学戦都市アスタリスク TRILOGY   作:宙の君へ

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サイラスと決着!次回はあの子が登場?


第5話 決着

「咲き誇れ、呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)!」

 

ユリスが細剣を振るった軌道に魔法陣が浮かび上がる。さらにそこから猛烈な熱波が迸ったかと思うと、その魔法陣を破るようにして巨大な焔の竜が出現した。

刹那が狩りとり損ねたもう半分の雑兵を焔の顎でまとめて噛み砕く。

 

「やるな、リースフェルト」

「奴を捕らえるぞ」

「わかった」

「これはこれは、大したものですね。序列五位と九位は伊達ではないということですか・・・・・・・!」

 

サイラスは距離を取ると、再びパチンと指を鳴らす。

 

「しかし、所詮は多勢に無勢!個々では敵いませんが、数では圧倒的に僕の方が勝ちです!」

 

竜の顎をかいくぐった人形が五体、再びユリスを囲むようにして襲い掛かった。

 

「くっ!」

 

ユリスは細剣を振るって応戦するが、その集中力は能力のコントロールへ割かれているためどうしても動きが鈍る。

 

「鳴神ーーーー」

 

刹那は《正宗・叢》を地面に突き立て、電撃を地面へと流す。ユリスの周りに五つの黒い点が地面から出現したと同時に、

 

早蕨(さわらび)!」

 

黒い点が針状に変形し、五体の人形を串刺しにした。更に黒い電撃を流し込み、内部で爆散、拡散しその体は弾け飛んだ。

 

「危なかった」

 

地面から抜き取り、ユリスを見る。

 

「余計なことを・・・・・!」

 

皮肉を言われたが、ユリスの顔は全く迷惑そうな顔はしていなかった。ユリスが僅かに口角を上げたのを見たと同時に、刹那も僅かに上げた。が、突如、物陰に隠れていた人形が手に持っていた剣型煌式武装でユリスに特攻する。

 

「っ!?リースフェルト、避けろ!」

「なにっーーー!?」

 

寸のところで後ろに弾みを付けて後退するが、僅かにその刃は太股を掠めていった。だが後ろにも更にもう一体人形が隠れていた。無防備のユリスをガッチリ掴み、身動き取れないようにする。

 

「リースフェルト!」

 

刹那は助けに行こうとしたが、どこから湧いてきたのか更に十体近くに取り囲まれる。

 

「私のことはいい!お前は早くあいつを・・・・!」

 

サイラスを一瞥するが全く余裕の笑みを崩さない。その笑みがまた焦燥感を煽り、刹那はまずは目の前の一体を薙ぎ払う。

 

「あなたの能力は強力ですが、ご自分の視界まで塞いでしまうのが難点ですね」

「ふん・・・・・流石によく観察しているじゃないか・・・・・!」

 

太股に感じる痛みに堪えながら、挑発的な笑みを見せる。

 

「だが、私にも一つわかったことがあるぞ」

「ほう、なんです?」

「貴様の背後にいるのはアルルカントだということだ」

 

その言葉に今まで笑みを崩さなかった顔から、消えた。

 

「その人形共、特別仕様だな?私やレスターの攻撃に耐えうるだけの装甲やをどこから調達した?ましてやその数を量産となれば、技術的に見ても他の学園では不可能だ」

「ふむ、ご明察ですが、これはいよいよもって見逃すわけにはいかなくなりましたね」

「はっ、もともとそんなつもりないくせによく言う」

 

サイラスは無言のまま近づいてくると、ユリスの太股の傷を思いきり蹴りつけた。

 

「あああぁぁぁぁっ!」

 

遠くからユリスの絶叫が聞こえた。

 

「リースフェルトッ!ーーー邪魔だ!雷鳴・彼岸桜(ひがんざくら)!」

 

《正宗・叢》から発生した黒雷が鞭のように九体の人形を絡めとったまま上空で球体へと変化。瞬間、球体が刺々しくなり内部の人形を破壊する。刺々しい球体が消えると、上からバラバラになった残骸が幾つも辺りに散らばる。

 

「サイラス・ノーマンッ!!」

 

刹那は足に星辰力(プラーナ)を集中させ加速する。が、

 

「君にはまだ大人しくしていてもらいます」

 

再度パチンと指を鳴らすとぞろぞろと人形が湧いてくる。

 

(これ程の数、いつの間に・・・・!)

「くく、すぐにはしません。まずはあなたのその体を堪能してから終わらせるのも悪くありませんねぇ」

「この下郎め・・・・!」

 

舐めまわすようにユリスの体躯を眺める。サイラスが手を上げると、隣にいた人形が動き出した。ユリスの制服を脱がすため手にかけようとする。ユリスは思わず目を瞑る。

 

「ごめん、遅くなった」

 

服に手をかけようとしていたその手は、吹き飛び、ユリスを拘束していた人形も一閃。ユリスをお姫様抱っこしその場から跳躍する。

風が疾った。優しくて、心地よい、それでいて力強い風。誰かと目を開ければそこには、あの少年の顔が目の前にあった。その右手には純白の大剣。

 

「あや、と・・・・・」

「ごめん、ユリス。遅くなって」

「遅いぞ、綾斗」

「ごめんごめん、刹那。ユリスとレスターは僕が守るから刹那は存分に暴れなよ!」

 

その言葉に刹那はニヤリと笑った。やはり力をセーブしながら戦うのは難しい。《蝕武祭(エクリプス)》なら本気を出せるのだが、サイラスのような二流、いや三流如きに本気を出してしまったら彼が死んでしまう。だが、もうその必要は無くなった。なぜなら、許しが出たのだからーーー

 

「いやはや、まったく思わぬ飛び込みゲストですねーーー天霧綾斗くん」

 

その声に意識と視線を戻せば、サイラスが芝居がかった仕草で肩を竦めていた。相変わらず余裕たっぷりで、一瞬のうちに人形が二体も片付けられたのに微塵も動揺していない。

 

「今のが《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》の力ですか・・・・なるほど、確かに少しばかり厄介ですね」

 

黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》といえばユリスも聞いたことがある。星導館学園が誇る純星煌式武装(オーガルクス)の中でも、トップクラスに強力な能力を秘めた剣だったはず。純白の刀身が眩しく光る大剣だが、綾斗はそれを片手で構えている。

 

「しかし使い手が二流では折角の純星煌式武装(オーガルクス)も宝の持ち腐れというものです。綾斗くん、あなたの闘いぶりは何度か拝見しましたが、正直言ってこの学園では凡庸の域を出ません。今は不意打ちが上手くきいたようですが、百体を超える僕の人形たちを相手に何ができるとーーー」

「ーーー黙れ。不意打ちしか出来ないのはあなただろう、サイラス・ノーマン。それにあなたの相手は俺じゃない」

「じゃあ一体誰が僕の相手を?」

「俺がしてやるよ、三流ゲス野郎が」

「えーーーーぼふぁっ!?」

 

一瞬にしてサイラスの横に移動した刹那に思いきり頬を殴り飛ばされる。かなりの距離を飛び、壁に激突した。

 

「痛いぃぃぃぃ!?」

「もう終わりか、サイラス・ノーマン」

 

冷たい目でサイラスを見下ろす。

 

「く、くはははは!良いでしょう、もう余興は終わりです!四人諸共朽ち果てるがいい!」

 

更に人形がどこからともなく湧き上がる。今まで乱雑に並んでいた人形たちは整然と隊列を組み始める。前衛は槍や戦斧といった長柄武器、後衛は銃やクロスボウ、その間に剣や手斧を持った人形が埋め、その最後列にサイラスが鎮座した。

 

「これぞ我が《無慈悲なる軍団(メルツェルコープス)》の精髄!一個中隊にも等しいその破壊力、凌げるものなら凌いでみせろ!」

 

腫れた頬の顔でそんなことを言われてもはっきり言って締りがない。前衛の人形たちが猛然と突っ込んでくる。

 

「雷切・顎!」

 

《正宗・叢》に黒雷を纏わせ一閃。斬撃と同時に猛獣の(あぎと)と化した黒雷が噛み砕いては破壊していく。

 

「ふ、ふふふ・・・・・・・なかなかやりますね・・・・!」

「うん、今ので大体わかったよ」

 

刹那の後ろでユリスを支えながら綾斗は呟いた。

 

「彼の能力で個別に動かせる人形はせいぜい六種類ってとこかな」

 

を、サイラスに聞こえるように大きな声で言った。

 

「はぁ?」

 

サイラスの眉が怪訝そうに寄る。

 

「全く、何を言い出すかと思えば・・・・・一体どこに目をつけているのですか?現に僕はこうして百体以上の人形を・・・・」

「見ればわかるよ。完全に自由に動いているのは六種類。あとはある程度パターン化した動きしかしてない。そもそも十六体ぐらいまでかな。残りは全部同じように引き金を引いたり腕を降ったりといった単純な動きをしているだけ」

「・・・・・・!」

「ハッタリにはいいかもしれないけど、あなたが不意打ちできない理由もよく分かったよ。こんなお粗末な能力、普通に闘えばネタが割れてしまうだろうからね」

 

サイラスは弾かれるように刹那を見る。その顔は「その通りだ」と言うかのように口角を僅かに上げていた。サイラスの顔は青ざめ、小刻みに震えている。それは綾斗の言葉が真実だと如実に表していた。

 

「ん?ああ、そうか。六種類十六体ってことは、ひょっとしてチェスのイメージなのか。まぁ、ゲームプレイヤーを気取っていたのかもしれないけどーーーあまり腕がいいとは言えないね」

「《轟遠の烈斧(フォルネコロス)》が言った通り、とんだ食わせ者だな。本当にチンケな能力だ」

「クソがあああああああああああ!!」

 

一転して顔を真っ赤にしたサイラスが吠えた。

 

「潰れろッ!潰れてしまえッ!」

「刹那・・・・・・!」

「大丈夫だ、リースフェルト。しっかり見ていろ、これが《閃光》の剣舞だ」

 

前衛の人形たちが襲い掛かってくるが、野太刀の《正宗・叢》で一気に両断。雲霞の如き人形の群れの中を一人の少年が漆黒の軌跡を残しながら舞う。流星闘技(メテオアーツ)を使わない、ただの剣技で圧倒していく。その姿はまるで天女のように美しく、あらゆる者を薙ぎ倒すほど雄々しかった。

 

「こんな木偶で俺を仕留めれると思ったか?」

 

全ての人形を薙ぎ払い、断ち切り、木っ端微塵にし、野太刀をサイラスへと向ける。人形に攻撃する暇さえ与えない圧倒的剣戟。戦闘開始から、二分とかかっていない。たったそれだけで、百体を超えるサイラスの人形たちを一体残らず切り伏せた。対レスター用に用意された重量型も、対ユリス用に耐熱処理を施された黒い人形たちも外形を留めているものあれば、留めていないもの地面に転がっていた。

 

「馬鹿な・・・・・こんな馬鹿なことが・・・・・あ、あありえない・・・・ありえるはずがない・・・・・・」

 

その光景を見ていたサイラスはあさましく茫然自失といった有様だったが、刹那がその野太刀をむけると悲鳴を上げて尻餅をついた。

 

「もう終いか?」

「ま、まだだ!僕にはまだ奥の手がある!」

 

サイラスは腰砕けになりながらも大きく腕を振った。すると背後にあった瓦礫の山が吹き飛び、中から巨大な人影が姿を現す。他の人形より五倍はあるだろうか。吹き抜けがなければ天井を突き抜けてしまいそうなら大きさだ。腕も足もこの廃ビルの柱くらいはあるだろう。まさしくゴーレムと呼ぶにふさわしい。

 

「は、ははは!さあ、僕のクイーン!やってしまえ!」

 

サイラスの命令に従い、巨体に似つかわない素早い動きで刹那に襲いかかる。

 

「ふうーーー、あまりこの技は使いたくなかったが、仕方がないな」

 

突如、刹那から膨大な量の星辰力(プラーナ)が膨れ上がる。それは徐々に収束、最後はまた刹那へと戻っていった。すぐに変化は訪れた。次第に刹那の体から黒雷が迸り出す。髪は徐々に逆立ち、黒雷もバチバチと激しさを増す。そして、開かれた目には元の黒い瞳の中に真っ赤な輪が浮かび上がっていた。

 

「身体能力を倍加させる流星闘技(メテオアーツ)ーーーー建御黒雷神(タケミカヅチ)

 

巨大な拳が圧殺せんと迫る。《正宗・叢》を両手で構え、突きの構えをとる。

周囲には黒雷の球が出現、それは徐々に姿を変え無数の(あぎと)へと変貌した。

 

「喰い荒らせ、雷槍・連門顎(れんもんあぎと)ーーーー!」

 

高速の突きと同時に無数の顎は巨大な拳へと特攻する。拳を食い破り、突きで穴を穿つ。たった数回の突きで腕は崩壊したが、勢いは止まらず今度はその巨躯へと狙いを定めた。無数の顎に抉られ、突きにより無数の穴が穿たれていく。そして、突きが止むとその巨体は地響きを上げて倒れた。

 

「うわあああああああ!!!」

 

自暴自棄に陥ったのか、人形の残骸を浮かせ刹那に投げつける。

 

「歩法ーーー“絶影(ぜつえい)”」

 

刹那は影を絶つほどの速さで移動する。移動した後には影が残り、しばらくの間はそこに留まり、それ自体が質量を持つ。建御黒雷神(タケミカヅチ)発動中のみに限定されるが、目くらましや撹乱にはかなり役に立つ。投げつけられた残骸を軽くあしらう。

 

「逃げても無駄だ。《閃理眼》ですぐにお前の居場所を特定できる」

 

ゆっくりとサイラスと距離を詰めていく。

 

「ひ、ひぃぃ!」

 

転がるようにしながら、半泣きの顔で人形の残骸の中を逃げ惑うサイラス。

 

「ーーーー」

 

無言で見ていたが、ふいにその眉が険しくなる。とっさに行こうとしたがそれよりサイラスの方が遥かに早かった。人形の残骸にすがりついたサイラスの体がふわりと浮いたのだ。正確に言えば浮いたのは人形の残骸のほうなのだが、この際そう変わらないだろう。そのまま一気に速度を上げ、吹き抜けを上っていく。

 

「逃がすか」

「刹那」

「すぐに終らせる。三人は待っていてくれ」

 

刹那は吹き抜けをジグザグに高速で上っていく。既にサイラスは最上階に到達しており、暗雲が覆う空へと躍り出ていた。

 

「逃がさないと言ったはずだ」

「ーーー!?」

 

サイラスの顔が恐怖に染まっていく。

 

「まさか、自分から外に出てくれるとはな」

 

《正宗・叢》を掲げ、天へ向かって黒雷放った。数秒の間、それは巨大すぎる龍の姿で顔を出しす。恐怖がサイラスを支配していく。

 

「あ、ああ、あああ・・・・・・・・!」

「今度こそ、終わりだ。懺悔の用意はいいな?」

「や、やめ、やめろおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

「往生しろ。麒麟(きりん)獄門顎(ごくもんあぎと)ーーーー!!」

 

龍の顔が変形し、巨大な顎へと変貌した。《正宗・叢》を振り下ろすと同時にその巨大すぎる漆黒の顎はサイラスもろ共周辺の建物を飲み込んだ。地面が割れんばかりに唸り、落雷の轟音が鳴り響き、轟く。漆黒の雷の柱が再開発エリアの一角にそびえ立ったーーー

 

ーーーーーーーー

 

綾斗とユリス、レスターが外に出ると暗雲は晴れ、雲の隙間から太陽の光が差し込む。そして遠くから一人の少年が歩いてきた。

 

「終わったぞ、あとは生徒会に任せよう」

「お疲れ、刹那」

「さすがに疲れた。あれは奥の手だからな、早速お前達にはバレたが」

 

そう言い、綾斗に支えられているユリスに目を向ける。

 

「大丈夫か?」

「ああ・・・・・すまんな、他人のお前を巻き込んでしまって」

「気にするな、大切な仲間のためだ。いくらでも体を張る」

「本当に、変わったやつだな、お前は」

「おい、刹那」

 

ふいにレスターに声をかけられた。

 

「サイラスを止めてくれて礼を言う」

「気にするな。あ、そうだ」

 

そっとレスターに手を差し出した。

 

「何時でも挑戦待ってるぞ」

「・・・・・ふっ、ぬかせ。すぐにてめぇを叩きのめしてやる」

 

そう言いながらニヤッと笑い、その手をガッチリ握った。

 


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