「ふぁぁ〜・・・・・・」
「・・・・・だらしないぞ」
「ん、わるい・・・・・」
現在刹那とユリスは共にシリウスドームへと続く街道を歩いていた。
「久しぶりに気持ちよく寝たな。なんかいい匂いがずっとしてたんだが、ユリス何か知らないか?」
「き、ききき、気のせいじゃないのか?」
自分としたことがかなり動揺してしまっている。起きたら刹那を抱きしめていたなんて口が裂けても言えない。しかも外で。それに、昨日の夜から刹那は自分の名前を『リースフェルト』から『ユリス』と呼ぶようになり、何か距離が一気に縮まった気がする。
(い、いかんいかん!)
何度も緩みかける口元を必死に押さえる。でもやっぱり嬉しいものは嬉しいのだ。
「おー、きたきた」
シリウスドームの正面ホールに入るなり、綾斗がこちらへ手を振っていた。
「二人とも遅いですよ?」
クローディアが腰に手を置き、頬を膨らませる。
「すまないな、会長」
「では、遅れてきた分今日は刹那を独り占めさせてください」
「んなっ!?」
「じゃあ私は綾斗を」
「ふぇっ!?」
クローディアに紗夜が二人の片腕にガッチリくっつく。取り残されたユリスと綺凛から痛い視線をもらう綾斗は苦笑いするばかりだが、当の刹那はいつものようにそれとなく流していた。
「会長、あまり二人をおちょくるのも大概にしないとな」
「むぅ、独り占めしたいのは本当ですっ!」
「そうか」
「それ!それです!刹那の悪いところは!女性の扱いがなってません!」
「そうだそうだ」
「それには流石に私も同意します!」
「あ、いや・・・・・」
いつものやり取り綾斗は何度目かの苦笑いをする。しかし、いつもユリスもあーだこーだ言うはずが今回は何故か大人しい。
「ユリス?」
「・・・・・・・・・・・」
(い・・・・・・・!?)
綾斗は絶句した。怒ている。間違いない、いつも怒っているユリスが激おこプンプン丸状態なのだ。無言で刹那を睨みつけているが、あちらはあの三人への対応に追われ全く気づかない。
「ったく。見てるこっちの気にもなってみろってなー」
「あれ、夜吹も来てたんだ」
「まあな。暇だしお前らの試合見てた方が面白いしな。ところでお姫さまよ」
「・・・・・・なんだ」
(えぇ・・・・・・なんでそんな不機嫌なの・・・・・・)
ただ話しかけただけなのに、とは決して口に出さない。出したら出したで面倒くさくなるのは目に見えている。
「そんなことより、お姫さまにお客さんだぜ」
「私に客人だと?」
眉間に皺を寄せていた顔がいつもの顔になり、夜吹の背後から一人の女の子がぴょこっと出てきた。
歳はだいぶ若い・・・・・・というより幼い。大体小学生ぐらいだろうか。純朴そうでいかにも可愛らしい女の子だが、ただ一点気になるのはその服装だ。メイド服。一部のコアな層からは大儲けするだろう。
そして、その子を見たユリスが唖然とした表情で呟いた。
「フ、フローラ・・・・・・・?」
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執務室への固定回線を通じて執務机にコールサインが出る。
「私だ。ーーーーーここにいる時はあまり電話は控えるようにと言ったはずだよ?」
マディアスは優しくたしなめるように言った。
「大丈夫さ、彼はきっと使うよ。いや、使わざるを得ない。なぜなら、そう仕向けたのは彼らなのだから。ーーーーーでは失礼するよ」
ピッと回線を切り、椅子にもたれ掛かる。《
「もう少しだ。もう少しで君を目覚めさせることが出来る。聖羅くん」
マディアスは静かに笑った。
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「じゃあ君は、リーゼルタニアから一人で?」
「あい!フローラと申します!みなさま、よろしくお願いします!」
若干舌足らずなところもあったが、フローラと名乗ったその少女は直角になるくらい深々と頭を下げた。
聞けば、フローラはなんとユリスが救おうとしているリーゼルタニアの孤児院からやっえきたのだという。
「受付で随分と困ってたもんだからよ。話を聞いたらお姫さまの知り合いだのなんのってさ」
夜吹が簡潔に経緯を説明した。
「あい!助かりました!ありがとうございます、夜吹様!」
「いいってことよ〜」
撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。夜吹は小さい子に懐かれやすい性格なのかもしれない。
「全く、来るなら来るで一報くらい寄越せばいいものを・・・・・・・・」
ユリスは困りながら笑う。その表情はとても柔らかく穏やかで、それだけでフローラがユリスにとってとても大事な存在なのだと分かる。
「だって陛下が《
「はぁ・・・・・・兄上は相変わらず戯れが過ぎるな。どうせその格好も兄上の入れ知恵なのだろう?」
「あい!」
「全くあの人は・・・・・・」
ユリスはこめかみを押さえながら盛大にため息を吐く。
どうやらユリスの兄はかなりお茶目な人のようだ。
「ところで、神木様はどちらでしょうか?」
フローラは眺めるように各々の顔を見る。
「あ、神木は俺だが・・・・・・」
刹那が言うとピタッと視線と視線が合う。
「わぁ・・・・・・噂に聞いた通りすっごいカッコイイ人ですね!」
「そ、そうなのか・・・・・・?」
「あい!いつも姫様から聞いてます!神木様の凄さをこの前なんて一時間・・・・・・・」
「ス、ススススストップだ!フローラ!」
「あら。ユリス?」
「説明願おう」
「リースフェルト先輩・・・・・・・・」
「い、一時間・・・・・?」
ユリスが段々追い詰められているが、生憎とどうすればいいのか分からない。すると更なる爆弾をフローラが投下する。
「あ、そうでした!陛下から言伝です、姫様」
「な、なんだ?」
「実はですね、神木様と皆さんを連れて近々帰っておいでとの事です!」
「兄上がか?」
「あい。なんでも神木様と結婚がどうのとか言っていたような・・・・・・・はっ!今のは言ってはいけない事でした!忘れてください!」
「けっ、けけけ、結婚・・・・・・!?」
「もう遅いと思うよ?フローラちゃん・・・・・・・」
綾斗が苦笑いで言う。
「ごめんなさい、フローラ。すこーし、あなたの姫様を借りますね?」
「あい。わかりました」
「私も行こう、エンフィールド」
「少し私も席を外します」
「お、おい。どこに・・・・・」
刹那の静止も無視し、三人はユリスを引きづっていった。
すると訪問を知らせるアラートがなり、ディスプレイを出すとそこには
『やっほー。神木刹那くんいますかー?』
「あんたは・・・・・・・」
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控え室にとある人物の訪問によって更に空気が重くなる。
刹那を真ん中に膝の上にフローラ、右に綾斗。対面にはクローディア、紗夜、綺凛、ユリス。そして、刹那の左側にはーーーー
「あら、ご機嫌よう。シルヴィア」
「こんにちは、クローディアさん」
「何故ここに《
「あなたが《
「あのぉ・・・・・一体どのようなご用件で・・・・・・」
綺凛が遠慮がちに聞いてくる。
「うん。実はね、彼とお話がしたくて」
「お、俺か?」
「うん、君のこと気になちゃったんだもん」
ビシッ
空気が凍りつく。まさかここにも爆弾娘がいたとは。
「だから今日はお近づきのしるしに・・・・・」
シルヴィアはそっと刹那の頬に口をつけた。
と、同時に対面の四人顔がひきつる。
「あー!いけません!シルヴィア様!神木様は、姫様のものになるんですから!」
しまった。ここに爆弾娘がいたのだ。
「えー、そうなの?じゃあ尚更刹那くんはあげたくないな〜」
「面白い、表にでろ。リューネハイム」
紗夜が啖呵をきった。それに続くように三人も立ち上がり、同時に煌式武装を展開する。
五人の目線は何やらバチバチとぶつかる。
「せ、刹那。どうしよう・・・・・・」
「ーーーーー」
「くっ!考えることを放棄している!」
その後どんちゃん騒ぎをして運営委員会から説諭を受けたことはここだけの話。