《真刀・神威》刹那に綺凛、紗夜は勝てるのか!?
「はぁっ!」
「ーーー」
綺凛の千羽切が弧を描いて刹那へと迫り、それをは素手で受け止めた。握る手から鮮血が一滴、二滴と滴り落ちる。
「っ!?」
「綺凛!」
「く・・・・・!」
刹那は千羽切を離し、《神威》で綺凛に切りかかる。それを紙一重で躱し、そのまま背後に回り込むようにして再度上段から斬り落とすが、集まり出した万応素で阻まれる。
それでも綺凛の剣戟はほんの一瞬も途切れることなく、流れるように次の一撃へと繋がっていく。
『ステージの中央では刀藤選手の物凄い連続攻撃が続いております!』
『これが噂に聞く刀藤流の“連鶴”ッスかー。いやー、なるほどなるほど、ホントに隙がないっスねー』
ーーーーー“連鶴”。
それは綺凛が学ぶ刀藤流の奥義であるが、ただ一つの技を指すものではない。繋ぎ手と呼ばれる型を組み合わせることにより途切れのない完全な連続攻撃を成し得る技術こそが“連鶴”なのだ。
「ーーーーー」
(あれは刹那先輩じゃない・・・・!私が止めるんだ・・・・!)
「ーーーーッ!?」
収束し、“連鶴”を防いでいた万応素が綺凛の目の前で広がり、衝撃波として綺凛を吹き飛ばした。
「綺凛!」
「だ、大丈夫です・・・・!」
紗夜のいる後方まで一瞬にして吹き飛ばされた綺凛は落ちる汗を拭う。刹那はそれを冷めた目で見ていた。
「・・・・・・・・」
紗夜は言葉を発さず、ただ力を無慈悲に振るう刹那に一種の恐怖を抱く。
「まだ、です・・・・・・・!」
「綺凛・・・・・・・」
「私の憧れた刹那先輩を、取り返すまでは・・・・・・・!」
よろめきながらも立ち上がり、再度構え直す。
「わっかんねぇなー」
「何がだ、夜吹」
「あんなにボロボロになってまで、何で他人に関わろうとすんのかが俺にはわかんねぇ」
「友を救いたいと言う気持ちに他ないだろう」
「そういうもんかねぇ・・・・・・」
(解せねぇな。圧倒的力の差があるのが分かってても尚、戦う意志を持ち続ける意味がわかんねぇんだよなぁーーーー何が刀藤をあそこまで駆り立ててんだ)
そんなの分かりきっていた。おそらく刹那だからだ。いや、例え刹那で無くても彼女は自身が傷つくのも厭わず助けるために戦うだろう。それが刀藤綺凛という少女なのだ。
(故にそのあまさが自分の剣の冴えを鈍らせてるのも気づいちゃいない)
夜吹は試合を見ながら目を細めた。
(どのみちあの状態の刹那には絶対に勝てない。早く「
《真刀・神威》を肩に担ぎ、遠くにいる二人を光が消えた瞳で睨む。乱れぬ息、無くならない星辰力。全てが規格外な怪物相手にどう対処すればいいのだろう。
(弱気になっちゃダメ・・・・・・)
全力で自身を叱咤する。震える足に力を入れ、目の前の男に視線を向ける。まだ戦う力があるのか、と思ったように刹那の顔が一瞬だけ驚いた表情をした。だがそれは一瞬にして消え失せ、また無表情へと戻る。
「刀藤綺凛、参ります!」
綺凛は千羽切を正眼に構えると、刹那と真っ向から対峙する。
「それじゃ、こっちも始めよう」
「紗夜・・・・・・」
「四十一式煌型粒子双砲ヴァルデンホルト」
クローディアと対峙する紗夜がポツリと呟いた。父が自分のために作ってくれた武器の名を呼ぶこと。それは紗夜が紗夜自身に定めたルールの一つだけ。巨大なバックユニットを備えた煌式武装が顕現し、それに応じて紗夜の髪飾りが簡易照準モニターを展開させる。腕全体を覆うような砲身は、左右に一門ずつ。着地と同時にそのマナダイトへ星辰力を注ぎ込み、紗夜はトリガーを引き絞った。
「ーーーー《バースト》」
銃口の前に青白い光が集約し、膨張。次の瞬間、甲高い発射音と共に巨大な光弾が二つ、大気を切り裂くかのような速度で射出される。
「っーーーー!」
辛うじてその一つをかわしたクローディアも、二つ目の光弾を避ける事はできない。だが、防ぐ手段もない。
甲高い発射音がなったと同時に刹那の意識がクローディアへと向いた。そして一瞬にしてクローディアの前へと移動し、迫り来る光弾を真っ二つに両断した。後方へと絶たれた光弾が着弾し爆発する。
「ーーーーー? せつ、な」
名前を呼んでも返事はなかった。やはりまだ「
「ーーーーー」
(斬った。ヴァルデンホルトの光弾を)
虚ろな目で今度は紗夜を見つめ、《真刀・神威》を構えた。戦闘態勢に入ったのだ、ここからは今度は紗夜を蹂躙するために。
(いけないーー!)
「逃げて!紗夜!」
「っーーーー!」
しかし、もう遅かった。そこには刹那の姿はなく、既に紗夜の後にいたのだ。
「ーーーーー」
片手で《真刀・神威》を下段から上段へと切り上げる。それを間一髪でかわしたが衝撃波でステージの地は切り裂かれ、ヴァルデンホルトを一撃で破壊した。
「くぁ・・・・・・!」
宙へと投げ飛ばされた紗夜は何とか態勢を立て直し、新たな武装を展開しようとしたがもう既に自分の戦いは終わってる事に気付かされる。またも背後を取られていた。あの距離を一瞬にして詰めていたのだ。
黒雷が吠え、唸り渦を巻く。《真刀・神威》の赤黒い刀身には既に黒雷がまとわりつく様に迸っていた。シリウスドーム内に一点の黒い光が煌めく。
「やめろッ!刹那!」
「紗夜!逃げてッ!」
ユリスと綾斗の声は届かない。
「紗夜さんッ!」
綺凛は全力で走る。間違いない、あんなのを食らったいくら星脈世代とはいえ一溜りもない。刹那は溜めた黒雷を上へと放つ、それは彼の最強の流星闘技の初めの動作だった。
それは巨大な顎として姿を現した。超高圧の電気で出来た悪魔の顎。
「神木、殺す気か!?」
「刹那さん!」
今まさに自分の眼前で自分を喰おうとしている口があるのに、星辰力はまだ余っているのに、何故か逃げる気になれなかった。
絶望からじゃない。諦めたくはなかったが、流石にこれは無理だと思う。直感的に無理だと感じたのだ。
綾斗の声もユリスの声も綺凛の声もちゃんと本当は聞こえてる。逃げれるものなら持うとっくに逃げてる。だが、あの切り上げの時に既に自身の体が刹那の雷で痺れて満足に動かすことが出来なかった。操られてるくせに妙に器用なのが腹が立つ。
「本当に困ったやつだ、お前は」
「ーーーーー」
「・・・・・・ちゃんと綺凛に正気に戻してもらえ。私にはその役目は少し荷が重過ぎたようだ」
「紗夜さんッ!待っててください!今ーーーー」
(なぜ泣く、綺凛)
走ってこちらに向かってくる綺凛の瞳からは既に涙が流れていた。もう勘づいているのかもしれない。自分が行ったところでもう間に合わないという事を。
(ごめん、綺凛。結局綺凛任せになった)
だから今自分に出来ることはせめてこれしか出来ない。
「綺凛、後は任せた。刹那を頼む」
「ーーーーッッ!?」
サムズアップする紗夜の顔は薄ら笑みを浮かべていた。
「ーーーーー詰みだ」
一度も喋らなかった刹那が口を開く。
麒麟・獄門顎
巨大な顎は紗夜を飲み込む。
アリーナ内が黒一色に支配された。
会場内が唸り、落雷の轟音が鳴り響き、轟く。漆黒の雷の柱が天井を突き破り、シリウスドームにそびえ立った。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
あまりの衝撃でアリーナ内はところどころヒビが入り、観客も転倒していた。
そして、ステージではうつ伏せで倒れている綺凛とクローディア。
中央には巨大なクレーター。覆っていた土埃が晴れ、そこに立っていたのは無傷の刹那だった。
「ーーーーーー」
「う・・・・・・」
もぞりと綺凛がうめき声をあげながら、顔を上げた。クローディアも同時に何とか起き上がる。空いた天井から太陽の光が差し込み、クレーターの中央を照らした。
「さ・・・・やさん・・・・・・」
そこで綺凛の目は最大まで開かれた。
クレーターの中央には衣服が焦げ、体からは僅かに蒸気が立ち、うつ伏せで倒れている紗夜がいた。
「ま、さか・・・・・・」
『沙々宮紗夜、
『ここで緊急のインターバルを取ります!神木選手のあの一撃で惜しくも沙々宮選手は敗れてしまいましたが、校章を通してのバイタルチェックでかなり心肺が微弱になっていたため緊急搬送し、集中治療室へと運ばれています!容態が分かり次第、試合を再開させていただきます!』
「マジかよ・・・・あれが《閃光》の本気なのか・・・・・」
「あの沙々宮って子、焦げてなかった・・・・・・?」
観客席から不安の声やら感嘆の声が漏れる。
「・・・・・・・・」
綺凛は拳を握りしめた。
「綺凛・・・・・・・」
クローディアは片腕を抑えながら呟く。
『綺凛、後は任せた。刹那を頼む』
「ーーーーッ!!」
千羽切を支えに立ち上がる。その瞳に、静かな闘志を燃やして。
「刹那先輩・・・・・・・いや、神木刹那」
刹那は《真刀・神威》を肩に担ぎ、綺凛へと向き直る。
「「
千羽切の切っ先を刹那へ向ける。
「
綺凛の瞳が淡く輝き出す。星辰力がそよ風のように綺凛の周囲を躍る。
「《疾風迅雷》刀藤綺凛、推して参りますッ!」
次回 綺凛、覚醒