学戦都市アスタリスク TRILOGY   作:宙の君へ

14 / 30
アルディとリムシィが本格的に参戦するなか、刹那とユリスの距離がーーーー!?




第13話 くすぐったい距離

シリウスドームのステージに立つ二体の人形ーーーーその内の一体は戦闘用擬形体に類似した姿をしていた。ただし通常運用されているようなそれよりも二周り大きいだろうか。二メートルを優に超える身の丈と、甲冑を纏ったようなフォルムは、機械で作られた騎士のようだ。

そしてもう一体の人形は対照的に、ほとんど人間と同じようなーーーそれも、人間の女性と見分けがつかないような外見をしていた。顔貌は完璧すぎるほど整っており、しなやかな体躯をメタリックのスーツのような装甲で包んでいる。どちらもその胸にはアルルカント・アカデミーの校章『昏梟』が飾られていた。

 

『さあさあ、いよいよそのベールを脱いだアルルカントの新型擬形体!今回は・・・・・・・えーと、エルネスタ・キューネ選手とカミラ・パレート選手の代理出場ということですがーーーー実際のところ、チャムさんにはどう見えますか?』

『そうっスねー。職業柄、戦闘用擬形体とは腐るほどやりあってるっスけど、あれを基準とするなら正直どれだけ性能を上げても《星脈世代(ジェネステラ)》の相手は出来ないと思うっスよ。従来の戦闘用擬形体は外部から人間が操作するのがほとんどなんスけど、それじゃ反応速度の問題で絶対にうちらには敵わないっス。どうしたってレスポンスにタイムラグが生じちゃうっスからね』

『なるほどなるほどー。ただ、今回の擬形体は自律型という事ですが?』

『んー、確かに自意識を持つというか、自己判断できるレベルの人工知能というのは一応実用化されてるっスけど、それでも戦闘時の判断を《星脈世代(ジェネステラ)》と同レベルで下せるような性能を持ってるようなのは見た事ないっスね』

『ははぁ、そうですかー。しかししかし、わざわざレギュレーションを改定してまで投入されたこの二体!よもやその程度ということでしょうか・・・・・・・・っと、あ、ちょっとすみません・・・・・・ふむふむ、なるほど・・・・・。えー、こほん!失礼しました!たった今、この二体についての情報が届きました。しかもなんと、開発者であるエルネスタ・キューネ選手からです!』

『へぇー、それはサービスがいいっスね』

『なんでも「本日情報解禁」だそうで。あ、それでですね、この情報によりますと、大きい方の名前が自律型擬形体(パペット)試作AR-Dこと通称アルディ、女性の方が自律型擬形体(パペット)試作RM‐Cこと通称リムシィだそうです』

『一応代理出場ってことは選手を付けた方がいいっスかね?』

『あはは、どうなんでしょうね?』

 

そんな実況のやり取りを聞きながら、アルディたちと相対しているレヴォルフ黒学院の序列十二位《螺旋の魔術師(セプテントリオン)》モーリッツは忌々しげに舌を鳴らした。

 

「ふん、気に入りませんね・・・・・・・あんな機械人形ごときが無駄に注目されて・・・・・・・!」

 

黒髪を逆立てたモーリッツの風貌は枯れ木のようだが、目付きは異様に鋭い。口調は丁寧で、レヴォルフの学生にしては珍しくきっちり制服を着こなしている。末席だったとはいえレヴォルフの《冒頭の十二人(ページ・ワン)》本来ならば有力選手の一角として衆目を集めているはずだったが、このステージ上での主役がどちらなのかは明らかだ。

 

「・・・・・・で、兄貴。どうしやすか?」

 

そう吐き捨てるモーリッツの後ろから、彼のタッグパートナーであるゲルトが煌式武装(ルークス)を起動させながら小声で話しかけてきた。がっしりとした体つきは厳しく、その手に持ったアサルトライフルを手馴れた手つきで肩に担いでいる。

モーリッツはレヴォルフで数十人からのグループを率いているが、ゲルトは はそんな舎弟たちの中でもかなりの手練の一人だ。優秀な射撃技術を持ち、前回の《鳳凰星武祭(フェニクス)》でもこのタッグで本戦出場までこぎつけている。なにより従順で無口なところが煩わしくなくていい。

 

「どうするもこうするもありませんよ。いつも通りです。取り敢えずあなたはバックアップに徹しなさい」

「了解しやした」

 

なにしろ相手のデータがまるでないのだから作戦の立てようがない。各学園が隠し球を仕込んでくることもある《星武祭(フェスタ)》では、情報がまるでないという相手は珍しくない。が、それにしても今回はレアケースすぎる。

 

「そこの人間ども!聞くがよい!」

 

空気をビリビリ震わせるような音量で、腕組みをしたアルディがモーリッツたちへと向かって口を開いた。

 

「我輩の本懐は勝利そのものではなく、マスターより授けられた我が威容を知らしめることにある!故に貴君らには一分の時間をくれてやろう。その間、我輩は指一本たりとも動かさぬ。存分に攻撃を仕掛けてくるがよい!」

 

その言葉にモーリッツのこめかみに青筋が走り、目が据わった。

 

「き、貴様ーーー!」

 

が、激昴したモーリッツが一歩足を踏み出した瞬間、アルディの側頭部で光弾が炸裂した。鈍い音が響き、アルディの首が僅かに揺らいだ。

 

「あ・・・・・痛いではないか!リムシィ!」

「黙りなさい」

 

アルディがムッとした声で非難すると、隣に立つリムシィがそちらを見ようともせず、冷徹に応える。その手にはいつの間にか大型のハンドガン型の煌式武装(ルークス)が握られていた。

 

「全く、この愚図愚鈍で低脳無知な考えなしのポンコツ機が。一体どのような権限があってそのような戯言を口に出したのですか?下らない世迷言をのたまう余剰エネルギーがあるなら、マスターのために使うべきでしょう。我々はマスターの命をただ忠実に、そして確実に実行すれば良いのです。今からでもラボに戻ってメンテナンスをしてもらいなさい。いいですか、頭のですよ?ああ、ですがそれではマスターの手を煩わせる事になるのでいっそこの場で壊れて果てなさい」

 

アルディと同じく・・・・・・いや、それ以上に流暢な口調だった。ただしこちらの方が感情がないという部分では機械らしいだろうか。

 

「そうは言うがな、リムシィ。この程度の輩が相手では我輩たちの優秀さーーーひいてはマスターがいかに崇高壮麗な存在かを衆目に理解させるには足りないのではあるまいか。だとしたならば、なにかこう、効果的なパフォーマンスが必要だと判断したのだが・・・・・・」

「確かに、マスターの偉大さを知らしめようというのは素晴らしいアイデアです。その点は評価しましょう」

「おお!そうであろうそうであろう!」

 

アルディは満足そうに何度も頷いた。

 

「ん・・・・・・?いや、ならば何故貴様は我輩を撃ったのだ?」

「何となくムカついたからです」

 

無表情のままキッパリ、リムシィは言い切った。

 

「・・・・・むぅ、ならば致し方ない」

 

アルディは撃たれた後を擦りながら口をつぐんだ。

観客、ひいてはこの会場にいる全員が思っただろう。

 

(((((いいんかい・・・・・・・))))

 

と。

 

「さて、人間たちよ。欠陥駄作機の戯言とはいえ、一度口にしたことを撤回したとなれば、マスターの顔に泥を塗りかねません。故に、不本意ではありますが私も一分間はあなた方に対して攻撃行動を行わないと約束しましょう」

 

その言葉にもはや怒りを通り越したのか、モーリッツの顔には呆れたような嘲るような薄い笑みが浮かんでいた。

 

「・・・・・は、ははっ!そうですか、なら遠慮なくお言葉に甘えさせていただきましょう」

 

よくよく考えてみれば、わざわざわ相手が不利な条件を提示しているのだから怒る必要もない。舐められていること自体気に入らないが、そんなもの《星武祭(フェスタ)》での一勝に比べれば些細なことだ。

 

「ゲルト、あなたはあの細い方をやりなさい。私がデカブツをやります」

「了解」

 

背後に控えたゲルトが小さく頷く。

 

『さぁさぁ、なにやらすごい事になってきましたが、そろそろ開始時間です!注目の一戦、果たして勝利はどちらのタッグが手にするのでしょうか!』

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》Hブロック一回戦一組、試合開始(バトルスタート)

 

機械音声が高らかに響いた。

 

ーーーーーーーー

 

かくして綺凛と紗夜の試合も勝利という形で終わり、その帰路に付いていた。時刻は丁度正午を回っており、不思議な事に自然と空腹を感じるのだから人間というのは不思議なものだ。

星導館の控え室に着くなり、ユリスはソファに腰を下ろした。

 

「ふぅ・・・・・やはり暑いな」

「初夏だからな、仕方ない」

 

刹那は飲み物を差し出した。綺凛と紗夜は勝利者インタビュー、クローディアは用事があるという事で学園に戻り、綾斗は綺凛と紗夜と一緒に戻るそうだ。確かに紗夜と一緒では迷いかねない。綾斗がいるのであれば、心配は無用であろう。故に今は二人っきりである。

 

(こ、これはチャンスだ・・・・・!)

「ん?そういえばもう昼か。どこか軽く済ませに・・・・・・・」

「おほんっ」

 

ユリスわざとらしい咳払いをする。

 

「リースフェルト?」

「あー・・・・・・実は、その・・・・・なんだ。今日は、こういうものを用意してきたんだが・・・・・・」

 

ユリスはそう言うと、控え室のロッカーから大き目のバスケットを取り出してきた。

 

「これは、弁当か?」

「う、うむ。まあ、そんなところだ」

 

これはまた珍しい事もあるものだ。まさか、あのユリスが料理をするなど誰が想像出来ただろうか。

 

「まさか、リースフェルトが弁当を作るなんてな」

「なっ・・・・・ば、馬鹿にしているのか!?」

「まさか」

 

ふと、刹那は優しく微笑んだ。

 

「ありがとう、リースフェルト」

「う、うむ・・・・・・・」

 

突然の笑みに顔が熱くなるのを感じる。今日の自分はどこかおかしいのだろうか。

 

「じゃあ、早速食べるか」

「か、簡単なものだぞ。あまり期待されても困る」

 

バスケットを開いてみると、そこには可愛らしいサイズのサンドイッチが並んでいた。

 

「お、サンドイッチか」

 

具材はハムとレタス、たまごやベーコンなどの定番ラインナップだ。そこからたまごサンドを一つ手に取り、口に運ぶ。

 

「・・・・・・ど、どうだ?」

 

おずおずと訊ねてきたユリスの顔には、不安の色がありありと浮かんでいる。

 

「ああ、美味いよ」

 

率直な感想だった。そこには世辞も無ければダメ出しもない。そういう所を躊躇いもなく言ってくるから調子が狂うのだが・・・・・・・

 

「そ、そうか!」

 

それをこみでも嬉しかった。ユリスの顔に喜色が広がるが、刹那の視線に気がつくとすぐに後ろを向いてしまった。

 

「どうした?食べないのか?」

「いや、もちろん食べるが・・・・・・」

 

ユリスはそう言うと、何か言いたそうな視線をチラリも刹那へ向けてきた。

しかしこの超絶鈍感男には、視線だけを向けても分かるはずがない。そう、もっと態度や行動で示さなければならないのだ。

 

「い、いや、別段して欲しいわけではないのだがな・・・・・・・その、頭を撫でて欲しいと言いたいというか・・・・・・・まあ、撫でて欲しいわけだが・・・・・・・その、だな・・・・・・・・」

「?」

 

ごにょごにょ言葉を濁しながら言うユリスに首を傾げるが、それでも刹那は男だ。ユリスの態度から見るに、恐らく褒美が欲しいのだろうか。(初めて女心をわかった気がしている刹那くん)

そっとユリスの頭に手を乗せ、優しく撫でた。

 

「ん・・・・・・・・」

「ありがとう、リースフェルト。サンドイッチを作ってくれて」

 

だいぶ前から赤かったユリスの顔に更に拍車がかかるようにその色を濃くする。そして、頭に乗せていた手をユリスの肩に移動させ、振り向かせた。

 

「せ、刹那・・・・・・・?」

「・・・・・・・・」

 

じっと見つめて来る彼に自分の鼓動が聞かれそうで尚更羞恥が込み上げてくる。しかし、改めて見ればーーーー

 

(本当に整った顔だ・・・・・まつ毛も長いし、顔の線も細いし、唇だっていい形だし・・・・・・・・)

 

見とれかけていたところに刹那から声をかけられた。

 

「リースフェルト、はい」

「んぐ!?」

 

突然口にサンドイッチをねじ込められ、思わず詰まりそうになるが何とか咀嚼していく。

 

「おいし?」

「まあ、我ながら中々いい出来、だな・・・・・・」

 

そうは言ったもののサンドイッチの味より目の前の少年の顔が近いことに意識が集中してしまい、先程から胸の鼓動が鳴り止まない。しかも先程の「おいし?」という尋ね方ときたらなんだ。小首を可愛らしく曲げ、若干覗き込むように見てくるのだ。撮影するものがあるなら是非とも撮りたい。残しておくべきだ。普段は冷静であまり笑わないのにこういう時にああいう表情をするのは些かずるい。これがまた無意識なのだから、尚更タチが悪い。

 

「将来はいい嫁になれるな」

「ぶふっ・・・・・!」

 

その言葉に飲み込みかけていたサンドイッチを吹き出しそうになった。

しかし、彼がそう思っていた事にユリスは驚いた。隣でサンドイッチを美味しそうに食べる少年の横顔を見上げる。そして、思わず口からこんな事が出ていた。

 

「も、もし・・・・・・私が見知らぬ人の、その・・・・・・お嫁になったら、お前は・・・・・・・どう思う・・・・・・・?」

(な、何を言っているんだ私は!?)

 

今更撤回は出来ない。ここは、彼の回答を待とうと思い、そのまま俯く。

今の自分の顔はすごい事になっているだろう。

 

「そうだな・・・・・・・」

 

その一言にビクッと肩を揺らす。

 

「お前が選んだ奴なら俺はどうもしないさ。幸せになってほしいからな。だが、きっと寂しいと思う。出来れば、皆とずっといたいからさ」

「・・・・・・・」

 

予想外の答えにユリスの目は丸くなる。刹那の顔もいまいちこれだ、という答えが出なかったらしい。でも、何とか言葉にしようと必死に考えたのだろう。それが今の言葉だと思うと急に胸が苦しくなった。自分も皆と一緒にいたい、と口に出来たらなんと楽な事か。まだまだユリスの口は素直になれないらしい。

 

「ふふ・・・・・・・」

「リースフェルト?」

「いや、何でもない」

「・・・・・・・・・」

 

ユリスは、少なくとも刹那は見た事が無いくらいの笑顔を向けていた。何故だろうか、どこか亡き母親に似ている。

 

「さあ、もっと食べてくれ」

「ああ」

 

少し開いたドアの隙間から映像ディスプレイが録画されていた。

 

「ほほー、お姫様もこんな顔すんのかー」

 

映像ディスプレイには先程の満面な笑みのユリスと、その顔を見て少し驚く刹那が映っていた。やはり、美少年と美少女は何をしたって映えるものだ。その映像の部分で止め、それを保存する。

 

「やれやれ」

 

完全に出るタイミングを失った英士郎はドアの隙間を見て、肩を竦めた。

 

「また少し外を散歩してくっかー。それにこれを見せたら何か面白くなりそうだしな!」

 

英士郎の策略により、その映像で修羅場が起こるのはもう少し後のお話。




ユリスがデレたぞぉぉぉぉ!

アルディとリムシィの夫婦漫才はいつ見ても冴え渡ってますね。
そして最新巻を読みましたが、最初のカラー挿絵の3年生になった綾斗くんたち見違えるほど大人になってましたね笑

綺凛ちゃんとユリスやクローディアはもちろん、紗夜の髪が伸びている事に驚きました

おまけに制服も新調されてましたね!
そろそろ原作も佳境の《王竜星武祭》編が始まりますね。複雑な想いが絡み合ってますが、オーフェリアさん、幸せになって欲しいです

ではまた最新話で!さらばだ〜(*ˊᗜˋ*) ノ


刹那「感想、待ってるぞ。誤字脱字の報告も併せてくれたらありがたいな」

「この野郎!もっと面白いの書け!」

頑張ります!

「お前のせいで学校とかに遅刻するじゃねぇかよ!」等の質問に関しては私ではどうにも出来ないのでもちろん抵抗しますよ、拳デ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。