学戦都市アスタリスク TRILOGY   作:宙の君へ

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ユリス可愛いです!(今更)


第3話 適合率検査

翌日、純星煌式武装(オーガルクス)の適合率検査を受けるために生徒会室を訪れた綾斗を、クローディアが笑顔で出迎えた。

 

「昨日は大変だったようですね、綾斗」

 

ユリスが再び襲われたという一件は、昨日のうちに風紀委員へ通報済みだ。当然クローディアの耳にも届いているだろう。ちなみにネットニュースにも話題が上がっているが、どれもユリスが大々的に取り上げられ、綾斗の幼馴染み、紗夜の「さ」の字すら載っていない。やはり《冒頭の十二人(ページワン)》と序列外では扱いがことなるらしい。わかりやすいといえばわかりやすい。と、生徒会室のドアが開く。

 

「ん?取り込み中だったか?」

 

刹那であった。

 

「いいえ、どうぞ入ってください」

 

軽く頭を下げ中へと踏み入れる。刹那には早く起きなければならない理由があった。

 

「おはよう、刹那」

「ああ、おはよう」

「ところで、何かあったのですか?あ、もしかして私に会いに来てーーー」

「断じてそれはない」

「・・・・・・」

 

完全に萎れてしまったクローディアを何とか綾斗は立たせる。刹那のメンタルブレイクスキルは非常に高いらしい。

 

「『在名祭祀書(ネームド・カルツ)』の更新を要求しに来た」

「え?刹那、《冒頭の十二人(ページ・ワン)》の誰かを倒したのかい!?」

「ああ、さっきな。寮の前で待ち伏せされていた」

「お相手は?」

 

元のメンタルに回復したクローディアが穏やかに尋ねた。

 

「《轟遠の烈斧(コルネフォロス)》」

「まあ、序列九位のマクスフェイルくんですか」

「《魔術師(ダンテ)》である俺にとっては相性が良くてな」

「安心してください、『在名祭祀書(ネームド・カルツ)』は随時更新されています。既に刹那の名前も載っているはずですよ。《冒頭の十二人(ページ・ワン)》との決闘の際はブックメーカーが開き、報道系クラブに真っ先にライブ中継されるほど注目が高いのです」

「じゃあ、まさか・・・・・」

「ええ♪先程からネットの書き込みが素晴らしいことになっていますよ」

 

刹那は血相を変えて素早く端末を開く。ネットのトピックスには滝が流れるが如くコメントが追加されていく。

 

「マクスフェイルくんは根に持つタイプと聞いています。新序列九位として、精進してくださいね?」

「決闘中は報道系クラブの奴らの姿なんか見えなかったぞ!」

「甘いですね、彼らは重度の野次馬なんですよ?バレずにライブすることなんて朝飯前なのです」

「あまり目立ちたくはなかったのだが・・・・・」

「ところでクローディア」

 

おもむろに綾斗は切り出した。

 

「犯人は捕まりそう?」

「んー、正直なところ難しいかも知れませんね。風紀委員にも本腰を入れて調査を行ってもらっていますが、ほとんど手掛かりは残っていないようです」

「いくらアスタリスクでも、昨日のは明らかな犯罪行為じゃないかな。だったら普通に警察とかに任せてしまえばいいんじゃない?」

 

風紀委員はあくまで学生による取り締まり機関だ。正規な捜査機関があるなら、そちらに任せた方が頼りになるだろう。

 

「そこが難しいところでして。アスタリスクにも一応警察に準じる星猟警備隊(シャーナガルム)という組織があるのですが、彼らは少々鼻が利きすぎるのですよ」

「というと?」

「彼らの警察権はアスタリスクの市街地においてのみ発揮されるべきもので、学園内に及ぶものではないーーーというのが各学園共通の見解です。余程の事件でもない限り学園側は彼らを招き入れないでしょう」

 

学園の意向は統合企業財体の意向であり、すなわちアスタリスクのルールだ。学園側が許可しない限り、星猟警備隊のやらは入ってくることが出来ないらしい。

 

「痛くもない腹を探られるのは嫌だってことか」

「探られると痛いから嫌なのでしょう」

 

クローディアはあっさり認めた。

 

「私個人としては警備隊にお願いしたいところですが、こればかりは私の権限でもどうすることも出来ません。せめてもう少しユリスが協力的であれば打つ手もあるのですが・・・・」

「まったく、なんでああも頑ななのかなぁ」

 

風紀委員会に一報こそしたものの、ユリスはそれ以上の関与を拒んでいる。誰の助けも必要ないと言ってはばからないのだ。風紀委員は必要なら警護を付けることも可能だと言っていたのだが、「自分より弱い警護など不要だ」の一点張りである。

 

「あの融通が聞かない堅物娘の心を開かせるのは難儀だぞ」

 

端末をしまいながら刹那は言った。

 

「あの決闘以来、どうも俺は嫌われたらしいからな。教室にいるとしょっちゅう睨んでくる」

「それを言うなら俺もだよ・・・・・」

「きっとあの子は自分の手の中のものを守るのに精一杯なのでしょうね。新しいものを手に入れようとすると、今あるものがこぼれ落ちてしまうと思っているのかもしれません」

「手の中のもの・・・・・?」

「とはいえ、それとこれとは話が別です。私とて今回の件を看過することは出来ません。そこでお二人にご相談なのですがーーーー」

 

クローディアがそう言って身を乗り出したところで、生徒会室のドアが荒々しくノックされた。

 

「・・・・と、すみません。今日はあなた以外にも来客があるのを忘れていました。この続きはまた後ほど」

 

クローディアが慣れた手つきで執務机の端末を操作すると扉が開き、思わぬ一行が入ってくる。それは向こうも同じだったようで、揃って驚いたような顔で綾斗と刹那を見た。レスターら一行には綾斗も少なからず良く思われていないらしく、よく睨まれている。刹那に関しては因縁の相手だろう。

 

「あ、《轟遠の烈斧(コルネフォロス)》。今朝ぶりだな」

「・・・・・・てめぇがなんでここにいる」

 

今朝の出来事が余程腹を立たせたのか、凄い形相で刹那を睨む。新参者にしてやられたのだ、無理もない。

 

「そう睨むな。あんたとやり合うつもりは無い」

純星煌式武装(オーガルクス)の利用申請はいろいろと手続きが面倒なので、出来れば一度に済ませたいと思いまして。えーと、こちらは・・・・・」

 

にこやかに紹介しようとしたものの、もちろん必要ない。

 

「見たところ、皆さん顔見知りのようですね」

「まあ、一応ね」

 

綾斗は微妙な笑顔で答えた。

 

「な、なんでお前がここに・・・・・?」

 

太った方の取り巻きーーーランディがぽかんとした顔で刹那を指さす。

 

「安心しろ、丸いの。あんたらの大将に喧嘩を売るつもりは無い。むしろ俺は買う方専門だ」

 

つまり、余程のことがない限り自分からはふっかけないと言うことだ。レスターはといえば、忌々しそうに綾斗を一瞥しただけですぐに視線を逸らした。

 

「今回は綾斗とマクスフェイルくんのお二人に適合率検査を受けていただきます」

「おい」

「ん?」

 

いきなりレスターに話しかけられ刹那は振り向く。

 

「てめぇは受けねぇのかよ」

「ああ、俺には純星煌式武装(オーガルクス)は必要ないからな。嫉妬されてしまう」

「・・・・は?嫉妬?誰にだよ」

「相棒にだ」

 

ますます頭にはてなを浮かべるレスターは、首を傾げながらも視線を戻した。

 

「おわかりだと思いますが、そちらのお二人は付き添いということなので保管庫には入れません。よろしいですね?」

「ああ、はい、もちろん了解しています」

 

痩せた方の取り巻きーーーサイラスはこくこくと頷いた。

 

「では俺も外の方で見ているとするか」

「何を言っているんですか?刹那にはもしもの時のために、一緒に来てもらいます」

「相変わらず面倒ごとを押し付ける厚かましい女だな、あんたは」

 

クスクスと笑うクローディアを半目で睨む。

 

「刹那こそ気になるでしょう?適合率検査がどのようなものか」

「まぁ、少しは・・・・」

「では良いではありませんか♪」

「いいからさっさと始めようぜ。時間が勿体ねぇ」

「ふふ、せっかちですね。ですが確かに時間は有意義に使うべきです。参りましょうか」

 

クローディアは立ち上がると、先導して生徒会室を出た。よく磨かれた廊下を進みながら、綾斗は気になっていた疑問をクローディアにぶつけてみる。

 

「それで、純星煌式武装(オーガルクス)の貸し出しってどういう手順になってるの?」

「手順としては単純ですよ。希望する純星煌式武装との適合率を測定して、80%以上であればそれが貸与されます」

「それだけ?」

「ええ」

 

なんだか拍子抜けだ。純星煌式武装に使われているウルム=マナダイトは、とても金銭には換算できないほどの価値があるという。そんなものを気軽に学生へ貸し出してしまっていいのだろうか。

 

「はっ、なんも知らねぇんだな。純星煌式武装を借り受けるのは言うほど簡単じゃねぇんだよ」

 

すると綾斗と刹那の後ろを歩いていたレスターが嘲るように言った。

 

「そもそも希望すれば誰でも通るってわけじゃねぇ。序列上位か、《星武祭(フェスタ)》で活躍したやつ、あるいは特待生でもなきゃまず無理だ。よしんば借り受けられたとしても、そいつを使いこなせるかどうかは別問題だがな。それに、てめぇの横を歩いているそいつは特待生なのに、この大チャンスを自分から無下にした馬鹿野郎だしな」

 

適合率とはその純星煌式武装の能力をどこまで引き出せるかの目安だ。誰でも簡単に起動可能で、威力もある程度調整できる煌式武装(ルークス)とは違い、純星煌式武装(オーガルクス)はクセが強い。ウルム=マナダイトは極めて純度の高い万応素(マナ)の結晶であり、限定的に《魔女(ストレガ)》や《魔術師(ダンテ)》のような特殊な力を発揮する。つまりそれを扱いきれるかどうかを測るのが適合率検査なのだが、言ってしまえば相性の問題。基本値自体、努力ではどうにもならない部分が大きい。

 

「ふふっ、さすがにチャレンジも三回目となると説得力がありますね」

 

得意そうに語っていたレスターだったが、クローディアの言葉で一転。顔をしかめた。

 

「けっ!今度で終わりにしてやるさ!」

「なぁ、会長」

 

ちょんちょんとクローディアの肩をつつく。

 

「三回目って、ほぼ望み薄くないか?」

「そんな酷なこと、言えるわけないでしょうっ」

「ずっとやらせているほうが酷だと思うんだが」

「と、とにかく黙っててくださいっ」

 

コソコソと二人で話し合っている様子を見て、一行は首を傾げた。

 

「そうだよレスター!今まではちょっと運がなかっただけだ!今度こそやれるさ!」

「ふふん、当然だ」

 

ランディのお世辞は随分とあからさまだったが、レスターもすぐ気を良くする。

 

「希望すれば何回もチャレンジ出来るってこと?」

「許可さえ下りれば可能ですよ。学園としても宝の持ち腐れでは意味がありませんから。まぁ、そうは言ってもその審査が厳しいのも事実です。《冒頭の十二人(ページ・ワン)》を除いては、ですけれど」

 

なるほど、さすがの特権だ。

 

「といっても《冒頭の十二人《ページ・ワン》》とて無制限ではありません。見込みがないと判断されれば許可が下りなくなることもあります」

 

そうこうしているうちに、高等部校舎の地下ブロックにある装備局に着いた。地下といってもアスタリスクは人工島なので実際は水中なのだが、窓らしきものは一つもないので中はそう大差がない。職員と思わしき白衣の人々が忙しそうに往来する通路を物珍しそうに綾斗が眺めながら進んでいると、

 

「や、やあ、この前はすみませんでした」

 

ふいに背後から小さな声で話しかけられた。振り向いてみればサイラスが気の弱そうな笑顔を浮かべていた。

 

「レスターさんも悪い人じゃないんでふが・・・・・その、ちょっとばかし気性の激しいところがある方なので・・・・」

「ああ、いや、別に気にしてないよ」

「ランディさんもあの調子ですから、また何か不愉快な思いをさせてしまうかも知れませんが・・・・ほ、本当に申し訳無いです。昨日も二人で何か話してたみたいで・・・・・」

「おい、サイラス!てめぇ、何してやがる!」

「そうだぞ!早く来い!

「は、はいっ!で、では・・・・・」」

 

前からレスターたちの怒声が飛んでき、サイラスは小さく頭を下げると、慌てて二人に駆け寄って行った。そして、その後ろ姿を刹那はただ無言で、睨んでいた。

 

「・・・・・・」

(刹那?)

 

そしてそのまま踵を返し、クローディアの元へと歩いていった。その後を追うように綾斗も駆け足で向かった。

それから装備局フロアの最奥にあるエレベーターでさらに潜り、ようやく到着したそこは広めのトレーニングルームのような空間だった。地下なのに随分天井が高い。片方の壁には六角形の模様がズラリと並んでいて、その反対側は一部がガラス張りのようになっている。ガラスの向こうでは白衣姿の男女が何人か忙しそうに働いていたが、年齢的に学生ではないのでここの職員だろう。ランディとサイラスも今はそちらで待機している。

 

「んじゃ先に始めるぜ、いいな?」

「綾斗は構いませんか?」

「ああ、うん。どうぞ」

 

レスターは手慣れた様子で六角形が並んだ壁の隅に置かれた端末を操作し始めた。巨大な空間ウィンドウがいくつも表示され、真剣な表情でそれと向き合っている。

 

「あれは?」

「我が星導館学園が保有している純星煌式武装の一覧です。ちなみに現在の総数は二十二、これは六学園中トップなんですよ」

「へぇ」

「一覧には形状と名前、その能力が記載されているので希望するものを一つ選んでください。表示がグレーになっているものは現在使い手の元にあるものです。つまり貸し出し中というわけです」

「なるほど〜。ということは、ええっと」

 

綾斗はグレーの表示を数えてみた。

 

「七つか。あんまり貸し出してはいないんだな」

「そうだね。刹那は本当に受けないの?」

「ああ、俺は大丈夫だ。それよりお前は何にするんだ?」

「そうなんだよな〜。実の所、姉さんが使っていたかもしれない純星煌式武装だけ見れれば良かったんだけど・・・・・」

「よし、これに決めたぜ」

 

やがてレスターは一覧から一つ選んでウィンドウを閉じると同時に六角形の模様が一つ輝き、それは場所を組み替えながら滑らかに動きながらレスターの前にやってきた。更には低音を響かせて、模様が壁からせり出してくる。どうやら収納ケースのようだった。

 

「うふふ、無駄に凝ってますよね」

「無駄って・・・・・・」

「あんたがそれ言っちゃダメだろ」

 

生徒会長に言われてこれを設計した人も立つ瀬がないだろう。

 

「あら?」

「《轟遠の烈斧(コルネフォロス)》は挑戦者だな。あんな気難しいのを選ぶとは」

「それを言ったら私は何なんでしょうかね。ですが、確かに刹那の言う通りです。マクスフェイルくんは《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を選びましたか」

「《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》?」

「ええ、かつて他学園から“触れなば溶け、刺さば大地は坩堝と化さん”と恐れられた強力な純星煌式武装(オーガルクス)です」

「四色の魔剣のうちの一振りだ」

「随分と仰々しいね・・・・・」

「確かにそうですが、それに見合うだけの力を秘めいますよ。手懐けられたのは歴代でも片手で数えるくらいしかいません。そしてあれが、使用履歴の改竄があった件の純星煌式武装なんです」

「あれが・・・・・」

 

レスターはケースから発動体を取り出すと、部屋の中央に進み出しガラスの向こうへ合図を送っている。綾斗は思わずその手元を凝視した。

 

「あれが、姉さんが使っていたかもしれない純星煌式武装(オーガルクス)・・・・・」

 

黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》のウルム=マナダイトはレスターの手の中で鮮やかな赤く輝いていた。

 

「さぁて、いくぜぇ・・・・・!」

 

レスターが発動体を起動させると、まずはその柄が再構築されていく。かなりの大きさだ。そして間髪入れずにその柄の部分が開き、光の刀身が現れる。

 

「魔剣と聞いていたが、刀身は白いのか。にしてもでかいな」

 

綾斗もっとよく見ようと身を乗り出した瞬間、心臓がドクンと強く脈打った。まるで得体のしれない化け物と目を合わせてしまったかのような感覚、いや戦慄と言った方がいいだろうか。もっとも、それはほんの一瞬の出来事だったが。

 

(今のは・・・・・・?)

 

綾斗は首をひねったが、どこからかスピーカー越しの声により意識を戻した。

 

『計測準備できました。どうぞ始めてください』

 

それを受けてレスターは《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を握ったまま吠えるような気合いの声を上げる。

 

「うおおおおおおおおおおお!」

 

爆発的に星辰力(プラーナ)が高まっているのが綾斗にもわかったが、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》からはなんの反応もない。

 

『現在の適合率、32%』

「なぁめるなああああああああ!!」

「無駄なことを・・・・・・」

 

刹那は静かに息をついた。《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を握る腕の筋肉が膨らみ、割れんばかりに歯を食いしばる。それは何者をも圧倒的な力でねじ伏せようとする強い意志の具現だ。だが《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》はそんなものには歯牙にもかけず、突然猛烈な閃光を放つとレスターの巨体を弾き飛ばした。

 

「ぐあああっ!」

「絶対痛いよ、あれ・・・・・」

「どうやら、お気に召さなかったようだな」

 

どういう力が作用しているか分からないが、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》はしばらく宙に留まったままそんなレスターを見下ろしている。

 

「拒絶されましたね」

 

クローディアが呟いた。

 

「話には聞いていたけど、純星煌式武装(オーガルクス)に意思のようなものがあるっていうのはこういうことだったんだ・・・・・」

「ええ、とてもコミュニケーションが取れるようなものではありませんが」

『最終的な適合率は28%です』

「まだまだぁ!」

 

壁際まで吹き飛ばされたレスターが猛然と体を起こし、めげずに再度《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》を構える。

 

「ああいうがむしゃらに力を追い求める姿勢は嫌いではありませんが・・・・・強引なだけで口説き落とせる相手ではないようですね」

「当たり前だ、使い手が武器を選ぶように武器も使い手を選ぶ。そこに理屈なんかいらない」

「どうして刹那とクローディアはそんなに詳しいの?」

純星煌式武装(オーガルクス)の使い手ですから、私も刹那も」

 

それは知らなかったと呟き、綾斗は視線をレスターに戻す。

 

「マクスフェイルくんは前回、前々回とやはり名の知れた純星煌式武装(オーガルクス)を選んでいますが、どれも今回と同じような結果でした」

「それはある意味才能だな」

「関心するところが違うよ、刹那・・・・・」

「強力であればなんでもいいという節操の無さを見抜かれているのかも知れません。その割り切り方は悪くない、むしろいいことだと思うんですが・・・・」

 

クローディアはそこで言葉を切ってレスターを見やる。なんとか押さえ込もうとしているようだが、何度やっても弾き飛ばされてしまっている。

 

「くそがぁ!なんでだ!なんで従わねぇ!」

「限界だな、毎回あんななのか?」

「え、ええ」

 

そのうちにレスターは《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》に触れることさえ出来なくなってきた。近づいただけで跳ね飛ばされてしまう。

 

『適合率、17%です』

 

適合率は低下する一方。もはやレスターも苛立ちを隠そうとしない。

 

「いいからオレ様に・・・・・従いやがれえええええ!!!」

 

怒号を上げて掴みかかったが、今度は一際大きく吹き飛ばされた。思い切り壁に叩きつけられ、がくりと膝を折る。

 

「ぐっ・・・・・・!」

『適合率、マイナス値へ低下!これ以上は危険です!中止して下さい!』

「あー、これは、うん、まずいな。完全にプッツンだ」

「本格的に機嫌を損ねてしまったようですね」

「なんで二人共そんなに冷静なのさ!?」

 

クローディアは一歩踏み出しかけたが、ピタリとその足が止まった。理由は簡単。空中に浮かんでいる《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》が熱を放出しているからだ。10メートルもら離れているのに直火で炙られている気さえしてくる。

 

『た、対象は完全に暴走しています!至急、退避してください!』

 

室内が赤い警告ランプ一色に染まる。スピーカーから焦った声が響き渡った。

 

『対象の熱量が急速に増大中!』

 

言われなくても既に実感している。

 

「アレは本来熱を刀身に溜め込む剣です。制御する使い手がいないので、少々外に漏れだしてしまっているみたいですね」

「こ、こういうことってよくあるの?」

純星煌式武装(オーガルクス)の暴走ですか?いいえ、記録では何度か見ていますが遭遇するのは初めてです。貴重なデータですが、逃げますか?」

「そうしたいのは山々なんだけどさ・・・・・刹那がさっきから手招きしてるんだ。しかも、アレは俺をずっと見てるし・・・・・・」

(なるほど・・・・・)

 

重い足取りで刹那の元へと行く。既に刹那は臨戦態勢にはいっていた。

 

「なあ綾斗、アレ、お前のにしてみないか?」

「アレを?俺に出来るかな」

「出来るさ、隙は俺がつくる。そのうちにやってみろ」

「・・・・・わかった」

 

綾斗は決心し、構える。

 

「いい目だ」

 

刹那は腰のポシェットから煌式武装(ルークス)とは別の発動体を取り出す。紫色に輝くウルム=マナダイト。

 

「あれは・・・・・!」

「いくぞ、《正宗》」

 

発動体を起動させ、刀の形状へと再構築される。

 

「あいつ、いつ純星煌式武装(オーガルクス)を・・・・・!」

 

レスターも驚きを隠せない。《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》は綾斗に向かい、突進する。その前に刹那は立ちはだかり、《正宗》の刀身の腹を《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》の刀身に這わせる。そして、真ん中の当たりで漆黒の刃を立て、打ち上げた。刀身と握り手の位置が逆転し、握り手の部分が綾斗の方へと向く。

 

「今だ!」

 

立ち位置を綾斗と逆転する。綾斗はしっかり柄を握った。

 

「あっつ!」

 

想像していたが、柄はとてつもない熱さだった。星辰力(プラーナ)を掌に集中してなお手の肉が焼けるのを感じる。

それでも綾斗は離すことなく床に突き立てた。

 

「・・・・悪いけど、しつこくされるのは嫌いなんだ。君と同じでね」

 

その途端、部屋に満ちていた熱気がかき消える。《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》もさっきまでの暴れっぷりが嘘のように動きを止めた。

一同が唖然する中でクローディアがパチパチと拍手し、刹那は《正宗》の起動体をポシェットにしまい、肩をポンと叩いた。

 

「さすが綾斗。ーーーー適合率は?」

 

職員ははっと我に返り、返答した。

 

『きゅ、97%、です・・・・・!』

「グッジョブ」

「結構」

 

刹那は綾斗に賞賛を贈り、クローディアは満足そうに頷き、レスターに視線を向ける。

 

「そういうわけです。あなたには残念ですが、異議はありませんね?」

「・・・・・・」

 

まだ信じられないという視線で綾斗を見ていたが、やがて悔しそうに拳を床に叩きつけた。

 

「あ、丁度いいです。刹那も計測されては?」

「俺もか?まあ、せっかくだしな」

 

そして、刹那も適合率測定を開始する。

 

「ふっーーー!」

 

起動した《正宗》を握り、自身の星辰力(プラーナ)を爆発させる。

 

「あいつ、バケモンか・・・・・!?」

 

レスターはまた驚きを隠せない。クローディアと綾斗も同じで、目をむいていた。

 

「ーーーーふう。どうだ?」

 

刹那が促すと、職員がまたまた驚きながら声を発する。

 

『ひゃ、100%です・・・・!』

「流石ですね、相変わらず」

 

刹那はやれやれと、息をはいた。


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