ISなんかどうでも良いから女の子とキャッキャウフフしたい。 作:大塚ガキ男
プロローグ
「なぁ、本当にこの道で合ってるのか?」
「分かんねェ」
隣を歩く織斑 一夏改め一夏ちゃんに、唐澤 光也改めオレはそう返した。
中学三年生の大事な時期。と言うか受験日当日。
オレと一夏ちゃんは揃って藍越学園という高校を受験しようと、ネットで予め調べた会場までの地図を頼りに歩いていたのだが・・・・・・迷ってしまった。オレ達は悪くねェ。こんなにも曲がり角が多いのが問題なのだ。
藍越学園。
一夏ちゃん曰く、卒業後の就職率が良いとか。オレには良く分からんが、一夏ちゃんは千冬ちゃんに生活費を出してもらう事を申し訳なく思っているので、早く就職して千冬ちゃんに楽させてやりたいらしい。
就職ねぇ・・・。まだ中三なのに早くも将来について考えているとは、立派なもんだ。
オレにはとてもじゃねェが、真似出来ない。
っと、いけねェ。ただでさえ分かり難い
藍越学園を会場にして受験をする訳ではないらしい。カンニング防止の為にどこか場所を借りて、設備内の一室を受験会場にしたのだとか。
そのせいでオレ達は迷ってしまっている。
会場には入れたが、受験会場には未だ辿り着けていない状況。許さねェ藍越学園。
「まさか、光也が俺と同じ高校に進学してくれるとはなぁ」
気分転換か、それとも現実逃避か。一夏ちゃんは呟くようにそう言った。
「何年幼馴染やってると思ってんだよ。むしろ一緒じゃねェと心細いわ」
ありがとな、一夏ちゃんは鼻の下を指で擦りながら照れ臭そうに言った。
どうせなら、弾ちゃんも同じ高校が良かったな。
だが、それは叶わず。高校は違っても、オレ等はズッ友だからな!とクサい誓いを立てたのは記憶に新しい。
まぁ、一生会えないという訳でもねェだろうし。暇を見付けてまた遊べゃ良いか。
「幼馴染と言えば・・・箒と鈴は元気かな」
「元気なんじゃねェ?便りが無いのは良い便りって言うしよ」
「そっかー」
話しながら——今は会えない美少女に思いを馳せながら、歩き続ける。
曲がったり上ったり下ったり。
途中に会場案内の役員の人がいれば良いのだが、先程から誰も見かけない。人払いの結界でも使われているんじゃないかと疑うレベルだ。
「なぁ、光也」
突然立ち止まった一夏ちゃん。オレも同じように立ち止まり、返した。
「んだよ一夏ちゃん」
「アレ・・・・・・なんだと思う?」
一夏ちゃんが指差したのは、とある一室の入り口。そのドアの隙間から光が漏れている。そこが一夏ちゃんの好奇心をくすぐったようだ。
「ひょっとして会場じゃねェか?」
歩く事に疲れていたオレは冗談混じりにそう言ってみる。しかしそれを本気にしてしまうのが、中学時代から唐変木の鈍感ラノベ主人公として
「・・・・・・」
同じく一夏ちゃんも、部屋の中を見てから立ち尽くしてしまった。
「おい、どした?」
「・・・・・・見てみろよ、コレ」
「?」
いつもと様子が違う事に気が付き、一夏ちゃんの後ろから部屋の中を確認する。受験時刻はとうに過ぎていて、空席二つ以外は全部埋まっていた。ジロリとオレ等を訝しげに見詰める数十名の生徒。
そんな展開じゃあなかった。
「「・・・IS?」」
二人仲良く、そう呟いた。
IS。
正確にはインフィニット・ストラトス。
意味は、無限大の・・・・・・なんだったっけか。真面目にニュースを見ていないオレには分からなかった。それは多分一夏ちゃんも同じで、オレ等に理解出来ているのは、
・とある天災が作った物で、それを身体に纏えば、何だかの力が働いて宇宙服を着ずとも宇宙空間にまで翔ぶ事が出来るという代物。
・ISを設計する上で必要不可欠な【コア】の数は限られていて、コアは天災にしか作れないという事。
・ISは軍事兵器としても十二分に活躍でき、一つの国にISが三機あれば戦争が起こせるらしい。よく分からんけど。
・誰でも乗りこなせるという訳ではなく、限られた人にしか扱えない。
と言った所か?恐らく、キチンとニュース等を確認している方々にはもう少し込み入った説明が出来るのだろうが、オレにはこれが精一杯だ。許してにゃん。
「生で見るのは初めてだな」
「オレも」
見惚れる。
ああいう『ロボットです!』みたいなシルエットは、何というか男の浪漫を刺激する。この機体の名前も知らないが、心惹かれるモノがあった。
どちらから言ったのかは確かではない。だけどオレと一夏ちゃんは、同じ口の動きをしていた。
「触ってみないか?」
と。それから、同時に言った。
「賛成」
考える事は同じ。ニコニコ——いや、ニタニタと笑いながら入室と決め込んだ。
部屋の中には誰も居ない。おいおい、大事な大事なIS様に見張りも無しかよ?これじゃあ、触ってくれと言ってるようなモンだぜ!ヒャッハアァァァァァ!!
「オレ等は悪くねェ。たまたま受験会場を間違えて、たまたまISのある部屋に辿り着き、ISに埃が付いているのを見つけて、良心からそれを手で払ってやろうとした褒められるべき受験生。分かったか?」
そう言ってやると、一夏ちゃんも
「そうだな、俺達は悪くない」
と同調。
共犯が誕生した瞬間である。
抜き足差し足忍び足。
後方をチラチラ確認しながらゆっくりとISに近付く。もうISは目の前。間近で見ると一層カッコエー。
「記念撮影・・・と洒落込みたかったけど、バレたら殺されるな」
主に、千冬ちゃんに。バレたら拳骨の一発や二発じゃ済まないだろう。
「触った感触だけでも思い出に残しておこうぜ?」
千冬ちゃんの怖さは実体験から一番分かっている一夏ちゃんが、語尾を震わせながら提案してきた。それに関して反論は無い。触る事はおろか、こうして生で見る事さえ一生モノの体験なのだ。僥倖僥倖。
まぁ・・・・・・触るだけならバレねェよな☆
「どっちから行くか?」
「あー、どうする?」
「・・・一夏ちゃん先やれよ」
「良いのか?」
「あァ、安心してくれ。何か警報とか鳴ったら一夏ちゃんに全て罪をなすりつけようだとか、んな事は考えてねェから」
「最低だ!」
兎に角。
どうにかこうにか一夏ちゃんを
この現場を第三者が目撃していたとしたら、恐らくオレ等の興奮やら背徳感やらをごちゃ混ぜにしたヤバい顔を見られていた事だろう。
真顔に戻す。それから二人して顔を見合わせて頷いた。制服に手汗を擦り付けておくのも忘れない。
一夏ちゃんがISにゆっくり手を伸ばす。
恐れ半分、ドキドキ半分、と言った感じだ。
「さ、触るぞ・・・?」
「大丈夫、後ろは見張っててやる」
どうせ触るだけだし、まじまじと見る必要は無い。それよりも、誰かにこの場を見られないように見張っておく事が重要だ。
「あ?」
背後から発光。振り向く。
「な、なんだこれ・・・・・・」
そこには、ISを身に纏った一夏ちゃんが居た。
ISの分一夏ちゃんが大きく見える。何だ意外と似合ってンな——じゃねェ!
「何しちゃってんのォォォォォォォォ!?」
「知らねえよ!こっちが聞きたいぐらいだ!何で俺がISを!?」
「と、兎に角落ち着こうぜ。こんな所誰かに見られたら大変だ」
「おい、何だ今の声は!」
ISから一夏ちゃんを引きずり降ろそうとするが、遅かった。オレの叫び声を聞き付けた警備員二人と、それからスーツを着たお姉さん三人。合わせて五人が部屋に入ってきた。
双方、絶句。
見詰め合うオレ等と警備員&お姉さん方。
先に口を開いたのは、向こうだった。
「ISを起動させた!?」
信じられないと言った顔で、一夏ちゃんを見ている。
マズい。こんな騒ぎになってしまっては、受験どころではない。何とかしてこの場を収めなければ。
「あー、えっと、違うんすよ。コイツが勝手に部屋に入ってISを触り出して。オレは止めたんすよ?けどコイツ全然聞かなくて」
「おぉぉい!早速なすりつけかよ!?大体、光也だって——」
醜い罪のなすりつけ合い。そんな事に夢中になり過ぎて、警備員が近付いているのに気が付かなかった。
「お前達二人共来い。詳しい話は後で聞くから!」
警備員は二人がかりでオレを地面に組み伏せ、お姉さん方は一夏ちゃんのISを解除させて手を後ろで強引に組ませた。パリッとアイロンをかけておいた制服が台無しだ。
制圧。
大人の力には
まずは、ISを起動させてしまった一夏ちゃんがお姉さん方に連れて行かれる。その後ろを、むさ苦しい警備員二人にガッチリ腕を掴まれているオレが歩く。
「離せよ!どうせならお姉さん方に連れて行かれたい!」
「五月蝿い!黙って歩け!」
「おい一夏ちゃん!毎回お前ばっかり
「このッ、黙らんか!」
オレを黙らせる為に、更に固く拘束しようと——腕を掴み直そうとしたのだろう。だが、二人のタイミングが合わずにオレは後ろに引っ張られる形となり、警備員二人の間を抜け、汚い後転を披露しながら地面を転がった。
「いってェな・・・!」
丁度良い所にISがあったので、起き上がる支え代わりにISの膝の辺りを掴む。ったく。制服が汚れちまったじゃねェかよ。後で絶対クリーニング代請求してやるからな。
・・・って。
アレ?
冷静になって周りを見渡してみる。
オレの腕の動きに合わせて動く、大きな金属で出来た腕。
普段よりも高い視界。
眼下でオレを見上げる警備員&お姉さんズ。それから一夏ちゃん。
オレを見る目は、皆同じ。
驚愕。
それに尽きる。
「・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ」
溜め息を一つ。それから、
「何でオレも動かしちゃってんのォォォォォォォォ!?」
絶叫した。
あっ、そうそう。
ISについての説明をもう一つだけ。
大前提として、ISって女性にしか動かせねェんだよな。
本編の方も、もう少しお待ち下さい!
本編は、一章から始まっています。番外編は全然飛ばしてもらって大丈夫です\\\\٩( 'ω' )و ////
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