学戦都市アスタリスク TRILOGY   作:宙の君へ

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気がついたらお気に入りが増えててビックリです笑

ありがとうございます!


第16話 《覇潰の血鎌》

「行くぞ!」

 

即座に刹那は駆け出し、その後を追従するようにクローディアも続く。

 

「ははっ!真正面からか!」

 

イレーネは慣れた手つきで得物を廻し、自身も駆け出し迎え撃つ。

 

「おらぁ!」

「ーっ!」

 

二つの純星煌式武装(オーガルクス)がぶつかり合い、凄まじい火花を散らす。

鍔迫り合いをしている刹那の背後からクローディアが飛びあがり、一対の剣を振り下ろす。

 

「けっ!」

「ぐっ!」

 

刹那を力任せに弾き飛ばし、《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を逆手に持ち、重力操作により衝撃の威力を高める。

 

「吹き飛べぇ!」

「きゃぁっ!」

 

《パン=ドラ》で防御するが、衝撃が凄まじく、そのままステージの壁へと吹き飛ばされ激突する。

 

「かはっ・・・・・!」

「会長!」

 

再度間合いを詰める。先程とは違う速度に、イレーネの顔色が変わる。《正宗》を構え、体を半回転に捻り下段から斬り上げるが、

 

「おおっと!」

 

イレーネがその一撃を受け止める。華奢な腕の割にまるで鋼のようにびくともしない。

 

「チッ!」

 

刹那はそれを弾き上げ、そのまま上段から斬り下ろすが、イレーネの斬り返しがそれよりも一歩早い。咄嗟に身体を入れ替えるようにして袈裟懸けの一撃を交わし、《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》の石突きで突きを放つ。しかし、それを紙一重で躱し手で押さえつける。

 

「なっ!」

 

そのまま自分の方へと引き寄せ、がら空きの胸元、渠へと強烈な拳打を見舞った。

 

「がっ!?」

「会長の分だーー!」

 

星辰力(プラーナ)を集中させた拳打をくらったイレーネは衝撃波を伴う速さで後方の壁へと激突した。

 

「げほっ!ちっ!あたしがここまで圧されるかよ・・・・・・・!」

 

血反吐を吐き、イレーネは《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を一振した。

 

「ーーー十重壊(ディエス・ファネガ)!」

 

身体の回りに黒い重力球が出現し、

 

「行け!」

 

指示を出す。無数の重力球が眼前に迫るが、鍔迫り合いでの手の痺れで思うように《正宗》を握れない。

 

「こんな時に・・・・・!」

「任せてください!」

 

再起したクローディアが前に出る。

 

矮星双舞(メメント・モリ)!」

 

無数の重力球を高速の剣技で全て斬り消した。

 

『ーーーこ、これはのっけから凄い攻防です!神木選手とエンフィールド選手のコンビネーションも見事ですが、それを凌いで見せたウルサイス選手もまた凄い!』

 

刹那とクローディアは肩を並べ、イレーネと対峙する。

 

「ふん、組んで一、二ヶ月の急造ペアにしちゃいい動きしやがるじゃねぇか」

 

イレーネが息を整えながらそう言うと、《正宗》を構えながら刹那がそれに応じる。

 

「そっちこそ、一人でよく躱す」

「ははっ!一人じゃねぇよ、こっちだってちゃんと二人いるさ」

 

イレーネの瞳に凶暴な光が灯り、ニヤリと笑った口元から鋭い牙が覗く。

 

「こいつはあたしとプリシラ、二人の力だ!」

 

覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》がカタカタと震え、紫色の光が地面を伝う。それはまるで嗤っているように見えた。

 

「避けて!刹那!」

 

クローディアが叫ぶよりも前に、刹那の足は動いていた。先程まで刹那がいた場所の空気がビリビリと震えているのがわかる。おそらく、あの辺り一帯の重量を操作したのだろう。

 

「ほぅ、それが《閃理眼》か」

「・・・・・・・・」

 

刹那は《正宗》を構え直す。

人間から放たれる微弱な電磁波を読み取り、次の行動を先読みする《閃理眼》も相手には知られてしまっている。

 

「だが、この程度でこの《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を攻略したと思うなよ?」

 

イレーネの手の中で、再び《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》が嗤う。

 

(なんだーーさっきから《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》がーーー)

「刹那!」

「ーーーっ!?」

 

紫色の光が地面を走るが、今度は先程よりもずっと範囲が広い。

 

「なにっーー!」

 

咄嗟に重圧に備えたが、押し潰されるのではなく、逆にふわりと浮き上がる。と、同時に《正宗》が弾き飛ばされた。虚空を舞い、刹那から遠く離れた場所に突き刺さった。

 

「重力を強くするのはしんどいが、弱めるだけならそうでもねぇのさ。だからこうして、広範囲を指定できる」

 

刹那はおよそ二メートル程度の高さに浮かんでいた。無重力の状態ではどう足掻いても虚しく空を切るだけ。

 

(やはり建御黒雷神(タケミカヅチ)をーーー!)

「刹那!」

「おっと、あんたはそこで大人しくしてな!」

 

慌てて駆け寄ろうとしたクローディアに向かって《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》が振られ、その身体に重圧がのしかかる。

 

「ぐぅ・・・・・!」

 

クローディアは転がるように倒れ込み、立ち上がろうとはしてるものの膝を立てることさえ出来ないようだ。クローディアの反射神経なら躱すことも不可能ではない程度の範囲だったが、刹那の元へ向かおうとするその動きが完全に読まれていたらしい。

 

「さぁて、あたしは《華焔の魔女(グリューエン・ローゼ)》ほどコントロールはよくねぇが、さすがに止まった的なら外さねぇぜ。ーーーー単重壊(ウーノ・ファレガ)!」

 

イレーネの眼前に重力球が出現し、ピタリと刹那へ狙いを定める。だが、ふいにイレーネががくりと膝を折った。

 

「ちぃっ、さすがに三つの能力を維持するとなると厳しいな・・・・・!あれだけ補充したってのに、もう底をつきやがったか・・・・・・!」

 

イレーネは苦しそうに顔を歪める。とはいえ、能力自体はまだ発動している。

 

「まあいい・・・・・・取り敢えずてめぇはここで終わりだ、神木!」

 

重力球が刹那へ向かって放たれ、まさに直撃しようとした瞬間ーーー

遠方から飛来してきた物体に重力球は真っ二つに裂かれた。

 

「なにっ・・・・・!?」

 

更に刹那を閉じ込めていた重力の球体を切り刻む。

そう、その正体は自立移動してきた《正宗》だった。

 

「《正宗》!」

 

呼び寄せるように手を伸ばすと、柄を掌へと収めさせた。

無重力から解放された刹那は膝をついているイレーネへ、その切っ先を向けた。

 

形態移行(シフトチェンジ)

 

《正宗》の柄が割れ更に柄が伸び、漆黒の刀身も更に伸びる。

 

純星煌式武装(オーガルクス)が変化しただと・・・・・・」

「大丈夫ですか、刹那」

「ああ、会長も」

「私は大丈夫です」

 

覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》の能力が解けたのか、刹那の元へと駆け寄ってきたクローディアは僅かに片足を引きずっていた。

一方のイレーネはそんな刹那たちに視線を残しながらも、じりじりと少しずつ後退していた。おそらく血を補充するためにプリシラの元へと向かっているのだろう。

 

「まさかーー!」

「させるか!」

 

足に星辰力(プラーナ)を集中させ、加速した。《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》の能力が使えないであろう今は最大のチャンスだ。このまま黙って見ている手はない。

 

「雷槍・連門顎!」

 

無数の顎共に神速の突きを繰り出す。

しかしーーー

 

「ーーー重獄葦(オレアガ・ペサード)

 

無数の顎と神速の突きは地面から生えるように現れた紫色の壁ーーーいや、むしろ牢屋の鉄格子に阻まれていた。火花が激しく飛び散り、一向突破出来ない。

 

「おお・・・・!!」

 

ついに拮抗が崩れ、刹那は後方へと飛び退いた。

 

「設置型の防御能力・・・・・・!」

 

クローディアが悔しそうに唇を噛むが、その間にイレーネはプリシラの元へと辿り着いていた。

 

「ははっ。こいつはあたしじゃなくてプリシラを狙おうっていう不届き者が出た時に、用心のために仕込んでおいた隠し玉だ。ちょっとやそっとじゃ壊せねぇよ」

 

その壁の向こうでイレーネは薄く笑い、見せびらかすようにプリシラの白い首に牙を突き立てる。

 

「・・・・・・・」

「これで仕切り直し、ですね」

 

ため息を吐いたクローディアが時間を確認すると、試合開始からそろそろ二分。理想をいえばあと一分で片を付けたいところだが・・・・・

 

「刹那。そろそろ・・・・・・・」

「ああ、そうだな」

 

刹那も頷き返し、《正宗》をぐっと握りしめる。時間的にもあまり残された時間は多くない。チャンスは一度きりだろう。

 

「・・・・・・よぉ、待たせたな。そんじゃ第二ラウンドといこうか」

 

やがて壁が溶けるように掻き消えると、イレーネが口元を拭いながら前に出てきた。その背後では、プリシラがぐったりと横たわり、荒い息を吐いている。それを見た刹那の目付きが鋭くなる。

 

「・・・・・・・ウルサイス。こんなやり方が、本当に正しいと思ってるのか?」

「・・・・・・・黙れよ、神木。そんなこたぁ、今更あんたに言われるまでもねぇ」

「だったらーーー」

「黙れっつってんだろうが!」

 

イレーネが《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を振りかざすと同時に、紫色の輝きが地面を走る。

刹那は大きく後ろに飛んで能力の発動範囲から逃れた。さっきよりも更に範囲が広がっているが、刹那も慣れてきている分だけ早くなってきている。

 

「ちょこまかと・・・・・・・!」

 

やはり力ずくでないと聞いてもらえそうにないらしい。

 

「うざってぇんだよ!百葬重列(シエン・グエスティア)!」

 

イレーネが《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を一閃させるとオーロラのように紫色の波動が走り、全てを押し潰せんと迫る。しかし、刹那はその僅かな波動の隙間から右側に回り込む。

 

「鳴神・早蕨!」

 

突き立てた《正宗・叢》から、針状に変化した黒雷が地面を這うようにイレーネへと向かう。

 

「ちぃっ!」

 

横へ飛びそれを躱すが、そこには構えていた刹那がいた。

 

「はあぁ!」

「くそがぁっ!」

 

強い衝撃音と、弾ける残光。イレーネは《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》で何とかそれを防いだが、大きく体勢を崩していた。刹那はその隙を逃がさず、《正宗》を《覇潰の血鎌(・・・・・)目掛けて(・・・・)思い切り振り下ろす。

 

「っ!?」

 

《正宗・叢》は野太刀型だが小回りが利く。しかし、《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》は大振りなので小回りが効かない。ウルム=マナダイトが埋め込まれた機関部へ叩き込んだ一撃は、紫色の光に阻まれ威力をだいぶ殺されてしまったものの、それなりに確かな手応えがあった。《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》が悲鳴のような甲高い音を発し、更にもう一撃加えようとしたところで、刹那は見えない力で突然弾き飛ばされた。

 

「くっ!」

 

覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》の能力だろう。刹那は即座に体勢を立て直して顔を上げたが、その視線の先ではイレーネが怒りに満ちた瞳で刹那を睨んでいた。

 

「・・・・・・なるほどなぁ。まさか《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を狙ってくるとは思わなかったぜ・・・・・・!」

「刹那、時間が・・・・・・」

「わかっている。だが・・・・・」

 

今の刹那が考えうる最善の手だったが、仕損じては仕方がない。

 

「まったく、手を変え品を変え、色々見せてくれるもんだ。そんじゃあこっちもお返しをしねぇとなぁ・・・・!」

 

イレーネの手の中の《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》も、怒っているのかのように紫色の光を強める。

 

万重(ディエス)ーーーー」

 

しかし、イレーネの容態がそこで急変した。《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を掲げたままピクリとも動かなくなったのだ。

 

(ーーーっ!)

 

その瞬間、刹那の脳裏に不吉な予感が過ぎった。同時に刹那とクローディアの手の中で二つの純星煌式武装(オーガルクス)が身震いするように蠢く。

 

「おねえ、ちゃん・・・・・?」

 

プリシラも違和感を覚えたのか、イレーネへとゆっくり近づく。

 

「っ!よせ!今のウルサイスに近づいてはーーーー!」

 

刹那が咄嗟に駆け出そうとした瞬間、凄まじい重圧が二人を襲った。

 

「うぐっ・・・・・・・!」

「な、なんだ、と・・・・・・・!」

 

クローディアも刹那も為す術なく地面に押し付けられる。圧力で地面にヒビが入り、気を抜けば意識を失ってしまうほどの痛みと圧迫感が全身を襲う。《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》の重力操作ーーーそれはわかる。だがその範囲と威力が今までとは比較にならなかった。ほぼステージ全体が紫色の輝きに覆われ、立つことはおろか喋ることさえままならいい。まるで身体の上に山が乗っているかのようだ。

何とか首だけを動かし視線をイレーネへ向けると、プリシラはイレーネに左手で抱き抱えられるようにしてぐったりしている。そして首筋には、イレーネの牙が突き立っていた。

 

「まさか、あれは・・・・・!」

「ああ、おそらく《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》だ・・・・・!あそこまで侵食が進んでたとは・・・・・・!」

 

イレーネの身体を《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》が乗っ取っているのだ。《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》は使用者の人格まで変えてしまう危険な純星煌式武装(オーガルクス)。それを行使し続けたイレーネもいつの間にか人格を捻じ曲げられてしまったのだろう。禍々しい紫色の輝きを放つその鎌は、相変わらずカタカタと震えながら嗤っているように見える。

 

「とにかくこのままではウルサイス妹が危険だ・・・・・・・!」

 

プリシラは先程からイレーネに血を吸われ続けている。いかに再生能力者(リジェネレイティブ)とはいえども、これほどの能力の代償を払い続けるとなればそれこそ命が危ない。刹那は重圧に逆らうように立ち上がり、少しずつイレーネに・・・・・もとい《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》に向かって歩き出した。

身体は重く引きちぎられそうで、骨が軋みを上げる。踏み出す一歩が地面を陥没させ、全身を激烈な痛みが駆け巡っている。しかしどれだけ鼓舞しても、叱咤しても、足は重く歩みは遅々として進まなかった。ほんの十数メートルの距離が、まるで十数倍にも感じられる。意識を保つだけで精一杯だった。

それでも諦めるわけにはいかなかった。

本来、《星武祭(フェスタ)》では意識の消失を以て敗北とみなすというルールがある。その判定は校章が生体反応を測定して行っているはずなので、敗北の宣告がされていないということは、まだ若干イレーネの意識が残っているということかもしれない。

 

(だとすれば、それにかける・・・・・!)

 

歯を食いしばりまた一歩踏み出す。そんな刹那を見て、手の中の《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》は嗤うばかりだ。

 

「《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》・・・・・・・・!」

 

一種の不快感を覚えた刹那は《正宗》を握りしめ、残り五メートル先の《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を睨む。

 

「目を覚ませ、ウルサイス!力はただ力でしかない!力と大切なものを混同するな!」

 

また一歩踏み出す。

 

「ウルサイス!本当に大切なものなら両手で掴め!お前に必要なものは《覇潰の血鎌(その手)》ではないだろ!分かっているはずだ、掴むべきはプリシラ(そっちの手)だということに!」

 

一瞬、本の一瞬だけ、イレーネの瞳に光が戻る。

 

「かみ・・・・・き・・・・・」

「っ!? ウルサイスか!?」

 

異常な重力が掻き消え、紫色の光が陰り、世界が切り替わったかのような静寂が訪れる。

ーーーしかし。

 

「うあああああああああああああああああああ!」

 

次の瞬間、イレーネの絶叫と共に再び先程以上の重圧が刹那を押し潰した。

 

「ぐあああああああ!」

「刹那っ!?」

 

クローディアも何とか立ち上がろうとするが何度も押し戻される。先程と打って変わって凄まじい重圧が刹那の身体を押し潰す。骨が軋み、身体中が悲鳴をあげる。肺が押しつぶされているのか、上手く呼吸が出来ない。

イレーネはそのままぐったりと項垂れ、その身体からは見る見るうちに生気が失われていく。それでも右手の《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を離さない。

ーーーー否。離れないのである。もはやイレーネは《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》の使い手ではなく、燃料を供給するだけの部品に過ぎない。そしておそらく、それが果てれば使い捨てられるだろう。地面に石突きを突き立て、禍々しい紫の輝きを放つ《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》がけたたましく嗤う。それは一筋の希望へ手を伸ばした者の眼前でそれを刈り取り、絶望する様に愉悦を覚える悪意と嘲笑だ。

刹那は指一本動かせない重圧の中、自身の中から湧き上がる明確な怒りを感じた。

 

(人の尊厳を弄び、なにを・・・・・なにを嗤っている・・・・・・!!)

 

尊厳を蹂躙するものに対する、純粋な怒り。

歯を食いしばり、《正宗》を強く握りしめると、それに呼応するかのように《正宗》が強く震えた。自分の中の奥底にある何かと《正宗》が、完全に繋がり合う。

言葉には表せないものの、その瞬間刹那は確かに《正宗》の意思を感じ取った。そこにあったのは・・・・・強いて言うなら人間の感情でいう「不愉快さ」。《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》に対する、強い嫌悪、不快感のようなもの。それから刹那に対して求めるような意思。

「力を求めよ」とでもいうようなーーー。

 

(そうだ。力さえあれば・・・・・・今よりも強い力があれば、ウルサイスを・・・・・・・!)

 

《正宗》を杖替わりに立ち上がり、ありったけの星辰力(プラーナ)を込める。

 

「だから、貸してくれ!お前の・・・・・ありったけをっ!!」

 

刹那、紫色の輝きが支配する世界の中で《正宗》のウルム=マナダイトが黒色の色を放つ。

 

「あ、あれは・・・・・・!」

 

クローディアは目を見張った。

 

「い、いったい何が・・・・・・」

 

綾斗たちもその成り行きを見守るしかなかった。

その輝きは徐々に強さを増し、じりじりと紫を侵食していく。

 

「封印術式展開ーーーー〈封印解除(レリーズ)〉」

 

《正宗》を無数の魔法陣が囲む。抑え込むように《正宗》にまとわりついていた見えない鎖が可視化し、徐々にヒビが入る。そして、弾け飛んだ。

漆黒の刃が消え、機械的な鍔が更に展開される。柄が伸び、機械的な鍔が真ん中から割れ、中から赤黒い光の刀身が伸びた。

輝きが収束すると、そこには変異した《正宗》を握る刹那が立っていた。

魔法陣が一つ一つ消滅していき、最後の一つが消えると漆黒のウルム=マナダイトからは似つかわしい金色のオーラの様なものが出る。

 

「ーーーー「神器(イノセンス)」開放ーーーー《真刀・神威(カムイ)》」

 

たった一振り。たった一振りで紫色の輝きが支配する世界が掻き消えた。

 

「あれが、「神器《イノセンス》」の一つ・・・・・・」

 

クローディアはそれを見いるように見た。

刀とは似つかわしい巨大なそれは《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》に近いだろう。

覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》の嗤いが凍りつく。

再び異常な重力が掻き消えた。ーーーただし、今度はその根源から。

今度こそ怒りを露わにした《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》がイレーネを介して吼えた。

 

万重壊(ディエス・ミル・ファネガ)ーーー!」

 

本来のイレーネの声の質とは違う、機械的な発音。

 

「ーーーその口で喋るな、食い殺すぞ」

 

万を超える重力球が一瞬にして掻き消えた。

 

「!?!?」

「人の尊厳を踏みにじったお前を・・・・・・破壊する」

 

今度こそ《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》は凍りついた。一瞬にして間合いを詰め、下段から《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を斬りあげ、イレーネの右手から離す。重力に従い降ってきたそれに向かって言葉を紡ぐ。

 

「刻んでやるーーー『死の恐怖』を」

 

恐怖を表すかのように、空中でも分かるぐらい《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》は震えた。

《真刀・神威》が刹那の前へと宙を舞うとその刀身を収め、残ったのは待機状態の姿だった。待機状態の《真刀・神威》を核に、万応素(マナ)が集まる。それは次第に鎌の形状へと変化していった。

半透明に輝くその鎌を振り回し、構える。

 

「ーーーー熾烈ナル斬首」

 

そのまま《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》を切りつける。文字通り、ウルム=マナダイトを残し全てを木っ端微塵にした。そして、連撃の最後の一撃である上段からの振り下ろしをウルム=マナダイトへと命中させた。

一拍置いて、硝子を擦り合わせたような不協和音がステージに響き渡る。それが純星煌式武装(オーガルクス)の断末魔だと気がついた者がどれだけいたかは分からない。

何れにせよ、それが途切れると同時に《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》のウルム=マナダイトに亀裂が入った。

やや遅れて、機械音声が決着を告げる。

 

『イレーネ・ウルサイス、プリシラ・ウルサイス、意識消失(アンコンシャスネス)

 

そして、振り払うと《正宗》へとその姿を戻した「神器(イノセンス)」を握っている刹那がクローディアへ笑みを向けた。

 

「・・・・・・・勝ったぞ」

「・・・・・・全く、あなたという人は・・・・・」

 

クローディアも微笑み、二人は大歓声がステージを震わせる中、ステージに倒れ込んみ、深く息を吐いた。


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