学戦都市アスタリスク TRILOGY   作:宙の君へ

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やっと《鳳凰星武祭》編ももう少しで終わりに近づいてきました




第25話 決別の夜

「刀藤のやつ、土壇場で殻を破るたァな・・・・・!」

 

荒地と化したシリウスドームのステージに淡い燐光をたなびかせる綺凛を見て夜吹は呟く。

 

「っ・・・・・・」

「ユリス」

 

ユリスは綾斗の顔を見上げた。

 

「大丈夫、綺凛ちゃんならきっと」

「・・・・・・ああ」

 

ユリスは再度、ステージに立つ二人を見下ろした。

 

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綺凛は自身から湧き溢れ出る力を感じながら、目の前の相手に目を向ける。未だ強大な力の呪縛に囚われている大切な人を取り返すために、自分に託してくれたパートナーのためにーーーー

 

「もう、遅れはとりません。必ずーーーーあなたを取り戻します!」

「ーーーーー来い」

 

その言葉を皮切りに、二人の姿は一瞬にして消えた。

そして、次に姿を現した時は剣を交えていた。音と影すら置き去りにする神速の剣戟が観客はおろか、実況、有数の実力者の目すら釘付けにした。遠くで衝突すれば、今度は近くで衝突し、後から聞こえてくる剣戟音がドーム内を反響する。その打ち合いに圧倒され、歓声を上げることすら忘れていた。しかし、綾斗とユリスだけは決して目を離さなかった。劣勢だった綺凛がついていっている。お互いがお互いを読み合い、一瞬の隙も許さない。

 

「はぁぁ!」

 

刹那が踏み込んだ瞬間、一足飛びに斬りかかった。逆袈裟の一撃を刹那は《神威》で受け止めるが、跳ね上がった切っ先はすぐに次の斬撃へと繋がっていく。

“連鶴”だ。

それでもなお、その全てに完璧に対応してくる。

 

(閃理眼で読まれてる・・・・・・!)

 

綺凛は構わず攻撃を続けるが、上段からの斬撃を防いだ《神威》が、そのまま綺凛の身体を薙いだ。

 

「ーーーーっ!」

 

すぐに軌道を修正し、《神威》の一閃を防ぐ。しかし、その衝撃は凄まじく千羽切が軋みをあげ、その身体はいとも簡単に弾き飛ばされた。綺凛はまだ十三歳といえども厳しい鍛錬を積んできている《星脈世代》であり、膂力も非常に優れたものを持っている。その打ち込みは重く、並の《星脈世代》ならばよとほどの力があったとしても防ぎ切るのが精一杯だ。綾斗のように剣技に優れた者ならある程度刀を弾くことは可能だろうが、身体ごと跳ね飛ばすなど尋常ではない。まず人間では不可能だろう。

 

「うっ・・・・くっ・・・・!」

 

霞む視界に刹那が映った。

 

「ま、まだ・・・・・・・・!」

 

残りの星辰力も少ない。あと一撃、一合持つかどうか。

 

「綺凛ちゃん・・・・!もう星辰力が・・・・・!」

 

先程まで溢れ出ていた星辰力は淡い燐光となって放出されていたが、もうそれも消えかかっていた。千羽切を杖替わりにして立ち上がる姿はもう、見てもいられなかった。制服はボロボロ、口や額からは血が流れていた。

 

「あきらめ・・・・・ない・・・・・!」

「ーーーーー」

「やく、そく、したんです・・・・・せつな、せんぱいを・・・・・とりかえすって・・・・・」

「ーーーーー」

「だから・・・・・・!!」

 

綺凛の瞳からは光が消えかかっていた。空元気もいいところ、かっこ悪いっちゃありゃしない。それでもいい、今ここで倒れても綾斗たちに何かを繋げることが出来るならーーー

 

「それに賭ける・・・・・!」

 

綺凛は最後の星辰力を振り絞り、刹那に向かって駆けた。惨めに見えるかもしれない。無駄な足掻きかもしれない。でもやっぱり、それでも足掻きたい。だって、私の助けたい人は、笑った顔がとても可愛らしい人だからーーーーそんな表情はしないで欲しいからーーー

 

コツン

 

刹那の胸に、綺凛の拳が当てられた。何の変哲もない、パンチとは程遠い、本当にただ当てただけの拳だった。

 

「ーーーーー?」

「はや、く・・・・・・もどってきて・・・・せん、ぱ・・・・・」

 

先輩にはずっと、笑っていてほしいからーーーー

 

そこで綺凛は刹那に事切れたように寄りかかった。

 

『刀藤綺凛、意識消失(アンコンシャスネス)。勝者、神木・エンフィールドペア』

 

静かな機械音声。それは静まり返ったドーム内に響いた。

数秒の間、大きな拍手が沸き起こった。

刹那の目からは一粒の涙か溢れ出る。拍手喝采を浴びながら、自分に寄りかかる少女が医療班に運ばれるまで、その顔を見つめ続けた。

 

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「刹那は・・・・・・?」

「ずっと、綺凛ちゃんと紗夜につきっきりだよ」

「そうですか・・・・・・」

 

すっかり夜になり、月明かりだけが病室内を照らし、隣り合わせのベッドで眠っている二人を照らしていた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

眠る綺凛の手を握ると、僅かながらに握り返してくる。

 

「後戻りは出来ない・・・・・・・・か」

『先輩!』

「・・・く、くく・・・・・」

 

刹那の口から笑いが漏れる。静かな病室に嬉々とした笑いが響いた。

 

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「全く、あいつはどこに行った」

 

ユリスはドーム周辺を探し回っていた。遅い時間になっても戻ってこない刹那を探していたのだ。

少し外側を探していると、丁度噴水の前にこちらに背を向け立っている刹那がいた。

 

「刹那!探したぞ!」

 

ユリスは駆け足で刹那に近づく。

 

「帰ろう、刹那」

「・・・・・・・もう、放っておいてくれ」

「え・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・」

「何を言っている!そういうわけには・・・・・!」

 

刹那は軽く舌打ちし、ユリスの胸ぐらを掴んだ。

 

「っ!?」

「はっきり言わなきゃわからないか?」

 

もうそこには、かつての彼はいなかった。見たことない悲しそうで、そして、何かに取り憑かれたかのような虚ろな目でユリスを睨んだ。

 

「迷惑なんだよ・・・・・!他人のくせに、偉そうに言いやがって・・・・・・!」

「やめ、ろ・・・・!刹那、お前は「神器」にいい様に使われてるだけだ・・・・・!目を覚ませ・・・・・・・!」

「黙れッ!!!」

 

胸ぐらを掴みあげる力が更に増す。

丁度そこにユリスと刹那を探しに来た綾斗が通りかかった。

 

(あれは・・・・・ユリス!?)

 

傍から見れば首を絞めあげているように見えた綾斗はダッシュで向かう。

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ、黙れッ!!!」

「か、はッ・・・・・・!」

「ユリスッ!」

 

胸ぐらを掴む手を綾斗は力づくで引き剥がした。尻餅をつき咳き込むユリスを庇い、綾斗は刹那を睨んだ。

 

「どういうつもりだい?刹那」

「何なんだよ、どいつもこいつも・・・・・・・俺の邪魔をして・・・・・・・・・」

「はぁ、はぁ・・・・・」

「俺にはもう「神器」しかないんだ。これしかないんだよ・・・・・・・!なのに・・・・!!」

「落ち着くんだ、刹那!君は今も「神器」に取り憑かれてるだけだ!」

「黙れよ・・・・・・!」

「君は「神器」に頼らなくたって充分強いじゃないか!それは危険なんだよ!」

「分かってるような口を聞くなッ!」

 

「神器」による感情の増幅。例えそれが本人の意思ではなくとも、根底に眠る本心は抑えることは出来ない。「神器」に取り憑かれてる今の状態なら尚更だった。

 

「お前らに何が分かる!?最初から全てを持ってる、お前らにッ!!」

 

刹那の目からはボロボロと涙が溢れていた。

 

「家族も、居場所も、力も!最初から持っているお前らなんかに!俺の何が分かるって言うんだよ!言ってみろよッ!!」

 

刹那は今度は綾斗の胸ぐらを掴んだ。今まで本心を語らなかった少年の本当の気持ち。孤独、悲壮、憎悪、あらゆるものが混じりあったその言葉に綾斗は何も言い返せなかった。

 

「それでも、俺たちは君の・・・・・!」

「うるさい、黙れッ!もう俺は、立ち止まれないんだよ!俺のことは放っとけよッ!」

「それでも、その力は間違ってる!力はただ力でしかないって言ったのは、君じゃないか!俺は認めない!そんな自分や他人を傷つけてまで得た強さは間違ってる!」

 

そこで綾斗は掴まれていた手を振りほどき、距離を取った。ユリスを気にかけながら、目線は刹那から外さない。

 

「だったら否定してみせろよ・・・・・・俺を倒して、俺の強さを否定してみせろ・・・・・!」

「もちろんそのつもりだよ」

 

決定的な決別。刹那は踵を返し、闇夜に溶けるように消えていった。

 

「ユリス、大丈夫かい・・・・・・?」

「・・・・ふっ・・・うっ・・・・」

「ユリス・・・・・・・」

 

彼女は泣いていた。決して、弱音も弱みも吐いたり見せなかった彼女が泣いているのだ。

 

「違うんだ・・・・・・私はただ・・・・刹那の、力になりたくて・・・・・・・なのに・・・・・・」

「わかってる。わかってるよ、ユリス」

「綾斗・・・・・・私は、間違っていたのか・・・・・・・?」

 

そこで、綾斗はユリスを抱き寄せそっと頭を撫でた。

 

「間違ってなんかないさ。大丈夫、刹那は俺たちで正気に戻してやろう。間違ってるって言ってあげよう」

「綾斗・・・・・・・」

「やれるさ、俺たち二人なら」

「うぅ・・・・・・・・」

(刹那、君はやっぱり間違ってる。君を倒して、君の強さを否定する・・・・・!)

 

その後もユリスは泣き続け、綾斗はユリスが泣き止むまでずっと頭を撫で続けた。

 


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