GUNDAM BREAKER 3 -異界の模型戦士- 作:バートレット
リハビリがてらガンダムブレイカー3を題材にひとつ書いてみようと思いました。
頑張って書いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
第1話 ENCOUNTER
天まで届く一筋の光。
宇宙と地球を結ぶ、軌道エレベーターが完成して1年になる。
21世紀もすでに半分が過ぎようとしている頃、人類はついに宇宙開発の歴史に新たな1ページを刻んでいた。人々は、自らの成し遂げたことに誇りを持っていた。
もっとも、民間による月面旅行や宇宙コロニーへの移住はまだまだ検討段階の話である。実現には最低でも四半世紀以上はかかるだろう、というのが大方の見込みである。
軌道エレベーターの民生運用が開始されたこの日。1人の少女は手元の携帯端末を見て、ひとつため息をついていた。
「週末は家族で月旅行、なんていうのもまだ先なのが現実。私の現実は……毎日地元のゲーセン通いかぁ」
その少女、ミサは自嘲気味の笑みを浮かべながら、そのゲームセンター、『イラトゲームパーク』に足を踏み入れるのだった。
「ミサさん、本日もご来店ありがとうございます」
イラトゲームパークに入店して出迎えたのは、人型のロボットである。ピンクと白を基調とした女性的なフォルムだ。ディープラーニング技術の発展によって、高度なAIを搭載した作業用ロボット、ワーカボットは急速に社会に普及していった。インフォと名付けられたこの案内ロボットもそのうちの1体であり、人間との意思疎通も可能な高性能っぷりである。
「毎日お出迎えありがとうね、インフォちゃん」
「なんだい今日も来たのかい、悲しい青春送ってんねぇ」
インフォに返事を返すミサに声をかけてくる老婆がいる。このイラトゲームパークの店主、イラトだ。
「一応お客なんだから歓迎してほしいなぁ」
「だったらもっと金落としな。毎日いるだけじゃねぇか。あの金髪のあんちゃん見習いな」
「あの人は色々と規格外だよ」
イラトとミサが軽口を叩き合っていると、奥の方から子供が声をかけてくる。
「イラトばーちゃん! このクレーンガバガバ過ぎて景品取れねぇよ」
「黙りな! 景品が取れることはちゃんとチェックしてるんだよ!」
子供のクレームに威勢よく言い返すイラト。だが、子供は首を横に振って言い返す。
「インフォちゃんにチェックさせんな! 人間にはミクロ単位の操作なんてできねぇんだよ!」
当のインフォはミサと2人でイラトと子供の応酬を眺めていた。
「ロボットにできるのは100%までだよ。人間だけが限界を超えて120%の力を……」
「聞いたことある台詞で煙に巻いてんじゃねぇ! ちくしょう覚えてろよー!?」
子供は言い合いで勝てないと悟ったのか、捨て台詞を吐いて店から駆け出していくのだった。ミサは苦笑しながらそれを見送り、さて、と一言呟く。
「私、シミュレータ見に行くよ」
インフォに声をかけて、球体型の大型筐体が立ち並ぶ一角に向かおうとするミサに、インフォが声をかけて呼び止める。
「先程、初めてのお客様がシミュレータに入りました。そろそろプレイが始まる頃です」
その言葉を聞くと、ミサの表情がぱっと明るくなる。
「ホント!?」
そして、大型筐体のコーナー目掛けて駆け出すのだった。
ガンプラバトルシミュレータ。国民的な人気を誇るロボットアニメ、「機動戦士ガンダム」とそのシリーズ作品に登場する機体のプラモデル、通称「ガンプラ」を仮想空間上に投影して戦わせることが出来るゲームである。昔は大規模なイベントのみで遊ぶことが出来るものだったが、ついに業務用大型筐体としての普及が実現。各地のゲームセンターなどに続々と筐体が導入されていき、今や日本を飛び越え世界中で人気を博すゲームとなった。
まだ全てのガンプラに対応出来ている訳ではなく、作品も現状「鉄血のオルフェンズ」までのものに限られているが、思い思いに自分が作ったガンプラを戦わせることができるこのゲームは、老若男女を問わず、幅広い人気を集めていた。
「あれかぁ」
ミサの目に留まったのは、今まさに大型筐体内で操縦桿を握りしめた人影である。遮光されているため、その風貌まではわからない。ミサは、プレイ状況を示す大型モニターの前に腰掛けると、そのガンプラが出撃するシーンを見守る。
「……んん?」
ミサは首を傾げる。画面の中でカタパルトに接続したその機体は奇妙な違和感があった。
複数のガンプラのパーツを組み合わせている、いわゆるミキシングビルドが行われているのだが、塗装が一切されていない、出荷時の色プラ状態のままだったのだ。
パーツ自体の色が統一されていればまだ違和感が少ないのだが、頭部と胴体が白と青のビルドストライク、腕部も白のνガンダムに青のGNソードを装着しているのに対して、下半身は漆黒の機体色であるスサノオであり、バックパックも黒いIWSP。このカラーリングのアンバランス感、そして重厚な上半身に対して比較的ほっそりとした脚部というフォルムも、ミサが違和感を覚えたポイントだった。
「ほう、脚部をスサノオで構成するか……乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない」
その声にミサが振り向くと、白いジャケットに身を包んだ金髪の青年が立っていた。
「ハムさん! ……でもいいの、仮にも社会人がこんな時間にこんなところで」
「もちろんよくはない……が、今日はオフでね」
ハムさんと呼ばれた青年は片手を上げてそれに応える。
「さてミサ。……どう見る、あの機体」
「うーん……ガンプラ見る限りだと、ビルダー初心者なのかな。ファイターとしての腕がどうなのかは戦っているところを見てみないとだけど」
「同感だ。ガンプラの性能差が、勝敗を分かつ絶対条件ではないさ……見てみろ」
ハムさんが指をさす先では、当のガンプラが戦闘を始めていた。ステージは月面。重力が弱いこのステージを縦横無尽に飛び回りながら、GNソードを展開し襲い来るCPUのモブ機体を次々と切り払い、撃破していく姿に、2人は目を奪われる。
ウィンドウの隅に表示された機体名は、「ブレイカーストライク・リペア」。
「……リペア?」
「さしずめ、脚部の代替パーツとしてスサノオを選んだということだろう。何らかの理由で本来のパーツを失ったか、あるいはそういう設定か…」
IWSPのレールガンが火を吹き、やや遠くからビームライフルの狙いをつけていたMGサイズのRX-78ガンダムを吹き飛ばす様を見つめながら、ハムさんの解説が続く。
「武装の多いIWSPを見事に使いこなしている。あぁいう武装はうまく使わないと持て余してしまうものだ。それを自在に操るとは……あの少年、ファイターとしては到底初心者とは思えんよ」
「……少年って、顔も見てないのにわかるの?」
「ふっ……ガンプラの動きに、感情が乗っているのさ」
「はぁ……さいですか」
独特の物言いをするハムさんに、ミサはついていけないとばかりに首を振った。
そんな2人を他所に、ブレイカーストライク・リペアは一騎当千の戦いを続けていた。中遠距離の機体をビームマシンガンで牽制しつつ、動きを止めたところにレールガンや単装砲を撃ちこんで仕留める。接近してきた機体は2種類の実体剣――GNソードと二振りの対艦刀――を状況に応じて使い分けながら切り払っていく。その動きを支えるのがIWSPの高出力スラスターとスサノオの脚部だ。敵機の間を縫うように駆け巡りながら、的確に攻撃を当てている。
やがて、クレーター状の開けた円形ステージに差し掛かったその時、アラートが鳴り響いた。
「おぉ、どうやら対人戦が見られるぞ。ファイターとしての真価が問われるな」
「へぇ、誰が戦うんだろ……」
ミサは画面に表示された対戦相手の名前を見やると、なんとも言えない表情になった。
「あいつかぁ……」
「あ、そっか、これ戦闘シミュレータじゃなくて、ゲームだったもんな」
一方、ガンプラバトルシミュレータ内部では、当のブレイカーストライク・リペアを操る少年が我に返ったように手をぽんと叩いていた。
目の前に表示されたのは他プレイヤーの登場を知らせるアラート。続いて頭上に広がる宇宙空間から、1機のモビルスーツが降りてくる。ガーベラ・テトラをベースに、胴体などに若干の改造が加わった機体だ。カラーリングは金色をベースに、黒いランダムパターン。アクセントにカーキ色を配色している。
《おい、お前! この辺じゃ見ねぇやつだな》
表示された機体名はタイガーテトラ。その機体を操るファイターが、因縁を吹っかけてくるように声をかける。
《俺はタイガーってんだ。この辺でガンプラバトルをするならよぉ、まずは俺に挨拶してもらわねぇとな!》
いかにもステレオタイプなヤンキーめいた言い草に、少年の顔から苦笑が漏れる。
「凄いな……ホントにいるんだこういう人」
《おいこらテメェ、舐めてんのかァ!? あァ!?》
タイガーテトラは威嚇するように手に持ったマシンガンを突きつけてくる。と、その時、別の通信チャンネルが開いた。シミュレータ外部のオペレータ席からのようだ。オペレーションなんて頼んでないぞ、と少年が怪訝な顔をすると、
《あー、もしもーし、聞こえるー? いきなりごめんねー》
通信相手の少女の声が聞こえてきた。いきなりの通信で非礼を詫びてくるあたり、目の前のヤンキーより好感が持てる。
「いや気にしてないよ、むしろ気が紛れた」
《それは何よりだよ。それよりも、今乱入してきたの、初心者狩りが趣味の、タチのわるーいチンピラなんだ。でも、そんなに強くないから安心して》
《お前、外から邪魔すんなよ!?》
タイガーと名乗るヤンキーは通信に割り込んできた少女に罵声を浴びせてくる。しかし少女はどこ吹く風と言った様子で受け流す。
《あのさぁ、いい加減初心者に絡むのやめなよ。私が相手になるよ?》
《ふざけんなよ! 俺は女には手を出さねぇ! 俺より強い女にはな!》
少年の口から「うわぁ」と声が漏れた。あまりの言動に口角が引きつるのを感じる。
《いやぁ……ヘタレだねぇ……あー、君、さっさと倒しちゃっていいよこんなの》
「……あいよ」
気を取り直し、集中する。マシンガンと大剣、それがこのタイガーテトラの得物だ。マシンガンで牽制しながら大剣で強引に仕留めにかかる戦闘スタイルか。少年はそう判断した。
となれば、と思考を終え、少年は機体を動かす。単装砲をタイガーテトラの足元に向けて一発。即座に武装を切り替え、今度は前方にレールガンを一発。初撃の単装砲を避けようとしたタイガーテトラは、2段構えで放たれたレールガンをまともに食らって動きが止まる。
《んなァっ!? 初心者のくせにコスい手を……ッ!?》
タイガーが悪態をつきながら機体を立て直そうとすると、すでに至近距離にブレイカーストライク・リペアが立っていた。GNソードを大きく上方向に振り抜いている。
数瞬の沈黙。タイガーは、自分の機体の左腕が無くなっていることに気がつく。
《……え?》
ドスン、という音。少し離れた場所に、さっきまでついていたタイガーテトラの左腕が転がっていた。
《速っ!?》
《んなァ!?》
《なんと!?》
3人分の驚きの声が聞こえてくる。
「止まって見えるよ」
対象的に、冷酷に告げる少年。
《てっめェ……ざけやがってェ……!》
その挑発とも取れる言葉に、タイガーは怒りに任せて機体を突進させてきた。
《そんなァ!》
すると、予備動作無しでGNソードが振り下ろされ、右腕も吹き飛ばされる。
《初心者がァ!》
すぐさまGNソードを納刀、対艦刀でタイガーテトラの首を刎ねる。
《いるわけねェだろォォォォ……!》
そしてレールガンを接射。両足が吹き飛ばされ、各部パーツを撒き散らしながら、タイガーテトラの胴体は月面に叩きつけられた。
「そんなんじゃあ……長生きできそうにないよ、戦場では」
少年は1人呟くと、まだアーマーポイントの残っているタイガーテトラめがけて、GNソードを突き立てた。
《お、覚えてやがれ……!》
捨て台詞と共に、タイガーテトラはついに爆散した。
《BATTLE ENDED》
ふぅ、と少年がため息をひとつついて、バトル終了のアナウンスを聞いた。
スキャナーに置かれたガンプラを手に、球体のゲーム筐体から外に出ると、待ち構えていたのはミリタリージャケットを羽織った少女だ。先程の通信で茶々を入れてきたのはこいつか、と思う。
「やー、お疲れ! 君結構強いねぇ」
「ほら、やはり少年ではないか」
その後ろでしたり顔をしている金髪の青年に、少女は苦笑する。
「ハムさんって時々妙に勘がいいよね。ニュータイプか何か?」
「ふっ……心眼を鍛えていると言うだけだ」
得意げな顔をする青年。それに曖昧な笑みで応えた後、少女は向き直る。
「あ、ごめんごめん、私の名前はミサ。初めまして、よろしくね。こっちはハムさん」
「ご覧の通り、社会人だ」
「はぁ、ども。僕はヒカル、よろしく」
互いに自己紹介をする。ヒカルと名乗った少年は、ミサという少女とハムさんと呼ばれた青年を交互に見つめる。
「確かにこの辺じゃ見ない顔だけど……どっかのチームに入ってるの?」
と、ミサがそんな事を聞いてくる。ヒカルは少しだけ考え込んだ後、答えた。
「……いや、入ってないけど」
「え、入ってない? ……コレはコレは好都合」
キョトンとする少年に、ミサはにやりと笑うのだった。
いつまでもゲームセンターにいるのもなんだ、というハムさんの提案により、3人はミサの家が経営しているという模型店に向かうことになった。
ハムさん曰く、「まずは君の機体をじっくりと見てみたい」ということである。
模型店に向かう道すがら、ミサは事情を話し始めた。
「どこから話そっか……私の地元は小さな商店街なんだけど、駅前に百貨店が出来てから、お客さんが減っちゃってね」
「駅前の百貨店? あのでっかいアレのこと?」
遠くに見える駅ビルを指しながら、ヒカルは聞き返す。
「そそ、タイムズユニバースって聞いたことあるでしょ」
「タイムズユニバース?」
オウム返しに聞き返すヒカルに、ミサは仰天した。
「……え、知らないの!?」
「世の中のことに疎くてね」
肩をすくめるヒカルに、ハムさんがなるほど、と頷く。
「少年、ニュースはチェックしておくものだぞ。タイムズユニバース……多角的に事業を展開する世界的な大企業だ。ミサの言った百貨店のような小売業のみならず、飲食業、住宅業、出版、コンピュータソフトウェア……様々な市場を席巻している。最近では宇宙開発事業にも乗り出していると聞く」
ミサはハムさんの解説に頷いた後、話を続けた。
「ま、そのタイムズユニバース百貨店が駅前にできて、ウチの商店街のお客さん、みんな取られちゃったんだ」
心なしか肩を落とすミサ。いつしか一行は、当の商店街――彩渡商店街にやってきていた。かつては賑わっていたようだが、今はシャッターを下ろした店舗が目立ち、人の気配も少ない。テナント募集中、の張り紙が虚しく風に煽られている。
「そこで、私は商店街の名前でガンプラバトルチームを作って、商店街の宣伝をしようと思いついたってわけ」
「あぁ。今やガンプラバトルは各種メディアを賑わせているからな。ガンプラバトルで有名になれば、一種の名所として人々も集まってくるだろう。ミサのご実家の経営も潤うだろうしな」
「そういうこと」
なるほどね、ようやく話が見えてきた、とヒカルは思う。
「つまり、この商店街のガンプラチームに入ってほしいってことね」
「正解! 是非とも我が彩渡商店街ガンプラチームに君をスカウトしたいんだよ!」
こうして、1人の少年と1人の少女が出会った。
この出会いが、様々な人々の運命を巻き込んでいく物語の始まりになることを、まだ誰も知らない。
主人公のヒカルくんの機体は、自分がプレイした時にガンダムブレイカー2からコンバートしてきた機体データを元に構成しています。
アセンブルは以下のとおりです。
機体名:ブレイカーストライク・リペア
HEAD:ビルドストライクガンダム
BODY:ビルドストライクガンダム
ARMS:νガンダム
LEGS:スサノオ
BACK:ストライクルージュIWSP
SHIELD:∀ガンダム
WEAPON:ビームマシンガン(ギラ・ドーガ)
GNソード
何故初期機体ではないのかは…勘の良い読者の皆様ならばお気づきかもしれませんね。
あと、ハムさんはお察しの通りグラハム・エーカーのそっくりさんです。
次回は、彼がブレイカーストライク・リペアをきちんと組み直す話です。お楽しみに。