13と14巻が連続刊行とはすごいっす!
姉の同級生での方が描いてくれた刹那くんです!
このクォリティで雑に描いたらしいんですけど・・・・・・羨ましいの前にすごいです。
それでは本編どーぞ!
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「急急如律令、勅!」
沈雲の手が複雑な印を結ぶと、周囲の空間がゆらりと揺らめく。と、次の瞬間にはステージのあちこちからもうもうとした煙がとてつもない勢いで吹き出した。
「これは、煙幕か」
煙は瞬く間にステージを覆い尽くし、二人は背中を合わせた。
「大丈夫ですか?刹那」
「ああ、問題ない。しかし、これはしてやられたな・・・・・・まさかこんな手で来るとは」
二人は注意深く周囲を探るが、煙は深くまるで見通せない。
「これも、幻影ですか」
「だろうな」
煙はあまりにも深く、濃い。それにしてはまるで煙くない。沈雲は無いものをあるように見せる幻影のエキスパート。ならばこれが星仙術で作り出された見せ掛けの煙であっても不思議はない。
「黎沈雲の幻影はあらゆる物を再現してみせると聞きますが、まさか煙とは・・・・・・。ですが、いずれこの煙も晴れるでしょう」
「確か、意図的に外部の視覚を遮断する状況を作り攻撃することは、
「ええ、何が起こっているのか分からないと、反則行為もチェックできませんし。ですが一番の理由はーーーー」
「これが、エンターテインメントだからだろうな」
刹那の言葉を裏付けるようにしばらくすると観客席からブーイングが沸き起こる。それが次第に大きくなってくると、その煙は忽然と掻き消えた。
「やれやれ、最近のお客は辛抱が足りないね。そうは思わないかい?」
「まったく。そう焦らなくてもこれからが本番だっていうのに」
いつの間にかステージの端まで移動していた沈雲と沈華が、ニヤニヤと笑いながら言う。
「卑しい奴らだな」
刹那はそう吐き捨てながらも、《正宗》を構え直す。クローディアも心の中で同意しつつ《パン=ドラ》を構え直し、二人は間合いを詰める。
「おや、こちらもまたせっかちだね。ま、そういうことなら次の手をご披露しようか」
沈雲の手が再び印を結ぶ。
沈雲の周囲の空間がぐにゃりと歪み、影法師のように朧気な何かが浮かび上がる。見る間にそれは人形となり、やがてそこには沈雲と全く同じ姿をした人影が四体、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
(出たな・・・・・・)
これこそ黎沈雲が最も得意とする幻影ーーーいわゆる『分身』だ。過去の試合映像を見ても、沈雲はほぼ全ての試合でこの術を使っていた。もちろんこれも幻影である以上実体はないのだが、外見から見分けることはほぼ不可能な程に精巧で、星辰力の動きまでもが擬似的に再現されている。しかも四人全てが異なる動きを取るため、パターンといったものを読み解くことさえ出来ない。
さらにーーーー
「それじゃ私も、と・・・・・・・・」
沈華が印を結ぶと、その姿が溶けるように消えていく。
こちらは沈華の十八番である幻影ーーー『隠行』だ。ただ単に姿を消すだけでなく、沈雲の分身同様に気配や物音、星辰力の動きさえもその幻影によって覆い隠してしまうため、よほど集中しない限りほぼ感知できない。
「さてさて、これでこちらの支度は整ったわけだけど」
「このままそちらの出方を待つというのも少々芸がないかな?」
「うん、それに観客の皆様も退屈してしまうだろうしね」
「少し盛り上げないとブーイングされかねない」
「というわけで・・・・・・・」
五人の沈雲たちがそれぞれ違う言葉を紡ぐ。どうやら声までも再現できるらしい。
「ーーーここは一つ、派手に行こうか」
不敵な笑みを浮かべた沈雲たちが手首をスナップさせると、どこからともなくその指の間に紙切れが出現した。
「刹那、気をつけてくださいーーーーあれが呪符です」
クローディアが《パン=ドラ》を構え、警戒するように腰を落とす。呪符とは星仙術の力が込められた、一種の補助アイテムだ。使い切りではあるが、呪符の種類によって発動する能力は千差万別であり、様々な場面で応用が利く。
「だが、本物はあの中の一つだけだろう?」
「それはそうですがーーーー来ます!」
そこへ五人の沈雲が同時に襲いかかってきた。武器を持っていないので、あの呪符にはなにかの攻撃型の能力が込められているのだろう。迎撃するように《正宗》を振るうと、その一人はあっさり両断された。
「幻影かーーー!」
なんの手応えもなく、斬られたはずの体も煙のように揺らいだだけですぐに元に戻ってしまう。返す刀でもう一人斬り捨てたものの、やはり手応えがなく、剣閃が虚しくすり抜けるだけだ。
「残念、ハズレだね」
と、それをすり抜けるようにして現れた三人目の沈雲が、呪符を刹那へ向かって突き出しながらニヤリと笑った。ーーーーが、目の前の刹那の姿がブレた。
「なにーーー」
「どこを見ている。それは残像だ」
声がする方を振り向く前に、呪符を全て斬り捨てられる。
(いつの間に後ろにーーーー!)
と同時に二人の幻影を斬り捨て、更に追撃をかけるが身軽な身のこなしですぐに距離を取られる。
『絶影』。
「私を忘れてもらっては困るわね!」
「チッ!」
一時的とはいえ建御黒雷神は反動がある。身動き取れないところを沈華が仕留めようとするが、
「あなたも私を忘れていませんか?」
「ーーーー!」
「みーつけた」
本来ならば知覚することすら叶わない自身の『隠行』を彼女は見抜いていた。見えないはずの自分を捉えている彼女の目にゾクリと身震いすると同時に、攻撃をやめ沈雲同様距離を取った。
「助かった、会長」
「いいえ。さて、そろそろ終わらせたいところですが・・・・・・」
「長期戦は不利だからな。黎沈華の動きに注意しつつ、黎沈雲から落とす。会長は見えるのか?」
「問題ありません。私には優れた第六感がありますので」
自信満々に腰に手を置く彼女を小さなため息を吐いた。既に試合開始からそれなりの時間が過ぎている。これ以上はこちらが不利になる一方だ。
「行くぞ!」
二人は同時に沈雲へと向かって走り出した。
「ふうん、やっぱり僕の方に来るか」
沈雲は呟くが、悠然と立ち尽くしたまま構える様子もない。ということは幻影なのだろうか。
(閃理眼!)
眼球に星辰力を集中させる。微弱な電磁波が見えるためどうやら幻影ではないようだ。
(ならばーーー!)
さらに加速し、沈雲の懐間近というところまで来た瞬間、なんの前触れもなく眼前に突如として巨大な壁が出現した。
「ーーーっ!?」
刹那は咄嗟に壁を回り込もうと横に飛んだが、今度はそれを見透かしていたかのように目の前の空間が爆発する。
「ぐぁぁっ!」
今度はまともに爆風をくらってしまう。
「ああ、ひとつ言い忘れていた。気をつけたほうがいいよ。
そんな刹那に向かって楽しそうに言った。
(仕掛けたーーーということはトラップか・・・・・!)
どうやらあの煙幕の時に仕掛けていたようだ。形としてはユリスの設置型能力に近いが、ジュブは作成次に必要な星辰力が込められているため、術者はその使用に際してほとんど星辰力を消費しない。つまり物理的に呪符が弾切れしない限り、使いたい放題なのだ。
だとすれば、どこにどれだけ仕掛けられているのかわかったものではない。
「刹那!」
「来るな!」
「だからさ、私もいるんだけど」
(しまっーーー)
いかにも楽しそうな沈華の声がクローディアの背後から響いた。防御の構えを取ろうとするが、遅かった。
「招雷!」
「あああああああああああ!」
凄まじい稲光と共に電撃が迸り、クローディアの体を引き裂くような衝撃が走り抜ける。沈華の星仙術だろう。
「会長・・・・・・!」
「ほぉら、こっちがお留守よ!」
「うぁっ!?」
どこからともなく、楽しそうな沈華の声が響いた。察するにクローディアへ直接打撃を叩き込んだのだろう。
「ぐっ・・・・・・・!」
何とか立ち上がった瞬間、刹那の周囲に魔法陣が浮かび上がり、光の縛鎖が刹那を戒めていく。
「まだ制限がーーーー!」
「
「訳は知らないけれど不憫なものだね。で、今はどんな気分かな」
「・・・・・・・っ!」
(こいつ、最初からわかってて・・・・・!)
無言で刹那は沈雲を睨んだ。
「おお、いい顔するじゃないか。うん、中々にそそる」
沈雲の言葉に喜悦が滲む。
「抵抗できないやつを嬲って楽しいか・・・?黎沈雲・・・・・・!生憎と俺はしぶとくてな、簡単にはいかないぞ・・・・・・!」
「ああ、いいねぇ、その無駄な足掻き。心が躍るよ・・・・・!」
「はっ、下衆が・・・・・!」
ゼロ距離で呪符が揺らめき爆発する。
「ぐあああああああ!」
打撲と裂傷、骨もかなりのダメージを受けているだろう。
「おおっと、まだ気を失わないでくれよ?君は最後にとっておきたいからね」
「な、に・・・・・・・」
すると突如前方からクローディアが地面を転がってきた。
「か、会長・・・・・!」
「私は、大丈夫です・・・・・・!それより、刹那は・・・・・・っ!?」
そこでクローディアは息を呑んだ。既にそこには光の縛鎖で繋がれた刹那がいたからだ。
(そんな・・・・・!)
「さあ、まずは君からだ。《
「なっ・・・・・・!」
刹那の数メートル先のクローディアを突如として地面から何条もの鎖が湧き上がり、蛇のようにクローディアの体に巻きついて絡めとる。
「ぐっ・・・・・・・!」
「頑張った君に、褒美をあげないとね」
そう言った途端、縛り上げられ抵抗できないクローディアに向かい呪符を放った。当然この状態ではかわしようなどあるはずもない。呪符はクローディアの眼前で爆発し、直撃する。
「かはっ・・・・・!」
「あっはははは!どうした《
愉悦に染まった顔で高笑いし更に呪符を放ち、それも全てクローディアの眼前で爆発していく。
「やめろ・・・・・・・!」
「あっははははは!痛いのがぁ!いいだろぉ!?あっはははは!!」
刹那の懇願も聞く耳持たず、呪符をクローディアへ向かって放ち続ける。
「ああああああああああ!」
クローディアの絶叫が刹那の耳を貫く。
(また俺は、黙って見てることしか・・・・・・)
脳裏に過ぎるのは連れていかれる幼き姉と、父と母との永遠の離別。あの頃はまだ幼かったし力もまだなかった故に何も出来なかった自分が憎かった。だが今は違う。
力ならすぐ側にある。この最悪な状況を覆すことが出来る力が。
「・・・・・・・・こせ」
「・・・・・・・・?」
沈華は刹那を怪訝そうな顔で見た瞬間、遂に禁断の力を解放する。
「誰かを守れるだけの力を・・・・・・・・!」
「な、なに・・・・!?」
刹那を縛りあげていた鎖がカタカタと震え出す。
「力を寄越せッ!!「
瞬間、鎖が弾け飛び、抑え込まれていた星辰力が一気に溢れ出す。その衝撃波は凄まじく沈雲と沈華を後方へと吹き飛ばすほどだった。
「な、なんだ!?」
「なによ、あれ・・・・!」
溢れ出る星辰力を纏い、巨大な片刃の純星煌式武装を手にした刹那が立っていた。
「せ・・・つな・・・・」
一足で駆け寄ると、その身体に巻きついた鎖を断ち切った。
「つくづく君には驚かされるね」
沈雲はそう言うと、両手に複数の呪符を取り出した。沈華も無言のまま、真剣な顔でその姿を消す。
「ーーーーーー」
刹那は一言も喋らず、その姿が一瞬にして消えた。
そして次の瞬間には、消えたはずの沈華の前にいたのだ。
「ーーーーっ!?」
気づいた時にはもう遅かった。校章は既に破壊されており、あのとてつもない殺気に充てられ当分まともに歩けないかもしれないのだ。
『黎沈華、
「沈華がやられた!?」
前方には巨大な片刃の純星煌式武装を構えた刹那が無言で睨みつけていた、濃厚な殺気を放ちながら。そしてまた一瞬にして消えた。
「なにーーーー!?」
自分の懐にいつの間にかいる刹那に顔が青ざめていく。そして首を握るように締め上げられる。
「かっ・・・・・・」
「ーーーーーー」
ギリギリと握りしめる力が強くなり、呼吸がままならなくなっていく。完全に「
(ダメです、刹那・・・・・それ以上はあなたを・・・・・!)
「か・・・・・・は・・・・・・」
「ーーーーーー」
《真刀・神威》が黒雷を纏い出す。
それを見ていた観客席で見ていたユリスの手の握る力が無意識に強くなっていた。
(刹那・・・・!)
黒雷の迸りが激しくなり、ゼロ距離で沈雲へ放とうとした瞬間、背中に重みを感じ、一瞬だけ動きが止まった。
「もう、困った人ですね・・・・・・」
「く、ろ・・・・・・・」
「はい、クローディアです」
意識を失っている沈雲はその場に倒れ込むように、崩れ落ちた。
『黎沈雲、
校章の機械音声が、宣言したと同時に怒涛の歓声が鳴り響いた同時に刹那はクローディアにもたれ掛かるように意識を手放した。漆黒に怪しく光る《正宗》の発動体を握りながらーーーーー
感想、質問待ってまーす!
質問に関しては、刹那くんがお答えするかも・・・・・?