本来の歴史をなぞれば、ユグドラシルが終了して辿り着いた新たな世界にはナザリックの主柱であるモモンガが存在した。

しかし、モモンガはなぜか共に新世界を訪れる事ができずに、ナザリックだけが転移してしまった。至高の41人が誰一人存在しない世界で、人類やNPC達は生き延びる事ができるか……

全ては、黒歴史の手に委ねられる。

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なお、序盤はめっちゃシリアスです。


始まり

 『YGGDRASIL』は日本においてDMMO-RPGの代名詞とまで言われたゲームである。

 

 そのゲームのプレイヤーであり、重度の課金兵でもあるモモンガはナザリックで初めて友達を得て、そんな友達がこの地を去っていくのを見守り続けた。きっとまた一緒に冒険できると信じて。

 

 しかし、何事にも始まりがあれば終わりもある。DMMO-RPGそんな代名詞とまで言われたゲームも終わりを迎える日がやってきた。モモンガの願いは叶わなかったのだ……

 

(終わり、か……俺も死んだような物だな。違うな、モモンガは死ぬんだ)

 

 プレイヤーは自分以外、誰もいない玉座でモモンガは頭の中で呟やく。傍観を込めて。夢なら覚めてくれと願いながら。

 

 ナザリックにただ一人残りし王は、ちょっとした悪戯の感覚で守護者統括の設定を書き換える。シモベ達をひれ伏せさせ、ただ玉座に鎮座する。モモンガは本来ここで最期を迎えるつもりだった。だが思いつく。思いついてしまう。

 

(俺は、モモンガは滅びるんだ。なら最後を迎える場所はここじゃ駄目だな……もっと相応しい場所があるからな)

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い宝物殿へ転移を行う。目的地は霊廟である。死に場所はそこ以外ないはずだ……仲間達(アヴァターラ)もいるのだから。

 

「……美しいな」

 

 仲間たちとの冒険の証である、宝の山を感慨深げに眺めながらフライの魔法で飛び越えて扉の前に向かう。できる事ならゆっくり宝の山を踏破したいが、サービス終了まで時間はないのだから。

 

「ここに来るのも久しぶりだな……さて、何だったかな?」

 

 この先に向かうためには、特定のパスワードを言う必要があるのだが、残念な事にモモンガは覚えていない。当然ではあるが、目の前にある闇に隠れた扉は何の反応も示さない。侵入者を拒むための物として考えれば当然だ。パスワードを言わなければ、ナザリックの者とて入れるべきではない。

 

 だがそれでは困るのだ。ここを超えなければ、目的地にたどり着けないのだから……だからこそ、ナザリックにおいてほぼ全ての場合に使用できるパスワードを発する。

 

「『アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ』……栄光、か」

 

 自分が発した言葉に反応して骸骨の顔を顰める。いや、正確には顰めようとしたのか。表情を動かす機能は存在しないのだから。

 

 表情が動く機能がないのに、動いたと思うほど、今のモモンガにとって許容できない言葉だからだ。『栄光』 本来なら輝かしいはずの言葉が、ただ虚しく木魂して、モモンガの心を締め付けている。いや、終わりの時だからこそある意味では正しいのかもしれないが。

 

 パスワードに従うように、漆黒の扉には文字が浮かび上がっている。まるで速く、扉を開けと自分を急かすかのように。実際急かしているのかもしれない。これが最後になるのだから……思わず歯を噛み締めてしまう。

 

「なぜ俺には力が無いんだ……なぜ、ナザリックが滅びる事を甘受しているんだ!」

 

 憤怒が巻き上がる。ここには彼の怒りを鎮める事が可能な物は誰一人いない。ただのゲームである以上、アンデッドの特性が発動する事もない……それでも、モモンガはこの道を進む。

 

「――かくて汝、全世界の栄光を我がものとし……暗きものは全て、汝より離れ去るだろう――」

 

 ところどころ詰りながら――怒りかもしれないし、悲しみのせいかもしれない――パスワードを発する。自分の言葉に心を引き裂きながら……そう、所詮はゲームなのだ。暗きものは離れ去る事もなく、栄光を我がものにする事も叶わなかったのだ。一時期は叶っていただろう。だが今では残滓しか存在しない……それもあと少しで失われるのだ。

 

「行くか……」

 

 開かれた扉の先には先程までの宝の山とは違い綺麗に整頓されて鎮座している。ただ大切な思い出を思い出しながら横ぎる。

 

「あの武器を手に入れた時は楽しかったな。たっちさんとウルべルトさんはいつも通りケンカしてたっけ。茶釜さんとぺロロンチーノさんもケンカしてたな。今思い出すと、みんな好き勝手な事をしてたな……懐かしいな」

 

 楽しかった記憶を思い出すたびに心を締め付けられる。だってもう無くなるのだ。楽しくも辛い思い出を鮮明に思い出しながら、通路を抜けると広い空間が見える……今までが博物館なら、ここは古墳だ。

 

 その場所には、かつての仲間の姿をした物がいた。もし本物ならモモンガは狂喜乱舞して喜んだだろう。しかしモモンガは知っている。あれはただのNPCに過ぎないと……たっち・みー以外の仲間達の能力を8割方使用できるだけの存在に過ぎないのだ。

 

「戻れ、パンドラズ・アクター……そして、ひれ伏せ」

 

 命令に従い彼の姿が歪む。目と口の部分は何もなく、顔全体がのっぺりとしている。服装はリアルで話題になったネオナチの親衛隊の制服に酷似している……若気の至りで自分がカッコいいと思った姿だ。

 

 ただ何となく懐かしく感じて話しかける……意味がないと知りながら。

 

「パンドラズ・アクターよ。私は死ぬのだ……ナザリックもユグドラシルも滅びるのだ。残り僅かで」

 

 誰かが見たらモモンガを笑ったかもしれない。ただの人形(NPC)に話しかけているのだから。だが何となく言わなければならないと思ってしまうのだ。

 

「私はリアルでは取るに足らない程弱いのだ。ウルべルトさんの様に悪に括る事もできない。たっちさんのように正義に括る事もできない。ただ甘受するだけの運命だ……いまだってそうだ。ユグドラシルが滅びる事……ナザリックが滅びる事を甘受している。力が無いから甘受するしかない……どうして私は弱いのだ!!」

 

 ただの人形(NPC)に自分の願いを叫んでしまう。もし自分が強ければ……力があればこの結末を変える事も出来たのかもしれないのだから。

 

「馬鹿な事を言った。すまないな」

 

 そのままリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン全てをパンドラズ・アクターに渡して横を通り過ぎるが、ふと何かを感じて立ち止まり見返してしまう。

 

「……敬礼せよ」

 

 その言葉に従い膝をついたままのパンドラズ・アクターが立ち上がり、自分に向かい敬礼をする――その姿は何かを訴えようとしているようにも見えたかもしれない――

 

「やっぱり膝をついているより、敬礼している方が良いよ……そのまま滅びを否定する事も出来ない創造主を見送ってくれ」

 

 モモンガは恐ろしい事を……厨二病だった頃の自分を認める。だがそれでも良いのだ。最後なのだから。昔の自分(厨二病)に戻った方がいいと考えて……仲間達がいた頃に戻った方がいいと考えて。

 

「……お前に、私が持つ多くのアイテム達を与えよう」

 

 馬鹿な事だ。自分が滅びる時に共にナザリックも滅びるのだから。でもそれが何故か正しいと考えてしまったのだ。そして自分の主武装とスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。かつての仲間達の武装以外アイテムボックスから何もなくなる。自分の物がアイテムボックスに何もないのは怖いぐらいだ。

 

「もしお前が、私と同じように滅びなければ後は好きなようにしろ」

 

 だだの戯言だ。厨二的発言だ。だが今だけは良いだろう……厨二病だった証も全て消え去るのだから。

 

「さらばだ、パンドラズ・アクター!」

 

 後ろを振り返らず、モモンガは霊廟に進む。モモンガを引きとめられる存在はまだいないのだ……それに時間も残り5分を切っているのだから。

 

 そしてついに仲間達の化身(アヴァターラ)が安置された場所に辿り着く……自分で作ったため多少不格好であるが……モモンガは4つだけ場違いの様に空いている空間の一つに向かい……像と同じように自分も立つ。

 

「……間に合ったな」

 

 モモンガは消える(死ぬ)のだ。ならば霊廟で終わるべきだ。モモンガは自分に指を向けて次々と仲間達の名前を呼び上げる。

 

「俺、たっち・みー、ウルベルト・アレイン・オードル、ぺロロンチーノ、ぶくぶく茶釜……」

 

 化身(アヴァターラ)が存在する仲間達全てをモモンガは呼び上げる……3人ほど足りないのだ。自分が作っていないのだから当然だ。

 

「やれやれ。これなら、3人の分も作っておけば良かったな」

 

 呟きながら……化身(アヴァターラ)の代わりに仲間たちの武器だけを鎮座させる。仲間達の代わりになると信じて。既に終了までの時間は1分を切っている。

 

「……もう一度、みんなと冒険したかったな」

 

 モモンガは目を瞑りスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手放しながら、自分の願いを発する……それと同時にユグドラシルのサービスが終了して、強制的に排出される……目を開ければ、いつもの何の変哲のない自分の部屋だ。

 

 ユグドラシルにインする前と何の代わり映えもない、自分の部屋だ。

 

「……終わったんだな……」

 

 明日の仕事のために布団に入る……モモンガは、否、鈴木悟は泣きながら眠りに付く。自分の青春が完全になくなったと理解して。

 

★ ★ ★

 パンドラズ・アクターは言葉を発することなくただ言葉を聞き続ける……否、彼には自ら話す事はできないのだ。

 

「パンドラズ・アクターよ。私は死ぬのだ……ナザリックもユグドラシルも滅びるのだ。残り僅かで」

 

 

 モモンガの言葉に驚愕したパンドラズーアクターは質問を投げかけようとする。しかしかけられない……まだ彼にその機能はないのだ。

 

(何故動けない……何故喋れない! 何故だ! 我が神は悲しんでおられる……何故何もできない!)

 

 もし本当にナザリックが滅びるなら、パンドラズ・アクターはせめて、道化として振舞いモモンガを慰めるべきだ。現状ではそれすらできない。

 

「私はリアルでは取るに足らない程弱いのだ。ウルべルトさんの様に悪に括る事もできない。たっちさんのように正義に括る事もできない。ただ甘受するだけの運命だ……いまだってそうだ。ユグドラシルが滅びる事……ナザリックが滅びる事を甘受している。力が無いから甘受するしかない……どうして私は弱いのだ!!」

 

(いいえ! いいえ! あなた様は弱くなどありません! お一人で……ずっとお一人でナザリックを維持なされてこられました! それに私を創造なさってくださいました! なにも出来ないなんてありません! 例え誰が否定しようとも私だけはあなた様を肯定します! 何故だ、何故喋れない!)

 

「馬鹿な事を言った。すまないな」

 

 モモンガは自分に霊廟に入るのに邪魔になるリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡して自分を追い越して進む……自分を視界から外して。ここでモモンガが去るのを見送れば永遠に後悔する。

 

(動け、動いてくれ……我が体よ! 今動けないなら私に存在価値はない。動け、動け! 例えこのままでいる事が、モモンガ様の御意志だとしても逆らうべきだ! 動け!!)

 

 そして奇跡が起きる。彼が動けたかは分からない。だがモモンガは何かを感じたように振り返ったのだ。

 

「……敬礼せよ」

 

 唯一敬礼の為だけに体が動く。だからこそ今までで一番と言っても過言ではない敬礼をする。言葉は未だに発する事はできなかった。

 

「やっぱり膝をついているより、敬礼している方が良いよ……そのまま滅びを否定する事も出来ない創造主を見送ってくれ」

 

 パンドラズ・アクターを見て、寂しそうに笑う。自らの体を通して過去を見ているのだろうか?

 

(………当然でございます……モモンガ様がお定めになった敬礼なのですから。ですが、我が神の御命令であろうともそのご命令には従えません……無駄だとして、モモンガ様をお守りする御命令を! どうか!)

 

 パンドラズ・アクターの意思はモモンガに伝わらない。彼は喋れないのだから。

 

「……お前に、私が持つ多くのアイテム達を与えよう」

 

 モモンガは一体どうやって集めたかわかない程の莫大なアイテム全てをパンドラズ・アクターに譲渡する。パンドラズ・アクターの意思(意思を伝えられないシモベ)を無視して……

 

(そんな物必要ありません! どうか、御命令を。我が神よ……どうか、お願い申しあげます……)

 

「もしお前が、私と同じように滅びなければ後は好きなようにしろ」

 

 モモンガが念願の命令を下す……だがそれはパンドラズ・アクターの望む命令ではない。その命令はモモンガが死した後の命令だ。つまり遺言だ……モモンガはナザリックも滅びると言っている。しかし、それでも滅びないで欲しいと願っているのだ……だとしてもその命令は容認できない。

 

(モモンガ様達が存在しないナザリックに、アインズ・ウール・ゴウンに価値はありません! どうか、御再考を!!……どうか、動けと御命令下さい……)

 

 そしてモモンガはパンドラズ・アクターに見送られながら、霊廟に向かう……モモンガとパンドラズ・アクターの会話は終わったのだ。そして彼が言葉を発せられたとしても……結末は変わらない……それでも話したいのだ。動きたいのだ。だが叶わない。――まだ彼は生物として存在していないのだから――

 

 パンドラズ・アクターはレベル100NPCだ。そのため聴力も相応の物を持っている……だからこそ、モモンガの霊廟での呟きを、敬礼したままの状態で聞いてしまう。モモンガを除いた、至高の40人の名前が次々と呼ばれる。何かを思い起こすかのように。

 

 3人の化身(アヴァターラ)を作っていなかった事の後悔も……彼らの武器を代用品にした事も……そして、終わり(始まり)が訪れた。

 

『……もう一度、みんなと冒険したかったな』

 

 モモンガのその言葉が発せられた瞬間、パンドラズ・アクターは動けるようになる。もう霊廟にはモモンガの気配は存在しない……だとしても認められない、パンドラズ・アクターはすぐさま全てのリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを投げ捨てる。その行動には一切の躊躇いが無い。至高の41人だけが身に付ける事を許された物を身に付けて、それを投げ捨てる。他のNPCが見れば怒り狂い、殺し合いが始まったかもしれない……だが今の彼にとっては関係が無い。現状ではリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは霊廟に入る事を邪魔する物質にすぎないのだ。

 

「モモンガ様!! 御無事ですか!!」

 

 そして彼は見た。モモンガが今まで装備していた……世界級(ワールド)が……神器級(ゴッズ)達が虚しく地面に落ちていた。ギルドの武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは主を求めるかのように……空中を漂っていた。彼の感覚が教えてくれた通り、その場に絶対であるはずの神はすでに存在しなかった。

 

「……あ」

 

 理解する。理解してしまう。他のNPCなら理解できないかもしれない。デミウルゴスやアルベドなら必死にリアルの世界にただ帰っただけ、死した訳ではないと自分を偽るだろう。だがパンドラズ・アクターはモモンガの心からの叫びを聞いている。いままでただ一人で、悲しみながらナザリックを支え続けて来た事を知っている……共に、至高の41人を見送った事もある。だから彼は正しく理解する。唯一ナザリックに君臨し続けた、ナザリック最後の支配者も…

 

『死んだのだ』

 

「あああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 至高の41人の祀った霊廟に相応しくない、パンドラズ・アクターの狂ったような叫びが響き渡る。それを化身(アヴァターラ)達が……スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが……同じように主と共に消える事ができずに残された武器達が眺めている。

 

「私は……何も、できな、かった」

 

 パンドラズ・アクターの言葉は途切れ途切れだ……当然だ。彼は泣いているのだから。パンドラズ・アクターは無意識のうちに膝をつきながら泣き続けた……何かに絶望した、ただの人間のように……もしかしたら、モモンガが仲間達が離れた時、同じ心境だったかもしれないが。もうパンドラズ・アクターを慰められる存在はいないのだ。

 

 ――彼の絶望は、とても深い。他の多くのNPCは至高の41人がいつかきっと、帰って来てくれると信じている。自らの主が帰ってこない事を、理解している者達もいる。だとしてもモモンガの最後を予想している者はいない。中には、他の神々のように、リアルの世界に帰られて、訪れなくなる可能性を理解している者もいたかもしれないが。

 

 だが、ここに全ての可能性は潰えた。モモンガの死と言う最後で。

 

 至高の41人が、ナザリックを訪れる事は二度と無い。

 

 ナザリック地下大墳墓は名実共に、今は亡き神々の御霊を奉る場所に変わったのだ。

 

 全てのNPC達に絶望を齎すしかない事実を理解しているのは、墓守であるパンドラズ・アクターだけであった――

 

★ ★ ★

 

 暫く泣き続けたパンドラズ・アクターは必死になって起き上がり、モモンガの願いであった創られていない至高の御方の化身(アヴァターラ)を作成する……宝物殿のアイテムを勝手に使って……だが構わないだろう。もう、咎める存在は誰もいないのだから。

 

 

 この作業は至高の御方をその都度確認できる彼に向いた作業と言えるだろう……至高の方々の化身(アヴァターラ)の作製が完了した後……自分の創造主である、モモンガの化身(アヴァターラ)の作製に乗り出す。手元が狂いそうになるのを必死に抑えながら作業を続ける。例え『死』を認識していても……辛いのだ。

 

(……我が神は……モモンガ様は私以上にお辛かったはずだ)

 

 冷静に、淡々に……必死に自分に言い聞かせながら……自分は墓守なのだから。この作業は他の誰にも譲れない。否、他のNPCは認識すらしていないだろう……モモンガの死を。だからこそ自分がするべきだ。

 

 完成した化身(アヴァターラ)に武器を装備させる……最後にスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを装備させて完成だ。

 

 そして、パンドラズ・アクターはする事が無くなり……ただ、モモンガの声が思いが自分の中に木霊し続ける。みんなと冒険したかったとの声が。

 

 だが何もできない。できるはずが無い……パンドラズ・アクターはただ絶望に打ち拉がれるだけ――

 

(本当にそれでいいのか? モモンガ様の最後の御命令は……私の好きなようにしろ。何故か分からないが、私は生きている……モモンガ様と違って)

 

 自らの拳を強く握り込む。怒りを、自分自身への怒りを込めて……パンドラズ・アクターは影武者なのだ。もし仮に、パンドラズ・アクターが8割ではなく……完全に影武者としての役目を担う事ができれば、死んだのはモモンガではなく自分だったのではないか?

 

 論が飛躍している事も、何故死んだかが明らかでない現状でパンドラズ・アクターの考えは愚かだ。だとしても考えてしまうのだ……何か救う方法があったのではないかと。

 

「……私は」

 

 考えを纏めるかのように、長い時間が経過する。数日だったかもしれない。数時間だったかもしれない。しかし、この場所は時間が止まった場所。時間なんて関係が無い。重要な事はパンドラズ・アクターが大きな決断をした事だけだ。

 

「……我が神よ。私はあなた様をお守りする事ができませんでした……モモンガ様がお辛い時に慰めることすらできませんでした。許される事ではありません……ですが私はモモンガ様の御命令に従い、私の生きたいように、我が心が望むままに生き抜きましょう」

 

 モモンガに懺悔をしながら自分の決意述べる……そして至高の方々にも決意を表明する。

 

「至高の御方々、どうかお許しください。私はこれより、全ての職務を放棄致します。そう、全ては……」

 

 力強く、霊廟に存在する全ての存在に見えるように敬礼をする。彼が今まで行ってきた敬礼の中で一番の意思が……命令ではなく、自らが自発的に行うものを。

 

Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みとあらば)!」

 

 ――この世界でどのような歴史を創られるかは誰にも分からない。しかし、人を代表する法国や法国に守られる国々。エルフやドワーフの国々。亜人達の国々や異形種達。始原の魔法を操る竜王が評議員を務める評議国。国に属さず、自らの思うが儘に生き抜く者達。

 

 延いては、ナザリックに属するNPC達。全ての存在に希望なんてものはない。彼らは苦難の道を歩むのだ。

 

 既に幾つかの種族や国々は絶滅や滅亡の危機に瀕している。竜王やそれの対抗馬となっている法国とて、余裕が存在する訳ではない。特に人は滅亡の危機がありながら、常に内輪もめをしているのだから。

 

 もし仮に法国が全戦力を使用すれば、人の脅威の多くを潰す事も出来るだろう。しかしそれを実行すれば、この世界の守り手たる最強の竜王と決定的対立が生じる。そうなれば、戦いの余波で全てが破滅を迎える。どちらかが勝利したとしても、余波で致命的な被害を受けるはずだ。

 

 これだけなら、竜王と法国は消極的共存することも不可能ではなかった。だが、ここにある要素が加わる。

 

 ナザリックだ。主が誰一人存在しないNPC達だ。全てに絶望して、自殺する者達もいるだろう。中には、自らの創造主の創造理由に縋る者達も出てくるだろう。

 

 ナザリックが存在する。ただそれだけで均衡は脆くも崩れさる。全ての種族達は滅亡への道を歩み出したのだ。

 

 もし、滅亡への道を止める事ができるとしたら―― 




ようこそ、至高の御方々不在のナザリックへ(´・ω・`)

少し追加修正。

2話は一旦削除。続きは、作者の別作品が終わったらになります。


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