学戦都市アスタリスク TRILOGY   作:宙の君へ

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13巻早く出て欲しいです〜


第10話 開幕前夜

アルルカントの連中が来てから数日、《疾風迅雷》刀藤綺凛と天霧綾人の決闘やらユリスのペアが綾人になったりと色々と立て続けに出来事があった。《鳳凰星武祭(フェニクス)》まで残り数日となった今日、北斗食堂にて何時ものメンバーに新メンバーを交えて食事を取っていた。

 

「あのぉ、《叢雲》の天霧綾斗先輩ですよね?」

 

昼休み、北斗食堂のテーブルで綾斗が食事を取っていると、栗色の髪をした活発そうな女生徒が満面の笑みで話しかけてきた。

 

「・・・・・・え?」

「えっへへー、サインもらっていいですかー?」

 

そう言って、色紙とペンをずいっと差し出してくる。

 

「ああ、うん・・・・・別に構わないけど」

 

その勢いに若干押されつつも、渡された色紙に名前を書く。当然、こじゃれたサインなど持っていないので、しっかりとした楷書だ。最初は戸惑ったものだったが、綾斗も最近はどうにか慣れてきた。

 

「ありがとーございまーす!《鳳凰星武祭(フェニクス)》、頑張ってくださいね!応援してますから!」

 

サインを受け取った女の子は、ぶんぶんと大きく手を振って去っていく。

 

「はは・・・・・」

 

軽い苦笑いを浮かべながらそれを見送った綾斗は、ふと冷たい視線に気が付き、慌てて振り向いた。

 

「・・・・・・」

 

すると向かいに座っているユリスと紗夜が、ジト目で綾斗を睨んでいた。

 

「えーと・・・・・・なに、かな?」

「ーーーー別に。相変わらず人気者は大変そうだなと思ったまでだ」

「綾斗はちょっと愛想が良すぎる。色々と心配」

「そ、そうかな・・・・・」

 

紗夜の隣でうどんを食べていた綺凛もいつの間にか食べるのをやめ、首を縦にコクコク振っている。綾斗の隣でお茶を啜っている刹那は黙って話を聞いていた。

不機嫌そうな二人の圧力に微妙な居心地の悪さを覚えながら、綾斗は困ったように頭を掻いた。

綺凛との決闘に勝利し、星導館学園の序列一位になってからはや一週間。こうしたことは珍しくもなくなっていた。

現状、ファンレター、プレゼント、メディア、企業からのオファー、匿名での嫌がらせなどやりたい放題だ。幸い、学園にはそういった部分のフォローをしてくれる部署があるらしく、一括して任せている。先程のような直接のコンタクトには自身で応じるしかないのだが。

 

「お姫様も沙々宮も、目くじら立てなさんなって。リスト外の無名学生が一気に一位を掻っ攫っていったんだぜ?そりゃあこうもなるさな。なぁ?刹那」

「ああ、そうだな」

 

綾斗を挟んで隣にいる少年に話を振る。

 

「一位おめでとう、綾斗」

「そう真正面から言われると、なんか照れるな」

「マクフェイルの反応が楽しみだな」

「たぁしかにぃ」

「う・・・・・・」

 

綾斗の隣で蕎麦を啜っていた英士郎がニヤリと笑う。過去の事例を見ても、星導館においてリスト外からいきなり一位になったケースはほとんどない。公式序列戦での指名制度がそれを不可能にしているからだ。月に一度行われている公式序列戦では、序列が下位の者から指名された場合、拒否することが出来ないようになっているが、これに参加する生徒は大きく分けて三つの階層に区分される。一つ目は刹那、ユリス、クローディア、そして綾斗たち《冒頭の十二人(ページ・ワン)》と呼ばれる序列上位者、二つ目は在名祭祀書(ネームド・カルツ)に名前が載っている「序列入り」、そして三つ目は在名祭祀書(ネームド・カルツ)に名前が無い「リスト外」だ。

公式序列戦では、一つ上の階層に属する相手までしか指名する事が出来ないようになっている。つまり《冒頭の十二人(ページ・ワン)》を指名するには、最低限序列入りする必要があるのだ。そのため序列外からいきなり《冒頭の十二人(ページ・ワン)》になるには、通常の決闘で相手を打ち負かす必要があるのだがーーー総じて序列が上位になればなるほど決闘に対して慎重になる傾向がある。

 

「そうですね。私も、その、う、運良く決闘でいきなり《冒頭の十二人(ページ・ワン)》になれましたけど、それでも十一位。私が言うのも何ですが、綾斗先輩の場合はいきなり一位ですから、ずっとセンセーショナルだと思います」

 

綺凛も英士郎に同意する。つい一週間前までその序列一位にいたわけだが、特に未練があるわけでもなさそうだ。

現在、綺凛の序列はリスト外だが、「猶予期間(グレース)」と呼ばれる特別な状態にあるとクローディアが言っていた。何でも、入れ替え制の弊害を軽減する措置でもあるらしい。

 

「だが、刀藤程の実力なら直ぐに《冒頭の十二人(ページ・ワン)》になれるさ」

 

刹那の言葉に全員が頷いた。

 

「そ、そんな・・・・私なんか・・・・・」

 

もじもじと下を俯いた綺凛だが、それに英士郎が付け足す。

 

「「猶予期間(グレース)」の学生にはいい特典がまだあるしな。確か、直近の公式序列戦で、「自分の旧序列以下の相手」であれば階層を無視して無条件、しかも優先的に挑戦できる権利を持つからな」

「へぇ、そんな事も出来るんだ」

「第一、お姫様だって《冒頭の十二人(ページ・ワン)》になった時はかなり騒がれた口じゃねーか」

「そうかもしれんが、所詮はこんなもの一過性の騒動だろう。私の時はもっと早く終息したぞ」

 

英士郎の揶揄に、ユリスが真顔で答えた。

 

「ま、そりゃあ、お姫様は完全にシャットアウトだったからな。あれだけ冷たくされれば、ふつー引くだろ」

「だから友達が少ないんだ」

「なんか言ったか?刹那」

 

ユリスが刹那の隣まで移動し、その頬を引っ張った。

 

「一言が余計なんだ、お前は」

「はいそこイチャつかない」

「な・・・・・!イチャついてなど・・・・・!」

 

顔を真っ赤にし怒ってもそれ程圧にもならない。

 

「あ、生憎、私はああいった形のサービス精神は持ち合わせていない。応援してくれるのはありがたいと思うが、くだらない打算に利用されるのはご免だ。ならいっそ全て断ったほうが誠意あると思うが?」

「打算?」

「本人に見せるのは忍びないが、どーしてもと言うなら」

 

英士郎が携帯端末を操作して、空間ウィンドウを開いてみせた。

 

「オークション?・・・・・・って、ああっ!」

 

それを覗き込んで綾斗が声を上げる。そこには綾斗のサインがずらりと出品されていた。しかも喜んでいいのか悪いのか、かなり価格が高騰している。

 

「あー、学生のポピュラーな小遣い稼ぎだな。よくあるよくある」

 

後ろからそれを見た英士郎がポンポンと綾斗の肩を叩く。

 

「気にしないでいい。ちゃんと応援している綾斗のファンだっている。私とか」

「そ、そうですよ!私のクラスにも綾斗先輩のファンだって子がいますし、私だって・・・・・・で、でもそれよりも・・・・・」

 

綺凛は申し訳無さそうに頬を未だに引っ張られている刹那を見た。

 

「綾斗先輩よりも刹那先輩のファンの子が多くて・・・・・・・お、多いって言ってもほんの少しの差というか・・・・・・」

「そりゃあそうだわなー。刹那、結構顔整ってるしなー。オマケに理不尽な程強いしな」

「もちろん、私も刹那のファンだ」

 

ここでも紗夜が手を上げる。

 

「わ、私もです!」

 

どうやらこの二人は、刹那と綾斗のファンらしい。

 

「それよりも刹那〜」

「なんだ?」

「お前は九位で満足なのか?」

「ん?ああ、まあ今のところはな。大体序列一位はその学園の象徴みたいなものだからな」

 

ユリスの手を外し、またお茶を啜る。

 

「アルルカントはわからないが、クインヴェールなら《戦律の魔女(シグルドリーヴァ)》。レヴォルフなら《弧毒の魔女(エレンシュキーガル)》。ガラードワースなら《聖騎士(ペンドラゴン)》。界龍(ジェロン)なら《万有天羅》。どれも一筋縄ではいかない強者たちだ。各学園が訴訟を起こせばまず叩かれるのが序列一位か、現生徒会長のどちらかだと思う。綾斗も行動には気をつけるんだぞ」

「うん、了解したよ」

 

綾斗の表情も自然と引き締まる。

 

「ああ、そういえば二人も参加確定したんだっけ?」

 

綺凛が紗夜から誘いを受け《鳳凰星武祭(フェニクス)》へ予備登録したという話を聞いた時は少なからず驚いたが、先日出場枠に欠場による空きが出たということで、無事参加が決まったらしい。

 

「例え綾斗たちと当たってもその時は全力で迎え撃つ所存」

「はい、私も同じ気持ちです」

「まぁ、そうでなくてはな」

「出来れば当たりたくはないけどね」

「さてさて、刹那は?」

「ああ、俺はーーーー」

「うふふ・・・・・皆さん意気軒昂で頼もしいですね」

 

と、そこへやって来たのはいつも通りの柔和な笑みを浮かべたクローディアだ。

 

「ほう、久しいなクローディア。ここのところ随分と忙しそうだったが・・・・・」

「ええ、やはり《星武祭(フェスタ)》が近づくと色々仕事が増えますから大変です」

 

そう言いつつ、クローディアはテーブルの上に巨大な空間ウィンドウを展開させる。

 

「ああ、みんな。俺のパートナーはーーー」

「私ですっ」

 

クローディアは豊満な胸を主張するかのように腰に手を置いて喋った。

 

「「「「「えええええええ!?」」」」」

 

全員の声が食堂に響いた。

 

「ど、どうしたんだみんな」

「おいおい、今年の《鳳凰星武祭(フェニクス)》かなり激戦だぞ」

 

英士郎は目をキラキラさせながら喋る。

 

「片や序列一位、片や元序列一位のタッグに、それに加えてあの《閃光》とうちの序列二位のタッグだぜ?ヤベーよこれは。今年は間違いなく荒れるぞ!」

「確かにな・・・・・・今回は突出している有力選手がいない分、かなり有利だ。しかし、この二人が出るのならば話が違ってくる」

 

刹那とクローディア以外の全員が二人を見た。

 

「ではでは、トーナメント表は表示しておきますね。皆さん、それぞれ見終わったらこの後、一度練習試合をしませんか?」

 

クローディアの提案に一番先に反応したのはユリスだった。

 

「賛成だ」

「うん、僕も」

「了承」

「わ、私も賛成です!」

「んじゃ、俺もちょっくら見学させてもらうわ」

「決まりですね。では放課後に私のトレーニングルームで」

 

そう言ってクローディアは踵を返し、去って行った。

 

「ふむ、ざっと見、サプライズの大物はいない感じだな」

「何を言っている、お前がいるだろう」

「お、俺か?」

 

ユリスがジト目で睨む。

 

「お前は事前に予想されていた選手の中には恐らく入っていないだろう。星導館からしてみれば、これはかなり有利な状況と言っていい」

「クローディアもよく他学園に隠し通せたよね・・・・・・」

「奴の事だ、そういうのには慣れている」

「刹那が他の学園の奴だったら相当ヤバかっただろうに」

 

英士郎が肩を竦めた。

 

「確かにな」

 

これにはユリスや他の面々も頷かざるを得ない。

 

「しかし幸いと言うべきか、前回の《獅鷲星武祭(グリプス)》や《王竜星武祭(リンドブルス)》のような絶対的な面子がいるというわけではないしな」

「絶対的?」

 

ユリスの言葉に、綾斗は首を傾げた。

 

「《獅鷲星武祭(グリプス)》はガラードワースの銀翼騎士団、《王竜星武祭(リンドブルス)》はレヴォルフの《弧毒の魔女(エレンシュキーガル)》の事だ」

 

つまらなそうにユリスは肩を竦めた。

 

「聞いた話だが、前回の《鳳凰星武祭(フェニクス)》優勝ペアも卒業したらしく参加してないらしい。界龍(ジェロン)の準優勝ペアは《獅鷲星武祭(グリプス)》に鞍替えしたって話だ」

 

綾斗が感心しながら耳を傾けていると、ユリスがぽんと手を叩いて一同を見渡す。

 

「何にせよ、今シーズンの戦略上この《鳳凰星武祭(フェニクス)》は我々、引いては近年、成績が芳しくない星導館にとって非常に重要な位置づけにあるのは間違いない。そしてその成否は我々に懸かっていると言っても過言ではない。みんな、優勝目指して頑張ろう」

「ま、今年の《鳳凰星武祭(フェニクス)》には特別目立った有力選手はいねぇ。少し各学園の《冒頭の十二人(ページ・ワン)》が目に付くが、お前らなら何とかなるっしょ。ここで優勝、準優勝を俺たちが占めれば大きなポイントを稼ぐ事が出来るしな」

 

英士郎の的確なコメントに全員が頷いた。

 

「よし、《星武祭(フェスタ)》まであと少しだ。油断せずにいこう」

 

刹那のその言葉を皮切りに、全員は各々の教室に戻って行った。

 

 

星導館が誇る最強タッグペアたちで挑む《鳳凰星武祭(フェニクス)》。

 

 

開催まで残りわずかーーーー




クローディア「はいという訳で、前回に引き続き今回も私が担当します」
刹那「今回は喧嘩しないようにな」
綾斗「今回は僕も一緒だよ!」
刹「早速お便りを読むぞ。天霧綾斗さんの好み女性は一体どんなタイプなんですか?だそうだ」
綾「そうだね。強いて言うなら姉さんみたいな人かな」
ク「あらあら。とんだシスコン野郎ですね、綾斗は(╬ ´ ▽ ` ) これは少し教育が必要なようです」
綾「なんか目が怖いよクローディア・・・・って、ちょ、ちょ、まっーーーほわぁぁぁぁ!!」
刹「次回もお楽しみに」

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