学戦都市アスタリスク TRILOGY   作:宙の君へ

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刹那は悪気はないんだ、純粋なだけなんだ


第6話 事後の日常

「痛っー!」

「全く、無茶するからですよ?」

 

現在刹那とユリスはクローディアに手当手をしてもらっている。幸い切り口は浅く、包帯を巻くだけで済んだ。それでもしばらくは安静が必要だが。

 

「刹那もです」

 

ちょんと腕を突くと、声にならない悲鳴を上げピクピクと痙攣した。

 

「お、お前ってやつは・・・・・・!」

 

涙目になりながらクローディアを睨むが全く効果なし。ニコニコ笑みを浮かべていた。

 

「あなたの建御黒雷神(あの技)は自分の体に負担をかけるのでしょう?」

「わかっているのなら、俺の体に触るな!バカ女・・・・・・!」

 

その言葉にムッときたのか、今度は太股を思いきり叩いた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!??」

「バカはどちらですか」

(何だかんだ言ってる割には仲良いな。コイツら)

 

ユリスはそんな光景を微笑ましく思う反面、どこか羨ましいような感情が押し寄せてくる。

 

「と、とにかくだな。リースフェルトが無事で何よりだ」

「ええ、心配しましたが、無事で何よりです」

「ああ。私は助けられてばかりだな」

 

俯きながら言うリースフェルトの頭に手を乗せ、少し乱暴に撫でた。呆けた顔のリースフェルトを見て僅かに微笑えむ。

 

「気にするな、いつでも頼れ。力になる」

 

その顔に一瞬見惚れたが、すぐにパッとそっぽを向く。その顔は真っ赤に赤かった。

 

「?」

「あらあら、ユリスも若いですね」

「か、からかうのはよせ!クローディア!」

「そういう会長も若いぞ?」

「お前は意味をわからず使うな!」

 

そう言って立ち上がり、クローディアの頭も撫でた。

 

「職務も大切だが、たまには休息を取れ。顔色、初めてあった時より優れていないように見える」

 

いつもは無表情でバッサバッサ酷いこと言うのにこういう時だけ優しくなるのはいささかずるいと思う。改めて近くで見ると背も高いし、人形みたく整った顔。変に意識してしまい、クローディアもユリス同様、赤くなり俯いてしまった。

 

「ん?どうした、会長」

「い、いえ・・・・・!」

(自分は触られたくないって言ったのに自分から人に触るなんて、何なんですか、あなたは!)

 

そんな悪態をついたが、どこか嬉しくも思えた。刹那に自分という存在がやっと認識されたかのように思えたのだ。

 

「ーーーーー」

「・・・・・あの、刹那?どうして私の顔を・・・・・・?」

(《閃理眼》)

 

刹那の瞳が僅かに黄色を帯びる。クローディアから発せられている電磁波を読み取り、記憶を探る。そして一つ見つけたかと思うと、

 

(な、なんだこれは・・・・会長は毎夜こんな夢を・・・・・!?こんなの見続けたら狂うぞ!)

 

それは自分の死に様を毎夜夢として体感しているというものだった。

 

(これは・・・・・会長の持つ純星煌式武装(オーガルクス)の「代償」とやらなのか・・・・・?)

 

そこで《閃理眼》を切り、改めてクローディアを見ると、

 

「・・・・・なんだ?」

 

顔色があまり優れない理由は睡眠にあると踏んだ刹那は《閃理眼》を使い改善点でも述べようかと思ったのが、全く別なものを視てしまったし、何やらユリスの視線が痛いし、クローディアはポーッとした表情で自分を見るし。

 

「会長、しっかりしろ」

「ふあ・・・・・!?」

 

ハッと我に返ったのはいいのだが、変な声が聞こえた。まあ、聞かなかったことにしておこう。

 

「と、ところでな刹那」

 

おもむろに話かけられ、顔をユリスへと向ける。

 

「その、だな・・・・・もう見つけたのか?」

「何をだ?」

「《鳳凰星武祭(フェニクス)》のパートナーのことなのだが・・・・・」

「いや、まだだ。そろそろ締切が近いんだったな」

「そ、そうか・・・・・!な、なら、私とーーー」

「あら、抜け駆けは頂けませんねユリス」

「・・・・・クローディア、まさか、お前も出るのではあるまいな・・・・・」

「あら?私が出てはいけないというルールはありませんよ?」

 

火花を散らし合う二人を見て刹那は小さくため息をついた。なぜこうもいがみ合うのだろうか。(ほぼほぼ君が関わってるんだけどね)

 

「あ、いたいた」

 

保健室に今度は綾斗が入ってきた。

 

「どうした?」

「《鳳凰星武祭(フェニクス)》のパートナーは刹那は決まった?」

「いや、まだだ」

「そうなのかい?実は俺もなんだ。良かったら一緒に出ない?」

「ああ、俺は別に構わーーー」

 

言い終わる前に腕と足を同時に思い切り叩かれ、すぐさま悶絶。

 

「綾斗、一体どういう了見だ?」

「いや、俺はただ刹那にパートナーの申し込みを・・・・・」

「ライバルが多すぎますね・・・・・」

「おーっす、刹那。《鳳凰星武祭(フェニクス)》のパートナーになってくれ」

 

今度は紗夜も参戦し、いよいよ凄いことになりそうな予感がする。

 

「さーさーみーやー!貴様もか!」

「どうして!あなたはこう!女の子を次から次へと!連れて来るのですか!」

 

怒声を上げるユリスに刹那の制服の襟を持ち、揺するクローディア。そんな光景を見て苦笑いする綾斗にいまいち状況が掴めない紗夜。そして、もうどうにでもなれ、と投げやりな顔の刹那を含む五人はしばらく保健室に篭もり、その後教師陣に説教されたことはここだけの話。

 

ーーーーーーーー

 

「ところで、ユリスは純星煌式武装(オーガルクス)の適合率検査は受けないの?」

 

綾斗のおもむろに発せられた言葉にユリスは少し考えた素振りを見せた。

 

「ふむ・・・・・・今は受ける気はないな。そもそも《魔女(ストレガ)》や《魔術師(ダンテ)》が純星煌式武装(オーガルクス)の所有者として認められたケースは稀すぎるほどだ。アスタリスクの歴史の中でも十人に満たないと聞いている」

「じゃあ刹那はかなり珍しいってこと?」

「そうなるな、しかも適合率が100%だったのだろう?。《正宗》の能力を最大限(フル)で行使できる唯一の所有者である証拠だ。あの野太刀型の《正宗・叢》も刹那だからこそ成し得るもののはずだ」

「相変わらずめちゃくちゃっていうか、なんていうか」

「めちゃくちゃという範疇では収まらんだろう。最早、奴の領域は“規格外”だ。流星闘技(メテオアーツ)を連発出来るほどの圧倒的星辰力(プラーナ)の量、おまけにあの《蝕武祭(エクリプス)》優勝経験あり。化け物だ」

(あいつなら、オーフェリアを止めることも・・・・・・)

 

一瞬白い髪の少女が頭を過ぎり、自然と顔が曇る。

 

「刹那は《竜王星武祭《リンドブルス》》にも出るのか?」

「まあ、一度は出てみたいな。あの《孤毒の魔女(エレンシュキーガル)》とも一度手合わせしてみたい」

 

目の前を歩く少年に目を向ける。紗夜の隣を歩く少年の横顔を見て、嫌なことを思い出した。

 

『ユリス、あなたの運命では私を止めることは出来ないわ』

 

昔、親友のはずだった彼女から突きつけられた言葉だった。

 

「ん?あれは誰だ?」

 

刹那が指を指すを見れば、ビルのディスプレイに美しい少女が映っていた。

 

「ああ、あれはクインヴェール女学園の生徒会長、シルヴィア・リューネハイム。世界最高の歌姫って言われてる人だよ」

「学生なのに歌手なのか?」

「たいした人だよね〜、トップアイドルなんてさ」

 

綾斗の説明にもう一度ディスプレイに目を向けた。

 

「そうたいした奴には見えないが。決闘した場合三分あればもしくはーーー」

 

ビシッと後ろから頭をチョップされた。

 

「お前はすぐに勝負で考えるのをやめろ」

「すまない。しかしーーー」

「ん?どうした?」

 

シルヴィアの映像とユリスを交互に見ながら真剣な顔で口を開いた。

 

「やはり女性の体の格差は如実に表れるものだと思ってな」

「ーーーー」

 

ビシッ

 

その場の空気が一瞬にして凍りついた。これだけは言っておこう。彼は決して下心や悪気があった訳ではない。少しばかり、そう。知識や常識がないだけなのだ。

 

「せ、刹那・・・・・」

「おい、どうしたんだみんな。何を固まっている」

「こ、この・・・・・・」

 

ユリスが纏うオーラが何やら陽炎みたくユラユラ揺れ始める。

 

「な、何を怒っているんだ・・・・・」

「この・・・・・・!」

「ま、待て!リースフェルト・・・・・!」

 

後ずさりするがとうとう壁に追い詰められ、

 

「この、痴れ者がぁぁぁぁ!!」

 

ビンタではなくパンチで刹那は窓ガラスを割り、宙を飛んだ。

 

ーーーーーーーー

 

「おいこらてめぇ、刹那。学園の窓ガラス割るたぁどういうことだぁ?聞いてやるから言ってみろ」

「寝ぼけてまして」

「ほぉ〜、寝ぼけてか。そうかそうか・・・・・・ふざけんな!」

 

頬にパンチを貰った次は頭に拳骨を貰ってしまった。

八津崎匡子、刹那達の担任である。元レヴォルフ出身ってこともあり、言動や気性は荒い。が、全盛期は《獅鷲星武祭(グリプス)》の優勝経験がある実力者だ。

 

「少しばかり痛いです・・・・先生」

「優しくなんかしねぇぞ」

 

職員室で盛大な説教くらった刹那を見る目は少し痛い。

 

「ま、だがそんくらいが丁度いいな」

「先生も、学生時はよくこういうことを?」

「おうよ、よくしたもんさ」

(やっぱりな・・・・・・)

 

なぜか納得できる。

 

「てめぇにはあたしも期待してんだ」

 

胸の当たりを、先程の拳骨とは違いぽんっと叩かれた。その顔は少し微笑んでいた。滅多に見れない超レアな表情かもしれない。

 

「《星武祭(フェスタ)》の制覇、頑張れよ」

「もちろんです」

 

それから始末書を書いて先生による説教は幕を閉じた。

放課後になり、寮に戻る途中。騒ぎは起こった。

 

「見つけたぜ!序列九位!」

「なんだ?」

 

声をした方を振り向けば、十五人の集団がニヤニヤしながら立っていた。

 

「なんか用か?」

「決闘、やろうや」

 

ーーーーーーーー

 

「ったく、刹那のやつ。どこに行った」

 

ユリスは苛立ちながらも刹那を探すが、外に人溜まりが出来ていた。しかも、ライブ中継までされている。

 

「序列上位と誰かが決闘しているのか?」

 

急いで外へと向かった。

 

「うぉりゃぁぁあ!」

「よっ」

 

斧型の煌式武装(ルークス)の振り下ろしを難なく躱す。

 

「せやっ」

 

それから一回転し、先程攻撃した生徒の懐に入り回転の勢いをつけて裏拳をかました。思っきり吹っ飛び意識不明にする。

 

「すごーい、煌式武装(ルークス)無しであそこまで出来るなんて」

「やっぱり刹那くん、かっこいいよね〜」

「ちくしょお!」

 

今度は刀型の煌式武装(ルークス)を持った生徒が突っ込んでくる。煌式武装(ルークス)を持った手を弾き、無防備の腹にそっと手を置いた。

 

星辰力(プラーナ)はこういう使い方も出来る」

「えーーー?」

 

まるで何かに吹き飛ばされるようにその体は後方へ吹き飛ばされた。地面さえ抉れる程の速さだった。

 

「ふう、次は?」

「まだまだぁ!お前らやっちまえ!」

「おー、これはこれは」

 

残りの生徒が遠距離型の煌式武装(ルークス)を刹那めがけ乱射した。

 

「避けるのは厳しいな、打ち落とすか」

 

ポシェットから煌式武装(ルークス)の発動体を取り出し、起動。青く光る刀身が再構築された。重さだけを《正宗》と同じくらいに調整してあるため、まあまあ使いやすくはなっている。光の矢が自分の目の前に来たのと同時に煌式武装(ルークス)で打ち落とす。それを全ての矢を切っては打ち落とすを繰り返す。

 

「マジかよ・・・・」

 

数秒も経たないうちに彼の足下には光の矢が全て散らばっていた。

 

「いくら速く見える光の矢も、実弾よりは遅いからな」

「実弾って・・・・」

 

チラッと見れば大半の人は戦意喪失といった感じだ。

 

「はぁ、参ったぜ。降参」

「そうか」

決闘終了(エンド・オブ・デュエル) 勝者(ウィナー) 神木刹那』

 

機械音声のアナウンスで校章が光を失った。

 

「やっぱり強ぇな、お前は」

「そんなことない、あんたも《星武祭(フェスタ)》に出るのか?」

「まあな、当たった時はお手柔らかに頼むぜ〜」

 

それから短い会話を交わし、少年は帰っていった。いきなりふっかけられた決闘だが、大きな怪我もなく無事?に終わったのでよかった。ギャラリーの野次馬たちも各々にその場を去っていく。

 

「さて俺も帰るか」

 

発動体をポシェットにしまい、歩き出そうと足を踏み出した瞬間、脹脛が攣ったかのような痛みを出し始めた。

 

「っーーー、あの技の反動は中々取れないからな・・・・・・」

 

こうなってはしばらく歩くことは出来ない。どうしたものかと悩んでいると、視界の隅に薔薇色の髪を風にたなびかせた美しい少女が入る。

 

「見つけたぞ!」

「リースフェルトか」

「反動が取れないうちは決闘するなとあれほど口を酸っぱくして言ったのにお前という奴は!戦闘狂なのか!?」

「別に戦闘狂というわけでは・・・・・」

「じゃあ何なのだ!狂戦士か!?」

「狂戦士か・・・・・・かっこいいな」

「褒めていない!」

 

またもや制服の襟を掴まれ前後に揺さぶられる。軽い脳震盪でも起こしそうだ。クローディアの時もそうだが、女という生き物は遠慮を知らないらしい。

 

「あ、あのぉ〜・・・・・・」

「貴様というやつはいつもそうだ!自分のことより決闘の方が大事なのか!?」

「く、苦し・・・・」

「あ、あのぉ・・・・・!」

「「?」」

 

やっと張り上げた声で目の前で言い争っている人たちはこっちを向いた。ツーサイドアップの銀髪と、年齢に似合わぬ均整の取れた体。そして肩に背負っているのは身長より少し短めの長物。刹那は物珍しい顔で見て、ユリスは襟をすぐに離し、後ずさった。

 

「あの、これ落としませんでしたか・・・・?」

 

少女から差し出されたのはメガネであった。刹那はポシェットを探るがいつも持ち歩いているメガネが無いことに今気づいた。

 

「どこかで落としたのか。すまないな」

「い、いえ・・・・・・!」

 

物凄く人見知りなのか気弱なのか、一つ一つの挙動が小動物みたいだ。

 

「で、では私はこれで・・・・・!」

 

そう言い残しそそくさと駆けて行った。途中で何も無いところで転んで、カエルの潰れた「むきゅっ」という声と共に白いパンツが見えたことは、見なかったことにしよう。

 

「中等部の生徒か。ん?」

 

下を見れば生徒手帳らしき物が落ちていた。

 

刀藤綺凛(とうどうきりん)って読むのか?」

「そうだ」

 

ユリスが険しい顔をして刹那の隣に立った。

 

「刀藤綺凛、星導館学園の序列一位だ」

「《疾風迅雷》って、彼女のことか」

 

それにしてはあまり威厳のようなものが感じられなかったが。

 

「中等部って、あんなに体の発育は著しいものなのか?」

 

隣に目を向けると自然と顔ではなく下の方に行ってしまった。

 

「やはり、格差とは何にでもあるものだな」

「き、貴様というやつは・・・・・!」

 

もう一度言おう、決して悪気や下心は全くないので尚更タチが悪い。

 

「お、足も大分良くなった。帰るか」

 

軽くつま先をトントンし、ユリスを見たのだが、

 

「もう知らん!貴様などそこらでのたれ死ね!」

「何を怒っている」

「うるさい!話しかけるな!」

「お、おい、そんな早歩きしないでくれ。まだ足がーー」

「知るか!」

 

このやり取りをしながら帰路を歩いていく二人。中々こちらも仲がよろしいようだ。


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