<Side:怜>
――――何故だろう。
彼に、気を引かれるのは。
――――何故だろう。
彼といると、気が安らぐのは。
「……良し、片付け終了!」
「お疲れ様。 いつもご苦労さん。」
「お茶用意しといたで。」
「あ、すいません……ありがとうございます。」
6月の初め。
部活動、麻雀部の活動も段々と活性化してくる。
竜華は、元から一軍のエース。
私は、三軍から特別に上がった特殊な枠。
……上げて貰えたのは。
死にかけたからだ、と。
分かってはいるけれど――――自分に対する、冷たい感情が先に立つ。
「偶然能力を得ただけ。」
「何もなければ三軍でずっと。」
自分を責める言葉なら、幾らでも浮かんでくるのに。
「しかし、大分強くなったねぇ。 京太郎くん。」
「いえいえ……全然です、まだ捨て牌とか読み切れませんし。」
「そんなん、私でも出来へんことやんか。」
「怜はもう少し読もうや。」
彼は、自分に出来ることを積み重ねている。
ほんの少し前まで、ルールすら理解していなかったのに。
相手の手を読むように、少しだけ先を行く。
そんな、鳴き手を得意として。
弱く見積もっても、二軍の中堅程度の実力は身に付けたと思う。
私と、違って。
自分の、実力で。
「しゃーないやんか、竜華。」
「しゃーないで済まへんのよ?」
「まあまあ、お二人共。」
こうして、動けないなりに。
簡単な掃除すら率先して行うことで。
最初は偏見の目で見ていた部員たちも、信頼し始めていると思う。
少しずつ、少しずつ。
彼は、馴染んでいく。
「? どうかしました、怜さん。」
「……ううん。」
ずきん。
「何でもないからヘーキ。」
何故だろう。
心が、痛むのは。
何故だろう。
離れていくのに、痛みを覚えるのは。
<Side:竜華>
――――何故だろう。
彼に、安心感を覚えるのは。
――――何故だろう。
彼といると、心が弾むのは。
「……良し、片付け終了!」
「お疲れ様。 いつもご苦労さん。」
「お茶用意しといたで。」
「あ、すいません……ありがとうございます。」
こうして、怜とウチと、京太郎君。
三人で、部活後の時間を過ごすのも随分と慣れた。
ある意味では、私的利用だけど。
顧問の先生も、黙認してくれている行為。
「しかし、大分強くなったねぇ。 京太郎くん。」
「いえいえ……全然です、まだ捨て牌とか読み切れませんし。」
「そんなん、私でも出来へんことやんか。」
「怜はもう少し読もうや。」
なのに。
なんで、だろうか。
三人でいること。
それは、とても楽しいはずなのに。
時折、
二人なら、と思ってしまうのは。
「しゃーないやんか、竜華。」
「しゃーないで済まへんのよ?」
「まあまあ、お二人共。」
こうして、宥める顔。
こうして、楽しそうに笑う顔。
その2つの顔が、並んでいるはずなのに。
一緒にいて、とても楽しいはずなのに。
……いや、何となく。
理解は、している。
ただ、嫌だ。
それを、認めてしまえば。
「? どうかしました、怜さん。」
「……ううん。」
決定的に、何かが別れてしまう気がするから。
「何でもないからヘーキ。」
だから、ウチは笑顔の仮面の下に。
そんな、黒い感情を隠す。
願わくば。
……ずっと、三人で。
――――叶うんだったら。
ウチは。 何だって、捧げるから。
若干病みスタート。