紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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ハリポタの新作を見よう見ようと思って中々見れない今日この頃。呪い子のも買ってないし……やばいなぁ。
誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると幸いです。


グリンゴッツやら、賢者の石やら、再始動やら

 ズ、ズ、と小さく足音が鳴る。私なりにかなり抑えているつもりではいるのだが、それでも鈍い音は隠せなかった。それもそのはずである。私の今の重量は約五トン。ちなみに、その約の部分に私の元の体重は含まれている。

 

「さて、まずは漏れ鍋に行くわよ。あそこがダイアゴン横丁の入り口になってるわ」

 

 私は今両手にプラチナの塊を提げている。その重量は両手合わせて五トン。約六千万ポンドの塊だった。私の横には日傘を持っている美鈴、私を挟んで反対側に美鈴とあまり背の変わらない二十代そこそこの女性、私の知人の資本家がいる。

 

「漏れ鍋?」

 

「っていう名前のパブよ。……ここね」

 

 この通り自体かなり賑やかなので私の異様な足音に気が付く人間はいない。ついでに言えば、今私の目の前にある薄汚れたパブ、漏れ鍋に気が付く人間もいなかった。

 

「こんなところにこんな店があったんだな。この通りは何度か来たことがあるが……」

 

「マグルが気が付かないように簡単な魔法が掛けてあるのよ。まあ、注意深く見れば気が付くんだけどね。私の羽みたいに」

 

 私たちは漏れ鍋の中に入り、そのまま中庭へと抜ける。

 

「おい、行き止まりだぞ」

 

「お前は扉を見て壁があると言うのかしら」

 

 プラチナの塊を同時に降ろし、両手をフリーにする。そして人差し指で目の前にあるレンガの壁を三回叩いた。そのレンガを始点にしてレンガが横へ横へと避けていき、最終的に大きなアーチ状の入り口ができあがる。

 

「なるほどな。間違えてパブに入ってきた一般人が魔法界に入らないようにしているわけか」

 

「そういうこと。さて……と、ダイアゴン横丁にようこそ」

 

 私はプラチナを持ち直すと石畳の通りへと出る。資本家は物珍しそうにあちこち見回していた。

 

「あまり挙動不審だと変な目で見られますよ、姉御。ただでさえスーツ姿で浮いてるんですから。ここじゃローブが一般的ですからねぇ」

 

 確かに今の資本家と美鈴の服装は少々浮いていると言えるだろう。まあ美鈴の場合いつものチャイナ服の方が浮いているが。

 

「取りあえずグリンゴッツね。グリンゴッツはダイアゴン横丁の中でも一二を争うほど大きな建物だからわかりやすいと思うわよ」

 

 ダイアゴン横丁を暫く歩くと白い大きな建物が見えてくる。あそこがグリンゴッツ魔法銀行だ。磨き上げられた青銅の観音開きの扉の両脇には小奇麗な制服を着たゴブリンが立っている。

 

「お荷物をお持ちします」

 

 ゴブリンはペコリと頭を下げて私に近寄ってくるが、資本家が制止する。

 

「いや、やめとけ」

 

 確かに、ゴブリンにこの重さは厳しいだろう。私たちは大理石のホールを抜け、カウンターにいるゴブリンに話しかけた。

 

「金庫を借りに来たんだけど」

 

「新規でのご契約ですかな?」

 

 ゴブリンはカウンターの下から書類を取り出すと必要事項を記載していく。そしてポンと判子を押した。

 

「ご案内致します。荷物をお預かりしましょうか?」

 

「それよりトロッコの心配をしておいた方がいいわよ。最大積載重量は?」

 

「ガリオン金貨を満載しても正常に走行できます」

 

 それなら大丈夫だろう。ガリオン金貨は金で出来ている。トロッコに満載したときの重量は五トンどころではないだろう。私はプラチナをトロッコに載せるとゴブリン含め四人で乗り込んだ。

 

「では発進します。トロッコから落下した場合助けることはできません」

 

 トロッコは勝手に線路を進み、登ったり降ったりを繰り返す。進み始めたら舵取りの必要はないので、私はゴブリンに話しかけた。

 

「そういえばこのグリンゴッツに侵入した輩がいたという話を聞いたんだけど、何を盗まれそうになったの?」

 

「機密にてお答えできません」

 

「金庫の中に入っていたものは?」

 

「極秘事項につきお答えできません」

 

「それにしても危機一髪よね。まさにタッチの差だわ」

 

 さて、どう出る?

 

「ええ、運良く金庫が空になっていてよかったです」

 

 私の問いを否定しなかったところをみると、金庫の中に入っていたものはそう多くない。前に予想を付けたように簡単に運び出せるもののようだ。

 

「六七四番金庫です」

 

 どうやらここが資本家に貸し与えられた金庫のようだった。ゴブリンは手慣れた様子で金庫の鍵を開け、扉を開けた。

 私はプラチナを持ち上げると金庫の中に降ろす。

 

「預け入れるものはこれだけでいいの? 貴方、他にも色々と持ってきていたみたいだけど」

 

 トラックの中で時計がどうのと言っていたことを思い出す。資本家は鞄から腕時計を十ほど取り出した。

 

「一つ六十万ポンドは下らない時計だ。レミリアがプラチナを運べなかった場合これだけでも預けておこうと思ってな。これだけでも六百万ポンドにはなる」

 

 資本家は時計をプラチナを包んでいた布で包むと金庫の中に入れた。この金庫の中だけで国が動くほどの資産が入っていることになる。資本家が金庫から出るのを確認し、ゴブリンが金庫に鍵をかけた。そしてその鍵を資本家に手渡す。

 

「こちらが金庫の鍵になります。大切に保管してください」

 

「ああ」

 

 資本家は鍵を受け取ると無造作にポケットに突っ込んだ。まあ、彼女からしたら六千万ポンド程度はした金なのだろう。さて、野暮用は済んだ。ここから先はダイアゴン横丁観光と洒落込もう。

 

 

 

 

 

 一九九一年、十二月。クリスマスパーティも終わり紅魔館では新年を迎える準備に入っている。まあ、準備と言っても何か行事をするわけではないが。私の後ろではパチェがベッドに腰かけて本を読んでいた。

 

「それにしてもびっくりよね。結局クリスマスまでの間に一回も手紙を寄越さなかったわよ」

 

 パチェが皮肉交じりにそう言った。確かに咲夜は一度も紅魔館に手紙を出していない。逆に言えば、ホグワーツからも一度も手紙は来なかった。何の問題もなく学校生活を送れたということだろう。

 

「無事に学校に行けているだけで満足よ。私はね」

 

 次の瞬間、部屋の扉がノックされる。その瞬間パチェはベッドから立ち上がり机を挟んで私の向かい側に座り直す。私も服装を正してきっちり座り直した。

 

「お嬢様、紅茶が入りました」

 

 やはり、私とパチェの予想通り扉をノックしたのは咲夜だった。私が許可を出すと咲夜はカートを押して部屋に入ってくる。そして慣れた手つきで紅茶の用意を始めた。

 

「それで、ホグワーツでの生活はどうなの? 咲夜」

 

 平静を装ったつもりだが、どうやら完全に隠しきれてはなかったようだ。パチェは私を呆れたように見ていた。咲夜はティーカップに紅茶を注ぎながら答える。

 

「そこそこ楽しませてもらっております」

 

 楽しんでいる、か。それは何よりだ。私は気になっていることを咲夜に聞いた。

 

「友達は出来た?」

 

 もし人間の友達が出来ているようなら、私としても安心なのだが……咲夜の表情を見る限りどうやら私の期待は外れたようだった。

 

「いえ、やはり人間の子供とは少し合わないみたいで」

 

 まあ、仕方のないことだろう。そもそも私は咲夜を人間として育てていない。十六夜咲夜は人間の体を持った化け物だ。咲夜はそんな私の問いなど気にも留めずに私とパチェに紅茶を出すとポケットの中を探った。

 

「そうだ、お嬢様方に見てもらいたいものが」

 

 そして懐中時計の裏蓋を開け、手の平に乗る程度の大きさの石を取り出した。物理的にあの大きさの物が懐中時計の中に入るとは思えないが、咲夜の場合その程度のささやかな物理的常識は通用しない。

 

「これなのですが……。ホグワーツの校長が城内で大切に守っていたものです。少し悪戯心が働いて持ってきてしまったのですが、危険なものでしょうか」

 

 咲夜が渡してきた石は深い赤色で、うっすらと透き通っている。私は石を透かして覗き見た。うん、わからん。咲夜の話が本当ならダンブルドアがホグワーツ内に隠していたものらしいが。

 

「年季は入っているようだけど……。パチェは何かわかる?」

 

 私はパチェに向かって石を放り投げる。パチェは石をキャッチせず、空中で静止させると手をかざして魔力を込めた。

 

「ふむ、これは賢者の石ね」

 

 パチェは興味なさげに賢者の石を机の上に転がす。パチェが興味を無くすのも無理はないだろう。パチェにとって賢者の石はそう珍しいものでもない。

 

「あまり価値はないものですか?」

 

「いえ、そうではないわ。特に魔法界ではね。賢者の石は卑金属を黄金に変え、ただの水を命の水に変える。これ1つあれば巨万の富と永遠の命が手に入る」

 

 確かに賢者の石は貴重な物で、その用途は多種多様だ。パチェも燃料タンク代わりに賢者の石を使ったりしている。咲夜はパチェの説明を聞いて目を見開き賢者の石を見つめた。パチェはそんな咲夜をみてため息をつく。

 

「でも、この程度の魔法具を有り難がるなんて、魔法界も地に落ちたものね。」

 

 パチェはポケットに手を入れるとカラフルな賢者の石をいくつか机の上に転がす。きちんと整形されたそれは宝石のようでもあった。

 

「パチュリー様、これは?」

 

 咲夜はその一つを手に取り眺めている。パチェは淡々と続ける。

 

「全部賢者の石。私が調合したものよ」

 

 咲夜は表情を固めたまま石を机の上に戻した。パチェは続ける。

 

「魔法界では魔法を生活を楽にするものとして使っている。それでは技術は大きく進歩しないわ。魔法使いとは知識を求める生き物なのよ。巨万の富や永遠の命は副産物でしかない。この程度で満足してそこで進化を止めてしまったら、一生本当の意味での魔法使いにはなれないわね」

 

 流石にそこまでストイックだとドン引きだが、その精神が彼女をここまで昇華させたのだとしたら、その考え方で合っているのだろう。

 

「パチェらしいわ。まあ、そういうことよ咲夜。石は自由にしなさい。あそこまでストイックになれとは言わないけど、魔法使いとは知識を求める種族よ」

 

 咲夜はそこまで聞くと納得したように石を懐中時計に戻した。私は不意に疑問に思い咲夜に聞いた。

 

「貴方、学業のほうはどうなの?」

 

 咲夜は驚くほど分かりやすくギクリとする。咲夜が居なかったここ数か月、私の生活態度も悪くなっていたが、咲夜も同じように腑抜けていたようだ。私としては別にそれでもいいのだが、パチェとしては許せなかったらしい。

 

「咲夜、問題を出すわ。スペシアリス・レベリオとはどのような効果のある呪文? 時間を止めて教科書を取りに行くんじゃないわよ」

 

 咲夜は面白いぐらい考え込み、考え込み、考え込み。……いや、あれはダメな時の顔だ。完全に目が泳いでいる。

 

「……。えーっと」

 

 そんな咲夜の様子にパチェは大きくため息をついた。咲夜は決して馬鹿ではない。勉強をすればするだけ吸収し、人一倍覚えるのも早い。

 

「やっぱり、時間を止めてズルをしながら授業を受けているのね。レミィ、少し咲夜を借りるわよ」

 

「いつまで借りる気? パチェ」

 

「クリスマス休暇が終わるまでかしら? 取り敢えず休み中に詰め込めるだけ詰め込むわ」

 

 それを聞いて咲夜の表情が変わる。隠しているつもりらしいが、全然隠せていなかった。そう、咲夜は勉強は得意だが、嫌いなのだった。咲夜は何かを期待するような目で私の様子を窺っている。確かに、私が咲夜に「紅魔館の仕事に専念しろ」と言ったらパチェとの勉強の話はなかったことになるだろう。大方それを期待しているようだが、ここは期待を裏切ることにする。

 

「ええ、私も自分の従者が馬鹿のままでは困るもの。限界まで詰め込みなさい」

 

 私がそういうと今度こそ咲夜の顔から表情が消える。いや、そこまで嫌か勉強。

 

「咲夜、授業や試験で時間を止めて成績を伸ばすことは別に禁止しないわ。自分の優位に働くと思ったら能力はどんどん使いなさい。そのほうが能力の練習にもなるしね。でも、それと勉強しないのは別問題よ」

 

 私は咲夜を説得するために言葉を続ける。

 

「瀟洒なメイドたるもの全ての知識に通じている必要があるわ。折角魔法学校に通うことになったんですもの。学年主席を狙えるぐらいでなきゃ。取り敢えず、仕事は美鈴にでも任せてクリスマス休暇は勉強をしなさい。もっとも、学校に帰ってからもだけどね。これは命令よ」

 

 と、このように命令として勉強することを指示しておけば少しはやる気も出るだろう。咲夜は手早く私とパチェが飲み終わったティーカップを片付けると深々とお辞儀をする。

 

「かしこまりました。お嬢様」

 

 咲夜は頭を上げるとカートを押して部屋を出ていく。そして急に咲夜の気配が消えた。普段通りの動きだが、今の流れでこれは少々不自然だ。多分あの動きは……いや、まず間違いない。

 

「あ! パチェ!? 多分咲夜逃げたわよ! 追いなさい!」

 

 それを聞いてパチェはガタッと椅子から立ち上がる。

 

「え!? そんなとこだけ幼稚なんだから! レミィ、場所の見当はつく?」

 

「地下には行かないと思うし多分屋上よ! 使い魔も貸すから徹底的に探しなさい! っていうか貴方探知の魔法使えるでしょう?」

 

 パチェは目を瞑り咲夜の魔力を感じ取る。

 

「だめよ。何故か館中に気配を感じるわ。多分滅茶苦茶に時間停止を乱用してる」

 

 私は体から数十匹の蝙蝠を出す。その蝙蝠は扉から出ていき紅魔館中に散っていった。

 

「いたわ。屋上よ。しかも何故か二人いるわ。あ、いや大図書館にもいる。そこまでの労力を費やすぐらいだったら勉強したほうが楽でしょうに」

 

 次の瞬間パチェの姿が消える。私が見つけたうちの一つを捕まえにいったようだ。三秒も経たないうちにパチェが部屋に戻ってくる。

 

「なるほどね。なんで気配が増え続けているのかようやくわかったわ。これ、妖精メイドよ」

 

 パチェに連れてこられた咲夜はポカンとしながら部屋を見回している。そして私の姿を見つけるとペコリと頭を下げた。

 

「おじょうさま、おはようございます」

 

「おはよう。咲夜見なかった?」

 

 咲夜の姿をした妖精メイドはまたもやポカンとすると、ああ、と手を打った。

 

「見ましたよ? えっと、私にポンと触って消えました」

 

 パチェが妖精メイドの頭に触れるとポンという軽い音がして妖精メイドの姿が元に戻る。

 

「これは魔法?」

 

「……どちらかというと霊力を用いた術ね。持続性もなければ応用性もない。本当にただ短期間対象を咲夜だけに変身させるだけの術だと思うわ」

 

 そうしている間にも紅魔館にいる妖精メイドの半分が咲夜になっている。だがこの程度ただの目くらましにしかならないだろう。何せ捜索をするのはパチェなのだ。

 

「まあ時間の問題ね」

 

 私は少し安心するとプレイングカードを取り出す。そしてパチェの連れてきた妖精メイドを机に座らせるとカードを配った。

 

 

 

 二時間後、私はカードを手で隠しならがちらりと確認する。そして机をグルリと囲んで座っている妖精メイド九人の表情を確認した。まだ場のカードが開かれていないので何とも言えないが、今の時点でいい手が入っている妖精メイドも居そうだ。

 

「って、ポーカーやってる場合じゃないわよ。パチェ、咲夜一人探すのにいつまでかかってるの?」

 

 今現在私の部屋には二十人の妖精メイドがいる。そのうち九人は私とポーカーをしており、あとの十一人はベッドの近くでままごとをしていた。パチェは口元に手を当てて考え込む。

 

「おかしいわね。虱潰しに探したとしてもこれだけ捕まえたら一人ぐらい当たりそうなのに。……まさか」

 

 パチェはポーカーをしている机の上に手をかざすとロンドンの地図を表示させる。そしてその地図を暫く眺めると机をバンと叩いた。その衝撃で場に伏せられたコミュニティカードが一気にひっくり返った。あ、私ストレートだ。

 

「咲夜は今ロンドン駅にいるわ。まさか館の外まで逃げているとは……どんだけ勉強したくないのよ」

 

 パチェは魔法で服を目立たないものに変えるとその場からいなくなる。私は軽く伸びをすると妖精メイドからカードを回収し、妖精メイドを部屋の外に追いやった。

 

「「「「おじゃましましたー」」」」

 

 ぺこりとお辞儀をし、ゾロゾロと部屋を出ていく。なんというか、慕ってくれるのはいい。仕事ができないのが玉に瑕だが。

 

「さて、静かになったことだし」

 

 私はベッドに横になり考える。賢者の石など珍しいものでも何でもないし、それを咲夜がもっていることに関しても何とも思っていない。最悪咲夜が賢者の石を使用してもいいと思っているぐらいだ。まあ咲夜のことだから私の許可なく使うことはないだろうが。

 

「問題は、賢者の石がホグワーツにあるということだわ」

 

 咲夜はダンブルドアが隠していた石を持ってきたと言っていた。だが流石に校長室に忍び込んで金庫を漁るようなことはしないだろう。それでは悪戯心どころじゃない。ただの泥棒だ。何か仕掛けのようなものがあり、出来心で咲夜はそれを突破した。そしてその奥に置いてあった賢者の石を持って帰ってきたという事だろう。

 

「……少し咲夜に話を聞く必要がありそうね」

 

 私はベッドから跳ね起きると椅子に座りなおす。次の瞬間咲夜の首根っこを掴んだパチェが部屋に現れた。

 

「レミィ、それじゃあ咲夜を借りてくわ」

 

「その前に」

 

 私が呼び止めるとパチェと咲夜が振り返る。

 

「咲夜、賢者の石を手に入れた時の状況を簡単に説明しなさい」

 

 咲夜はきょとんとすると、私の方に向き直る。

 

「えっと、四階の右側の廊下にケルベロスが居まして、その足元に隠し扉が。それの下に植物っぽいのがありまして、そのあとは鍵の鳥、巨大チェス、トロール、論理パズル、それを抜けた奥に賢者の石は置いてありました」

 

「え?」

 

 私はついつい咲夜に聞き返してしまう。

 

「だからあの、入学してすぐの歓迎会で今年いっぱい四階の右側の廊下には立ち入るなと校長先生が言っていたのですが、夜中に侵入しまして。そしたらそこにはケルベロスが」

 

 うん、そこまではわかる。まあ警備としては心許ないが。

 

「そのあと植物っぽいものに着地しまして」

 

「ちょっと待って、植物っぽいものって?」

 

 私が聞き返すと、パチェが咲夜の頭に手を当てた。

 

「ああ、これは悪魔の罠ね。触れたものを捕まえ、絞め殺すわ」

 

 咲夜の記憶を覗き見たのだろう。パチェがその植物っぽいものについて解説した。なるほど悪魔の罠か。賢者の石を守るために配置してあるにしては弱点が多い植物だ。悪魔の罠は火に弱い。そして魔法使いからしたら炎を出すことは特別難しいことでもない。

 

「で、植物を抜けると鍵の鳥が」

 

「ストップ、私が突っ込みたいのはそこからよ。まず鍵の鳥ってなによ」

 

「えっと、こう……古めかしい鍵に虫の羽のようなものが生えてまして、それが何百匹も部屋を飛んでいる感じです。多分そのうちの一つが先に進む鍵なのだと思います。私はピッキングして入ったので実際に鍵の鳥を探してはないんですが」

 

「で、そのあとはチェスだっけ」

 

「はい。その時は時間を止めていたので素通りすることができました。もしかしたら普通に通れば妨害があるのかもしれません」

 

 ふむ、詳しい話を聞けば、そこまでふざけた仕掛けでもないのか。トロールはそのまま妨害になるし、論理パズルも解かなければ先に進めない仕組みなのだろう。

 

「最後に一つ聞くわ。ダンブルドアは確かに『今年いっぱい』と言ったのね」

 

 咲夜は少し顔を伏せ、確信を持った顔で言った。

 

「はい、確かに言いました」

 

 私はそれを聞き軽く微笑む。

 

「パチェ、もう持ってっていいわよ」

 

 それを聞いて咲夜の表情が再び死ぬ。パチェは咲夜の首根っこを掴みなおすとズルズルと廊下を引きずり部屋を出ていった。

 

「さて」

 

 私は椅子に座りなおし、情報を整理する。今年いっぱいということは、賢者の石は今年の夏にホグワーツに来たということになる。じゃあそれ以前は何処に? 決まっている。グリンゴッツだ。ダンブルドアはタッチの差でグリンゴッツから賢者の石を回収し、自分の目の届くホグワーツへと移動させた。

 つまり賢者の石を狙っているものがいるということである。もっとも賢者の石を狙う者は後を絶たないだろう。だがダンブルドア自らが警戒し、石を自ら隠すとなるとその対象は限られてくる。

 

「まさか……リドルは生きている?」

 

 少し発想が飛躍しているが、ありえない話ではない。リドル、ヴォルデモートの死体は出ていないし、肉体が無くとも生きる方法はある。もしリドルが生きていたとしたら。

 

「手札が足りない……いや、咲夜ならもしかしたら。でもそもそもリドルが生きている保証はない。確かめないと」

 

 もし生きているとしたら、私の計画はまだ死んでいない。時間はかかるが、まだまだ実行可能だ。私は万年筆を取り出すと大きな羊皮紙に計画の修正プランを書き始める。

 

「前回の反省を生かして各陣営に手駒を紛れさせておきたい。でもパチェは動かせないし……美鈴? いや論外。でも今回は咲夜がいる。咲夜の時間停止を活用すれば三重スパイも可能かな?」

 

 咲夜の時間停止を活用すればある程度の時間の都合はつく。最悪逆転時計を使わせればアリバイ作りも容易だろう。咲夜の性質からして、もしかしたら咲夜同士で戦うこともできるかも。

 

「ヴォルデモートが死んだことによって不死鳥の騎士団は一度解散した。再結成されることがあるとしたらダンブルドアが招集をかけるはず。だとしたら咲夜はダンブルドアの近くに配置した方がいい。適度に咲夜の実力を見せ、あとはヴォルデモートと敵対する動機。正義の心。この辺を示せば団員になれるかしらね」

 

 次に闇の陣営側だ。はっきり言って死喰い人になることは難しいことではない。いや、そもそも死喰い人は殆ど機能していないか。元々死喰い人だった者はアズカバンに収監されたり無罪を勝ち取ったりして今現在は死喰い人でないことが多い。

 

「ここは逆にヴォルデモートの復活を手伝うほうがいいかしら。いや、それだと付きっ切りになってしまう。そもそもヴォルデモートが今どんな状況かもわからないし」

 

 クリスマス休暇が終わり、咲夜がホグワーツに行ったらパチェに相談しよう。

 

 

 

 

 一九九二年になり、クリスマス休暇も終わり、咲夜は今日の朝にホグワーツに帰っていった。私も簡単に見送りをしたが、流石にキングズ・クロス駅まで送っていくわけにもいかない。少し悔しいが、その役割は美鈴に任せた。私はベッドの上に置いてある魔法具に話しかける。この魔法具は大図書館へと通じる、所謂通信機のようなものである。

 

「パチェ、少し相談したいことがあるのだけど。書斎に来れる?」

 

「めんど——」

 

「来れる?」

 

「……真剣な話? さらに面倒くさいわね。…………待ってて」

 

 あんもう、こういうところは本当に可愛いなこいつ。パチェとは長い付き合いだが、私はパチェのこういう素直なところが大好きだ。私は部屋を出ると書斎へと移動する。そこには既にパチェが椅子に座って待っていた。

 

「遅いわ。自分で呼んどいて」

 

 パチェは私にジトっとした目で見る。

 

「ごめんなさい。少し寝てたわ。うん、三秒ぐらい」

 

 私は軽口で返し、パチェの対面へと座る。そして早速話を切り出した。

 

「咲夜が持っていた賢者の石。あれどう思う? 何故ホグワーツに、それもあんな中途半端な形で保管されていたのか」

 

「しかも今年限定でね。私も咲夜の話を聞いてから考えていたわ。まるで何かを誘い出しているかのようだわ」

 

 どうやらパチェも私と同じことを考えていたらしい。多分私が言おうとしていることも分かっているだろう。だが、一応前提を確認した方がいい。

 

「リドルが生きているかもしれない。パチェ、貴方もそう思っているんじゃない?」

 

「話が飛びすぎよ。……でも、咲夜の話を聞いて、私もその可能性があると思い始めたわ」

 

 私は窓を開けると庭仕事をしている美鈴を見つける。

 

「めーいりーん!! こうちゃぁああ!」

 

「りょーかいでぇえええす!」

 

 私が叫ぶと美鈴が手を振りながら笑顔で返す。多分二十分後ぐらいに紅茶を持ってくるだろう。私は窓を閉め、椅子に座りなおそうとした。

 

「おーぜーうーさーまー! 茶菓子はクッキーでいいですかぁああ?」

 

「うるさい! なんでもいいからさっさと持ってこい!」

 

 私はそう叫ぶと椅子に座りなおす。外からは微かに「えぇ………」と困惑する声が聞こえてきた。

 

「さて、まずは私の考えを話すわ。何か気になることがあればその都度口を挟んでもいい」

 

 私は咲夜のクリスマス休暇の間に書いた羊皮紙を広げる。

 

「リドルは実は生きていた。だが生きていると言っても実体があるかないかぐらいのふわふわしたもので、ほぼ瀕死と言っていい。当然よね。ハリーに敗れてから今まで全くの音沙汰がないということは、そこまで弱っていたということ。リドルは復活するために賢者の石を求めた。始めにグリンゴッツにある賢者の石を狙ったが、その石はタッチの差でダンブルドアが回収してしまう。次にリドルはその回収された石を狙うはず。ダンブルドアとしては完全に石を隠してしまうこともできたでしょうね。だがそれをしなかった。何故なら、ダンブルドア自身もリドルが生きているのか確かめたかったから。ダンブルドアはわざと賢者の石の隠し場所を分かりやすくし、石を狙う者を見定めようとしている」

 

「不思議なことがあるわ。私の知るダンブルドアは最後の最後で詰めを見誤るような魔法使いじゃない。間違っても賢者の石を奪われるような隠し方はしないはず。咲夜が賢者の石を持ってこれてしまうあたり詰めが甘すぎるわ」

 

「パチェが言うならそうなんでしょうね。多分ダンブルドアが作った罠はまだ完璧ではなかった。作成途中だったのよ。これは私の予想でしかないけど、今頃は完成しているでしょうね。あとで咲夜に聞いた話では偽物を置いてきているそうよ。もしダンブルドアがその偽物に気が付かなかったら今頃その偽物が完全に盗まれない方法で保管されているはず」

 

 パチェはそれを聞いて俯き考え込む。

 

「そうね。私もアレは何者かを誘い出す罠だと思うわ。そして何故誘い出すのか。ダンブルドアは賢者の石を狙っている者の正体を知りたい。推測を加えて考えるならダンブルドアは賢者の石を狙っているのがヴォルデモート卿であるのかを知りたい。リドルが生きているのかを知りたいということね」

 

「そう、この予想が正しければリドルは、ヴォルデモートは生きているということになる。もう一度戦争が起きるかも。紅魔館を転移させることも、もしかしたら可能かもしれない」

 

 次の瞬間、廊下の方から美鈴の声が聞こえてきた。

 

「トントントントン! おぜうさまートントントントン! 紅茶が入りましたっすよ」

 

「……え? なにそのノリ。正直引くんだけど。取りあえず中に入りなさい」

 

 美鈴は扉を開けて書斎の中に入ってくる。そして曲芸じみた動きでティーカップに紅茶を注いだ。

 

「咲夜ちゃんが学校に行ったからもう取り繕う必要ないですし。……はぁ」

 

 美鈴は急に意気消沈し、懐から湯飲みを取り出すと残った紅茶を注ぎ飲み始める。そして私たちが座っている机の一角に座った。

 

「……無駄に紅茶が美味しいのがむかつくわね。さて、話を戻すわよ」

 

 私は美鈴の淹れた紅茶を一口飲むと、ソーサーに戻す。

 

「前回、私の計画は失敗した。敗因はわかっているわ。単純に情報不足と、あまりにも干渉しなさ過ぎた。もう少し戦況を左右できる位置にいないといけなかった」

 

「まあ、無理もないわ。前回は手駒があまりにも少なかった。……今もそんなに変わらないけど。なんにしても動けるのが実質美鈴ぐらいだったじゃない。まあその美鈴が居なくなると館の家事をする者がいなくなるから無理だけど」

 

「ああ、あの時私に仕事が回ってこなかったのってそういう理由だったんですね」

 

「今回は咲夜がいる。それもダンブルドアのとても近くにね。咲夜が学校で問題を起こせばダンブルドアは動かざるを得ない。ダンブルドアと咲夜の距離を可能な限り近づけておかないといけないわ。印象を付けておかないといけない。問題は死喰い人の方ね」

 

 私はクッキーを一つ食べる。これもムカつくぐらい美味しかった。

 

「あ、それなら多分大丈夫ですよ。咲夜ちゃんマルフォイと仲がいいみたいでした」

 

 それを聞いてパチェの表情が変わった。

 

「マルフォイってあの死喰い人の? 今はホグワーツの理事もやっていたかしら。そういえば聞き損ねていたけどそれを聞く限り咲夜はスリザリンに入ったのね」

 

 私は合点が言ったように手を打つ。パチェは私のそんな予想を否定した。

 

「いえ、咲夜はグリフィンドールに入ったわ」

 

「は?」

 

 えっと、どうやら聞き間違えたようだ。

 

「ははは、そんなわけないじゃない。咲夜がグリフィンドール? ハッフルパフ以上に信じられないわ。スリザリンの間違いでしょ?」

 

「いえ、グリフィンドールよ。咲夜の口から直接聞いたわ」

 

 私はそれを聞いて紅茶を零しそうになる。まさか一番ありえないと思っていた寮に入るとは。

 

「あ、それにマルフォイと仲がいいってのも確かな情報ですよ。今日会ってきましたし。ルシウス・マルフォイに」

 

「やっぱり本質はスリザリンなのねぇ」

 

「あ、でもマグルっぽい匂いがする女の子とも仲がよさそうでしたよ。それは帰ってきたときに会ったんですけどね。確かハマイオニー・グレンジャーって名乗ってました」

 

「穢れた血? まあ人間の場合もう血の濃い魔法使いなんて残ってないでしょうけど」

 

 パチェが咲夜に話していたように、だんだんと魔法使いの質は落ちてきている。

 

「レミィ、魔法使いの場合、あまり血の濃さは関係ないわ。実際純血とマグル生まれに明確な差はない。強いて違いを挙げるとすれば、環境の差よ」

 

 確かに、生まれた時から魔法界という環境で生活していれば、魔法の勉強にすんなり入ることができる。

 

「なんにしてもマルフォイ家との繋がりは大切にしていきたいわね。ルシウス・マルフォイは死喰い人の中でも中心に近い位置にいた。マルフォイの近くにいたら何か兆候を読み取れるかもしれない」

 

 私はクッキーに手を伸ばす。いつの間にか皿の上に盛られたクッキーは残り少なくなっていた。

 

「これムカつくぐらい美味しいわね。なんか変な物混ぜてない?」

 

「失礼ですね。珍しく普通に焼いたクッキーですよ。あ、最後の一枚もらい」

 

 美鈴が最後の一枚を取る前にクッキーが皿の上から消える。いつの間にかクッキーはパチェの手に持たれていた。

 

「……おいしい。咲夜のことだからサポートさえしっかりしたら両陣営の中に潜り込むことぐらいは容易にやってのけるわ。この一週間勉強を見たけど、あの子は天才よ。学習する速度が凄まじいわ」

 

 パチェは紅茶を飲み干すとソーサーに戻す。私も紅茶を飲み干しソーサーに被せた。ティーカップの底を二回叩き指で弾いて元の状態に戻す。そして軽くティーカップを傾け中に浮かんだ模様を見た。

 

「ふむ、そうね。まずまずかしら。……、そうか」

 

 私は模様を見て思い出すことがあった。それは百年前、私が悪戯心で行った死の予言である。

 

「事が全て順調に進んだら、一九九七年に戦争は決着する。まさかこんなところで自らが立てたフラグを回収することになるとは思わなかったわ」

 

 もしダンブルドアが私の予言を信じているとしたら、ダンブルドアはヴォルデモートとの決着を一九九七年までにつけようとするはず。もしそのタイミングに合わせて戦争を操ることが出来たら、ダンブルドアとヴォルデモート、両者の死というのは容易に実現させることができるかもしれない。

 

「これも運命かしらね」

 

 私はクツクツと笑うと天井を仰ぎ見る。今はまず情報を集めることだ。だが、私の計画は確かに再始動したと言っていいだろう。




レミリアが資本家にダイアゴン横丁を案内する

咲夜が賢者の石を回収する

クリスマス休暇

ダンブルドアがみぞの鏡を隠し部屋に設置し、その中に偽物の賢者の石を隠す。

レミリアが紅魔館移転計画を再始動する←今ここ

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