ぽつり、ぽつりと雨が降る。
6月の始め、雨季。
梅雨が少しずつやってきて、去っていく季節。
空に掌を広げ、量を確認しながら小さく溜息を吐いた。
「一応、傘は持ってきたけど……。」
この調子では、帰りに寄ろうと思っていた本屋も厳しそうだ。
とは言え、時間が余っているというのもまた事実。
……何しろ。
本日は委員会活動の為に部活は中止。
だからか、普通の帰宅する気にもなれなかった。
「……お、きょー?」
「あ、怜さん。」
どうしたものか、と考えていれば。
後ろからの声。
振り向いた先には、何故か良くしてくれる先輩。
……そう、何故か。
こんな俺を相手に、馬鹿にもせずに。
初心者だと言うのに、根気強く教えてくれた人。
その、片割れ。
「どうしたんですか? 竜華さんは?」
「竜華は……ちょっと、アレや。」
「アレ……?」
「男女が別れてて……こー、流す的な。」
……ああ、トイレですか。
確かに口に出させることではなかった、反省しよう。
「ってことは、さっきまで一緒だったと。」
「せやなぁ。 きょーは?」
「雨降ってるんで、帰りどうしたものかなー、と。」
「あー。」
それだけで、空を見つめる。
雲は薄いグレー。
其処まで本降りになるとは思えないけど。
さりとて、濡れるかもしれないという中途半端な雨。
「なぁ、きょー。」
「何です?」
「あんな、変なこと聞くようやけど。」
雨だからか。
それとも、単純に気が向いたからなのか。
目線を此方に向けないままに。
彼女は、口を開いた。
「私と、竜華。 どっちが好き?」
「……え?」
思わず、彼女の方を向いた。
「深く考えなくてえーんよ?」
何となく聞いてみたくなったんやから。
そう、呟きを付け加えながら。
目線は、合わない。
「恋愛的な意味ですか?」
「友情的でもえーよ?」
何を考えているのか、分からない。
何を思っているのかが、分からない。
ただ。
その言葉は、強い思いが込められている気がして。
「……すいません。」
二人共、ですかね。
そう、呟き返した。
「どっち、も?」
「恋愛としても、友情としてもですけど。」
一呼吸、置いた。
「二人を、比べたくないです。」
「……それ、意味分かってゆーとる?」
「……はい、多分。」
何方も、取る。
何方も、選べない。
友情ならば、まだ分かる。
恋愛で、選べない。
優柔不断。
決められない。
それが、どういう意味なのかは。
フィクション、ノンフィクション。
共に接してきていれば――――分からざるを、得ない。
「……案外、そういうの苦手?」
「というか、考えたこともありませんでした。」
恋愛的な意味合いで、好意を抱く。
……二人に対して、好意を抱いているのは間違いない。
ただ、それが。
友情として、なのか。
恋愛として、なのか。
それが、分からない。
……ざあざあ、と雨は降る。
二人の間の、沈黙を隠すように。
――――壁の後ろの、一人の。
存在を、隠すように。
本年の投下は以上です。
来年もよろしくお願いします。