終わりの時は、未だ知らず。   作:氷桜

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<8:少女たち>

<Side:怜>

 

――――何故だろう。

彼に、気を引かれるのは。

 

――――何故だろう。

彼といると、気が安らぐのは。

 

「……良し、片付け終了!」

 

「お疲れ様。 いつもご苦労さん。」

 

「お茶用意しといたで。」

 

「あ、すいません……ありがとうございます。」

 

6月の初め。

部活動、麻雀部の活動も段々と活性化してくる。

竜華は、元から一軍のエース。

私は、三軍から特別に上がった特殊な枠。

 

……上げて貰えたのは。

死にかけたからだ、と。

分かってはいるけれど――――自分に対する、冷たい感情が先に立つ。

「偶然能力を得ただけ。」

「何もなければ三軍でずっと。」

自分を責める言葉なら、幾らでも浮かんでくるのに。

 

「しかし、大分強くなったねぇ。 京太郎くん。」

 

「いえいえ……全然です、まだ捨て牌とか読み切れませんし。」

 

「そんなん、私でも出来へんことやんか。」

 

「怜はもう少し読もうや。」

 

彼は、自分に出来ることを積み重ねている。

ほんの少し前まで、ルールすら理解していなかったのに。

相手の手を読むように、少しだけ先を行く。

そんな、鳴き手を得意として。

弱く見積もっても、二軍の中堅程度の実力は身に付けたと思う。

私と、違って。

自分の、実力で。

 

「しゃーないやんか、竜華。」

 

「しゃーないで済まへんのよ?」

 

「まあまあ、お二人共。」

 

こうして、動けないなりに。

簡単な掃除すら率先して行うことで。

最初は偏見の目で見ていた部員たちも、信頼し始めていると思う。

少しずつ、少しずつ。

彼は、馴染んでいく。

 

「? どうかしました、怜さん。」

 

「……ううん。」

 

ずきん。

 

「何でもないからヘーキ。」

 

何故だろう。

心が、痛むのは。

何故だろう。

離れていくのに、痛みを覚えるのは。

 

 

<Side:竜華>

 

 

――――何故だろう。

彼に、安心感を覚えるのは。

 

――――何故だろう。

彼といると、心が弾むのは。

 

「……良し、片付け終了!」

 

「お疲れ様。 いつもご苦労さん。」

 

「お茶用意しといたで。」

 

「あ、すいません……ありがとうございます。」

 

こうして、怜とウチと、京太郎君。

三人で、部活後の時間を過ごすのも随分と慣れた。

ある意味では、私的利用だけど。

顧問の先生も、黙認してくれている行為。

 

「しかし、大分強くなったねぇ。 京太郎くん。」

 

「いえいえ……全然です、まだ捨て牌とか読み切れませんし。」

 

「そんなん、私でも出来へんことやんか。」

 

「怜はもう少し読もうや。」

 

なのに。

なんで、だろうか。

三人でいること。

それは、とても楽しいはずなのに。

時折、

二人なら、と思ってしまうのは。

 

「しゃーないやんか、竜華。」

 

「しゃーないで済まへんのよ?」

 

「まあまあ、お二人共。」

 

こうして、宥める顔。

こうして、楽しそうに笑う顔。

その2つの顔が、並んでいるはずなのに。

一緒にいて、とても楽しいはずなのに。

……いや、何となく。

理解は、している。

ただ、嫌だ。

それを、認めてしまえば。

 

「? どうかしました、怜さん。」

 

「……ううん。」

 

決定的に、何かが別れてしまう気がするから。

 

「何でもないからヘーキ。」

 

だから、ウチは笑顔の仮面の下に。

そんな、黒い感情を隠す。

願わくば。

……ずっと、三人で。

――――叶うんだったら。

ウチは。 何だって、捧げるから。

 




若干病みスタート。

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