紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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少し駆け足気味な秘密の部屋編。まあレミリア自身あまり動いていないので勘弁してください。
誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


秘密の部屋やら、バジリスクやら、日記帳やら

 咲夜がホグワーツに出発する日。私は玄関ホールで咲夜の姿を発見した。どうやら、今まさに紅魔館を出るところだったようだ。

 

「咲夜、ホグワーツに向かう前に一言二言言っておくことがあるわ。」

 

 私は急いで声を掛け、咲夜を呼び止める。咲夜は見送りがあると思っていなかったのか少々驚いていた。まあ伝えることがあるのは本当だが。咲夜には目立ってもらわないといけない。それこそハリー・ポッター以上にだ。ダンブルドアに気に入られ、不死鳥の騎士団員になれるように。

 

「命令を下すわ。ホグワーツで『好き放題』やりなさい。別に悪いことをしなさいと言っているわけではないわよ。貴方の思った通りの行動をそのまま実行に移しなさいということ。あれをやったら私に迷惑がかかるとか常識としてあれをやってはいけないとかそんな些細な問題を気にするのは吸血鬼の従者にはふさわしくないわ。必要だと感じたら人を殺しても構わない。必要だと感じたら人を助けても構わない。」

 

 まあ、去年の咲夜の行動を見る限りでは、こう言ってもそこまでアレな行動は取らないだろう。咲夜は理由なく何か問題を起こすことはない。

 

「ようは何が言いたいかというとだけどね、良くも悪くも人の視線を引き付けるような行動をしろということよ。貴方の好き勝手にね。」

 

 私としても、咲夜にはもう少しのびのびと学校生活を送ってほしいとも思っている。私はドヤ顔でセリフを言い切ったが、咲夜のあの顔を見るに、あまり意味を理解していないだろう。まあ言葉通りに受け取ってくれたらそれでいい。

 

「運命が私に囁いているわ。秘密の部屋が開かれると。さあ行きなさい。私の可愛い従者。」

 

「行ってまいります。お嬢様。」

 

 咲夜は私に対し深々とお辞儀をすると、そっと玄関の扉を開け、紅魔館を出ていった。

 

「……寂しくなるわね。」

 

 私は一人ぽつりと呟くと、書斎に上がった。

 

 

 

 

 

 ハロウィーンが過ぎ少し経ったある日、私の元に一通の手紙が届いた。手紙の送り主はルシウスだ。ホグワーツの便箋を使っているところを見るに、ホグワーツの理事という立場で手紙を出してきたらしい。私は机の上で封蝋を破り、手紙を取り出す。そこにはホグワーツで生徒が何者かに襲われたということが書かれていた。

 まあ、それだけなら私に手紙を送ってきた意味が分からないが、本題はそこではない。ルシウスとしてはこれをダンブルドアの無能が生み出した結果ということにしたいらしい。手紙を読み込むと、随所に秘密の部屋という言葉が出てくる。秘密の部屋……パチェなら何か知っているだろうか。私は机の隅に置いてあった魔法具に魔力を籠め、大図書館と繋げた。

 

「パチェ、秘密の部屋って知ってる?」

 

『なによ唐突に……、まあ知ってるけど。』

 

 流石はパチェ、知識人だ。引きこもりのくせに。

 

『……。秘密の部屋って言うのは大昔、サラザール・スリザリンが生きていた頃に作られたホグワーツの隠し部屋よ。ホグワーツ創設者の話は知ってるわよね? 四人の創設者のうちの一人、スリザリンがグリフィンドールと喧嘩し、ホグワーツを出ていった際に作られた部屋で、スリザリンの後継者しか開けることができないと言われているわ。』

 

「して、その実態は? どうせ学生の頃に調査してるんでしょ?」

 

『知らないわ。』

 

 ……え?

 

「ごめん、聞こえなかったわ。今なんて?」

 

『だから、知らないわ。興味ないもの。それに、中にはスリザリンの怪物がいるって話だし。そんな危ない部屋に好き好んで入る人なんていないでしょ。』

 

 まあ、それはもっともなのだが。だがそれでは話が終わってしまう。

 

「じゃあそのスリザリンの怪物については何か知らない? 今年のホグワーツで生徒が一人襲われたそうなのよ。その秘密の部屋の怪物ってやつに。」

 

『ちょっと待って。それって秘密の部屋が開かれたってこと?』

 

 私がそう言った途端にパチェが食いついた。

 

「ええ、しかも五十年ぶりだって。結構なあいだ開いてなかったのね。その怪物とやらは餓死しないのかしら。」

 

『いや、そんなポコポコ開くものでもないから。少なくとも、私が卒業するまで秘密の部屋は一度も開かれていないわ。多分その五十年前というのが初めて秘密の部屋が開かれた時で、今回が二回目。』

 

「五十年……同一人物が開けた可能性もあるわね。一回目に秘密の部屋が開かれた時の情報とかない?」

 

 一番初めに開けた人物が分かれば、今回の犯人の目星もつくかもしれない。五分ほど時間が経ち、パチェの返答がきた。

 

『当時の新聞を調べる限りでは、一度目に秘密の部屋を開いたのはハグリッドね。もっとも、実際に名前が書かれているわけじゃないけど。年代とハグリッドの年齢、それにハグリッドが退学した時期を考慮するとそれが一番自然よ。その時は女子生徒が一人死んだみたい。』

 

 またハグリッドか。本当に話題に事欠かない男である。ホグワーツのネタ要員の一人だ。もちろん、ネタ要員筆頭はダンブルドアだが。

 

『レミィ、勘違いしてはダメよ。これはあくまで『表向き』はそうなっているという話で。私の予想では、一回目に秘密の部屋を開けたのはハグリッドじゃなくてリドルよ。』

 

「それまたどうして? まあそっちの方が自然ではあるけど。」

 

 確かにのちにヴォルデモートとなるリドルなら、秘密の部屋ぐらい開けるだろう。むしろ開けないほうが違和感が残るぐらいだ。

 

『ハグリッドが部屋を開けたってことを突き止めたのはリドルなのよ。リドルはそれでホグワーツから特別功労賞を貰っているわ。もっとも、これは表には出てこない情報だけど。』

 

「じゃあなんでそんなこと知ってるのよ。」

 

『魔法省の古いデータベースにあったわ。なんにしても、リドルは将来闇の帝王なんて呼ばれて、しかもスリザリンで、しかもパーセルマウスで、しかも秘密の部屋を開けた生徒を捕まえた。状況証拠だけで真っ黒よ。』

 

 ふむ、ならば今回、もしかしたらヴォルデモートが絡んでいる可能性もあるわけだ。

 

『まあ、五十年前に部屋を開けたのがリドルなら今部屋を開けたのはヴォルデモートね。そういえばレミィ。貴方ハリー・ポッターの中にヴォルデモートの魂のかけらを感じたらしいじゃない。案外ハリーが開けたのかもしれないわよ。』

 

「なんというか、一番ありえなさそうでありえそうね。」

 

『今回も一人生徒が死んだってことよね。五十年前は閉校一歩手前だったみたいだし。被害が広がるようなら閉校もあるかもね。そしたら咲夜が帰ってくることになるけど……。』

 

「いや、今回はまだ誰も死んでいないわ。猫が一匹と、生徒が一人石になっただけよ。」

 

 私がそう伝えると本のページを捲るような音が聞こえてくる。

 

『なるほど、秘密の部屋にいるっていう怪物はバジリスクね。バジリスクの目を見たものは死に至るわ。』

 

「でも、今回は石になっただけよ?」

 

『間接的に目を見ると死には至らないけど、身体が石になるの。』

 

「今回石になったという情報で、化け物が絞れたわけね。バジリスク……巨大な蛇、ね。確かにスリザリンの怪物にはぴったりだわ。」

 

 取りあえずルシウスには当たり障りのない返事をしておこう。私はパチェにお礼を言うと魔法具を切る。そして手紙の返信を書き始めた。

 

 

 

 

 

 1992年、12月。私はクリスマスパーティーの準備を進めながら、同時に戦争を起こす準備も進めていた。私が今目を付けているのはシリウス・ブラックだ。ブラックはポッター家を裏切り、大量殺人を行ったとしてアズカバンに入れられている。私が気になるのはブラックがどういう立場にあるかだ。まず一つ考えられる可能性としては、ブラックは元々死喰い人で、スパイとして不死鳥の騎士団に潜伏していた。二つ目に元々は不死鳥の騎士団員だったが、途中で裏切り死喰い人になった。三つ目に元々死喰い人で、冤罪を掛けられアズカバンに入れられた。

 この中で一番可能性があるのは二つ目の奴だ。ブラック家は代々スリザリンの家系だが、シリウス・ブラックはグリフィンドールに入った。それに小さい頃からジェームズとは親友である。元々死喰い人だったという可能性は少ないだろう。ジェームズとの間に何かが起こり、仲違い。色々あって死喰い人に……一番考えられるとしても違和感は残る。

 まあ何にしても本人に直接聞くのが一番早いだろう。今年の冬、咲夜がホグワーツから帰ってきたらアズカバンに向かってもらおう。咲夜の時間停止能力を駆使すれば、アズカバンから囚人を一人脱獄させるなど容易いことだ。

 私がそんな感じで頭を働かせていると、扉の隙間から紫色の煙が部屋の中に漏れて入ってきた。私はそれを見た瞬間に息を止め、地下に急ぐ。廊下には煙が充満しており、煙の流れを見る限りでは地下から漏れているようである。私は妖精メイドが倒れ伏している廊下を急ぎ足で移動し、大図書館に踏み入る。そこには粉々になった机と、床に倒れ伏しているパチェの姿があった。私は急いでパチェを抱え起こす。パチェはゆっくり起き上がると粉々になった机を修復した。

 

「あ、息をしても大丈夫よ。このガスは人間には猛毒だけど、他の生物にはまったくの無害だから。」

 

「そうなの? でも廊下で妖精メイドが倒れ伏してたわよ?」

 

 私はここまでの道中を思い出す。紫の煙で視界は悪かったが、流石に床に倒れている妖精メイドは見えた。パチェは眉を顰めると大図書館を出ていく。そして妖精メイドを一人大図書館に引っ張ってきた。

 

「寝てるわ。これは予想でしかないけど、煙が見えて息を止めていたら止めすぎて気を失った。こんなところでしょうね。」

 

「なんでもいいわ。さっさとこの煙をどうにかしなさい。というか、どうしてこうなったのよ。」

 

 私がそう言うとパチェは恥ずかしそうに両手で顔を隠す。そして消え入りそうな声で言った。

 

「……いした。」

 

「え?」

 

「魔法薬の調合で失敗したの。まさか失敗するとは思ってなかったからまだ心臓がバクバクいってるわ。」

 

「珍しいわね。パチェがそういうので失敗するなんて。で、さっさと煙を消しなさいよ。」

 

「無理よ。」

 

 ……え? ダメだな。最近耳が遠くなった気がする。

 

「無理ってことはないでしょうよ。貴方はパチェなのよ? というか、人間にとって猛毒ならクリスマスパーティーどころか咲夜もホグワーツから帰ってこれないじゃない。」

 

「そうなのよねぇ……これは少しでも吸い込むと即死するし……抜け切るまで一か月は掛かるかしら。」

 

 一か月。完全にクリスマスパーティーは中止だ。そして、咲夜も帰ってこれない。

 

「ほんとに消すことができないの?」

 

「紅魔館中の空気を一気に消失させたらいけるかもしれないけど、外圧でぺしゃんこになる可能性があるわ。それに本当はあまり外に漏らしたくないし。煙が毒性を失うまでが一か月なのよ。万が一森の外に漏れて付近の人間が大量に死んだりしたら……まああまり困りはしないんだけど、でもなんか、ね?」

 

 後半ぼんやりとした表現が多かったが、要約すると自分の失敗で被害が出ると失敗の規模が大きくなるから自分の面子の為にもこれ以上被害を大きくしたくない。そういう意味だろう。

 

「なんにしても、クリスマスパーティー中止のお知らせは私が出しておくから、パチェは咲夜に連絡しておきなさい。クリスマスは帰ってきたらダメだって。」

 

 そういえば、他に咲夜に伝えることがあったんだった。

 

「あとそれと、守護霊の魔法を練習しておくように伝えておいて。」

 

「パトローナス? なにかやらせる気なの?」

 

 流石パチェ、なかなかに鋭い。

 

「アズカバンに潜入させようと思って。ほら、シリウス・ブラックっているじゃない? アレを脱獄させようと思っているのよ。本当ならクリスマスに帰ってきたときに行ってこさせようと思っていたんだけど。こんなだし……。というわけで来年の夏に行かせることにしたわ。咲夜のことだから多分今のままでも問題ないでしょうけど、時間があるなら一応念のためね。」

 

「そう、わかったわ。」

 

「そういえば、パチェは大丈夫なの? この煙吸って。」

 

 私はさっきから気になっていたことをパチェに聞く。

 

「私はほら、耐性があるから。ゴホゴホッ。」

 

 パチェは苦しそうに咳き込んだ。耐性があるにしても毒は毒なのだろう。忘れがちだが、パチェは一応喘息持ちだ。一度体を捨てた時にだいぶマシにはなったみたいだが。私はパチェに軽く手を振ると、書斎に戻った。

 

 

 

 

 1993年、四月。またルシウスから手紙が届いた。私は書斎の机の上で封蝋を破り、中身を改める。手紙にはスリザリンの怪物にやられた被害者が増えたということと、そのことがきっかけでハグリッドがアズカバンに、ダンブルドアが停職させられることになったという内容が書かれていた。

 ハグリッドがアズカバンに入れられるのはなんとなくわかる。前回秘密の部屋を開けたのは表向きにはハグリッドということになっている。今回もハグリッドが開けたという証拠は何もないが、一応入れとけって感じだろう。

 だが、ダンブルドアが停職というのは意味が分からなかった。理事の間で話し合い、決まったことだとルシウスの手紙には書いてあるが、ルシウスのことだ。マルフォイ家の権力を使って他の理事を黙らせたに決まっている。ルシウスにとってはダンブルドアを引きずり下ろすまたとない機会なのだろう。

 まあ、ダンブルドアがホグワーツに居ながら、被害を食い止められていないところを見ると、実行犯は相当なやり手だ。……まさかとは思うが、秘密の部屋を開けたのは咲夜ではないだろうな。流石にそんなことはしないと思いたいが、目立てと言ったのは私だ。咲夜は教養はあるが常識はない。何かのきっかけで秘密の部屋のことを知り、興味本位で開けた可能性もある。去年、賢者の石を盗んだのも興味本位でだし。

 

「一度こちらから手紙を出すべきだろうか。いやでも流石に過保護過ぎるかしら。」

 

 だが不思議なことがある。ホグワーツでは石になった人間こそいるものの、死んだ人間は一人もいないのだ。全員が全員間接的にバジリスクを見たのだとしたら、相当幸運とも言える。もしこれが偶然ではなく、仕組まれたことだとしたら……相手の意図はなんだろう。

 あまり大きな被害を出したくはないが、問題は起こしたい。もし故意にやっているのだとしたらそういう意図が見て取れる。なんというか、本当に咲夜が実行犯じゃないだろうな。でもバジリスクは蛇だ。咲夜は蛇語は話せなかったはずなので、操っているとしたら服従の呪文を使ってだろう。いやいや、なんで咲夜が秘密の部屋を開けたことが前提になっているんだ。

 

「そもそも咲夜はグリフィンドール生じゃない。スリザリンじゃないわ。……いや、何で咲夜グリフィンドールに入ったのかしら。」

 

 咲夜は別に勇気があるわけじゃない。どちらかと言えば小心者で、慎重派だ。大きな賭けはせず、地道な積み重ねで確実な勝利を狙う。身に着けている便利な能力でゴリ押すことも多い。読書は好きだが勉強は好きではなく、秀才派ではなく天才派だ。言ってしまえば狡猾で、普段は隠しているが、美鈴が持っている残虐性をしっかりと引き継いでいる。というか美鈴も美鈴だ。

 美鈴は今でこそ、その残虐性を隠しているが、私が出会った当初は完全に人喰い妖怪だった。見境なく人を殺し、適当に食い散らかす。まあ下等な妖怪ほどそう言った本能に左右されやすいが、美鈴のそれは完全にそれ以上だった。私が保護して従者として使ってなかったら今頃その筋のプロに殺されているところだろう。

 

「まあ、一番初めに美鈴に会ったときは、まさにそんな感じだったわけだけど。」

 

 あれは何年前だったか、パチェと会う少し前である。私は妖怪退治の依頼を受けたのだ。その対象が美鈴だったのだ。美鈴自身中国の妖怪だが、何かの拍子にイギリスに来てしまったらしい。私が会った頃には英語を普通に話せていたので、結構な間イギリスに潜伏していたみたいだ。まああの頃はイギリスと中国、当時でいう清は貿易関係にあった。その貿易船に紛れていたのだろう。いや、アヘン戦争の時か? なんにしても、その時美鈴を討伐せずに、私の従者にしたのである。

 

「っていうか何考えてるのよ私。滅茶苦茶思考が脱線したわね。」

 

 そう、咲夜は性格だけを見れば完全にスリザリンだ。というかグリフィンドール要素がなさすぎる。スリザリンの継承者だと言われても全く違和感がない。

 私は机の引き出しからレターセットを取り出し、ルシウスに対して返事を書き始める。取りあえず今回も当たり障りのない程度に留めておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 1993年五月末。ホグワーツから手紙が届いた。私は便箋を裏返し、ホグワーツの誰から手紙が届いたのかということを確認する。てっきりルシウスからだと思ったが、手紙の送り主はダンブルドアだった。私は封蝋を破り手紙を取り出す。

 

「えっと、なになに……。」

 

 手紙の内容を簡単に纏めると、咲夜にホグワーツ特別功労賞を授与したというものだった。だが、手紙には肝心の授与理由が書いていない。まあでも、特別功労賞を授与したということは、何かしらの良いことをしたということだろう。特別功労賞とは別に、ホグワーツで起きていた事件が解決したことも書かれていた。まあダンブルドアから手紙が来るということは、ダンブルドアはホグワーツの校長に復職できたということだろう。

 

「咲夜に特別功労賞……ね。なんというか、杞憂だったわ。」

 

 私はパチェにこのことを連絡するとダンブルドアに向けて簡単に返事を書く。詳細は咲夜が帰ってきたときにでも聞けばいいだろう。

 

 

 

 

 

 1993年七月。ついに咲夜が帰ってきた。クリスマスに帰ってこなかったため実に十か月ぶりである。私は早速自室に咲夜を呼んだ。咲夜は慣れた手つきで紅茶を淹れるとティーカップに紅茶を注ぐ。咲夜に聞きたいことは山のようにあるが、まずは紅茶を飲もう。

 

「あら、少し腕が上がったんじゃない? ホグワーツで練習したの?」

 

 私は咲夜のいる方に振り返る。咲夜は照れくさそうに笑っていた。

 

「そうそう、咲夜。ホグワーツで友達は出来た?」

 

 秘密の部屋という本題に触れるのはもう少し後だ。まずは恒例の質問からすることにした。去年のように人間の友達は難しいという答えが返ってくるかと思ったが、そうではないらしい。咲夜はいそいそと一冊の日記帳のような物を取り出す。かなり古い物らしく、表紙はボロボロだ。咲夜はにっこり笑うとその日記帳を紹介した。

 

「はい。トム・リドルさんです。」

 

「ぶほぉっ……!」

 

 予想外の答えに私は紅茶を噴出してしまう。だが次の瞬間には噴出した紅茶は消え去り、元通りに戻っていた。流石咲夜、仕事が早すぎる。って、そうじゃなくて。つまり今咲夜が手に持っている日記帳はリドルの物ということだろうか。

 

「え? マジ!? トムの日記!? ちょっと見せなさい!」

 

 私は手に持っていたティーカップを放り投げると咲夜から日記帳を受け取る。そしてパラパラとページを捲った。

 

「白紙……透明インクね! パチェ! パチェ! ちょっと来なさい!!」

 

 中身を見えなくしているということは、何か恥ずかしいことが書いてあるということである。闇の帝王と呼ばれた男の恥ずかしい話。非常に気になる。私は魔法具を起動させると込み上げてくる笑いを堪えながらパチェを呼んだ。

 

『うるさいわね……どうしたってのよ。』

 

「トムの……トム・リドルの日記帳を手に入れたわ。しかも学生の頃の。」

 

 学生の頃の物と判断したのにはあまり大きな理由はない。ただリドル自身リドルという名前をあまり気に入っていなかった為、ホグワーツとボージン・アンド・バークスにいた頃以外ではヴォルデモートという名を使っていた。

 

『え!? どこで!? なんにしてもすぐに行くわ走っていくわ!』

 

 そう言うが早いかバタバタと廊下を駆けてくる音が聞こえてくる。姿現ししたらいいものを……完全に舞い上がっている。パチェはノックもせずに部屋のドアを開けると私の近くに駆け寄ってきた。

 

「これ、透明インクかしら。真っ白なの。相当見られたくなかったんでしょうね。」

 

 私はパチェに日記帳を手渡す。パチェは私から日記帳を受け取るとページを捲った。

 

「なんにしても中身を読むことが出来れば何でもいいわ。どんな面白いことが書いてあるか気になるし。」

 

 パチェは日記帳に手をかざすと呪文を掛け始める。すると日記帳に文字が浮かび上がってきた。

 

『やめてください。この日記帳には僕の記憶が詰まっているだけです。』

 

 これはどういうことだろうか。まるで日記帳が喋っているようである。パチェはその文字を読んでがっかりしたように肩を落とした。

 

「つまりどういうことなの? これはトムの恥ずかしい日記帳なのでしょう?」

 

 訳が分からず私はパチェに聞く。パチェは私の向かい側の椅子に座ると日記帳を机の上に置いた。

 

「恥ずかしいことが書かれていることは決定事項なのね……これは確かにリドルの日記帳らしいわ。でもリドルときたら自分の記憶をそのまま日記帳に宿したみたいなの。つまり当時の生意気なガキがこの日記帳に宿っているだけよ。」

 

 つまりは、リドルの秘密が書かれているわけではない。人格がそのまま日記帳に詰まっているだけであるということだろう。

 

「な~んだ。つまらん。」

 

 私は椅子に座りなおすと日記帳をつつく。どうやらパチェはこの日記帳に手を加えるつもりらしい。何やらぶつぶつと呪文を呟き日記帳を新品同様な状態にした。

 

「仕上げにこれ。」

 

 パチェは仕上げにと、賢者の石を表紙に埋め込んだ。次の瞬間、咲夜の隣に若い頃のトム・リドルが現れる。

 

「はぁい。トム。といっても、学生だった頃のトムと出会うのは初めてかしら。」

 

 私は片手を上げてリドルに挨拶する。それを見て咲夜は驚いたようだった。

 

「お嬢様はトム・リドルのことをご存じなのですか?」

 

 もちろん知っている。まあこの場合のご存知っていうのは会ったことがあるのかという意味だろうが。

 

「ホグワーツを卒業した後、ボージン・アンド・バークスで働いているときに少し仲良くなったらしい。もっとも、売り手と買い手という関係を出なかったですが。」

 

 私の代わりにリドルが咲夜に答える。え? なんか仲良くない? リドルと咲夜。そういえば咲夜は日記帳のことを友達だといって紹介した。つまりはそういうことなのだろう。リドルは私を見た後、パチェの方を向く。

 

「それにしても、ここにいたのですね。パチュリー・ノーレッジ。噂に聞くように、凄まじい技術と魔力だ。貴方がここに姿を現したということは、僕はもうこの館の外には出れないということでしょうか。」

 

 そういえばパチェはここに隠居しているんだった。只の日記帳と思ってついパチェを呼んでしまったが、失敗だっただろうか。私はパチェの表情を窺うが、パチェは飄々としていた。まあリドルの言う通り、この館から外に出さなければいい話である。それにリドルをここに置くメリットもある。ヴォルデモートとダンブルドアの戦争を操作するにあたり、本人が仲間にいるのは都合がいい。本人が居ればヴォルデモートの行動を読みやすくなる。

 

「貴方なら喋らないと思っていたし、強くは言ってなかったから気が付いていなかったかも知れないけど、実は私はここに匿われているのよ。この紅魔館にね。」

 

 パチェが自分のことを咲夜に説明していた。そういえば咲夜にはパチェのことは説明していなかったか。私は咲夜に説明しようと口を開きかけたが、その前にリドルがパチェの説明を始めた。

 

「パチュリー・ノーレッジさえ自分の陣営に引き込むことが出来れば、それだけで魔法界を掌握することが出来る。それほどの技術と力を持っているのです。彼女は。先ほど無造作に取り出した宝石1つとってもそうだ。今僕の媒介になっている宝石は『賢者の石』と呼ばれる錬金術の最終形です。この日記帳に関しても僕が掛けた魔法を欠片も傷つけずに修復してみせた。既に使う魔法の次元が違う。」

 

「そういうこと。咲夜、ということでパチェがうちにいることは内緒だから。わかったわね?」

 

 何か喋らないと空気になってしまうと感じたため、咲夜に念を押す。咲夜は完全に目を白黒させていたが、やがて諦めたように笑顔になった。

 

「かしこまりました。お嬢様。」

 

 あ、この顔は知っている。何も理解していない顔だ。取りあえず返事しとけといった適当さすら感じる。咲夜の悪い癖だ。取りあえず咲夜から日記帳を預かり、咲夜を一度下がらせる。そして私とパチェ、そしてリドルの三人で向かい合った。

 

「あ、そうだレミィ。一つ有益なことが分かったわよ。」

 

「へぇ、どんな?」

 

 パチェは日記帳を見ながら不敵な笑みを浮かべる。それを見てリドルは不思議そうな顔をした。

 

「それは僕も気になりますね。一体何が分かったんですか?」

 

「自覚がないのかしら。まあ弱点に『ここが弱点です』って書かないものね。……この日記帳、分霊箱よ。」

 

 分霊箱という単語を聞いて、リドルがピクリと反応する。だが私には分霊箱という言葉は分からなかった。

 

「分霊箱って?」

 

 私が質問をするとリドルが答えてくれた。

 

「自分の魂を引き裂き、物体に封じ込める魔法です。分霊箱を作っておけば、例え死の呪文を食らったとしても死にません。肉体を完全に消滅させても、分霊箱側の魂が残っているため復活することができる。」

 

「そう、ヴォルデモートは十一年前、肉体が滅びた。普通ならここで死んでいるところだけど、分霊箱を作っていたから生き残れたのよ。そうじゃなかったら完全に死んでいたでしょうね。」

 

 つまりこの日記帳には少なからずリドルの命が入っているということである。これを壊さない限り、ヴォルデモートは死ぬことがない。

 

「まあ何にしても今決めるべきは貴方の処遇よ、リドル。ここで暮らすか、今すぐ死ぬか。選びなさいな。」

 

 選択肢など与えない。私はリドルを紅魔館で雇うことに決めた。リドル自身パチェ並みに成長に期待が持てるし、何より咲夜の友達だ。暫くパチェの元で修行させれば、十分使える従者になるだろう。それに、どうせ戦争になれば殺すしかないのだ。人材としては申し分ないので、それまで有効活用させていただこう。

 

「そうですね、死にたくはないので暫くここにいることにしましょう。何より、伝説の魔女であるパチュリー・ノーレッジの扱う魔法を近くで見てみたい。」

 

「パチェってほんとに人気よね。ホグワーツ出てからずっと引きこもりやってたのに、なんでそんな噂が立ってるのよ。」

 

「噂は独り歩きするものよ。まあその噂以上には魔法を扱えると自負しているけど。じゃあリドルは暫く私の助手を務めなさい。でもそうすると咲夜の友達を横取りする形になっちゃうわね。……そうだ。」

 

 パチェは日記帳を手に取ると、呪文を掛ける。……見た目は変わっていないようだが、何か変わったのだろうか。

 

「これで今出てきているリドルの実体から日記帳がいくら離れても大丈夫よ。だから本体である日記帳を咲夜が持ち歩いてもリドルの実体自体は大図書館に居れるってわけ。レミィ、日記帳を咲夜に返しておいて。」

 

 パチェは椅子から立ち上がるとリドルの手を引いて家を出ていく。私は自室に一人残された。

 

「なんにしても、面白いぐらい情報が集まるわね。咲夜。」

 

「はい。ここに。」

 

 私が呼んだ瞬間、私の隣に咲夜が現れる。私は咲夜を向かい側に座らせた。

 

「一応事の顛末を聞いておこうと思って。どういった経緯でこの日記帳を手に入れたの?」

 

 私は机の上に置いてある日記帳を咲夜の方に差し出す。咲夜はそれを手に取って軽く撫でた。

 

「去年の夏にホグワーツ特急の中でジニーがこの日記を持っているのに気が付いたんです。あ、ジニーというのは――」

 

「ウィーズリーの一番下ね。そういえばルシウスがジニーの鍋の中に何かを投げ入れているのを去年見たわ。元々はルシウスの持ち物だったということかしら。」

 

「ああそれで。マルフォイ氏、ホグワーツの理事を追われたそうです。」

 

 咲夜からの突然の報告に私は少し驚く。ということは、今回ホグワーツで起きていた事件の黒幕はルシウスだったということか。家にあったら危ない物をウィーズリーに押し付け、あわよくばジニーの件を元にウィーズリーを失脚させる。まあ狙いはそんなところだろう。

 

「それでですね、会話の中でリドルという名前が出た時にジニーが異様な反応をしたので、おかしいなと思い日記帳を調べたらリドルが返事をしたわけです。その時ヴォルデモートという名前がトム・マールヴォロ・リドルのアナグラムだということに気が付きまして。」

 

「へえ、それは初めて知ったわ。アナグラムを用いて名前を付けるなんてリドルも可愛いところあるわね。で、そのあとどうしたの? ジニーから日記帳を奪ったとか?」

 

「いえ、何もしませんでした。特に興味もなかったですし。あ、でも学生時代のヴォルデモート卿には少し興味があったので、また日を改めて話をする機会を作るという約束はしましたが。」

 

 なるほど、咲夜は秘密の部屋を開いていない。咲夜の話から推測するに、ジニーがリドルに操られて部屋を開いたのだろう。

 

「その後、軽く被害者が出まして。リドルは最終的にジニーを生贄に復活しようとしたんですが、ハリーにやられてしまいました。」

 

「でも、日記帳は無事よ?」

 

「日記帳を壊される寸前に時間を止めてすり替えを。それをしたせいでリドルに時間停止の能力がバレてしまいましたが。」

 

「ああ、それで持って帰ってきたのね。で、結局秘密の部屋の怪物の正体は?」

 

「バジリスクでしたよ。それもハリーにあっけなく倒されてしまいましたが。」

 

 なるほど、その話を聞く限り、ハリー・ポッターもそこそこやるらしい。バジリスクといったら大人の魔法使いでも対処することの出来ない、所謂化け物だ。なにせ直接姿を見ることができないため、まともに戦うことすらままならない。

 

「取りあえず、この日記帳は咲夜に返すわ。今まで通り中に書き込めば返事がくるはず。リドルの実体のほうは今頃大図書館でしょうね。会いに行って来たら?」

 

 咲夜は机の上に置いてある日記帳を大事そうに抱えるとパタパタと図書館の方へ駆けていく。まあ近い年代の友達が出来たということがうれしいのだろう。ハリーたちとも仲がいいように見えるが、真に分かり合えることはない。その点リドルと咲夜は本質も似ているし、能力を知っているという気楽さもある。紅魔館でリドルが働きだしたら更に咲夜にとって気を許せる存在になるだろう。それに……。

 

「あわよくば、闇の陣営側の干渉をリドルに任せることが出来たら……咲夜の負担も減るわね。あとはリドルが私に忠誠を誓えるかということだけど。まあ本人次第か。」

 

 今の自尊心の塊のようなヴォルデモートならまだしも、まだ人を尊敬する心を持っていた若いリドルなら可能性はある。特にここにはパチェがいる。私に忠誠を誓うことは無くても、パチェに忠誠を誓うことはあるだろう。あとはリドルが未だに魔法界征服の野望を持っているかというところだが、それもあまり心配していない。私の計画が完璧に遂行されれば、魔法界の体制は変わる。

 

「これからね。まずはブラックから手を付けますか。」

 

 私は引き出しを開けると、シリウス・ブラックに関する資料を取り出した。




咲夜ホグワーツに出発

咲夜、リドルに出会う

秘密の部屋が開かれる

被害者続出

レミリアがルシウスから事件に関する手紙を貰う

ダンブルドア停職、ハグリッドアズカバン

事件解決、ロックハートは聖マンゴへ

咲夜、特別功労賞を貰う

ドビー、フリーになる。ルシウスが理事を追われる

咲夜がリドルを持ち帰る←今ここ

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