GUNDAM BREAKER 3 -異界の模型戦士- 作:バートレット
タウンカップ予選もいよいよ大詰めです。
ヒカルもミサも、この状況に焦りを感じていた。追い打ちをかけるように、NPC敵機からの攻勢も激しさを増していく。敵機を片っ端から倒していたシドウとタイガーが倒された今、NPC機体は勢いを取り戻し始めていた。
「ゼブラは単機で行動している。そして、この状況から考えるに、何度か足止めも食らっているはずだ。ゴールを一目散に目指しているとは言え……」
《流石に自分も落とされたら元も子もないよね》
自分たちに襲い掛かってきたGMⅢの1個小隊をそれぞれ返り討ちにしながら、ヒカルとミサはそう予測を立てた。
「あくまで希望的観測でしか無いけどね……振り切られたら終わりだ」
《どうする?》
ヒカルはペダルを踏むことでガンダムサイファーの主機を叱咤しながら、この状況における最適な戦術を考える。その間にも、並み居る敵機を屠ることを止めはしない。
「……こうしよう。僕が先行してゴールを目指す。IWSPの機動力とバルバトスの脚力に全てを託すよ」
《……行ける?》
「行ける行けないじゃない、行くしか無い。それに……この戦術を取る上で重要なのは、アザレアの火力だ。後ろから射撃で道を作って欲しいんだ」
アザレアの援護射撃によって強引に道を切り開き、突破力に優れたガンダムサイファーがゼブラを追う。現時点でヒカルが考えうる、最も効果的な策だった。
「……僕の後ろは預けるよ」
《……わかった》
ヒカルの言葉を受け、頷くミサの目つきが鋭くなる。迷っている時間はない。
「行くぞ……ガンダムサイファー」
愛機の名を呼び、ヒカルはブーストペダルを踏み込んだ。ガンダムサイファーが地を蹴り、前に跳躍。着地前にIWSPのスラスター全てがアフターバーナーを吐き出し、前へ前へと機体を飛翔、加速させていく。
アザレアは、飛翔していく僚機に迫る敵機にマシンガンの銃口を向けた。その引き金を弾く指に、ガンダムサイファーの命運が預けられていた。
ブランリヴァルが待つドックまで、まだ距離はある。
一方、撃破されてしまったシドウとタイガーは、ガンプラバトルシミュレータの筐体から出て、観戦モニターに視線を向けていた。
「俺達が出来ることは全部やった……後はゼブラに任せるしかねェ」
「ヘッド……すんません、俺がもう少し冷静だったら、あいつらも倒せたんですが」
「しゃあねェさ、むしろここまでよく踏ん張ってくれた」
タイガーを労うシドウは、ふと自分が倒される瞬間、目に入った光景を思い返した。
「そういや……ヒカルの機体、なんか一瞬妙な状態になってたな」
「妙……って言うと?」
タイガーが訝しげに首を傾げると、「どう説明したもんかね」、とシドウは言葉を探す。
「なんか、一瞬だけ、光ったような気がしたんだよな。その瞬間だけ、やけに反応が良かったっつーか……」
そう、シドウは確かに目撃したのだ。猫騙しを仕掛けてきた時、そして足払いを仕掛けようとゴールデン・レオン・レックスの懐に飛び込んできた時。そのほんの刹那の一瞬だけ、ガンダムサイファーは深紅の光を身に纏い、驚異的な反応を見せたのだ。
「トランザムとは違うんですかい?」
「あれはそんなんじゃねェ。トランザムでもNT-DでもEXAMシステムでもねェ。でなきゃ、俺が感じたあの感覚の説明がつかねぇ」
タイガーは少し考え込むと、思いついたことを口にする。
「……ヒカル、あいつから何か気迫みたいなのを感じたんですか」
「気迫……まぁ、そうだな」
シドウは内心、そんな生易しいもんじゃなかったけどな、と付け加える。
確かにシドウはあの瞬間、ガンダムサイファーの光を見ると同時に、それを感じたのだ。
チトセ・ヒカルという人間から放出される――強い殺気を。
「よし、捉えた!」
一方、ミサの援護射撃を受けながらゴール目掛けて急行するガンダムサイファーのカメラアイは、先行しているゼブラの機体を発見した。機体名は「ゼブラペガサス」。新たに装備されたエールストライカーパックを翼に見立てた故のネーミングか。
ゼブラペガサスは、ちょうど自身を足止めするNPC機体を屠ったところだった。そこへガンダムサイファーが追いつく。
《来やがったか……ってことは、ヘッドもタイガーさんも落とされたって事だな》
オープンチャンネルで、スキンヘッドの男・ゼブラは今の状況を口にする。
「残念だけどもうあんたのチームは1人だけだ。つまり、ここであんたを落とせば終わりだ!」
《やれるもんならやってみやがれ!》
ゼブラペガサスとガンダムサイファーは、並走しながら互いの武器を構えた。GNソード・ライフルモードとショットランサー内臓のヘビーマシンガン、それぞれが火線を描いて互いを牽制する。
《一度あんたとはサシでやってみたかったぜ……!》
並走する2機の間を壁が遮った時、GNソードの貯蔵粒子を回復させる。相手も同じで、ヘビーマシンガンのリロードを行っているのだろう。
《タイガーさんを瞬殺した腕に、ヘッド相手にタイマン張る度胸……一体全体どんな奴か興味が出たのよ》
「そうかい……っ!」
2機を遮る壁が途切れ、再び互いの姿を視認すると同時に射撃の応酬が始まる。
《だが、今実際に戦ってみてわかったことがある。俺に言わせりゃその機体は――》
しかし、次の瞬間、状況は大きく動いた。
避けそこねたヘビィマシンガンの弾が、左腕の関節部に突き刺さったのだ。
《片手落ちよ》
バルバトスの左腕が、吹き飛んだ。
「っ!?」
ガクン、と左右のバランスが崩れる。左腕を失ったことで、バランサーで保っていた右腕のGNソードの分の荷重がかかり始めたのだ。とっさに操縦桿を操作し、右により過ぎた重心を戻し、IWSPのスラスター出力を調整するが、その頃にはゼブラペガサスが一歩前へと先んじていた。
逃げるゼブラペガサス、追うガンダムサイファー。
《あんたのガンプラはそこまで完成度が高くねぇ。操縦の方でカバーしてるから、ここまでは何とかなっていた。だが、工作技術が追いついてねぇんだよ》
ゼブラの言葉に、確かにその通りだ、と内心頷く。結局のところ、まだガンプラ製作は基本部分しか理解できていない。戦術と技術でカバーできるところにも限界がある。
《ガンプラバトルは工作技術もモノを言う、腕だけでカバーできると思ったら……大間違いだ》
ゼブラは静かに告げると、エールストライカーパックのアフターバーナーを全開にした。
《あばよ、エースパイロット。俺は先に行くぜ》
「だが、他にもカバーできる部分はある」
《……あん?》
遠ざかるゼブラペガサスの背中を見つめながら、それでも追いすがろうとするガンダムサイファー。それを駆るヒカルは、ペダルを踏みつけながら、余裕の笑みすら浮かべていた。
「ミサ、頼んだ」
《了解っ!》
次の瞬間、ゼブラペガサスは爆風と弾丸の奔流に呑み込まれた。
《んなっ、なぁっ!?》
《私のこと忘れてたでしょ》
ミサが得意気に告げる。スラスター出力を限界まで上げて疾駆するアザレアのマシンガンとジャイアント・バズの硝煙が、後ろに流れていく。
《アザレア……ちっ、完全に眼中に無かったぜ……!》
ゼブラペガサスもまた、大幅な損傷を受けていた。よろよろと立ち上がるその姿からは、右腕が消えている。アザレアの飽和攻撃に耐え切れず、ついに吹き飛んでしまったのだ。
「足りない部分、どうしようもない部分は確かにある。それをカバーしてくれるのが仲間だ。仲間がいるからこそ……」
《私たちは、戦えるっ!》
ちっ、とゼブラは舌打ちする。
《機体の完成度で足りない部分を他のあらゆる要素で帳消しにかかってる、って訳か》
無茶苦茶じゃねぇか、と呟く。
《だがァ! それでいつまでも誤魔化せると思うなよォ!》
再び並走する格好になるガンダムサイファーとゼブラペガサス。ゼブラペガサスが速度面では優位なことに変わりはないが、ミサが後ろからマシンガンやジャイアント・バズを撃ちかけることで、ゼブラペガサスに最高速度を出させることを許さない。
爆音と射撃音をジャブローの地下基地に響き渡らせ、強襲揚陸艦ブランリヴァルのドックが目前に迫る。
「届け……届いてくれ、ガンダムサイファーッ!」
《まだだァァァァァ!》
横一線に並ぶ。もはや牽制弾を互いに撃つこともない。ただ、前へ前へと自分の愛機を押し出すことに全力を尽くす。
バーニアから吐き出されるアフターバーナーの火が2機の光跡を照らす。
満身創痍の
やがて、2機はブランリヴァルのゲートを、同時に潜り抜けた。
《Battle Ended!》
ゴール地点にたどり着いたことで、合成音声がバトル終了を告げる。
肩で息をしながら、ヒカルは「対戦結果を集計しております。結果発表まで筐体の外でお待ち下さい」と表示された画面を
後はポイントの集計と、ゴール地点にたどり着いた結果判定に全てを委ねるしか無い。やれることは全てやったし、完走も出来た。鎖蛮那亜仁魔流連合以外のチームは全機撃破できたので、ポイントもかなり高いはずだ。
「僕のガンプラは完成度が高くない、ね……」
ゼブラの言葉を口にしてみる。言われてみれば、ここまでガンプラを作ってこれたのはハムさんの手ほどきと、ミサやユウイチの手伝いがあったからだ。
これからこのチームでガンプラバトルを続けていく上で、この問題はかなり致命的だ。このガンプラの完成度が高ければ、ゼブラに遅れを取ることもなかったかもしれない。それが悔やまれる。
筐体の外に出ると、ゼブラが立っていた。
「良い勝負だった。お互い腕を磨いてまたやりてぇもんだ」
互いに手を握り、握手で健闘を称える。
「正直、まだガンプラを作る方は素人でね……戦う方はまだ何とかなるにしても、これから先、ガンプラの製作技術を地道に磨くしか無いかな」
「まぁ……あの時は厳しいこと言ったけど、本当にガンプラ制作ってのはバトルにも響いてくるからな。腕だけじゃどうにもならない限界もあんのよ」
ゼブラは肩をすくめる。
「ただ、あんたほどのガンプラバトラーに工作技術がまだ追いついてねぇのは本当に勿体ねぇと思う訳よ。工作技術が追いつけば、確実にあんたは化けるぜ。俺が保証する」
その言葉に、ヒカルは頷く。
「逆に言えば、工作技術を磨かない限り、いつか必ず壁にぶち当たるってことだね」
「そういうことだな……俺で良ければいつでも力になってやる。大したこと教えれるかわかんねぇけどな」
ゼブラとヒカルは笑い合う。
そこへ、ミサやシドウ、タイガーがやってくる。
「良くやったぜゼブラ! 最終的に並走してゴールってのはちょっと締まらなかったが、ゴールへの到達速度は俺たちと彩都商店街チームが文句なしの1位だ!」
「とんでもねぇ作戦考えるもんだなお前……。1人で突っ走るって言い出した時はどうなることかと思ったぜ」
シドウとタイガーがゼブラの背を叩きながら、彼の奮闘ぶりを賞賛する。
一方のミサは、脱力したように肩で息をしていた。しかし、その顔には満足げな笑みが浮かんでいる。
「お疲れ、ミサ……やれることは全部やったな」
「そうだね……でも、どんな結果でも悔いはないよ」
ミサはそう言うと、持ってきていたペットボトル飲料に口をつけた。
やがて、アナウンスと共に決勝進出チームが公開される。
《おまたせ致しました。決勝進出チームは……彩渡商店街チームとハイムロボティクスチームです!》
会場のスクリーンに映し出された結果を見て、シドウたちが声を上げて悔しがる。
「くっそぉぉぉぉダメだったかぁぁぁ!」
「やっぱ2人がやられたのがマイナスだったんすかねぇ……」
タイガーがいつまでも地団駄を踏む一方、ゼブラはすぐに冷静さを取り戻し、敗因を分析していた。
「まぁ……ベストを尽くしてこの結果だったんだ、悔いはねぇ」
シドウは目を細めて結果を一瞥する。
一方の彩渡商店街チームでは、ミサが飛び跳ねて喜びを表現していた。
「決勝通った! やったよヒカルくん!」
「多分ものすごい僅差だったんだろうなぁ……よく通ったよねこれ」
一方のヒカルは、口では結果に対する感想を述べつつも、顔には笑みが浮かんでいる。
しかし、すぐに真剣な表情になると、ミサに向き直る。
「確か決勝まではインターバルがあったはずだ。昼食をとったらガンプラのチェックをしたい……手伝ってもらえるかな」
「……えっ? それはいいけど、時間があんまりないよ?」
「構わない。出来ることは全部やろう」
そう言うヒカルの頭には、ゼブラからの言葉がまだ残っていた。
「……工作技術の穴、埋めてみせれば良いんだろ」
ヒカルの視線は、ガンダムサイファーに注がれていた。
一方その頃、ハイムロボティクスチーム。
「驚いたな、マジで予選突破するなんて」
所属ファイター、カマセ・ケンタは息を呑んでいた。決勝で戦う相手が、まさか自分の古巣だったとは。
「カドマツさん、この決勝、アレ使いたい」
「やだよ」
メカニックのカドマツに提案するが、カドマツは即座に却下した。
「趣味じゃないんだよあぁいうの……それに、今から調整して間に合うかわかんねぇぞ」
「でも、このままじゃマズいんだ。相手は2対1の連携が得意なんだ……同じ土俵に立つと確実に潰される」
カマセは内心、恐れていた。過去の自分を否定されたようで、心穏やかではいられなかった。
これでは、自分があのチームを抜けたことが悪のようではないか。よりよい環境を求めてチームを移ることの何が悪いのだろう。
「頼むよ……ここで勝ちに行きたいんだ」
「……わかったわかった。ちょっと急ピッチで調整するからな、お前も手伝えよ」
「もちろんだ」
カドマツはため息をつくと、アセンブルシステムを起動する。
その準備を手伝いながら、カマセは1人、暗い表情で呟いた。
「……金と技術が可能にするものを、見せてやるよ」
さて、実は活動報告の方にアンケートを置いてあります。
軽い意識調査ですので、お気軽にお答えいただければと。
また、感想の方もお待ちしております。
さて、その活動報告にて指摘頂くまで言うのを忘れておりましたが、
このお話では、主人公機体は原則として原作ゲームに登場した機体やパーツのみを使用します。
理由としては、作者が実際に機体を組んでイメージを固めていることや、
実際のゲーム中で機体構成を再現して貰えればなぁ、と考えているためです。
「ガンダムブレイカー3」を原作としている以上、そこは守りたいなと考えております。
今後も折に触れて機体構成を公開していこうかと考えておりますので、
是非皆さんもゲーム中や、もしくは実際のガンプラで作ってみてください。
次回、タウンカップ決勝戦。
ヒカルくんたち彩渡商店街チームの命運やいかに。
お楽しみに。