終わりの時は、未だ知らず。   作:氷桜

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<9:理解>

ぽつり、ぽつりと雨が降る。

6月の始め、雨季。

梅雨が少しずつやってきて、去っていく季節。

空に掌を広げ、量を確認しながら小さく溜息を吐いた。

 

「一応、傘は持ってきたけど……。」

 

この調子では、帰りに寄ろうと思っていた本屋も厳しそうだ。

とは言え、時間が余っているというのもまた事実。

……何しろ。

本日は委員会活動の為に部活は中止。

だからか、普通の帰宅する気にもなれなかった。

 

「……お、きょー?」

 

「あ、怜さん。」

 

どうしたものか、と考えていれば。

後ろからの声。

振り向いた先には、何故か良くしてくれる先輩。

 

……そう、何故か。

こんな俺を相手に、馬鹿にもせずに。

初心者だと言うのに、根気強く教えてくれた人。

その、片割れ。

 

「どうしたんですか? 竜華さんは?」

 

「竜華は……ちょっと、アレや。」

 

「アレ……?」

 

「男女が別れてて……こー、流す的な。」

 

……ああ、トイレですか。

確かに口に出させることではなかった、反省しよう。

 

「ってことは、さっきまで一緒だったと。」

 

「せやなぁ。 きょーは?」

 

「雨降ってるんで、帰りどうしたものかなー、と。」

 

「あー。」

 

それだけで、空を見つめる。

雲は薄いグレー。

其処まで本降りになるとは思えないけど。

さりとて、濡れるかもしれないという中途半端な雨。

 

「なぁ、きょー。」

 

「何です?」

 

「あんな、変なこと聞くようやけど。」

 

雨だからか。

それとも、単純に気が向いたからなのか。

目線を此方に向けないままに。

彼女は、口を開いた。

 

「私と、竜華。 どっちが好き?」

 

「……え?」

 

思わず、彼女の方を向いた。

 

「深く考えなくてえーんよ?」

 

何となく聞いてみたくなったんやから。

そう、呟きを付け加えながら。

目線は、合わない。

 

「恋愛的な意味ですか?」

 

「友情的でもえーよ?」

 

何を考えているのか、分からない。

何を思っているのかが、分からない。

ただ。

その言葉は、強い思いが込められている気がして。

 

「……すいません。」

 

二人共、ですかね。

そう、呟き返した。

 

「どっち、も?」

 

「恋愛としても、友情としてもですけど。」

 

一呼吸、置いた。

 

「二人を、比べたくないです。」

 

「……それ、意味分かってゆーとる?」

 

「……はい、多分。」

 

何方も、取る。

何方も、選べない。

友情ならば、まだ分かる。

恋愛で、選べない。

優柔不断。

決められない。

それが、どういう意味なのかは。

フィクション、ノンフィクション。

共に接してきていれば――――分からざるを、得ない。

 

「……案外、そういうの苦手?」

 

「というか、考えたこともありませんでした。」

 

恋愛的な意味合いで、好意を抱く。

……二人に対して、好意を抱いているのは間違いない。

ただ、それが。

友情として、なのか。

恋愛として、なのか。

それが、分からない。

 

……ざあざあ、と雨は降る。

二人の間の、沈黙を隠すように。

 

――――壁の後ろの、一人の。

存在を、隠すように。

 




本年の投下は以上です。
来年もよろしくお願いします。

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