終わりの時は、未だ知らず。   作:氷桜

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<11:そして彼は。>

たん、と小さく一手を放つ。

それは場を見た上での牌だったのか。

それとも、俺の思い描く理想のためだったのか。

それらは分からないけれど。

目の前の、相手。

 

他県の、団体戦に参加するという一人の少年にとっては。

致命的で、絶望的だったのだろう。

項垂れた表情のまま、手牌を前へと流し込んだ。

残り1000点での流局。

狙ったつもり――――ではない。

狙うつもりなら、もう少し大きい点数を狙う。

 

「(なんだかなぁ。)」

 

そんな思いを込めて、一度大きく息を吐き切った。

 

※※※

 

全国前の最後の練習。

個人戦と団体戦のメンバーは練習試合をしても問題はない。

問題があるのは、個人戦と個人戦、団体戦と団体戦のメンバー。

ただ、男女だけはまた別。

というのも、同じ学校である以上。

男女混合で打つ場所も少なからずはある、という建前の上だという。

実際のところ、そういった高校が出場した気配は殆ど無いのだけど。

 

「お疲れー。」

「……ん?」

 

ぴたり、と頬に感じる冷たい缶の感触。

その手の先を見れば。

 

「怜さんに、竜華さん。」

「見とったでー。」

「何あれ、狙ったん?」

 

違いますよ、と小さく嗤った。

 

「アガるつもりで鳴いてたんですけどね。」

「まぁ、1000点差やしなぁ。」

「相手もそんな感じだったと思うんやけどねー。」

 

受け取った缶、良く見かける有名な会社の炭酸飲料。

プルトップを開けて、中の液体を嚥下した。

ぷしゅ、と言う音が廊下に響いて。

 

「物凄い悔しがってました。」

「そらそやろ。 あの点数差やで?」

「りゅーかもそんな悔しがることあるん?」

「当たり前やがな、何ゆーてんの怜。」

 

そんな姦しい二人を見ながら、反省をする。

あの時、こうすればよかった。

あの時、あの牌を切ったのは失敗だった。

考えれば考えるほどに、自分の失敗点が見えてくる。

それもこれも、恐らくは。

 

「ん? きょー、どーかした?」

「ああ、いえ。」

 

無意識に、二人を見ていたのだろう。

怜さんが不思議がるように俺を眺めている。

こうして、幾つかの失敗を思い返せるのも。

落ち着いて、振り返れるのも。

今、こうして二人がいてくれるからなのだろう、と。

自然と、受け入れることが出来ていた。

 

「三人でいると、なんか気楽でいいな、と。」

「……ほへ?」

「な、何ゆーてんの京太郎くん。」

 

つい、そんな言葉が漏れていて。

慌てる二人に、苦笑いを返した。

どちらも、選べない。

そんな、どっち付かずの俺。

そんな俺が思って良いのかは、分からないけれど。

 

ただ、二人のうち。

一人を選んで、一人を切り離すのは。

何故だか、してはいけないと思った。

 




にゅー(遅れた

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