、光也!危険過ぎるぞ!焦る気持ちは分か』

 

ブツッ。

今度は自分から通話を切り、携帯をポケットの中へと戻す。すぐさま着信で携帯が震えたが、もう良いだろうと無視して蘭ちゃんの捜索を再開した。

歩く道歩く道、全てが川みたいに雨水が流れている。畑とか公園からも流れているからか、雨水(というより泥水)は道路の凹凸をいとも簡単に隠してみせる。凹凸や段差で足を挫いたりしないように、普段よりも走る速度は幾分遅めだ。

蘭ちゃんは見当たらない。いやまぁ、こんな道端で見つかってもそれはそれで大変危険なのだけれど、見つからないよりかは見つかってほしいというのがオレの本音でして──この雨で思考がまとまらない。

えぇい。

集中しろ、オレ。

 

「蘭ちゃん、頼むから無事でいてくれ……!」

 

体力の続く限り走り続ける。8月の気温は台風の日でも変わらず不快な暑さをオレに寄越す。雨合羽の中は流れ込んだ雨やら汗やらでグチョグチョだ。

雨風は少しも弱まる気配を見せず、ただひたすらにオレの体力を削っていく。

住宅街を抜け、木々が増えてきた。ここから真っ直ぐ歩いていくと、山道に入っていくルートだ。

まさか、山に行ったのか?

すぐに撤回。理由が無い。

ならば、蘭ちゃんは一体何処へ?

もう弾ちゃんの家から徒歩圏内は粗方(あらかた)探し回った。しかも、この台風の中では居られる場所も限られるはず。だというのに、蘭ちゃんは一向に見つからない。

焦る。

最悪の想像というのはどれだけ思考の外に追いやっても決して振り切れず、付き纏う。

 

「蘭ちゃん……」

 

焦る。

いや、焦るな。

考えろ、オレ。

ロクに無かった蘭ちゃんとの交流。しかし、その中に何かヒントがあるんじゃないかと必死に今までの事を思い出す。馴れ馴れしくて嫌われてる事、名前を呼ぶ事を許可されていない事、一夏ちゃんの事を慕ってる事──駄目だ。思い出せば思い出すほど心にダメージが蓄積される。

って、知るか。オレの心なんか。良いから、思い出せ。

記憶の中を探し回る。そうすると人間周囲の事にはあまり気が回らなくなるもので。

ビュウッ!

一際大きく吹いた風がどこからともなく木の枝を運び、オレの顔面へと直撃させた。

 

「べふッ」

 

木の枝に弾かれ、その場で数歩たたらを踏む。頭を振り、意識を外側に戻す。

木の枝に当たった顔面を軽くさすると、指に血が付いた。どうやら鼻血が出たらしい。こういう時は上を向くんだか下を向くんだか──

 

「……あっ」

 

閃く。

 

『私、本当は超が付く程頭は良いんですけど、期末テストの時期にインフルエンザに罹ってしまいまして。その代わりに夏休みの期間、一週間の補習を受けているという訳で

す』

『成る程なア』

 

脳裏に浮かび上がったのは、蘭ちゃんとのいつかの会話。そうじゃん、オレってば何で気付かなかったンだよ。

急いで雨合羽の内側、スウェットのポケットから携帯を取り出す。そして操作。

 

『もしもし、光也テメェ急に連絡断ちやがって!心配するだろうが!』

「それはマジでゴメン!──それより、蘭ちゃんが通ってる学校教えて!」

『は?何だよいきなり』

「蘭ちゃん、テスト期間中にインフルに罹ったから、夏休み中1週間補習受けてるってこの前言ってたンだよ!だから、今日も補習に行ってる可能性がある!」

『蘭のヤツ、そんな重要な事黙ってるかね普通……!まぁ良い、俺等と同じ学校だよ!知らなかったか!?」

 

聞きたい事が聞けたので、携帯を耳から離す。通話を着る途中、『あっ、ちょっと待て!親父が車で向かうから光也は家に戻れ』とかなんとか言っていた気がするが、聞こえなかったふりをしてポケットへGO。

そっか。弾ちゃんの妹だから、オレ等と一緒の学校に通ってるっつうのは当然の話だよな。オレは焦ってそんな事も気付かなかったらしい。

 

「うおおおおおおおおッ!!!!」

 

来た道を引き返し、全力疾走。希望が見えてきたのもあり、元気は100倍だ。物が入ったビニール袋片手に、オレは蘭ちゃんがいるであろう学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「蘭ちゃァァァンッ!」

 

学校へ着いたオレは、すぐさま昇降口へ。そこに居ないのを確認すると、今度は職員玄関に向かう。そこの受付で蘭ちゃんが居ないか聞くと、どうやら台風が強くなる前に家に返したようで、もう学校には居ないらしい。

 

「もしもし!?蘭ちゃん学校から出て帰ってる途中だってさッ!!」

 

返答も聞かず光の速さで弾ちゃんに一報入れてから通話を切り、再び走り出す。

台風が今ぐらい強くなったのは昼前。オレが弾ちゃんから連絡を貰ったのが12時過ぎで、今の時刻が13時だとすると、オイオイ。もう2、3時間くらいは経っちまってるじゃねェか!

蘭ちゃん、この雨の中外に居る+腹ペコじゃねぇか!マジで急がなきゃ!

 

「蘭ちゃァァンッ!居たら返事してくれェッ!蘭ちゃーーんッ!!」

 

学校から帰る途中ということは、ここから弾ちゃんの家に向かえばその途中どこかにいる。蘭ちゃんの正確な帰宅ルートは知らないが、こうやって名前を呼びながら走れば少しは見つかる可能性は上がるはずだ。

 

「蘭ちゃァァンッ!」

 

ドデカい雨粒が顔面に当たる。

 

「蘭ちゃァァァァンッ!」

 

叫ぶと雨粒が口の中に入ってくる。

 

「蘭ちゃァァァァァァンッ!」

 

足元が泥水でよく見えないから何回が足を挫いてる。

でも走るのをやめない。

蘭ちゃんが心配だから。

 

「……唐澤さん?」

「へ?」

 

雨と風の音しか聞こえない外で、小さく、それでいて耳にスッと入ってくるその声を聞き、立ち止まる。声のした方向へゆっくり振り向くと、そこは小さな屋根付きのバス停。その内にあるベンチに、ずぶ濡れの蘭ちゃんが座ってこちらを怪訝な瞳で見ていた。

 

「ら──蘭ちゃんッ!?」

 

近付き、顔をよく確認。びしょ濡れで震えているが間違い無い。蘭ちゃんだ。

 

「唐澤さん、何でここに?」

「何でって──探しに来たんだよ!この雨の中外出してるって言うからさァ!あぁもうびしょ濡れじゃんかよ、ほら、タオル持ってきたから拭いて拭いて!」

「唐澤さんの方がびしょ濡れに見えるんですけど……」

「いいからッ!」

「……はい」

「タオルで拭いた後、雨合羽持ってきたからそれ着て!夏とはいえ雨に濡れっぱなしで寒いだろうから!」

 

持ってたビニール袋の中からタオルと雨合羽を差し出すと、蘭ちゃんは渋々従って顔やら髪やらを拭き始めた。ついでにくしゃみも何度か。あまりジロジロ見るのもよくないと思い外方(そっぽ)を向いていると、しばらく経ってから蘭ちゃんから声が掛かった。終わったようなので、隣に座らせてもらう。

 

「……聞きたいんですけど」

「なあに?」

 

外方を向いたまま答える。

 

「……何で、来てくれたんですか?」

「何でって……そりゃ、こんな雨の中外出してるっていうからさ。居ても立っても居られなかったッちゅーか」

「そうじゃなくてっ……!」

「?」

 

よく分からない。振り向くと、蘭ちゃんは目を逸らした。逸らしながら、呟くように言った。

 

「わ、私、唐澤さんに嫌な態度取ってたのに」

「だからこんな雨の中来るわけがないって?お馬鹿だなぁ蘭ちゃん」

「ば、馬鹿!?」

「いや、補習云々の事を言ってるわけじゃなくてさ。──オレからしたら、親友の妹が雨の中どこに居るかも分からない状況なんだぜ?迷わずタオルと雨合羽持って駆け付けるって」

 

それとも何?オレは親友の妹が雨の中困ってるのに知らんぷりしてるような男だと思ってたってこと?オレって蘭ちゃんの前でそんな素振(そぶ)りしてたかな。

笑いながらそう問うてみると、蘭ちゃんは気まずそうにこう返した。

 

「……初対面でやたら馴れ馴れしいし」

「うっ」

「〝親友の妹〟の事名前+ちゃん付けで呼ぶし」

「ぐっ」

「いっつもヘラヘラしてるし」

「ぐぇっ」

「……ぶっちゃけ、吹けば飛ぶ軽いノリのしょうもないチャラ男だと思ってました」

「ぐはぁッ!」

 

そんな男が豪雨の中ずぶ濡れで現れたらそりゃ意外ですわな。反省反省。

 

「その節は、マジですんませんでした。ほら、オレって仲良くなりたい子の事ちゃん付けで呼ぶようにしてるから、初対面でもついつい距離詰めちゃうっていうか。確かに今までそれで100%仲良くなれてきたわけじゃないし蘭ちゃんみたいに嫌われることもあったから今考えてみればオレってやっぱしょうもないチャラ男だったんだなって割とマジで落ち込んでるし今までの行動がマジで申し訳なくて自分に怒りが湧いてきて──」

「す、すみません!気にしてる事言っちゃったみたいで」

 

わたわたと焦る蘭ちゃん。その様子を見てぷっと噴き出すと、蘭ちゃんはぷりぷりと怒り始め、それから同じように笑った。

 

「兎に角、今までマジでごめん。謝罪するタイミングなんていくらでもあったのに、親友の妹との距離感ってこんなもんだと甘んじちまってた」

「いえ、こちらこそすみませんでした。第一印象で全て決めつけ、以降の交流を全て突っぱねてしまってました」

 

お互い、頭を下げる。それから、和解の握手。

 

「と、兎に角、来てくれてありがとうございました。唐澤さんってお兄よりよっぽど頼りになる人だったんですね」

「いやァ、照れるな。あっでも、弾ちゃんだって弾ちゃんのパパママだって、オレと同じくらい──もしかしたらそれ以上心配して、色々探してたんだからね?帰ったら、ちゃんとごめんなさいとありがとうしなくちゃ駄目だぜ?」

 

言い聞かせるように言うと、蘭ちゃんは帰宅したからの事を想像したのか、少しバツが悪そうにするのだった。

 

「それより蘭ちゃん。身体寒くない?どこか具合悪いところとか無い?」

 

話している感じは普通だが、体調不良というものは実は本人も気づいていなかったりするケースもよくある。蘭ちゃんの顔色をよく確認していると、蘭ちゃんは。

 

「大丈夫です。唐澤さん、大丈夫ですからそんなにあわあわしないでください。私としては、唐澤さんの方こそ心配です。大丈夫なんですか?」

「何が?」

「だって、先ほど握手した時、すごい手が冷たかったので」

「へ?」

 

言われた瞬間、身体が思い出したかのように横へと倒れ始めた。

 

「唐澤さん!?しっかりしてください!」

「──おーいっ!蘭!無事か!?」

「お兄!唐澤さんが」

「おい光也、大丈夫か──」

「唐澤さん!唐澤さんっ!──」

 

倒れ始めた身体を蘭ちゃんに支えられた直後、車のブレーキ音と弾ちゃんの声。それから勢いが少しも衰えない雨の音。色々な情報が段々と頭の中に入らなくなっていて、それからオレは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「おっ、気付いたか」

 

目が覚めると、見知った天井(弾ちゃんの部屋)だった。寝ぼけ眼を擦りながら声の方を向くと、そこには弾ちゃんじゃなく一夏ちゃんがいた。足を組んで椅子に座り、ショリショリと器用にリンゴの皮を剥いていた。ムカつくほどに絵になる野郎だ。そのリンゴ寄越しやがれ。

 

「モグモグ……一夏ちゃん?なんで」

「いやほら、俺ってみんなが大変なことになってるのに知らずに家にいたからさ。光也の看病くらい付きっきりでやらせてくれって弾と弾の両親に頼み込んだんだよ」

「……全然責めてるとかじゃないんだけど、家で何やってたの?」

「千冬姉の部屋の掃除。雨降り始めた日から毎日やってたんだけど、全然終わらなくて。光也達が頑張ってた時も絶賛掃除中だった」

 

それはマジで仕方ない。

 

「てか、時間無くて弾ちゃんにしか連絡してなかった。ごめんね」

「それは言わないお約束だ。外野()外野()なりに責任感じてるってことだよ、察してくれ」

「ごめん」

 

謝ると、マジで謝るなと一夏ちゃんに笑いながら怒られた。

どうやらオレは丸一日眠っていたようで、ベッドの近くには何回か変えられた形跡のある氷嚢と着替えがあった。台風は通り過ぎたようで、窓の外は目が痛いくらいの青空が広がっていた。台風一過ってヤツだな。

何故病院でも自分の部屋でもなく弾ちゃんの部屋で寝ていたのか。

一夏ちゃん曰く、熱自体はそうでもなかったし兎に角台風がヤバかったので、取り敢えず一晩寝かせて大事になりそうだったら病院に連れて行くという判断になったらしい。それからオレの家に行ったらしいのだが親はいないし寝かせようにも電気止まっててエアコンつけられないから危険だしで、弾ちゃんと蘭ちゃん二人の希望でこの部屋で寝かせてもらっていたらしい。

みんなマジでありがとう。

あと電気止まっててゴメン。

 

「蘭ちゃ──妹君はどうしたの?」

「そこにいるよ」

 

一夏ちゃんが指を指した方を見ると、オレの足元には蘭ちゃんがベッドの外からうつ伏せで寄りかかるようにして寝ていた。ほら、病室とかでよくみるアレだよ。説明難しいな。

 

「付きっきりで看病してたのは俺だけじゃないってことだ。詳しいことは本人から聞いてくれ。おーい、光也起きたぞ」

 

一夏ちゃんが蘭ちゃんに声を掛けると、すぐさま飛び起きた蘭ちゃんがオレに詰め寄ってきた。

 

「み、()()()()……!良かった、元気そうで……!」

「い、妹君。その呼び方……」

 

蘭ちゃんとの距離の近さよりも名前で呼ばれた事実に驚き、わなわなと震える指で蘭ちゃんを指差してしまう。

オレの指摘を受けて、蘭ちゃんは照れたように笑った。オレにはその表情は何故か小悪魔チックに感じた。

 

「昨日は、本当にありがとうございました。光也さんの優しさを受けて、今までの自分を反省したんです。──ですのでっ、これからは名前で呼ばせてください。いいですか?」

「も、勿論」

 

すると、弾けるような笑顔。その眩しさに目を細めていると、ふと思いつく。「じゃ、じゃあ」と口を開く。

 

「……オレも、蘭ちゃんって呼んで良いってこと?」

「当たり前じゃないですか。……というか、昨日会った時既に名前で呼んでましたけど」

「え、そうだったっけ!?マジでゴメン!」

「別にいいですって。……光也さんに真剣な顔(マジ顔)で名前呼ばれるの、少し嬉しかったですし」

「でしょ?オレって意外と格好良くて巷じゃ話題で」

「ちょっと!こういうのは普通聞こえてないお約束でしょう!」

「聞こえちゃったンだからしょうがないでしょ──あっ、タンマタンマ!椅子持ち上げないで、蘭ちゃん怪我したらどうすんのさ!」

「病人なんですから自分の心配してください!もうっ」

 

そう言いながらも素直に椅子を下ろし、部屋を出て行く蘭ちゃん。バタンッ!と乱暴にドアを閉めた数秒後、一夏ちゃんが嬉しそうな顔で入ってきた。

 

「随分と仲良くなったみたいじゃないか」

「いや、それよりも聞いた?蘭ちゃんがオレのこと名前で呼んでくれたんだよ!いやァ、台風の中走り回ってみるもンだな!」

「会話をしようぜ」

 

明らかに元気になってるオレの姿を見て呆れる一夏ちゃん。その後ろから、弾ちゃんが部屋に入ってきた。

 

「よう光也、元気そうだな」

「弾ちゃん!ベッドありがとね」

「気にすんな、妹を助けてくれた御礼だよ」

「弾、床で寝るのキツ過ぎて何回か寝てる光也の事蹴り落とそうとしてたぞ」

「は?」

「一夏、それ言うなって!」

 

一夏ちゃんの言い草から、どうやら昨日は随分楽しかったような感じだ。眠ってた自分が惜しいぜ。お泊まり会なんて滅多に無いからよ。

 

「それにしても、光也が元気になってくれて嬉しいぜ」

「一夏ちゃんと蘭ちゃんの、それからみんなの看病の賜物だね。いやァ、元気最高!スーパーハッピー!何して遊ぶ!?」

 

ズッ友メンズ大集合にテンションが上がったオレは、そう提案。しかし、一夏ちゃんは居心地悪そうに笑い、弾ちゃんは露骨に項垂れるのであった。

 

「?どしたの」

 

問い掛けると、一夏ちゃんが答えてくれた。ちなみに弾ちゃんは項垂れたままだ。

 

「話は変わるんだけど──いや、変わってないのか。兎に角、昨日ぶっ倒れた光也を自宅に運んだ時に、蘭が光也の部屋を見てさ」

「何か問題ある?エッチな本とかはそこら辺に置いてなかったはずだけど」

「いや、確かにエロ本の類いは無くて安心したのを覚えてる。そうじゃなくてな、ほら光也の机にアレが置いてあっただろ」

「アレ?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()

「そりゃそうだろ。31日までは等しく変わらず夏休みなんだから。ね?弾ちゃん」

「……」

「あれ、弾ちゃん?」

 

同調を求めると、目を背ける段ちゃん。心無しか汗をかいているように見える。いや、アレは冷や汗だ。

 

「蘭がそれを見て光也のことを大層心配してな」

「そ、それで?──」

 

続きを促した瞬間、ドアが勢い良く開け放たれる。そこには、オレの机の上に置いてあった夏休みの宿題の山を手に持ち、いい笑顔で立っている蘭ちゃんの姿が。あれ、服着替えた?可愛いねそのフリフリの服。

 

「光也さんの成績は私が守ります!さあ光也さん!夏休みの宿題を終わらせましょう!ついでにお兄もッ!」

「な、何イイイィィィィィィッッッッ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2年半振りの更新です。待っていただいた方にはとても申し訳無いです。待っててくれてありがとうございました。途中までは執筆していたのですが、どうしても完成されず、昨日から追い込んでやっと完成させることができました。

本編も、原作読んで続き書きたいくらいにはこの作品に愛着があるのですが、いかんせん社会人になってしまったもので。激気長にお待ちいただけるとありがたいです。本当にありがとうございました

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  • 蘭ちゃん
  • 弾ちゃん
  • 光也

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