紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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1981年十一月 とある小屋にて


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「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ――ッ!!」

 

 悲鳴が響く。

 

「も、もう、ころ……ころし、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 重なり合う二つの悲鳴が非常に心地いい。

 

「やめ、もうやめて……あぐっががあああ……」

 

 その心に既に怒りはない。唯々自分の不運を嘆き、悲しむのみ。

 部屋の中には、四人の男女がいた。そのうち二人は、杖を持って笑っている。あとの二人は手に釘を打たれ、十字架に磔にされていた。

 

「いい加減口を割ったらどうだい? 私たちだって疲れるんだ。魔力だって無尽蔵に沸いているわけじゃない。……クルーシオ!」

 

 杖を持った女が磔にされている女に魔法を掛ける。その瞬間、電気でも流したかのように、磔にされた女が痙攣した。まるで全身に刃物を突き立てられているかのように。まるで全身に濃硫酸を浴びたかのように。

 

「騎士団のアジトは何処だ?」

 

 杖を持った男が磔にされている男性の腹を蹴って叫ぶ。杖を頭に突きつけ、何度か押し込んだ。

 

「おい、我が主から肉体的に傷をつけるなと言われているだろう。」

 

 女が男に言う。男は、女を睨んだ後、磔にされている男に魔法を掛けた。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 その途端に壊れたラジオのように磔にされた男が叫び出す。まるで一度に全ての歯を引き抜かれたように。

 

「夫婦揃って丈夫なことで。おい、飯にするぞ。」

 

 男は肩を竦めると、女の背中を叩き、部屋を出ていく。部屋には磔にされた男女が残された。

 それから暫く、会話はない。唯々、荒い息の音だけが部屋を満たす。

 

「なぁ……いき、てるよな……。」

 

 不意に、男が囁いた。女は力なく頷く。

 

「……捕まってから七日、そろそろ……助けが来てもいい頃だ。」

 

「こないわ。来るはずがない……。」

 

 女は、何処までもこの状況に絶望しているようだった。何度も何度も磔の呪文を掛けられ、既に限界が近いのだろう。

 

「……おかしいわよね。じ……自分の意思じゃ、ないの。なのに、殺してなんて叫んじゃう。死にたいはずがないのに。……このままじゃ、いつ情報を漏らしてしまうか。」

 

 ならば自殺すればいいだろうと私なら言うのだが、この状況でそれも酷だろう。何せ、この状況で自殺しようとしたら舌を噛み切って窒息死するしかない。

 

「気をしっかり持つんだ。きっと助けは来る。」

 

 男は、励ますように小声で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一か月後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだが、反応が薄くなってきたな。衰弱してきたか?」

 

 杖を持った男が磔にされている女に水を叩きつける。部屋には、磔にされている男の姿はなかった。話しているところを目撃され、男のほうは何処かに引きずられていったのだ。磔にされている女は知らないことだが、男は別の部屋で同じような拷問を受けている。

 

「さっさと吐いて楽になっちまえ。じゃないと、あの男のようになってしまうぜ? そうだ、キスさせてやるよ。」

 

 ちょっと待ってろと、杖を持った男は部屋を出ていく。数分後、何か丸いものを持って部屋に戻ってきた。磔にされた女はその丸いものを力なく見つめる。

 

「ほら、好きなだけ吸い付け、最後のキスだ。あはははははは!」

 

 杖を持った男はその丸いものを磔にされた女の口に押し付けた。女はそれを見て、目を見開く。その丸いものは自分の夫の生首だった。

 

「――――――ッ!!!??」

 

 地獄のような接吻は一分にわたって行われた。杖を持った男は生首を床に捨てると、力任せに踏みつける。

 

「そうだその目、その目が見たかったんだよ。はは、愉快だ。苦労した甲斐があった。」

 

 女には分からないことだが、その生首は本物ではない。豚の首に変身術を掛けて作った偽物だ。だが、女にそれが分かるはずもない。女は静かに涙を流す。

 

「暫くダーリンとおしゃべりしてな。ここに置いとくぜ。」

 

 男は生首を女の前に置くと、部屋を出ていった。部屋に、女の嗚咽の音が虚しく響く。

 

『悲しそうね。』

 

 その声に反応するように、女は顔を持ち上げた。

 

『だれ?』

 

 もう声を出す力もないのだろう。まあ、私に対し声は必要ない。

 

『私が誰なんて、このさい関係ないわ。私はただ遊びに来ただけ。』

 

 女は力なく顔を伏せた。どうやら、自分は幻聴を聞いているのだと思ったらしい。まあそれならそれでいい。

 

『もう苦しみたくないのね。悲しみたくないのね。生きるのに疲れてる。でも死ぬほどの気力もない。』

 

 人を一人殺すというのは、それなりに力がいる。女には、それを行う力すら残っていなかった。

 

『そうだ。私が壊してあげましょうか。壊れてしまえば、貴方はもう苦しむことはない。悲しむことはない。』

 

 その言葉に、女が顔を上げる。

 

「たすけて……たすけて……。」

 

『ええ、助けてあげる。』

 

 私は静かに手を握る。そしてぎゅっと握りしめ、そこにある女の心を破壊した。ついでに男の方も心を壊す。夫婦揃って、苦しみから解放されたのだ。

 

『じゃあね。楽しかったわ。』

 

 私はアリス・ロングボトムの精神から、立ち去った。

 

 

 

 

 

 それから一週間後、ロングボトム夫妻は闇祓いによって救出される。二人は治療の為聖マンゴに入院し、二度と生きてそこから出ることはなかった。




なんか妙に頭が痛いので、番外編を。本編もちゃんと書いているのでご安心ください。

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