GUNDAM BREAKER 3 -異界の模型戦士-   作:バートレット

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大分間が開いてしまいましたが、5話をお届けします。
タウンカップ開幕です。
お楽しみください。


第5話 JOY

 タウンカップまでの1週間、ヒカルたち彩渡商店街チームは猛練習を重ねていた。対人戦の戦術を練り、実戦でテストし、それが終わればすぐさま反省会とアセンブルの見直し。ミサの家で、父親であるユウイチやハムさんも交えて検討会が続けられた。

「2人のガンプラとアセンブルは確認させてもらったよ。ミサのアザレアが射撃重視なのに対して、ヒカルくんのガンダムサイファーは遠近両方で戦えるようになっている。対人戦を重視するなら、ヒカルくんが1機ずつ確実に撃破していくことになるだろうね」

「同感だ。となれば、ファイトスタイルも鑑みるに、ミサは射撃による撹乱と支援に徹するのが良いだろう。仮に2対2の場合でも、2機で1機を集中して狙っていくべきだ」

 実際に机の上にガンプラを置きながら、ユウイチとハムさんは戦術の基本方針を説く。

「ただ、その場合、敵機の片割れのマークが外れてしまうリスクは避けたい。というわけで、こんな戦術を取ろうかと思います」

 ヒカルは敵機として置かれた2機のザクⅡのうち片方の前に、ガンダムサイファーを置いた。

「まず、僕が前に出て片割れに仕掛ける。ミサはもう1機の動向を見て、こっちに来そうであればなるべく引き剥がして欲しい」

 ミサは頷き、ガンダムサイファーの後ろにアザレアを置く。

「弾幕を張ったりすれば相手も近寄れないしね。で、格闘戦の合間にこっちがマシンガンで動きを止める」

 ミサの手によって、アザレアにマシンガンが持たされた。ザクに狙いをつけるような格好だ。

「相手の意識は基本、接近戦を仕掛けているこっちに向いているからね。その隙を狙ってマシンガンをスタンするまで撃ち込んで欲しい。こっちは一度射線から離れて、もう1機をレールガンと単装砲、ライフルモードで牽制する」

 ヒカルが一度置いたガンダムサイファーの位置を僅かにずらし、アザレアが構えるマシンガンの銃口から外す。腕を動かし、もう1機のザクに向けた。

「スタンしたら、またこっちが接近戦。アザレアは牽制に回る。これの繰り返しで、まず1機落とす」

 そう言うと、片方のザクをうつ伏せに倒した。

「後は同じように、射撃と近接戦闘の繰り返しで落とす。複数体を相手にしない状況を常に作りつつ、各個撃破の流れに持っていくのが一番だね」

 ヒカルがもう1体のザクをうつ伏せに倒しながら説明を終えると、ハムさんが頷いた。

「攻撃役と牽制役をスイッチしながら戦う、か。射撃支援に特化したアザレアと、どんな距離の相手にも回答を持たせているガンダムサイファーだからこその戦術だな」

「もともと、ガンダムサイファー――いや、その前身であるブレイカーストライクは、どんな状況でも戦えるようにする、というコンセプト、らしいんです。GNソードのお陰で近接戦闘を主軸に戦うことにはなりますけど……僕の考えでは、モビルスーツの本懐は汎用性です」

 ヒカルはガンダムサイファーを手に、力強く言い切った。

 モビルスーツ。テレビアニメ『機動戦士ガンダム』の背景設定を紐解けば、地球連邦に比べて圧倒的に国力で劣っているジオン公国が開発した兵器である。ジオン公国の台所事情は厳しく、宇宙空間、コロニー内、空中、陸上などに特化した兵器を開発する余裕はなく、必然的に求められたのが、汎用性だった。パーツの換装や小規模な改修程度でどんな環境にも、どんな戦術にも対応できる。モビルスーツはそんな設計思想で生み出されたのだ。この設計思想は、ガンダムというハイエンドモデルの開発にも継承された。ビームライフルやハイパーバズーカが(もたら)す火力に、ビームサーベルやガンダムハンマーなどが繰り出す近接戦闘能力、堅牢な装甲や手持ちシールドによって実現する防御力、そして高出力のスラスターが生み出す機動力。これらを全て兼ね備えたガンダムは汎用性を維持したまま、ザクを上回る性能を実現した。

 ガンダムサイファーは、いわばその汎用性という面で、RX-78-2ガンダムの系譜に連なりながら、正統進化を遂げた機体となっていた。

「ガンダムサイファーという名を付けるにあたっては、私も一枚噛んでいたんだ」

 ユウイチはガンダムサイファーを見つめながら、そう明かす。

「子供の頃から、いろんなガンダムを見てきた。ファーストガンダムからの宇宙世紀ものに、Gガンダムからのアナザーガンダム。いろいろなガンダムがいる。中には、ゴッドガンダムやエクシアのような格闘特化の機体に、ヘビーアームズやレオパルドのような砲戦特化、デュナメスのような狙撃機まで現れた。でもね、やっぱりガンダムの原点って、どんな状況でも戦える、どんな戦術でも戦える、そんな汎用性というか、万能選手っぷりだと思う。だから、その原点に立ち返った機体――そんな意味を込めた名前にしよう、という話をしてたんだ」

「サイファーとは即ち、ゼロから全てを始める少年の決意。そして、スタンダードに立ち返ったガンダムの姿。その2つの意味が込められているというわけか」

 ユウイチの話を聞いて、ハムさんが感慨深げに呟く。

「ミサのアザレアも、名前負けはしていないと思うぞ? アザレア――セイヨウツツジは、乾燥した土地を好んで咲く花だからね」

「荒野に咲く一輪の花ということか――今のミサにうってつけのネーミングではないか」

 ユウイチとハムさんの2人がミサの機体名を評するのを聞いて、ミサはただ頷いた。

「これからまた頑張らないといけないからね。今の私たちはチャレンジャーだよ」

 さて、と一声置いて、ミサは立ち上がる。

「一休みしたら、もう一度アセンブルの見直しをしよっか!」

 タウンカップまで、あと3日。ヒカルたち彩渡商店街チームは、決意も新たにタウンカップに向けて調整を重ねていく。

 

 そして、タウンカップ当日。

 ミサたちが参加する彩渡町タウンカップは、町役場に併設された市民体育館が会場となっていた。

 体育館の中にはガンプラバトルシミュレータの筐体、O.R.B.S.(Over Reality Booster System)が運び込まれている。球形筐体が立ち並ぶ体育館は、独特の緊張感に包まれていた。老若男女問わず、思い思いに作成したガンプラを手に、自分の実力と愛機の性能を示そうとギラついた視線を走らせている。

「さぁ諸君、間もなく予選開始だ。準備は大丈夫かな」

 ハムさんはそう言うと、彩渡商店街チームのファイター2人に視線を向ける。

「こっちは問題なし。いつも通りやるだけですよ」

「同じく。去年は予選で負けちゃったけど……今年こそ!」

 ヒカルとミサはそれぞれ、力強く頷いた。

 と、そこへ現れたのはいつぞやのヤンキー3人組、鎖蛮那亜仁魔流連合(サバンナアニマルれんごう)だ。

「よぉ手前ェら。いつぞやの借りを返してもらいに来たぜ……このタウンカップでなァ!」

 チームリーダーのシドウが啖呵を切る。

「こないだのようには行かねェ。俺達は手前ェらに負けてから、機体のセッティングとアセンブル、それに戦い方まで全部研究し直したんだ。同じ手は二度と通用しねェぜ」

 そう言うと、シドウはケースから自分のガンプラを取り出し、掲げる。その金色の機体は、以前の姿から大幅なカスタマイズが施されていた。

「このゴールデン・レオン・レックスに誓ってなァ!」

 バンシィの頭部とユニコーンシリーズのボディをそのままに、腕部をガンダムヴァサーゴ、脚部をガンダムエピオンとしている。背部には対ビームコーティングマントを羽織り、さらにその上からバンシィ・ノルンのバックパックが装着されている。腕部にはメガガトリングガンが装備され、より重厚なシルエットに仕上がっていた。

「始まる前から手の内を明かすとは……余程の自信か」

 ハムさんはシドウの行動に息を呑む。

「当然よォ! 俺たちだってこの大会を勝ち上がり、首都圏頂上決戦に名前を刻むんだ……!」

「シドウ、タイガー、ゼブラ……鎖蛮那亜仁魔流連合の名前をなァ! このタウンカップはその通過点だぜ!」

 タイガー、そしてゼブラもまた、自分たちの機体を掲げる。いくらか改造が施されており、タイガーテトラはより砲戦に特化した装備となり、ゼブラケンタウロスはバックパックをエールストライカーパックに換装、より機動力が上がっている。

「タイガーさんはなぁ、あれから心を入れ替えたんだ。ヒカル……あの時ルーキーだったテメェに叩きのめされ、さらにヘッドの雷が落ちた。だが、お陰でタイガーさんは目を覚ました! 今のタイガーさんはもうこれまでのタイガーさんじゃねぇんだよ!」

 感極まったのか、ゼブラは声を震わせる。

「あぁ……もう初心者狩りは封印したァ! あの時の、情けねェ動物園の虎はもういねェ……過酷なサバンナで生き抜く野性を磨いたんだよォ!!」

 タイガーは歯を剥き出して吼える。ヒカルはその目つきが、以前と明らかに違うことを認めた。

「なるほどね……」

 ヒカルは一つ頷く。

「じゃあ僕も一つ教えよう。同じ手はそう何度も使わない。僕達の戦い方が同じだと思ったら……」

 ヒカルはここで言葉を切り、ミサに視線を投げる。ミサはその視線を受け止め、真っ向からシドウ達3人の前に仁王立ちした。

「大間違いだよっ!」

 シドウは自分たちの闘志を真っ向から受け止めた彩渡商店街チームの2人に獰猛な笑みを以って、宣戦布告とする。

「そうかい……まぁ御託はそろそろいいだろ。戦場で、待ってるぜ」

 シドウ達3人が去ると、入れ替わるように1人の少年が現れた。軽薄そうな顔つきに、皮肉っぽい笑みを浮かべている。

「おやおや……ようミサ。新しいチームメイトは……見つけたってとこか」

 ミサはその少年を見るや、露骨に顔をしかめた。

「誰かと思ったら……カマセ君。その様子だと新しいチーム、見つけたんだね」

 どうやらこの2人は顔見知りらしい。ヒカルにはこの2人がどういう関係か、ある程度推測がついていた。

「知り合い?」

 念のためにヒカルが聞くと、ミサはため息混じりに、短く説明する。

「去年のチームメイトだよ」

「結局抜けさせてもらったけどな。このチームは俺の性に合わなくてね……今のチームは最高さ。資金と技術があるところは全然違うね」

 ミサの言葉を受け、カマセは軽薄そうな笑みを浮かべながら補足する。やっぱりね、とヒカルは内心呟く。去年の敗戦がきっかけであまり後味のよろしくない形での脱退劇があったということだ。しかも、カマセ側の一方的な事情によるもの。

「おい新入りぃ。こんなところで油売ってないで、さっさとセッティングしろぉ」

 そこへ声をかけるのは、白衣に無精髭といった出で立ちの男性だ。髪も無造作に伸び気味で、研究一筋の技術者といった風体である。年の頃は三十路過ぎだろうか。

「わかってるよ! 元チームメイトに挨拶してたんだ! ……じゃあな、ミサ。それにそのチームメイト。決勝まで残れるといいな」

 皮肉げな笑みを崩さず、カマセは嫌味を言い置いて立ち去る。男性はそれを呆れたような目つきで見送ると、彩渡商店街チームに向き直った。

「すまねぇなお嬢ちゃんがた。邪魔しちまって」

 ミサはとんでもない、と首を振る。

「いえ、むしろありがとうございます……えっと」

「おぉっと失礼。俺はハイムロボティクス・チームエンジニアのカドマツだ」

 男性は肩書と名前を名乗る。と、ヒカルとミサの背後に控えるハムさんに気がつく。

「あれ、ハムさん。こんなとこで会うなんて奇遇だねぇ」

「久しいなカドマツ。7年前の大会では世話になった。あれからチームはどんな様子かな?」

 ハムさんが聞くと、カドマツは照れくさそうに頭を掻く。

「お陰さんで、一昨年から2連覇だよ。ただ去年までのファイター、引退しちゃってさ。お子さん産まれちゃって。しばらく子育てに専念するそうだ」

 その報告に、ハムさんは幾分残念そうな表情を浮かべる。

「そうか……めでたい話だが、彼の戦いがもう見れないのは残念だな」

 どうやら今度はハムさんとカドマツが顔見知り同士のようだ。昔話に花を咲かせる2人を眺めながら、ヒカルは小声でミサに話しかける。

「……ハイムロボティクス?」

「あぁ、ヒカル君は知らないんだっけ。このあたりじゃロボット製造で有名なんだ。インフォちゃんもあそこが作ってるんだよね。ロボット制作の技術研究とかで、ガンプラバトルもやってるみたい」

 そういうアプローチでガンプラバトルをする人もいるのか、とヒカルは驚く。そんな若者2人に視線を投げながら、カドマツは話を続ける。

「いやぁ……今年は心機一転して、中高生をチームに迎えようと決めたはいいんだが、やって来たのは見ての通りの問題児でね……腕はいいんだがなぁ」

「心中お察しします……」

 ミサも同様にため息をつく。

「若いうちからそう黄昏(たそが)れなさんな……と言いたいが、その気持ちは俺にもわかる。痛いほどわかる……。んじゃ、俺も仕事あるんで」

 カドマツは片手を軽く振りながら、カマセの後を追って立ち去った。

「カマセ、ね……あぁ言う手合いは人間的にあんまり好みじゃないな……」

 カマセとカドマツが去っていった方角を眺めながら、ヒカルは1人呟く。

「……でも、()()()()()としてはどうかな」

 誰にともなく言葉を紡ぐヒカルの目つきは、どこか鋭くなるのだった。

 

 予選の開始直前に、ヒカルとミサ、そしてハムさんは最後のブリーフィングを行っていた。

「我々がまず通過しなければならないのがこの予選だ。最初の壁となるだろう。だが、敢えて言わせて貰おう。ここはただの通過点に過ぎない!」

「その通り。私たちはこの予選を勝ち抜いて、決勝に進まなきゃいけない。そして、今の私達ならそれができるはず!」

 ハムさんとミサはそれぞれ、決意を口にする。

「あぁ、そうだ。……ハムさん、あの技の伝授、ありがとうございます」

「ふっ……君ならできると信じて教えた。ガンダムサイファーが実戦で披露する姿、楽しみにしているぞ、少年!」

 一礼するヒカルにハムさんは頷くと、拳を突き出す。2人もそれに倣い、互いの拳をぶつけた。

「新生彩渡商店街チームの晴れ舞台だ。思う存分駆け抜けてこい!」

「はいっ!」「了解っ!」

 ハムさんが見送る中、2人はガンプラバトルシミュレータの筐体の扉を開けた。

 ヒカルはシートに座り、ガンダムサイファーをシート脇の3次元スキャナーに読み込ませる。携帯端末をシートに据え付けられたセンサーにかざすと、画面に機体情報が表示された。

「やっと、僕を動かす感情がわかった」

 先週シドウと戦った時、どうしようもなく血が騒いでいた。強敵との戦い。やるかやられるかのせめぎ合い。自分は未だに、どうしようもなく戦いを望んでいる。血湧き肉躍る戦いを。

「そうだ……僕は、やはりこの期に及んでも……戦いの中で、自分を見つけられる!」

 3次元スキャナーのガンダムサイファーを見る。ちょうどガンダムサイファーがこちらを見返す格好だ。カメラアイが心なしか、キラリと輝いたように見えた。

「行くぞガンダムサイファー。共に分かち合おう、戦い続ける(よろこ)びを……!」

 目の前の球形スクリーンに映し出されるモビルスーツ母艦のカタパルト。ガンダムサイファーは、そのカタパルトに接続された。

 ヒカルは口元に笑みを浮かべ、宣言した。

「チトセ・ヒカル、ガンダムサイファー。オープンコンバット!」

《Battle Start!!》

 合成音声が宣言に応えるように、ガンプラバトルの開始を告げる。

 ガンダムサイファーがカタパルトから射出され、大空に飛び立つ。眼下には密林と大きく蛇行する大河。南米大陸の連邦軍基地、ジャブローを模したステージだ。

 しばし、空中を舞うガンダムサイファー。その姿はまるで、ヒカルが感じる高揚感を映しているかのようだった。

 




さて。
次回からいよいよタウンカップ予選が本格スタートです。

実はこのお話、ヒカルくんの機体については実際に同じ機体を組んで、ゲーム上でテストプレイしながら機体の微調整を行っています。
まだこの段階ではガンダムサイファーにビルダーズパーツがくっついていない状態ですが、
今後お話が進むに連れてパーツの換装、ビルダーズパーツ装着など、様々な改造が施されていくことでしょう。
で、実際に組んだ機体をWeb上にアップロードできるのがガンダムブレイカーの魅力の1つですが……ここで、私のガンダムブレイカー3におけるガンダムサイファーのアセンブルデータ大公開。

http://ggame.jp/gb3/ms.php?ms=99554

クアンタムバーストとかメガランチャーモードとか入っているのは気のせいです、気のせい。
少なくともヒカルくんは使わないです。作者は遊びで使います。たまーに。

次回はタウンカップ予選で彩渡商店街チーム大暴れです。お楽しみに。

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