学戦都市アスタリスク TRILOGY   作:宙の君へ

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大変長らくお待たせしました!

《鳳凰星武祭》編もいよいよクライマックス!

「神器」に取り込まれた刹那を取り戻すため、ユリスは「神」に反逆の剣を掲げる。


第26話 最期の想い 前編

綾斗は時間を確認すると、控え室のソファに座って目を閉じていたユリスに声をかけた。

 

「そろそろだね、ユリス」

「・・・・・・・・・そうか」

 

ユリスは短く答えると、立ち上がって大きく深呼吸をした。

ステージへ続く通路をこうしてユリスと歩くのはもう何度目だろうか。一番最初、一回戦に臨むため初めてここを通ったのが随分と昔のように思える。まだたった二週間前の話だというのに。

と、ふいにユリスがぼそりと呟いた。

 

「ーーーーなあ、綾斗。私は・・・・・・・・」

「何も言わなくていいよ、ユリス。刹那を取り戻す、その思いは俺も一緒だよ。ユリスは刹那の事になると、周りが見えなくなるからね」

「な・・・・・・・・・・!」

 

ユリスは思いがけない言葉に顔を赤くし、狼狽した。その顔がおかしく少しだけ笑ってしまう。

 

「やれるさ、俺たちなら」

「そうだな」

 

小さく息を吐いたユリスは強く拳を握り締め、ゲートをくぐった。

 

『さぁー、東ゲートからは星導館学園の天霧綾斗選手とユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト選手の入場です!二週間の長きに渡って様々な闘いが繰り広げられてきたこの《鳳凰星武祭(フェニクス)》も、いよいよラストバトル!決勝戦です!』

 

眩い光の乱舞。

その中を進みながら、ユリスが呟く。

 

「不思議なものだな。こんな状況だというのにーーーー今の私はこの試合に勝ちたくてたまらない」

「うん、俺もだよ」

 

そう答えると、嬉しそうにユリスが頷く。

 

「よし、ならば私もお前も精々欲張るとしよう。望むもの全てを手に入れて見せようではないか」

「何一つ取りこぼすことなく、ね」

 

綾斗とユリスが見つめる先には二つの影。

その片割れーーーー瞳は鮮血のように真っ赤に染まり冷徹な表情が一変して不敵に笑った。

 

「よく逃げずに・・・・・・・虫けら共、死にに来たのか?」

「生憎と死ぬつもりはなくてね。君を取り戻しに来たんだ。それと、一緒に優勝も貰っていくよ」

「人間風情がよく吠える。優勝などに興味はないが、貴様らは実に不愉快だ。いつ刹那(あの子)が目覚めるか分からないからな。不確定要素は、ここで始末してやる」

「・・・・・・・・クローディア」

「私は・・・・・・・」

「大丈夫。刹那は絶対に取り戻すから」

「綾斗・・・・・・・・」

 

『そろそろ開始時間が迫って参りました!さぁさぁ皆様、泣いても笑ってもこれが今《鳳凰星武祭(フェニクス)》最後の試合です!果たして頂点に立つのはどちらのペアなのか!』

 

興奮した実況の声を聞き流しながら、精神を集中させる。

試合開始は正午丁度。

あと、三、二、一・・・・・・・・

 

「《鳳凰星武祭(フェニクス)》決勝戦、試合開始(バトルスタート)

 

胸の校章が最後の合図を告げる。それと同時に刹那の星辰力が爆発した。

 

「くくくくっ・・・・・・・!「神器(イノセンス)」解放、《真刀・神威》」

 

赤黒い片刃の大剣を顕現させた。迸る赤雷に息を飲む。

 

「行くよ!ユリス!」

「ああ!」

 

綾斗とユリスは真っ直ぐに刹那へと向かった。

 

(出し惜しみはなしだ!最初から全力で行く!)

「天霧辰明流剣術中伝ーーーー“九牙太刀”!」

 

五つの突きと四種の斬撃を組み合わせた九連撃。中伝の中でも最高難度の技だが、その全てが防がれてしまう。

 

「ーーーーふっ」

「・・・・・・だろうね」

「ーーー?」

 

それでも余裕の笑みを見せる綾斗に、刹那は顔を曇らせる。刹那相手にこんな技が通じるとは思ってない。

防がれる事は想定済みだ。

 

「咲き誇れーーーー九輪の舞焔花(プリムローズ)!」

 

直後、綾斗の背後で猛烈な熱気が上がった。いくら「神器」とはいえ、手は塞いでいる。防ぐ手段は限られているはずだ。さらに多方向からの同時攻撃となれば更に限られてくる。

 

「ーーーーーー」

 

上下左右から襲いかかる炎の花を、刹那は何もせず直撃をくらった。普段よりもずっと遠距離からの発動なのに、ユリスのコントロールには一切の乱れがない。

 

「天霧辰明流剣術初伝ーーー“貳蛟龍(ふたつみずち)”!」

 

その隙に綾斗はさらに踏み込んで次の技を繰り出した。が、もうそこには

 

(い、いない・・・・・・!?)

「人間、面白い技を使うな。どれ、見様見真似だが私も使ってみるとしよう」

「いつの間に・・・・・・・・・・!!」

「あ、綾斗!」

「“九牙太刀(くがたち)”」

 

刹那が繰り出す“九牙太刀”。

神速の速度で放たれる五つの突きと四種の斬撃。もちろん綾斗ですら避ける事は叶わず、防御もできず、その身体に強烈な九連撃が叩き込まれた。

 

「がはっ・・・・ぁ・・・・・・!」

 

身体に風穴を開けられたかのような錯覚を覚える程に強烈な九連撃に意識が飛かける。

 

「綾斗ッ!!」

「つまらんな」

 

綾斗の手を掴み、接近してくるユリスに向け放り投げた。

 

「つっーーー!」

 

何とか綾斗を受け止め、刹那から距離を取る。

 

「終いか。大言の割にはだな、人間」

「しっかりしろ、綾斗!」

「くっ・・・・そ・・・・・・・!」

「貴様らより、あの刀藤綺凛とかいう人間の方が余程やりがいがあったが、どちらにせよ「神器(イノセンス)」である私にとっては虫けらと何ら変わりはない」

 

つまらなそうな表情でユリスと綾斗を見下げる。

 

「まだまだ・・・・・・!ここからさ・・・・・・!」

「畳み掛けるぞ!綾斗!」

「了解!」

「ほう・・・・・・・・」

 

綾斗を先頭にユリスが追従する。

 

「咲き誇れーーー赤円の灼斬斬(リビングストンデイジー)!」

 

地面から無数の炎が吹き上がり、渦を巻くようにして炎の戦輪が現出する。いつもより若干小粒なのは、威力よりも数を優先させたのだろう。優に二十を超える灼熱の戦輪が刹那を襲う。

 

「ふん」

 

刹那は右指を前に出しそして、パチンーーーーと鳴らした。

瞬間、無数の赤雷が炎の戦輪を全てかき消した。

 

「くっ・・・・・・・!天霧辰明流剣術中伝ーーーー“十毘薊(とびあざみ)”!」

 

綾斗は身体ごと回転させてのに連撃を叩き込むが、それすらも防がれる。《黒炉の魔剣》と《真刀・神威》が火花を激しく散らしながら鍔迫り合いをし合う。

 

「ぐぅ・・・・・!」

「邪魔だ」

「がっ・・・・・!」

 

綾斗を蹴り飛ばし、追撃を仕掛けようとしたが、

 

「よくやった、綾斗・・・・・!」

「なにーーーー」

「綻べーーーー栄裂の炎爪華(グロリオーサ)!」

 

ユリスがアスペラ・スピナーを振り下ろすと同時に、地面に魔法陣が浮かび上がった。巨大な炎の爪が噴き上がり、そのまま刹那を握り潰す。

 

「ーーーーくどい」

 

が、《真刀・神威》を一閃。

巨大な赤雷により巨大な炎の爪は虚空へ虚しく消え失せた。

 

「そ、んな・・・・・・・・・」

「ネタは尽きたか、人間」

「く・・・・・・・!」

「もういい、楽にしてやる」

 

そう言った瞬間、刹那の姿がぶれた。

綾斗の背後に移動し、頭を掴みあげ放り投げた。

 

「ぐあっ!」

早蕨(さわらび)

 

《真刀・神威》を地面き突き立て、針状と化した赤雷が綾斗の身体をそのまま串刺しにした。

 

「ぁ・・・・・・・」

「死ね、人間」

「あや・・・・・と・・・・・?」

 

ユリスは無残に転がる綾斗に歩み寄る。串刺しにされた箇所から血が流れ、最早戦える状態ではなかった。

 

『天霧綾斗、意識消失(アンコンシャスネス)

『救護班、天霧選手を集中治療室へ!』

 

アナウンスの焦った声がドーム内に響き渡る。

 

「さあ、あとは貴様だけだ。女」

「ーーーーーー」

「まだ、私もいます」

「ん?」

 

クローディアがそっと歩き出し、ユリスの前に立った。

 

「ほう。貴様はそちらを選んだか」

「・・・・・・・・・・」

「まあいい。いずれ、貴様も殺すつもりだったから手間が省けた。だが酔狂な人間もいたものだ、己から死にたがるやつがいるとはな」

「もう、私の大切な人の体で・・・・・・・!」

 

《パン=ドラ》を握り締め、目の前の怪物を睨みつける。

 

「私の大切な人を傷つけさせはしません・・・・・・・・!「神器(イノセンス)」!!あなたは、私が止めます!」

「いいだろう、まずは貴様から殺してやろう。人間」

 

無数の赤雷が刹那の周りを駆け巡る。

 

「ユリス、行きますよ・・・・・・・」

「ああ・・・・・・!」

「「神」の力を思い知れ」

 

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次回

 

この世に神様がいるのならーーー

 

その全てを私は燃やし尽くしてみせるーーー

 

神を殺すことが出来るのがまた神だと言うのならーーー

 

喜んでその力、使ってやる。私の大切な人を取り戻す為ならばーーーー

 

 

私はお前に恋をしているーーーーーーーー

 

 

第27話 最期の想い 後編


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