GUNDAM BREAKER 3 -異界の模型戦士-   作:バートレット

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Chapter2 Gundam Cypher Advance
第10話 KNIGHT


 新たに改造を施した機体を手に、ヒカルたちは早速実戦でのテストを行うつもりだった。

 だが、いざ出かけようとする前に、カドマツが待ったをかける。

 

「おっと、ちょっと待ってくれ。報酬の話を今のうちにしておきたい」

「今日までありがとう。私カドマツさんの事忘れない」

 

 報酬と聞いて、ミサの目から光が消失する。吐くセリフも実に感情がこもっていない。

 

「別に金払えって訳じゃない……こないだも言ったろ? 仕事手伝ってもらうって」

 

 カドマツは苦笑しながら、模型店の入り口を見やる。ちょうどハムさんが、外に停めていた車から大きなジュラルミンケースを運び込んできたところだった。

 

「それなんだがな、カドマツ。私もその仕事とやらの詳細を聞いていない。彼らに出来る範囲の仕事なのか?」

「ハムさんの言うとおりだよ。ハイムロボティクスのお手伝いなんて理工学系の知識が無きゃ無理でしょ」

「ロボットの技術関連となると……本当に僕らがやれることって限られますよ?」

 

 ハムさん、ミサ、ヒカルはそれぞれ首を傾げながら顔を見合わせる。

 カドマツは「心配すんな」、と言いながら、ジュラルミンケースのロックを解除した。

 

「まずはこいつを見てくれ。話はそれからだ」

 

 ジュラルミンケースの中に収められていた中身を見て、3人はそれぞれ息を呑む。

 

「ガン……」

「ダム……?」

 

 騎士のような鎧に身を包む、二頭身のプロポーション(スーパー・デフォルメ体型)のガンダム。知る人ぞ知るその名こそ――

 

騎士(ナイト)ガンダムだ!」

 

 ミサが声を上げた。

 

「えっ……これロボット!? この中世風味のガンダムが!?」

「あれ、ヒカルくん騎士ガンダム知らない人?」

 

 ミサは意外だ、と言わんばかりにヒカルの顔を見る。

 

「SDガンダムっていうのはなんとなく知ってたけど……」

「よし少年。今度私がリマスター版の映像ソフトを貸してやろう。それとスパロボBXもだ。騎士ガンダムの基礎教養を積んでおけ」

「なんで持ってるのさハムさん」

「ふっ……何故かな……」

 

 と、話が逸れかけたところで3人は自然と再びジュラルミンケースの騎士ガンダムに視線を戻す。電源が入っていないのか、カメラアイに当たる部分は光っていない。

 

「こいつはウチで開発中のトイボットだ。こいつの運用テストに協力してほしいんだ」

「玩具用ロボットか……こんなのが買える時代になったんだねぇ」

 

 ミサは感慨深く呟く。その言葉を聞いて、ヒカルは改めてとんでもない世界だ、と思う。

 ヒカルの世界にも、愛玩用のロボットはある。「ハロ」や「トリィ」といったものだ。だが、モビルスーツを2等身に縮めて騎士のようなキャラクターにした上、それをハロのような愛玩ロボットにしてしまう、そんなこの世界の文化に軽いカルチャーショックを覚えずにはいられなかった。

 

(まぁでも……ガンダム自体がテレビアニメになってるから、こういうのも出てくるか……)

 

 と、ヒカルは自分に言い聞かせて、ひとまず自分を納得させた。

 

「実際に売り出すのはもう少し先だがな。テストで合格できなきゃ、商品化は無理だ」

「テストって、私達は何をすればいいの?」

「こいつの売りは、子供と一緒に遊んでくれることなんだ」

「ふむふむ……あ、これ取説だ」

 

 カドマツの説明を聞きながら、ミサはジュラルミンケースの底にあった取扱説明書の冊子を取り出し、ぱらぱらとめくる。

 

「ガンプラバトルも一緒にできる」

「ガンプラバトルが……凄いな」

「ほう……器用なものだな」

 

 ヒカルとハムさんが驚嘆する中、ミサは騎士ガンダムの鎧の中をまさぐり、何やら操作している。すると、モーター駆動音が響き始めた。

 

「新しいチームメンバーってことだ。次からシミュレータに入る時は、こいつも連れて行け……って勝手に起動すんな!」

 

 説明の最中に騎士ガンダムが起動したのを見て、カドマツは慌てたようにミサにツッコミを入れる。

 起動した騎士ガンダムの目に光が灯り、漫画のような瞳が表示される。どうやらディスプレイになっているようで、表情によって表示が変わる仕組みらしい。

 騎士ガンダムは立ち上がると、辺りをキョロキョロと見回す。

 

「おぉー、立ち上がった! はじめましてロボ太!」

「勝手に変な名前を付けるなァ!」

「いいじゃんロボ太! かわいいじゃん、ねーロボ太!」

 

 ど直球なネーミングにカドマツはツッコミを重ねるが、ミサはどこ吹く風とばかりに、騎士ガンダム――ロボ太に同意を求める。が、ロボ太は答えない。

 

「あぁ……こいつ、言葉は理解できるけど、発声機能はついていないんだ」

「なんで?」

「あくまでおもちゃであるためだ。人の近くにいるロボットの開発ってデリケートなんだよ。特にトイボットは、子供の成長にどんな影響が出るかわからないからな」

 

 カドマツはロボ太が言葉を話さない理由を解説する。

 人の身近に存在するロボット開発では、様々な点で考慮すべき課題がある。その中のひとつで、カドマツが特に懸念しているのは、コンピュータの自然言語処理技術において発生しうる「ルーウェリン反応」だ。

 これは翻訳ソフトやIME、音声認識などで誤った形で言語処理をしてしまった時に、人間側が極端な拒否反応を示すもので、とりわけ年少の子供にとってはトイボットを「友達」とみなす上で意識的に障害となる。極端な話、そのトイボットに対して何らかの排斥行動――有り体に言えばイジメだ――が行われる可能性がある。子供の情操教育上、これは好ましくない。

 ならば、いっそ自然言語処理を最低限に抑える、つまり「言葉を理解するが自分から言葉を発することはない」という形で解決を図ろう、というのがカドマツの考えである。

 

「なんか、大人っぽいこと言ってる」

「大人だからな」

 

 ミサが変なところで驚愕するが、カドマツはさらっと受け流した。これも大人の余裕ってやつか、とヒカルは苦笑いを浮かべていた。

 

「いいからさっさとテストしてこい。上手く行けば、次のリージョンカップは3人で戦えるぞ」

 

 カドマツはそう言うと、一行を送り出すのであった。

 

 

 

 早速いつものゲームセンターにやってきた彼ら。ハムさんも「記録は私が引き受けた」と、一緒についてきた。

 

「ミサさん、ヒカルさん、ご来店ありがとうございます」

 

 案内ロボットのインフォが声をかけてくる。と、同行していたロボ太がすっと前に進み出て、インフォと視線を合わせる。

 

「――はじめまして、ロボ太さんですね。記憶します」

「なんで名前知ってるの!?」

 

 ミサが愕然としてインフォに詰め寄る。

 

「今聞きました。光デジタル信号で、ですが」

「それは『聞いた』うちに入るのか?」

「まぁロボットですから」

 

 ヒカルのツッコミを軽く受け流すと、インフォはクレーンゲームの筐体に向かっていく。どうやら景品の配置を直している最中らしい。

 

「さて、油を売っている暇はないぞ諸君。やることはやらねば。私の方で、バトルログとビデオ記録を行おう」

 

 ハムさんはガンプラバトルシミュレータのオペレータ席に座ると、携帯端末をかざす。

 ガンプラバトルシミュレータでは、バトルの結果を記録として残すことが出来る。実際のガンプラファイター側では自分の映像記録が中心になるが、オペレータ側では客観視点での映像記録――第三者からの記録となる。今回はロボ太の試験も兼ねるため、ハムさんが記録を取ったほうが良いということになった。

 

「念の為、こっちでも記録は取っときますけど……」

「そうだな、目は多いほうが良いだろう。記録、忘れんようにな」

 

 ハムさんの準備ができたのを見計らって、ヒカルたちはガンプラバトルシミュレータの筐体に滑り込んだ。

 ガンダムサイファー・アドバンスを3Dスキャナに設置し、データを読み込ませる。

 これまでの機体データから新機体に更新したためか、データのロードにやや時間を要した。と、ロードされていく機体データの中に、ヒカルは見慣れない表示を見つけた。

 

「『Burst Type』に『Burst Breaker』……? 『Burst Type』には『Assault』が設定されてる……こんなの設定した覚えがないな。『Burst Breaker』の方は、今のところ空欄か……なんだろこれ。後でカドマツさんに確認とるか……」

 

 ヒカルは首を傾げながら、操縦桿を握りしめた。機体データのロードが終わると、電脳空間上にガンダムサイファー・アドバンスの姿が映し出される。

 

「チトセ・ヒカル、ガンダムサイファー・アドバンス。オープンコンバット!」

 

 ヒカルは宣言と同時に、ブーストペダルを踏み込む。

 ガンダムサイファー・アドバンスは大空を舞い……巨大な日本家屋の軒先に着地した。

 

「……え? なんだこれ」

 

 周囲に視線をやる。自身の機体よりも大きい石灯籠が近くにそびえ立ち、奥に見えるのは広大な枯山水。日本家屋も巨大で、まるで巨人の世界に迷い込んだような心持ちだった。いや、違う。正確には――。

 

()()()()()()()()()()()なのか……」

《あー、今回このステージなんだ》

 

 何かを察したかのようなミサの声。

 いつの間にかミサとロボ太も出撃していたようだ。ミサのアザレア・カスタムの隣には、ロボ太の姿そっくりそのままの騎士ガンダム。

ヒカルは、カドマツが出掛けにロボ太に何か持たせていたのを思い出した。どうやら、これがロボ太の機体(ガンプラ)のようだ。

 

《このステージは私が選んだ。さぁ、存分に戦うが良い!》

 

 ハムさんが高らかに宣言し、ミサは何かを察したようにすぅっと息を吸い込む。

 そして思いっきり、声として吐き出した。

 

《趣味か!》

《フハハハハ、趣味に走って何が悪い!》

 

 ミサのツッコミを吹き飛ばす勢いの、ハムさんの高笑い。曖昧な笑いを浮かべると、ヒカルは操縦桿を握り直した。

 

「おしゃべりしてないで始めるよ」

《心得た》

 

 ヒカルの声に反応する声。だが、ミサの甲高い声でも、ハムさんのテンション高めの声でもなく、落ち着いた中にどこか気高さを有する雰囲気の、男性の声が返事をする。

 

《……え? 今、なんと?》

《どうしたミサ。私は『心得た』と返事をしただけだ》

 

 通信ウィンドウのアカウント名を反射的に確認したヒカルは、我が目を疑った。

 

「……あんた、まさかロボ太?」

《うむ》

 

 ヒカルたちは一瞬絶句する。ロボ太が、言葉を発しないと言われていたロボ太が。

 

《喋ったぁぁぁぁぁぁ!?》

 

 ミサがその場にいた全員の思考を代弁して、絶叫した。

 

《……あぁ、うむ。まずはそこから説明せねばならないか》

 

 ロボ太はようやく、彼らが仰天する理由に気がついたようだ。

 

《私は今、シミュレータに合成した音声データを入力している。それがスピーカーから出力されている状態だ》

《で、でもカドマツさんが喋れないって》

《カドマツは()()()()()()()()()()()、と言っただけだ。私のボディにはスピーカーが無い。シミュレータにはスピーカーがあるので、それに接続して外部出力を行えるようにしたのだ。ガンプラバトルというものは、チームで行うものだ。コミュニケーション手段が無ければ不都合だろう?》

 

 ロボ太の見解に、ハムさんがむぅ、と唸る。

 

《確かに、ロボ太の言うことには一理あるな。よし、準備はいいか諸君。間もなく敵が出現するぞ》

《うむ。さぁミサ、そして主殿。油断せずに進もう!》

 

 主殿、と言われて最初は誰かわからなかったヒカルは、一瞬首を傾げたが、今実際に、この場でともに戦うのは、ミサと自分とロボ太だ。すなわち、自分のことだと理解する。

 

「わ、わかった……参ったな、そういう風に呼ばれたの初めてで……」

《ちょっとぉ、なんでヒカルくんが主殿で私は呼び捨てなのぉ》

 

 ヒカルの困惑とミサの抗議に、ロボ太はふむ、と一言漏らす。

 

《私はカドマツがインプットしたデータに従っているだけだが》

《カドマツぅぅぅ!!》

 

 この場にいないカドマツに対して恨みの声を上げるミサ。だが、そうこうしているうちにNPC機体が続々と出現する。

 気持ちを切り替えて、ヒカルは目の前の敵機群と相対する。ステージはやや広めの日本庭園とは言え、周りを高い塀で囲われており、実質閉所での戦闘となる。

 

(あまり動き回れそうにないな……高低差が激しいから、横移動よりも縦移動か)

 

 ガンダムサイファー・アドバンスが地面を蹴る。跳躍後、スラスターを噴射して高度を取った。眼下に敵機体群が映る。ヒカルは数と種類を見極めた。

 

「アストレイのグリーンフレームが6、レッドフレームが4、ブルーフレームが4……なんだこれ、アストレイだらけだ」

《グリーンフレームで足を止め、そこをレッドフレームとブルーフレームで叩いてくると推測できる。主殿、レッドフレームにガーベラ・ストレートが装備されている、おそらく敵方のメインアタッカーはレッドフレームだ。なお、こちらの武装はナイトソードと電磁ランスだけだ、ブルーフレームが仕掛けてくる遠距離戦は分が悪い》

 

 ロボ太は機体構成から瞬時にNPC敵機の戦術を看破しつつ、ヒカルが欲しいと思っていた情報を即座に伝えてくる。

 その分析能力に舌を巻きつつ、ヒカルは2人に指示を出す。

 

「グリーンフレームの目をこっちに引きつける。隙が出来たところを、ロボ太が攻撃。ミサはロボ太のバックアップを頼む、ブルーフレームを騎士ガンダムから引き剥がしてくれ」

《了解!》

《心得た!》

 

 ガンダムサイファー・アドバンスが空中から飛び出した。コンソールで確認する限り、加速度、最高速の実績値はIWSPを装備していた時以上だ。

 

(ノワールストライカー、流石の機動力だ。IWSPの改良型って触れ込みだけはあるな……ちょっと、アレ試してみよう)

 

 ヒカルは着地のタイミングでペダルを軽く蹴る。

 グリーンフレームたちの遥か手前で着地したガンダムサイファー・アドバンスは、地面を再び蹴って跳躍した。タッチアンドゴーの要領で、再び飛翔する。

 そのまま、ヒカルは操縦桿を大きく倒し、トリガーを引き絞った。機体がバレルロールしながら、両手のホルスターからビームライフルショーティを引き抜く。僅かな時間の間に狙いをつけ、そのまま連射。目にも留まらぬ早業は、さながら西部劇の早打ち自慢のガンマンか、ハリウッド映画のガン=カタ使いだ。

 

《これが噂に名高い『マワール』……当時のガンダムゲーマーたちを魅了したあの技か》

《連ザⅡだっけ……大昔のゲームであったよね》

 

 ハムさんとミサが、そのダイナミックなマニューバに感嘆の声を漏らす。

 ビームライフルショーティの連射を受けたグリーンフレーム隊は、襲撃の主であるガンダムサイファーに注意を向け始める。そこへ、さらに追い打ちをかけるようにレールガンが放たれた。

 1機が直撃を受け、その身を散らす。グリーンフレーム隊はガンダムサイファー・アドバンスを脅威と認めたらしく、ツインソードライフルを構えて次々に迎撃する。

 その瞬間、グリーンフレーム隊と、レッドフレーム・ブルーフレーム混成隊は距離を離した。

 

「今だ!」

《ようし! 行くよロボ太!》

《うむ! 援護は任せた!》

 

 アザレア・カスタムの脚部ミサイルポッドから、6発のミサイルが一度に飛び出す。

 先行していたレッドフレームたちは、ミサイルの着弾を嫌い、足を止める。

 

《そこだ! 取ったァッ!》

 

 この機を逃すはずもなく、騎士ガンダムが接近してナイトソードを振るう。鮮やかな剣筋による奇襲に対応できず、レッドフレームの1機が手傷を負う。ブルーフレームが慌てて援護に入ろうとするが、

 

《やらせないよ!》

 

 ミサがマシンガンを浴びせ、ブルーフレームの注意を引きつける。レッドフレームとブルーフレームはさらに分断された。

 

《すごい、アセンブルシステム変えるだけでここまで変わるものなんだね……カマセ君が環境にこだわる理由、なんかわかる気がする》

「なるほどな……ハムさんが『世界が変わる』と言っていたけど、本当にその通りだ。これまで以上に世界が広がったな」

 

 新たに生まれ変わった機体を駆りながら、2人は「出来ることが増える喜び」を味わっていた。

 そうして機体の挙動を試しながら戦闘を続けていると、やがてアストレイたちは各個撃破され、全滅する。

 と、乱入のアラートが鳴る。対人戦が始まるようだ。

 

《他プレイヤーとマッチングされたようだ。さぁ、実戦で暴れてこい!》

《了解!》

「Roger!」

《心得た!》

 

 激励するハムさんに、三者三様に返答する。

 目の前に現れたのは3機だ。隊長機はゴッドガンダムを素体としたカスタム機。ただし、上半身を武者頑駄無に換装し、腰にガーベラ・ストレートを吊っている。

 脇を固める2機のうち、1機はギャンのカスタム機。使用されているパーツはローズガンダムやローゼン・ズールと、見事に薔薇づくしだ。

 さらに1機は、カプールのカスタム機。だが、脚部をガンタンクに改装し、塗装も迷彩。ガンタンクの脚の上にカプールがちょこんと乗っかっている状況は流石にシュールだった。その上、カプールのモノアイに当たる箇所から何故か砲塔が生えていた。

 

《おぉ! あれに見えるは彩渡町タウンカップ優勝チームではないか!?》

 

 通信ウィンドウが3つ開いた。3人とも女性のようだが、そのうちの1人から熱い視線が注がれているのを感じる。

 

《恐れながら申し上げます! 敵機体、事前の情報と武装が異なる模様! さらに不明な機体が1機……SD騎士ガンダムです!》

《騎士ガンダムだと!? ほう……騎士ガンダムのパイロット! 聞こえるか!》

 

 3人の女性のうち、瓶底のように分厚い眼鏡をかけた女性が、眼鏡の位置をしきりに直しながら報告する。と、それに反応したのが金髪ツインテールの、ひときわ鋭い目つきをした女性だった。

 

《騎士ガンダムのパイロットは私だ!》

 

 それに応えるロボ太。と、相手は目を丸くした。

 

《パイロットも騎士ガンダム……だとっ!? 貴様、まさか騎士ガンダムそのものだとでも言うつもりか!?》

《ロボ太、ここは期待に応えてやってくれまいか》

 

 相手が驚愕するのを他所に、ハムさんがチームチャット回線でロボ太にそっと耳打ちする。

 

《よ、良いのか? 私はただのトイボットなのだが……》

《ふっ、あの女性の目を見てみろ。期待に満ちているではないか。トイボットならば、応えてやっても良いのではないか》

《しょ、承知した……ぬぅ、嘘をついているようで気がひけるのだが……》

 

 ロボ太は困惑していたようだが、やがて意を決して進み出た。

 

《如何にも! 私の名はガンダム! その風体、さぞ名高き騎士とお見受けする!》

《その名乗り……やはり騎士ガンダム殿! 我が名はキシモト・ミキ! 練馬タウンカップ優勝、チーム・クロノクイーンが一人、”薔薇の姫騎士”ミキである! 戦場でこうして見えたのも運命、我がローズ・シュヴァリエと手合わせ願いたい!》

 

 時代がかったやり取りが繰り広げられる中、苦笑した相手チームのリーダーが通信越しに話しかけてくる。機体名は「頑駄無御前」。

 

《あっはっは……すまないね、あぁなってしまうとミキはどうにも止まらない。ご挨拶が遅れてしまったが、我々は練馬代表、チーム・クロノクイーン。私はリーダーのフジワラ・シズカだ。”白百合の女武者”、などと呼ばれている。さて、どうだろう彩渡商店街チームの諸君。ここで会えたのも何かの縁だ。我々と君たちそれぞれ1人ずつで、1対1のタイマン勝負と行かないか?》

 

 ヒカルは頷いた。

 

「彩渡商店街チーム、チトセ・ヒカル。そのお誘い謹んで受けましょう。よろしく頼みます、皆さん」

《誘いを受けてくれたこと、感謝する! では……私は君に挑戦しよう、ヒカルくん》

《自分はそこのアザレアに宣戦布告であります! タウンカップでの援護ぶりは自分も拝見しております! 感服仕切りでしたとも!》

 

 シズカに続いて、瓶底眼鏡の女性はびしっ、と指を指しながら宣言する。

 

《が、ガンタンク……ヒカルくん、交代しない?》

「しない。指名されているんだから、応えてあげないとでしょ?」

《ぐぬぬぬぬ……えーいわかった! 矢でも鉄砲でも持ってこーい!》

 

一応抵抗してみたが、ヒカルに正論で押し切られ、ついに開き直ったミサ。

1対1のタイマンバトル、3本勝負が幕を開けようとしていた。

 


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