終わりの時は、未だ知らず。   作:氷桜

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本日咲シリーズ4冊同時発売!


華は、憂い。
<7:京太郎>


言ってしまえば、これはある意味では必然で。

ある意味では、どうしようもない被害だったのかもしれない。

 

「――――ポン。」

 

「…………。」

 

河を一巡し。

すっ、と吐き出される牌。

だけれども。

 

「すいません、それです。」

 

混一色、連風牌。

それが、相手の残りの点数を削り取り。

俺は、小さく息を吐いた。

 

「……有難う御座いました。」

 

「っ……有難う、ございました。」

 

相手の、流す涙。

それが妙に応える。

5月に入ったばかり。

にも、関わらず。

既に、三軍相手には有る一定以上の勝率を収められていた。

 

「……はぁ。」

 

一度部室を抜け、自販機の前で一息を吐く。

喉を通る炭酸が、妙に強く感じる。

 

「どないしたん、京。」

 

と、そんな時。

真後ろから声を掛けられ、危うく口から吹き出すところだった。

なんとか嚥下しつつ、後ろを向けば。

 

「うぉっ……って怜さんですか。」

 

「何? 嫌だったり?」

 

「そんなことじゃなく、びっくりしたんですよ。」

 

ついこの間退院してきた、怜さんがいた。

付いてきた……と言うよりは、飲み物を買いに来たのだろうか。

自販機の前から少し外れ、壁に背中をもたれさせた。

 

「んで京。」

 

「何です?」

 

「さっき何ボヤいてたん?」

 

ああ、と。

聞かれていたのだろう。

とは言っても、大したことでもないのだけど。

 

「悔しそうにされるの、心に来るなぁ、と。」

 

「そら初心者に負ければなぁ。」

 

「その台詞で俺も傷つくんですけど……。」

 

正直に言えば。

四月に、麻雀部に入ることを決めるまでは。

麻雀のまの字すら知らないくらいの初心者だった。

それを最初に説明したら、逆に驚かれるレベルで。

ただ。

ルールを二人から聞いて、何度か打つ内に。

妙に――――特定の時だけ、偏った。

 

「……まあ、勝つことは嫌いじゃないんですけどね。」

 

「男の子やなぁ。」

 

「それも偏見ですよ?」

 

更に一口。

飲みながら、自分の足を見た。

鳴き麻雀、別の言葉で言うなら空中戦。

文字通り、飛び合いながらの試合。

それは、俺の中学時代の記憶を嫌でも刺激した。

それと、関わりがあるのかどうなのか。

どんな牌でも構わない。鳴くと。

鳴かなかった時に比べ、明らかにアガれる確率が上がる。

或いは、その為の牌が集まってくる。

そんな、異常。

 

「……怜さんも、先が見えるんでしたよね。」

 

「せやなぁ。 ほんの少しだけ、麻雀とかなら。」

 

「それは……。」

 

やっぱり、代償を払って得た能力なのだろうか。

女子が行う麻雀で、異常が多々見られるのは。

恐らくは、女子故の感受性の高さが原因しているんだろう。

逆に言うなら。

男子であっても――――犠牲があるならば。

そう、考えてしまう。

 

「あんな、京。」

 

「……はい。」

 

「なんでも、楽しんでナンボなんや。」

 

だから、と。

彼女自身は知らない、余命も知らない少女は。

うっすらと笑みを浮かべながら。

 

「だから、一緒に楽しもうな?」

 

そんな風に、俺に告げた。

はい、と答えたはずだった。

分かりました、と言ったはずだった。

だけど。

怜さんに、届いたかどうかは。

どうしても、分からなかった。

 


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