紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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頭痛がきた次の日に腹痛がきて、その次の日に筋肉痛がきました。何かの呪いでしょうか。次の日には死んでそうで少し怖いです。

一部分、後書きに載せたものを書き直しています。少し内容が違う場合はこちらが正しいものとご判断ください。

誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


親やら、拳やら、アーチやら

 1996年、三月。

 私はパチュリーに呼び出されて大図書館に来ていた。パチェが私を大図書館に呼ぶなど久しぶりだ。それほど状況が切羽詰まっているのだろうか。まあ口調から察するにそこまで切羽詰まっているわけでもなさそうだったが。

 

「で、何かあったの?」

 

 私は正面に座っているパチェに話しかける。パチェは一枚の書類を私に手渡した。

 

『魔法省令 ドローレス・ジェーン・アンブリッジ(高等尋問官)はアルバス・ダンブルドアに代わりホグワーツ魔法魔術学校の校長に就任した。 以上は教育令第二十八号に順うものである。 魔法大臣 コーネリウス・オズワルド・ファッジ』

 

 どうやら魔法省で発行された書類の写しのようだった。ご丁寧に魔法大臣の判子も押されている。いや、そんなことは問題ではない。一番の問題は書類に書かれている内容だ。

 

「やばいでしょ?」

 

「確かにやばいわね。」

 

 別にホグワーツの校長に誰がなろうが知ったことではない。アンブリッジだろうがアンドリッジだろうが、好きな奴が就任すればいい。問題は、ダンブルドアがホグワーツを離れたということだ。

 

「ダンブルドアは何処へ行ったか分かる?」

 

「大体の位置は分かるけど……ダンブルドアは今本気で逃走しているわ。確証はない。」

 

 今この時期にダンブルドアが自由になるのは拙い。小悪魔は分霊箱を探して魔法界を巡っているし、クィレルも魔法大臣になるために動き出している。特に問題なのが小悪魔だろう。ダンブルドアも分霊箱を探していることだろうし、鉢合わせしたら小悪魔に勝ち目はない。口八丁で逃れることは出来るかも知れないが、こちらが不利になることは確かだろう。

 

「……分霊箱は今どこまで集まっているの?」

 

 パチェはポケットの中から男物の指輪とカップを取り出す。

 

「二つ。順調と言えば順調だけど、このタイミングでのダンブルドアの乱入は予想していなかったわ。」

 

「まあ小悪魔とダンブルドアなら小悪魔の方が分霊箱集めに関しては有利でしょうね。隠した本人だし。場所を知らなくても、自分が隠しそうな場所はある程度予想はつくはず。……そういえば、ホグワーツにあるかもみたいな話をしていなかった?」

 

 私の言葉に、パチェはポンと手を打つ。思い当たる節があるのだろう。

 

「ホグワーツの必要の部屋。あそこに隠した可能性が高いということよ。次に高いのは秘密の部屋ですって。」

 

「今すぐ呼び戻せる?」

 

 パチェは机を軽く三回叩く。数秒後、パチェの横に小悪魔が召喚された。

 

「あれ? 何か御用でしたか?」

 

「まあ形式上私の使い魔だし、呼び出すことは簡単よ。」

 

 小悪魔は軽く首を傾げながらも、パチェの横に座る。

 

「小悪魔、分霊箱の収集は順調?」

 

「ええ、分霊箱が隠されている可能性の高い洞窟を発見しました。そこの確認が終わったら、最難関のホグワーツに行ってきます。」

 

 そう、小悪魔の中ではホグワーツは最難関なのである。何せダンブルドアのいる城に侵入するのだから。ホグワーツはイギリス魔法界の中ではトップレベルのセキュリティを持っている。特に今の緊張した情勢の中ではさらに強化されていることだろう。

 

「先にホグワーツに向かいなさい。」

 

 私はパチェから渡された書類をそのまま小悪魔に渡す。小悪魔はその書類を見ただけで私が言おうとしていることを理解したようだった。

 

「なるほど、またとないチャンスですね。日が昇らないうちに向かいます。」

 

 小悪魔は恭しく私とパチェに礼をすると、その場から居なくなる。これでもう一つか二つ分霊箱が集まるだろう。

 

「ゴーントの指輪にハッフルパフのカップ。残るはレイブンクローの髪飾りにスリザリンのロケット、ナギニ、ハリーね。ナギニとハリーは確保が難しいから、収集するとなるとあと二つかしら。」

 

 私はゴーントの指輪を手に取る。そして面白い事実に気が付いた。

 

「パチェ……これって。」

 

「ええ、蘇りの石よ。死の秘宝の一つ。」

 

 パチェはさらりと言ったが、これ滅茶苦茶貴重なものなんじゃ……私は石を手の中で三回転がす。次の瞬間、私の横に昔死んだ従者の吸血鬼が現れた。

 

「……ここは……レミリアお嬢様?」

 

 事故で死んだ従者は私をじっと見つめる。死んでいるためか、その表情に生気は無かった。

 

「流石にショックを受けるわ。百年以上前の従者に名前を呼ばれるってことは、私百年間殆ど変化してないってことよね。」

 

「ああ、私がここに来る前にいた従者ね。美鈴よりも古いの?」

 

 パチェは従者に話しかける。従者は小さく首を傾げた。

 

「美鈴……さんとは一体どなたのことでしょうか。古いということは、美鈴さんも紅魔館に勤めている従者ですかね。」

 

 従者はクルリと周囲を見回す。そして目を見開いた。

 

「ここは……地下図書館ですか? 私がご奉仕していた頃より何十倍も大きい気がしますが。」

 

「ちょっと改装したのよ。もう帰っていいわ。」

 

 私が手を振ると、従者の姿が消える。うん、この石は本物の蘇りの石のようだ。

 

「蘇りの石。昔の賢者が作り上げた最強のデータバンクよ。」

 

「データバンク?」

 

「ええ、死んだ者から知識を得るためのツールよ。死後の世界に干渉する技術は今では失われつつあるわ。」

 

 まあ確かに、今生きている者より、死んだ者のほうが多いのだ。死者から情報を得るというのは合理的な発想だ。

 

「おっと、話が逸れたわね。取りあえず、小悪魔にはアレで十分だと思うわ。あの子もバカじゃないし、ダンブルドアが動いていると分かれば相応に警戒するでしょう。」

 

 問題はクィレルよ、とパチェは続ける。

 

「クィレルの場合、私と死喰い人の両方からの支援があるとは言え、比較的目立つ活動をしている。矛盾が出ないように設定を固めたけど、真に信用されるには何かパフォーマンスを行わないといけないでしょうね。」

 

 クィレルは今不死鳥の騎士団と繋がりのなく、比較的ヴォルデモートの復活を信じている魔法省役員を中心に接触を行っている。もう既に第二のハリー・ポッターとなりうる存在なのではないかという声が上がっているようだ。

 

「そうねぇ……。開心術士十人の前で、真実薬を飲んで、証言したら信用するかもねぇ。」

 

 私は冗談半分でそう提案する。

 

「それいいわね。ダンブルドアが魔法省に顔が出せないうちにやっちゃいましょうか。」

 

 パチェは私の冗談を、冗談とは受け取らなかったようだった。いや、出来るのならそれに越したことはないが、本当にそんな滅茶苦茶なことが出来るのだろうか。

 

「それをするに越したことはないけど……今クィレルはどの辺まで魔法省に食い込めているの? 今行動に移して信用を勝ち取れる?」

 

「まあすぐに魔法大臣っていうのは無理でしょうね。ファッジがいつ落ちるかもわからないし。」

 

 まあこの件に関しては機会があったらでいいだろう。

 

「まあ十分警戒するように伝えておきなさい。また何かあったら連絡してね。」

 

 私はパチェに手を振り、大図書館を後にした。小悪魔、クィレルもそうだが、咲夜は大丈夫だろうか。リドルが小悪魔になったことによって日記帳を通した連絡が取れなくなった。何か厄介ごとに巻き込まれていなければいいのだが。

 

 

 

 

 

 

 1996年六月十八日。

 クィレルの話では、今日ハリーを神秘部におびき寄せるらしい。ハリーとヴォルデモートの繋がりを使って幻影を見せるということだった。ハリーに、あたかもシリウス・ブラックが神秘部の予言保管庫で拷問されているように見せるのだ。

 ここまで大きく死喰い人が魔法省内で動くということは、魔法省役員がヴォルデモートの復活を認めざるをえなくなる場合が訪れるかもしれないということである。故に、クィレルには準備をさせておかなければ。もうすでに、開心術士と真実薬を用いた証言は行ったようで、取りあえず下準備は出来ているようだ。

 魔法大臣になる計画が始まってからはクィレルは死喰い人と殆ど接触していない。ダンブルドアの目もある程度は潜り抜けているはずである。勿論、クィレルの存在自体には気が付いているだろうが。

 

「なんにしても、今日は寝られないでしょうね。何かあるかも知れないし、取りあえず夜まで起きて、事態が収拾したら少し寝ましょうかね。」

 

 なんにしても、このまま一人でいるといつの間にか寝てしまいそうだ。私は書斎から出ると大図書館へと向かった。

 大図書館にはパチェと小悪魔がおり、机の上に置かれたスリザリンのロケットを調べている。パチェは私に気が付くと、スッと顔を上げた。

 

「ああ、レミィ。先ほど咲夜がこれを届けに来たわよ。やっぱりブラック邸にあったみたい。」

 

「あ、じゃあこれがスリザリンのロケットなわけね。」

 

 私はパチェに許可を取ってからスリザリンのロケットを手に取る。若干禍々しい気は出ているが、直ちに身体に影響の出るものでもなさそうだ。

 

「それで三月に小悪魔が取ってきた髪飾りと合わせて四つ。生物以外の分霊箱は集まったわね。」

 

 ロケットを机の上に置きなおし、私はパチェの前に座る。パチェは分霊箱を小悪魔に手渡すと、ペタンと机に伏せた。

 

「あとはクィレルの作戦が上手く行くといいんだけど。」

 

「死喰い人はトレローニーの予言を得ようとしているのよね?」

 

 私が聞くと、パチェは顔だけをこちらに向ける。

 

「それと同時に、魔法省に自身の存在を晒すことによってファッジ政権をガタガタにする予定みたいね。死喰い人としてもクィレルが魔法大臣になったほうが都合がいいわけだし。っと、クィレルが帰ってきたわ。」

 

 パチェがそう言った数秒後、大図書館の中央にクィレルが姿現ししてくる。クィレルは私の存在に気が付くと、深々と頭を下げた。

 

「これはこれはお嬢様、こんな時間までお疲れ様です。」

 

「状況は?」

 

 クィレルはこちらへと近づき、その場に跪く。

 

「はい。ハリー・ポッターは予定通り罠に掛かりました。十六夜君は神秘部のドアの前で後方の警備に当たっているようです。」

 

「そう、まあ咲夜が一緒だと戦いにならないものね。じゃあ貴方はこれから予定通り非番の魔法省役員と接触しなさい。」

 

「分かっております。」

 

 クィレルは立ち上がり、その場から消えた。取りあえず、クィレルは事態が収束するまでは大人しくしていなければならない。ようはアリバイが必要なのだ。この戦いに関わっていないというアリバイが。

 

「そういえば、神秘部の様子を見ることって出来ないの? あの便利なマッドアイはどうしたのよ。」

 

 いつもだったらパチェは机の上に空撮した映像を映している。だが、今日はそれをしていなかった。パチェはグイッと体を起こすと、肩を竦める。

 

「見えないわけでもないんだけど……何せあそこは未知の物が多すぎるから。何故か普通には見えないのよね。少々強引なやり方なら見ることが出来るとは思うんだけど、それだと気が付かれる可能性があるし。」

 

 なるほど、暇そうだったのはそういうことか。要するにやることがないのだ。

 

「まあ咲夜が現場にいるから、後で話を聞けばいいか。」

 

 私は眠たい目を擦りながら大きな欠伸をする。完全に昼夜逆転してしまうが、今から少し仮眠を取ったほうがよいだろう。

 

「咲夜から連絡が入ったら起こして頂戴。ちょっと寝るわ。」

 

「え? むしろ今から起きてた方がいいんじゃないの?」

 

 パチェは少し不思議そうな声を出す。だが、私にとって心配だったのはここまでくる過程であって、結果ではない。ここまで前提条件が整えば、おのずと未来は決まってくるだろう。

 

「こっちから干渉できるようなことなんて殆どないでしょうに。だから寝るのよ。お休みパチェ。」

 

 私は軽くパチェの額にキスをすると大図書館を後にする。そして美鈴が仕事を始めたのを確認し、ベッドに潜り込んだ。日が変わる前には起きたいところだが、寝過ごしてしまうかも知れない。寝過ごし……ぐぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、やばい。これはやばいダメだやばいやばいやばいやばいやばい――――ッ!!!

 

 まだ……死にたくない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局私が目を覚ましたのは、朝日が昇ってからだった。完全に一日寝て過ごしてしまったことになる。実際には起きていた分寝ていただけなので、何も損はしていないはずなのだが、何故か少し損をしたような気になるのは何故なのだろうか。

 私は眠たい目を擦りながら寝間着から部屋着へと着替える。パチェが私を起こさなかったということは、咲夜からの連絡はなかったということか。連絡がないということは、何事もなく事態が集結したということだろう。

 取りあえず予言者新聞の朝刊でも読もうと大図書館に向かおうとするが、その瞬間に私の部屋の窓に一匹の梟が舞い降りた。何故だろう。酷く嫌な予感がする。私は窓を開け、梟の足に括りつけられた羊皮紙を外す。それと同時に急ぎ足で大図書館へと向かった。

 起こされなかったのは咲夜から連絡がなかったからだと私は推理した。多分それは正しいはずだ。咲夜からは連絡がなかった。連絡がない理由を何も問題が起きなかったからだと勝手に想像したが、もしそれが間違っていたとしたら……。

 私は図書館に向かいながら丸められた羊皮紙を開く。そこに書かれた一文を読み、私は足を止めてしまった。そこには色々と文字が書いてあったが、私にはそのうちの一文しか目に入らない。そこにはただ一言、『十六夜咲夜が死亡した』旨が書かれていた。

 

「咲夜が……死んだ?」

 

 ダメだ、寝起きで寝ぼけているのかも知れない。もしくはまだ夢を見ているのだろうか。私は何度か目を擦り、羊皮紙を隅から隅まで読む。そうして冷静に何度か文章を読むうちに、ようやく全文が頭の中に入ってきた。どうやら、咲夜は昨日の神秘部での戦いで、命を落としたのだという。

 

「…………。」

 

 気が付いたら、私は大図書館に着いていた。目の前には困惑気味のパチェがいる。目を大きく見開いて、私を見ていた。

 

「レミィ、どうしたの? 貴方らしくもないわね。」

 

 パチェはすぐに何時ものジトッとした目に戻った。私は無言でパチェに羊皮紙を突き出す。

 

「これについて何か知ってる?」

 

 パチェが羊皮紙を読んだところで、私は冷静を装って聞いた。パチェな羊皮紙を見つめながら分かりやすく顔を顰めている。

 

「ダンブルドアの筆跡で間違いないわ。咲夜がダンブルドアの目を欺いたとも考えられるけど、だとしたら咲夜から連絡がないのはおかしい。それに行方不明になったぐらいでダンブルドアが死亡を断定するわけないわね。連絡がないから私はてっきり何の問題もなかったのかと……。」

 

「取りあえず、パチェは今すぐ神秘部に向かって。念の為小悪魔は図書館に残しておきなさい。」

 

「それは分かったけど……レミィ、貴方は?」

 

 パチェは素早く自分の体に魔法を掛け始め、身支度を始める。私は玄関の方を見た。

 

「私は門番と一緒にホグワーツにカチコミ掛けてくるわ。」

 

「そう。蛙チョコよ。」

 

 私はパチェから合言葉を聞くと、そのまま玄関に向けて歩き出す。既に日が昇っているが、日傘を差している暇はない。私は朝日を浴びながら洗濯物を干している美鈴のもとまで歩いた。

 

「ん~……あ、おぜうさま? もう朝ですよ? っていうか思いっきり日光浴びてますが大丈夫なんですか?」

 

 美鈴は小馬鹿にしたような口調でそう言いながら、日光を遮るように私の前に立つ。

 

「咲夜が死んだとダンブルドアから連絡があったわ。」

 

 先ほどまでのニヤケ面は何処へやら。美鈴は一瞬にしてフリーズする。そして次第に無表情へと変わっていった。

 

「今すぐ校長室に殴り込み掛けましょう。」

 

「あら、珍しいわね。同意見だわ。」

 

 こうなった原因が私にもあったことは理解している。一方的にダンブルドアを責めることも出来ない。だが、今は何かに八つ当たりしなければやってられなかった。

 美鈴は静かに日傘を開き、私を影の中に入れる。私は美鈴の身体に抱きつくと、美鈴が怪我をしない限界の速度でホグワーツに向けて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 校長室の場所は覚えている。合言葉も知っている。なら、校長室に忍び込むのは簡単なことだった。ガーゴイル像を抜け、螺旋階段を上がり、樫の扉の前に立つ。

 ここまで全力で気配を殺してきた。まだ気が付かれていないだろう。私は優しく樫の扉をノックする。そしてそのままの勢いで、私は全力で扉を殴り破った。多分扉には結界が張ってあったのだろう。通常の木製のドアとは比べ物にならないぐらい手ごたえがあったが、所詮結界だ。銀行の金庫すら破ることが出来る私の右ストレートの前では紙も同然だった。

 私と美鈴は今まで抑えに抑えていた気配を一気に解放し、校長室に踏み入る。中には私の予想通り、ダンブルドアとマクゴナガルの姿があった。ダンブルドアはこちらを油断なくじっと見つめ、マクゴナガルは驚愕した顔でこちらを見ている。私は軽く深呼吸すると、無表情でダンブルドアに行った。

 

「ご機嫌麗しゅう。アルバス・ダンブルドア。早速なのだけれど。」

 

 私は先ほどの羊皮紙をポケットから取り出す。その瞬間、羊皮紙が燃え上がった。

 

「ホグワーツで授業を受けているはずの私の従者が、何故魔法省の、それも神秘部なんていう地の底の底で死んでいるのかしら? 納得のいく説明がなされるまで私は帰らないわよ。」

 

 私は一歩ダンブルドアに近づく。美鈴は出入り口から二人が逃げないように、出口の真ん前で仁王立ちをしていた。

 私は先ほど空を飛びながら美鈴とした話を思い出す。ここで喋るのは主に私だけ、美鈴は静観を貫くこと。そして、咲夜が昨日神秘部にいたことを知らなかったふりをすることである。いや、それだけじゃない。咲夜が不死鳥の騎士団に入っていたことすら知らなかったことにした方がよいだろう。

 ダンブルドアは覚悟を決めたように目を伏せると、校長室にテーブルとソファーを出現させた。

 

「こうなってしまっては一から説明するしかないじゃろう。納得して頂けるかは分からない。」

 

 私は現れたソファーにどっかりと腰かける。美鈴はダンブルドアとマクゴナガルに手の届く位置に立った。そしてそのまま手を後ろで組む。

 

「……美鈴さんもお掛けになったらどうじゃ?」

 

 ダンブルドアはその意図を読んだのだろう。美鈴に座るように促す。だが、美鈴は全く表情を変えずに淡々と答えた。

 

「いえ。」

 

 そう、美鈴はそうやって横で無言の圧力を与えておけばいいのだ。ダンブルドアが杖を抜くより、美鈴がダンブルドアの頭を吹き飛ばすほうが早いだろう。

 

「さて、何処から話したものか……。」

 

 ダンブルドアは去年ヴォルデモートが復活した頃から話を始める。咲夜が不死鳥の騎士団に入ることになったきっかけや、その後の任務、そして昨日起こった神秘部での戦いでの話だ。私は腕を組んでダンブルドアが話し終わるのを待った。もっとも、全て知っている話ではある。

 

「つまりはこういうことかしら? 咲夜は私の為にヴォルデモートと敵対し、私の為に死んだと。で、死因はアーチ。」

 

「その通りじゃ。」

 

 私は三十分にわたるダンブルドアの説明を簡潔にまとめる。……ここは常識人を演じたほうがよいだろう。

 

「馬鹿にしているの?」

 

 私は鋭くダンブルドアを睨みつけた。

 

「貴方は実力があれば十代の子供すら戦争に駆り出すの? 生徒を守るのが教員の仕事なのではなくて?」

 

「もっともな話じゃ。」

 

 ダンブルドアが頭を下げた瞬間、美鈴の拳が物凄い速度で私の顔面目掛けて飛んできた。私は左手で拳を受け止め、強引に捻る。鈍い音がして、美鈴の手首が外れた。

 ダンブルドアは殺気を感じ取ったのか、咄嗟に杖を構える。マクゴナガルはダンブルドアが杖を構えたのを見て驚き、その後ようやくこちらの状況に気が付いた。傍から見たら、美鈴がダンブルドアを襲おうとしたところを私が止めたように見えるだろうが、そうではない。こいつ、本気で私を殴りに来やがった。

 

「美鈴、駄目よ。」

 

「申し訳ありません。」

 

 美鈴が謝ったのを聞いて、私は美鈴の右手を自由にする。美鈴は軽く手首を回して脱臼を直した。多分美鈴は私の物言いが許せなかったのだろう。十代の子供を戦争に駆り立てたのはダンブルドアではない。私だ。

 不死鳥の騎士団に関しても、ダンブルドアの常識を崩すために私があれこれ策を打った。美鈴からしたら咲夜を殺したのはダンブルドアではない。私なのだ。

 

「部下の非礼を詫びるわ。」

 

 取りあえず先ほどのはダンブルドアへの攻撃だったことにしておこう。そのほうが都合がよさそうだ。私は杖を仕舞い直しているダンブルドアに向けて冷たく言い放った。

 

「咲夜を拾ってきて育てたのは美鈴なのよ。」

 

 ダンブルドアとマクゴナガルはそれを聞いて、表情を凍り付かせる。取りあえず、美鈴も限界のようだし憂さ晴らしはこの辺にしておこう。

 

「話を聞く限り、そっちもゴタゴタとしているようだし、今日のところは帰るわ。美鈴も何か思うところがあるみたいだしね。」

 

 それは主に私に対してだが。まあ何にしてもさっさとパチェと合流しよう。私はソファーから立ち上がると出口に向けて歩き出す。そうだ、後日話をする約束を取り付けておかなければ。

 

「それに、私の理性もいつまで持つか分からないし……後日、ゆっくり話し合いましょう?」

 

 私は床に転がっているドアノブを拾い上げると、思いっきり握りつぶす。そしてそのまま校長室を後にした。ホグワーツの廊下を歩きながら、私は美鈴に声を掛ける。

 

「何か言いたいことがあるのよね。というか私に対して文句しかないと言った表情じゃない。大丈夫よ。私も私をぶん殴りたい気持ちで一杯だから。自分の不甲斐なさに吐き気がするわ。まだ小さい咲夜を私の目の届かないところで仕事をさせるべきではなかった。」

 

 これは反省しないとならないだろう。次の瞬間、私の顔面に衝撃が走った。美鈴が私の顔を殴りつけたのだ。体重差があるためか、私の体は少し浮く。私はなんとかその場に踏みとどまった。

 

「なんで……なんでそんなに淡々と話せるんですか。咲夜が死んだんですよ!? もう帰ってこないんですよ!?」

 

 美鈴は力み過ぎて握りしめた拳から血が滴っていた。手の甲についている血は私のものだろうか。私は顔についた傷を瞬時に治す。

 

「冷静なわけないじゃない。物凄く混乱しているわ。それと同時に、期待もしている。私の友人にね。」

 

 私がそう言った瞬間、私たちの目の前にパチェが現れたかと思ったら、私たちはホグワーツから魔法省に移動していた。目の前には石で出来たアーチが鎮座している。どうやら神秘部の一室の様だった。

 

「美鈴、落ち着きなさい。落ち着いて私の話を聞きなさい。いいわね?」

 

 パチェは美鈴をじっと見ると、そっと手を握る。その姿はまるで娘を落ち着かせる母親のようであった。ああそうか。パチェも一応は人間だったのだ。

 

「結論から言うわ。咲夜は帰ってくる。いや、帰ってこれる。」

 

 パチェの言葉に美鈴は目を見開く。私は半ば予想していたことではあったが、それでもほっと安堵のため息をついてしまった。私が咲夜が帰ってこれると考えていた理由はただ一つ。小悪魔が回収した蘇りの石が手元にあることである。

 

「少し調べた結果、この石のアーチは天国に繋がっている可能性が高いことが判明したわ。元々はあの世とこの世を行き来するために作られた物のようね。でも向こう側から閉じられている。」

 

「つまりはどういうことですか?」

 

 美鈴がそっとパチェを持ち上げた。いや、何故持ち上げたんだこいつ。パチェはそれを意にも返さずに淡々と言った。

 

「つまり向こう側の封印を強引にこじ開けて、尚且つ蘇りの石でこちらに引っ張れば帰ってくることが出来るかもということよ。多分だけど、蘇りの石だけで呼び戻ると、肉体が付いてこない。入れ物を新たに作るならそれでもいいのだけれど、そういうわけにもいかないでしょう?」

 

「つまり、咲夜は帰ってこれるということですね。」

 

 美鈴はパチェをぎゅっと抱きしめると、クルクルと回り出す。パチェはダルそうな目で回されていた。

 

「分霊箱を悪魔に転生させるような荒事をやってのけた後よ。死んだ人間を生き返らせるぐらいわけないわ。」

 

「パチェ! 貴方って本当に最高よ!」

 

 回されているパチェに私は抱きついた。そのまま三人でグルグル回る。

 

「あの、準備を進めたいんだけど。」

 

 パチェは軽く抗議を入れると、アーチの前に瞬間移動する。石のアーチに軽く触れ、本に何かを書き留めた。

 

「取りあえず、準備に数日掛かるわ。全ての準備が整ったら、全員でここに来ましょう。」

 

 パチェは私をまっすぐと見る。私は小さく頷いた。次の瞬間、いつの間にか私たちは大図書館の机に座っていた。どうやらパチェが魔法で何かをしたようである。

 

「数日……わかったわ。数日ね。私はそれまでに計画の修正案を考えるわ。パチェはクィレルのフォローを小悪魔に任せて咲夜の件に集中して。美鈴は紅魔館の家事の他に侵入者がいないかどうか警戒して頂戴。まあ侵入者というよりかは、ダンブルドアが訪ねてこないか警戒しろということだけど。」

 

 咲夜がどうにかなることが分かったのなら、ここで立ち止まるわけには行かない。死喰い人が動いたことで、ファッジが辞任に追い込まれるだろう。クィレルを魔法大臣にする大チャンスだ。このような情勢で魔法大臣をやりたがるやつなんて殆どいないだろうし、競争率は低いだろう。

 

「ここが正念場よ。みんな、気合を入れなさい。」

 

 私は一通り指示を飛ばすと大図書館を後にする。取りあえず咲夜が死んだことによって計画にいくつか修正を加えないとならないだろう。私は書斎に入り机の前に座る。

 

「……咲夜はもう不死鳥の騎士団には関わらせない方がいいかもね。私が思っていた以上にあの子は未熟だった。来年は学校には通わせず、紅魔館で仕事をさせましょう。」

 

 過保護だと言われるかも知れない。だが、実際に咲夜は死んだのだ。時間停止というアドバンテージを持っていて、死んだのである。やはりあの子もまだ十五歳の子供だったということだ。

 

「まあ、子供に戦争させるというのは、やっぱり無理があったのかもねぇ。それに美鈴が私を殴ったのって、初めて会ったあの日以来じゃないかしら。」

 

 私を殴ったところで、身体に傷は残らない。だが、美鈴としても私を傷つけるために殴ったわけではないだろう。私は美鈴に殴られた場所をそっと撫でる。

 

「なんででしょうね。少し悲しいわ。それだけ、美鈴は咲夜のことを大事に思っていた。でも、それじゃあ私は? 私は咲夜のことをどう思っていたのかしら……。」

 

 私は机の上に羊皮紙と万年筆を取り出す。少なからず計画を変更することになるだろう。私はパチェの魔法の腕を信じながら万年筆を滑らせた。




ホグワーツ新学期が始まる

クィレルがヴォルデモートに作戦を提案

ハリーがリータからインタビューを受ける

ハッフルパフ対グリフィンドール。咲夜初ビーター。相手チームをブラッジャーで全滅させる

クィブラー三月号にハリーのインタビューが掲載される

ホグワーツでクィブラーが必読書に認定させる

トレローニー解雇

ケンタウルスが占い学の教師になる

DAの活動がファッジにバレ、ダンブルドアが罪を被って逃走

アンブリッジがホグワーツの校長になる

咲夜がアンブリッジと破れぬ誓いを結び、校長補佐官になる

フレッド、ジョージがホグワーツを飛び出す

クィレルが開心術士の前で真実薬を飲んで証言

レイブンクロー対グリフィンドール

ふくろう試験

ハリーが魔法省に向かおうとする

アンブリッジが肉塊になる

ハリーたちがDAの仲間を連れて魔法省に乗り込む

咲夜とクィレルが接触

クィレルが魔法省役員と接触

神秘部での戦い。咲夜が戦死する

魔法省がヴォルデモートの復活を認める

レミリアがホグワーツに殴りこむ

咲夜が助かると分かる←今ここ

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