GUNDAM BREAKER 3 -異界の模型戦士-   作:バートレット

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大晦日です。
コミケ3日目が終わり、東京から実家に帰る飛行機の待ち時間に書き上げました。
お楽しみください。


第3話 PRACTICE

 タウンカップを1週間後に控えた土曜日。

 新生したブレイカーストライク改めガンダムサイファーの実戦テストと、彩渡町タウンカップに向けた練習のため、ヒカルはミサと共にイラトゲームパークへと足を運んだ。

「まず、タウンカップの大会形式についておさらいするよ」

 ミサは大型筐体前の待合スペースで彩渡町タウンカップの参加要項を広げ、説明を始めた。

「参加機体はHGサイズとMGサイズが1チーム4機まで。PGサイズが2機までで、モビルアーマーは1機だけ。多分PGとかモビルアーマーとか出してくるチームはいないとは思うけどね」

 小さい大会っていうのと、アセンブルが面倒くさいのが理由だね、とミサが補足する。

「大会形式は、遭遇戦って言うレギュレーションで行われるよ。ガンプラバトルシミュレータの基本的な形式だね。基本的にゲーセンで遊ぶときと変わらないから、安心して」

 ヒカルは、ミサが指し示した大会形式の項目に目を通す。

「……ゲーム開始と同時に各チームがフィールド内の別々のエリアに散らばって、CPU制御の機体と戦いながらエリアを移動。他のチームと遭遇(エンカウント)次第、対人戦が開始か」

「そそ。こないだ君がタイガーと戦ったときみたいなイメージだね。だから、ゲーセンはタウンカップの練習に打ってつけって訳」

 ミサの言うとおり、このガンプラバトルシミュレータは全国各地の店舗にある筐体がネットワークを通してリンクしており、他のプレイヤーとの遭遇戦を楽しむことができる。特にこの時期、各地でタウンカップが開催されていることもあり、遭遇戦において他チームとのエンカウント率は高まっている状態だ。

「このタウンカップを勝ち上がれば、各タウンカップの優勝者が参加できる、都道府県ごとのリージョンカップに出場できる。そのリージョンカップの優勝者が、日本一決定戦であるジャパンカップに招待されるんだ」

 なお、リージョンカップは東京都のみ、東東京大会と西東京大会に分けられている。これはガンプラファイター人口がひときわ多い東京都における競争率を抑えるための措置であり、東東京大会は東京23区、西東京大会は多摩地域に小笠原諸島を加えたエリアが該当する。とはいえ、ミサたちが挑む彩渡町タウンカップを勝ち抜いた先にある東東京大会は、別名『首都圏頂上決戦』と呼ばれる激戦区として知られている。この地域で2連覇はおろか、2回の優勝を果たしたチームでさえ、全日本ガンプラバトル選手権が始まって以来、存在しないほどだ。

「まずはタウンカップに向けて練習だね。それじゃ……始めよっか」

 ミサは自分のガンプラを手に立ち上がり、シミュレータの筐体に向かう。ミサの機体の名は『アザレア』。アカツキをベースとしてはいるが、主に射撃に重きを置いた改造が施されている。その象徴たる装備が背部のジャイアント・バズ2門であり、ケンプファーのバックパックを転用したものであることがわかる。カラーリングこそピンク色を基調とした女性的なデザインだが、マシンガンやジャイアント・バズから放たれる火力は侮れない。

「了解、やるか」

 ヒカルも新たな愛機・ガンダムサイファーと共に、シミュレータ筐体内に入るのだった。

 

 ヒカルは遮光されたアクリル製のドアから筐体の中に入ると、操縦席に座る。脇に据え付けられた3次元スキャナーに、ガンダムサイファーのガンプラをセットする。コインを投入し、タッチセンサーに自分の携帯端末を当てると、スキャンされた機体データと、予め入力されてあるファイター情報・アセンブル情報が表示される。

 ガンプラバトルでは、実際に組み上げた機体の各パーツの完成度や機体自体のスペックの他に、アセンブルシステムによる機体情報の設定を行う必要がある。模型店やゲームセンターに備え付けられているアセンブルシステムに、機体に搭載されるシステム――トランザムやゼロシステムなど――をインプットすることで、機体に独自の性格付けを行うことが出来る。ガンプラそのもの(ハード)を組み上げるのがガンプラビルドなら、ガンプラの設定(ソフト)を組み上げていくのがアセンブルシステムだ。

 ガンダムサイファーには、アセンブルシステム上で自己修復型マイクロマシナリーテクノロジーを搭載し、継戦能力を高めている他、GNソードのライフルモード・ソードモードにもそれぞれ限界出力時のアクションが設定されている。

《Scanning has already completed. You have control》

 音声と共に画面内にスキャンされたガンダムサイファーのグラフィックが表示される。背景はモビルスーツ運用母艦のカタパルトデッキだ。ガンダムサイファーはゆっくりと歩き、カタパルトに脚部を接続した。

 ヒカルは操縦桿を握りしめ、宣言する。

「チトセ・ヒカル、ガンダムサイファー。オープンコンバット!」

 ガンダムサイファーのツインアイが輝き、カタパルトが急激に加速する。カタパルトから射出されたガンダムサイファーは、スラスターからアフターバーナーの炎を煌めかせ、コロニーの空を飛翔するのだった。

 

 コロニーの大地に降り立ったガンダムサイファーは、工業区域でミサが駆るアザレアと合流する。

《それじゃあまずは移動しよっか。多分この位置だと、資材搬入口から宇宙港に向かうコースになるね》

 画面上にマップを表示させながら、ミサが通信を入れてきた。

「了解だよ。前方に敵機確認。ドラゴンガンダム3、ジム・コマンド6」

 工場が立ち並ぶ工業区の大通りに、9機ものモビルスーツが姿を現す。CPU制御のガンプラだ。ジム・コマンドの援護を受けながら、ドラゴンガンダムたちは接近戦を仕掛けようと動き出す。

《ようし、行くよっ!》

 ミサはアザレアを前進させながら、集まってくるドラゴンガンダムに向かってジャイアント・バズを2発撃ち込む。

 撃ち出された2発の360mm榴弾は、回避の遅れた1機のジム・コマンドにどちらも直撃。その爆風に他の敵機も巻き込まれ、木の葉のように吹き飛ばされた。

 着弾地点より少し離れたドラゴンガンダムも、吹き飛ばされてきたジム・コマンドの残骸を回避しようとする。

 が、間に合わない。巻き込まれるように地面に叩きつけられる。

 瞬間、ガンダムサイファーが彼我の距離を詰めた。倒れ込んだドラゴンガンダムの両脚部をGNソードで斬り裂く。ガンダムサイファーの頭部バルカンが火を吹き、ドラゴンガンダムの上半身部は痙攣したかのように跳ね、火花が散る。推進剤に引火したのか、ドラゴンガンダムは火球と化して散った。

 その爆風を背中に受け、十分な初速を得た状態でさらにガンダムサイファーが飛翔する。そのツインカメラアイには、榴弾の爆心地から離れようとするジム・コマンド数機が捉えられていた。GNソードの射撃でこのうちの1機を撃破しながら、まだ態勢を立て直しきっていないジム・コマンド3機の只中に飛び込む。

 ヒカルはここで操縦桿を一度引きながら、僚機であるアザレアと、現在の敵機の位置を確認する。

(むしろこっちがドラゴンガンダムを引きつけたほうが良さそうだな……)

 ミサのアザレアは射撃戦で真価を発揮する。一方のドラゴンガンダムは、モビルファイターの例に漏れず格闘戦を前提とした機体であるため、アザレアの懐に入られるのは好ましくない。

「ジムの相手は任せた。残り2機のドラゴンガンダムを引きつける」

《了解っ!》

 通信を交わすと、ジム・コマンドを見据えたまま後退。去り際に牽制のレールガンを撃ち込みながらその場を離脱し、アザレアを狙う1機のドラゴンガンダムの死角に回り込む。

 ドラゴンガンダムは気づいていない。すかさずGNソードを展開し、切っ先を前に向けて突進する。

 十分な速度の乗った一撃。突き刺したというよりも、轢かれたという表現がぴったりの様相で、ドラゴンガンダムが横っ飛びに吹き飛んだ。

 ガンダムサイファーが地面を蹴り、上昇する。ヒカルはガンダムバルバトスの脚部の換装の効果を実感した。スサノオの脚部に比べて、足回りが太くなり、脚部の剛性が上がったため、踏み込みの安定性がかなり上がっている。結果、より正確に跳躍できるようになった。脚を使った格闘戦術も検討できるな、とヒカルは内心思う。

 吹き飛ぶドラゴンガンダムを追いかけると、GNソードを下から掬うように振り抜いて、空中へ打ち上げる。錐揉み回転しながら重力に引っ張られるドラゴンガンダムに、対艦刀が襲いかかる。抜刀と同時の一撃、いわゆる抜き打ちである。空中で一刀両断されたドラゴンガンダムはただの一度の反撃も許されず、力尽きた。

 そこへ追いすがる3機目のドラゴンガンダムは、形勢不利と見るや自らの機体を金色に輝かせ始めた。

(ハイパーモードか、ちょっと厄介だな)

 GNソードのライフルモードで牽制弾を撃ちかけるも、それら全てを回避される。

 接近戦を仕掛けるしか無いと判断し、ヒカルはブーストペダルを踏み込んだ。IWSPからアフターバーナーの炎が噴出し、金色に輝くドラゴンガンダムに肉迫する。

 ドラゴンガンダムが拳を固めて殴り掛かる。ヒカルは勢い良くフットペダルを蹴った。ガンダムサイファーが横に跳躍し、金色の拳を躱す。

 真横から右腕を振り回しながらGNソードを展開、横薙ぎに一閃する。鳩尾に勢い良く当たり、ドラゴンガンダムは躰をくの字に折った。レールガンを2発接射し、ついに最後のドラゴンガンダムは崩れ落ちた。

 ミサのアザレアを見れば、ちょうどマシンガンで追い立てたジム・コマンドたちが密集しはじめたところだった。そこへジャイアント・バズの榴弾を雨あられと浴びせ、ジム・コマンドたちをまとめて撃破。このエリアに現れた敵影は全ていなくなった。

《うんうん、いいペースだね》

「奥に進もう」

 通信でミサと声を掛け合いながら、2機のガンプラはスラスターを吹かして奥のエリアへと向かうのだった。

 

 散発的に襲い来るCPUの機体を撃破しながら進撃し、2人が宇宙港のドックに差し掛かったときである。

《ENEMY PLAYER APPROACHING》

 アナウンスと同時にアラートが鳴り響き、「他プレイヤーの介入を確認。襲撃に備えてください」というメッセージが画面上に表示される。

《来たよ! 対人戦だ!》

 宇宙港のドックの影から、3機のガンプラが飛び出す。1機は見覚えがある。黄色と黒のランダムパターンで塗装された、ガーベラ・テトラ。

「あいつ……こないだのヤンキーか」

 1人呟く。機体名、タイガーテトラ。残る2機も個性的であった。1機は上半身をユニコーンガンダムとしながら、脚部をモビルホース・風雲再起で構成し、白と黒のボーダー柄で塗り分けている。もう1機は、ドーベン・ウルフをベースに、腕部をアルトロンガンダムに、頭部をバンシィに換装し、全身を金色に塗装した機体だった。

 機体名はそれぞれ、『ゼブラケンタウルス』『ゴールデン・レオン』。

《おうおうおう! タウンカップ出場の練習かよォ! ご苦労なこったなァ!》

 通信ウィンドウが開き、この間の「ヤンキー」――タイガーが歯を剥き出した表情で笑う。

《げぇ、タイガー》

《あん時はちょっとばかし油断しちまったが、今回は3対2、俺も本気よォ!》

 タイガーが吠えるが、そこへもう1人、通信で割り込んでくる。

《おいタイガー。あいつかァ、テメェを瞬殺したルーキーって奴ァ》

 ドスの効いた、という表現が相応しい攻撃的な声色。通信ウィンドウには、茶髪をライオンの(たてがみ)のように逆立て、三白眼で画面の向こう側から睨めつける青年がいた。

《すまねぇなァお二人さんよォ。そこのタイガーが勝手に因縁つけちまったみたいでなァ。舎弟の不始末は兄貴分の不始末、俺が詫び入れることで手打ちにしてくれや》

 だが、と鬣の青年は続ける。

《今はこっちもタウンカップに向けてならし運転中だァ、悪ィがそれとこれとは別ってことで頼んだぜ……行くぜ野郎どもォ! チーム・鎖蛮那亜仁魔流連合(サバンナアニマルれんごう)の意地見せてやるぜ夜露死苦ゥ!》

《夜露死苦ゥ!》

《ハッハァ!》

 ゴールデン・レオンを先頭に、こちら目掛けて突っ込んでくる3機のガンプラたち。

《……何アレ》

 ミサが目の前の不良3人チームを前にぽかんとした表情で固まっている。

「……サバンナアニマル連合? でもトラってサバンナに生息してなかったはずだけど」

 ヒカルが呟いたその瞬間、先陣を切って今まさにビームサーベルを抜刀しようとしたゴールデン・レオンが……思いっきりコケた。

 慣性の法則が生きているせいか、勢い良く頭から転倒したゴールデン・レオンは砂埃を上げて床を滑り、ヘッドスライディングの姿勢のままガンダムサイファーの足元で止まる。

《……あんだとォ? トラがサバンナにいねェ?》

《ヘッド! 惑わされないでください! あのルーキーが俺らのメンタル抉りにかかっただけっす!》

 呆然と呟くリーダー格の鬣の男に、ゼブラケンタウロスを駆るスキンヘッドの男が慌ててフォローを入れる。

「いや、だって、トラって熱帯雨林に生息してるわけで、シマウマとかライオンみたいなサバンナ気候にはトラって耐えられないし……」

《嘘こいてんじゃねェぞルーキー野郎ォ! 動物園でライオンと仲良く肉食ってんだろうがァ!》

 タイガーはヒカルの解説を遮り、吠える。だが、スキンヘッドの男が悲しげな顔で頭を振った。

《タイガーさん、動物園でもライオンとトラの檻は別っす。つまり……なんでタイガーさんこのチームにいるんすか》

《タイガーテメェ! テメェのせいでとんだ大恥かいてんだろうがよォ! テメェが考えたチーム名だろうがァ! どう落とし前つけんだァ、あァ!?》

 リーダーたる鬣の男の堪忍袋の緒が切れてしまった。当のタイガーは「すんませんヘッド」、と繰り返しながら悲惨な表情で頭を垂れるばかり。

 しばらく、相手チームのリーダーの罵声と、スキンヘッドの男の仲裁のようで火に油を注ぐ言動、タイガーの恐縮しきった謝罪の言葉がスピーカーから鳴り響き、

《あのぉ……ガンプラバトル、してもらえませんかねぇ》

ついにミサがおずおずと声をかける。

《……あぁ、すまねぇなァ。ちっとコイツは後でシメる。……行くぞ野郎どもォ!!》

 ヤケクソのように叫ぶ鬣の男。幾分しょぼくれた様子で後に続くタイガー。ため息と共に愛機を走らせるスキンヘッドの男。

 チーム・鎖蛮那亜仁魔流連合、降って湧いたチームのアイデンティティの危機を振り払い、彩渡商店街ガンプラチームの前に立ちはだかるのであった。




さて、次回、新年一発目の更新はヤンキー3人組との激闘が繰り広げられます。
前のように瞬殺なるかガンダムサイファー。
意地を見せるかヤンキーチーム。
どうぞお楽しみに。そして良いお年を。

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