君のいる町 if   作:中矢

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19回目の投稿です!


刹那の別れ。

『一ノ瀬総一朗さんと雫さんが事故にあわれて...』

 

じいちゃんとばあちゃんが事故...?

意識不明の重体...?

なんで...?

 

俺は、タクシーに揺られながら気が気ではなかった。

次々と疑問が浮かんできては俺の胸を締め付ける。

 

病院の方が警察から聞いた話では、じいちゃん達が赤信号から青信号にかわり、直進したところを、居眠り運転のトラックが横から突っ込んできた。

すぐに救急車が呼ばれ、病院に搬送されたが出血が多く、意識が戻らないらしい。

 

はやく、一秒でもはやく病院に行かなきゃ...

 

緊迫した表情の俺に月が声をかける。

 

「律人...きっと大丈夫やから...」

 

月は、あの後、すぐに状況を理解したようでタクシーを呼んでくれた。

頭が真っ白になっていた俺の単語単語の言葉で察してくれて、冷静に行動した。

そして、病院まで付き添ってくれている。

 

さっきから震えがとまらない。

 

月が俺の手を優しく握る。

 

「大丈夫やから...」

 

月の声も微かに震えている。

 

病院までの道のりは恐ろしく長く感じ、悪意をもった何かに追いかけられているような感覚になる。

 

焦りと不安で気分が悪くなり、嫌な汗が背筋をつたう。

 

じいちゃん...ばあちゃん...

 

 

 

 

 

 

 

俺は病院につき、真っ先に受付に走る。

 

「あの!一ノ瀬総一朗と一ノ瀬雫はどこですか!」

 

「!一ノ瀬さんのご家族の方ですね!今は緊急手術中です!こちらへ!」

 

俺達は手術の待合室に案内される。

 

母さんはすでにそこにいた。

 

「律人...それに月ちゃんも...」

 

「母さん!じいちゃんとばあちゃんは!?」

 

「落ち着いて。今は手術中だから分からないわ。座って待ってなさい。...大丈夫!おじいちゃんは強いのよ?それにおばあちゃんも。きっと大丈夫よ...」

 

母さんは、俺を安心させるために宥めるように話す。

母さんの目は赤くなっていた。今も、涙が溜まっているのが分かる。

 

俺は椅子に座り、とにかく自分を落ち着けることにした。

 

きっと大丈夫。あんなに愛し合って結ばれた幸せな2人からこの世界を奪っていいはずがないんだから...。

 

 

手術中の赤いランプが消え、中から医者と思われる1人の男性が出てくる。

 

「先生!父と母は!?大丈夫なんですか!?」

 

大丈夫だ。きっと無事に手術は終わって、意識を取り戻す。

 

「...手は尽くしました...残念ですが...」

 

医者の言葉は何かフィルターがかかったように遠くに聞こえた。

 

祖父と祖母は帰らぬ人となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通夜を終え、今日は2人の葬儀が行われる。

母はあの後、泣き崩れてしまっていたが、俺は不思議と涙はでなかった。

 

どこかで覚悟していたのかもしれない。

 

あんなに愛し合っていた2人だからこそ、死ぬ時も一緒に逝ってしまうんじゃないかと...

 

結局、都合のいい時だけ神に願ったところで叶えてくれるはずもなかった。

 

俺は妙に納得してしまい、通夜や葬儀の準備をこなした。

 

トラックの運転手もそのまま亡くなり、加害者には家族はおらず、天涯孤独な男だった。ある意味可哀想な男だったのかもしれない。誰の心にも残らずこの世界から消えたんだ。

 

最初は加害者に耐え難い怒りが湧き上がったが、今はそんな風にぼんやりと考えている。

 

「律人...」

 

月と青大と尊が心配そうに声をかけてきた、3人は小さい頃からじいちゃんとばあちゃんのことを知ってるから、葬儀に出席していた。

 

「大丈夫だよ。みんなも、じいちゃんとばあちゃんにお別れをしてあげてほしい。」

 

3人はじいちゃんとばあちゃんの遺体に手を合わせ、神妙な面持ちでその場を離れた。

 

その後に、1人の女性がじいちゃんとばあちゃんの前に立つ。

 

歳はじいちゃん達と同じくらいだ。

 

ショートカットで陽気そうな綺麗な人。

 

女性がじいちゃんとばあちゃんに向かって話し出す。

 

「久しぶりじゃね。総一朗、雫。ほんとにあんたたちは...何も死ぬ時まで一緒やなくてええんじゃないの...?ねー、総一朗。あんた幸せじゃったね?雫、こんな真っ直ぐなバカと一緒におって大変やったじゃろ?...でも、まだ早いんやないの...?いきなり二人して先に逝ってから...でも...うちももうすぐそっちに行くけぇ...秋彦と一緒にまた4人で酒でも飲もうね。」

 

その女性はそう言って、静かに去っていった。

 

きっと、あの人が美奈子さんだ...じいちゃんが話してくれた俺の中のイメージと見事に一致している。秋彦さんて人は多分、じいちゃんの親友の名前なんだろうな。

 

じいちゃんとばあちゃんの葬儀にはたくさんの人が出席してくれた。

 

昔からこの地に住んでいたこともあり、顔が広く、地元の人たちはみな、二人の死を悲しんでいた。

 

「律人、私たちもおじいちゃんとおばあちゃんにお別れを言わなきゃね...」

 

火葬される前の最後の対面。

 

燃やされてしまえば、もうじいちゃんとばあちゃんはこの世からいなくなる。

 

俺と母さんは2人の遺体の前に立つ。

 

事故による傷はあらかた隠されていたがそれでも痛々しい傷が分かる。

 

じいちゃんの健康的な小麦色の肌はやけに青白く、ばあちゃんの綺麗だった肌は事故の影響で傷ついていた。

 

「お父さん、お母さん、今まで本当にありがとう...身体の弱い私を育ててくれて...お父さん、私はお父さんの強さにいつも支えられてたの。離婚した時も、私が倒れた時も、お父さんは力強く励ましてくれた...お母さん、いつも優しくて、おしとやかで、綺麗なお母さんは私の自慢だった...私、頑張るからね。ふたりでずっと見ててね... 」

 

母さんは涙を流しながらも、強い信念を持った瞳でそう言った。

いつだっただろう、母さんはあの時もこんな瞳で前を見ていた。

そう、あれは確か、父さんがいなくなって、じいちゃんが心配して、東京まで来てくれた時のことだ。

幼かった俺は、ほとんど覚えていないけど、母さんの真っ直ぐな強い瞳だけは印象に残っている。

母さんはあの後、しばらくして倒れたんだ...

俺は母さんまで遠くに行ってしまいそうな気になり、余計に不安が募る。

 

「母さん。母さんはどこにも行かないよね...?」

 

「...当たり前でしょ。」

 

母さんは少し、悲しそうに笑い、じいちゃんとばあちゃんに別れを告げるように促す。

 

いざ、言葉を出そうとしたら喉の奥で何かがつっかえたように声が出ない。

 

昨日まで、俺の話を静かにきいてくれたじいちゃんも優しい瞳で微笑むばあちゃんも、もういないんだ...

 

死というものを今まで意識したことがなかった。でも、それはいつも人のそばにいて、突然命を刈り取る。それをリアルに実感した

 

そう、改めて理解すると、涙が溢れてきた。

涙が溢れるのと同時に喉のつっかえが取れたように言葉が出てきた。

 

「じいちゃん、ばあちゃん、2人には...まだまだ...い、いろいろ、話したいことや聞きたいことがあったのに...」

 

今までじいちゃんとばあちゃんと過ごした日々が蘇る。

 

『律、今までよぉ頑張ったな。今日からここがお前の家じゃ、』

 

『律くん。ご飯できたよ。今日は律くんの好きなオムライス!』

 

『律!畑でこげんおおきか白菜のとれたぞ!』

 

『あらあら、律くん転んじゃったの?痛そうやね...薬つけようね。』

 

じいちゃん...ばあちゃん...

 

『律、わしはな涼子ともう一度暮らせて、もちろん幸せじゃ。けど、律とずっと一緒に暮らせることも同じくらい幸せなんじゃ!』

 

『律くんは、今まで頑張ったんじゃから、たくさんおばあちゃんとおじいちゃんに甘えてええんやからね。』

 

俺はその場に立っていられなくなり、足元から崩れる。

 

「ずっと...一緒にいるって...いったのに。俺が...成人して...帰る場所がないと困るからって...長生きするって...」

 

ふと、背後から優しい声が聞こえる。

 

『律、人生はな、どんなに辛いことも、楽しいことも、全部お前になるんじゃ。強く生きるんじゃぞ。』

 

『律くん。私たちの身体がなくなっても、私たちはずっと、律くんと涼子と、今日来てくれたみんなの心で生き続けるんよ。だから寂しくないよ...ちょっとだけ...ほんの少しお別れやね...』

 

ほんの少しのお別れ。いつかその時が来たらちゃんと面と向かって言おう。

 

じいちゃんとばあちゃん、ほんとにありがとう。

 

俺も母さんと一緒に頑張るからね。

 

「もう大丈夫だよ。母さん。」

 

「そう...じゃあお願いします。」

 

じいちゃん、ばあちゃん、おやすみ。またね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葬儀が終わり、家に戻る。

 

ああ、もうこの家にはじいちゃんもばあちゃんもいないんだ。

 

2人は箱に収まってしまうくらい小さくなってしまった。

 

愛し合った2人はあちらの世界へふたりで旅立った。

 

つがいの鳥は片方が死んだら、残された方もあとを追うように死んでしまうって言うけど、じいちゃんとばあちゃんはほぼ同時刻に逝った。

きっと一秒も離れたくなかったんだよね。

 

母さんは俺を優しく抱きしめる。

 

「大丈夫よ...律人にはまだ私がいるから。」

 

「うん...じいちゃんもばあちゃんも俺の中にいるから...大丈夫。」

 

そう、きっと大丈夫。

 

死は別れじゃない、ばあちゃんもそう言ってたから。

それに、いつまでも悲しんでたらじいちゃんもばあちゃんもきっと心配する。

母さんだって辛いんだ。俺がしっかりしなきゃな。

 

「母さん。お腹空かない?今日は俺が作るよ。」

 

母さんはふふっと笑う。

 

「気をつかってくれてるの?やっぱり律人は優しい子ね。じゃあお願いしようかな!麻婆豆腐作ってよ!」

 

了解、と返事をして俺は調理に取りかかる。

 

 

その日は母さんと遅くまでゆっくりいろんな話をしていつの間にか眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

布団をかけながら愛しい息子の顔を見ながら涼子は呟く。

 

「律人はほんとに強い子に育ってくれたわね...」

 

祖父母の死に取り乱したものの、すぐに受け入れ、私に気をつかってくれた。

まだ15歳で、ほんとは塞ぎ込んでもおかしくないのに、私を支えようとしてくれている。

 

「ごめんね...律人...でも、母さん、もう少しだけ頑張るからね...せめて、律人が高校を卒業するまでは...お父さんお母さん、もう少しだけ私を守ってね...」

 

涼子は律人が見た強い瞳でそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




結局、このような結末になってしまいました...
はやく恋愛しろよ!と思っている方!
すいません、次から頑張ります...

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