君のいる町 if   作:中矢

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17回目の投稿です!


秘められた想い。すれ違う想い。

宮島での遠足を終え、俺は学校に登校していた。

自転車で田んぼ道をはしる。すると、前の方に見慣れた女の子が歩いていた。

 

「七海ちゃん!おはよ!」

 

「あっ、律くん!おはよ!」

 

そういえば七海ちゃん、自転車壊れてたんだったな。

やっぱり歩いて来たのか...

 

「乗りなよ、疲れたでしょ?」

 

「え、大丈夫だよ!先に行ってていいから!」

 

「見かけておいて乗せないのは俺の良心が痛むじゃん。だから、俺の為を思って乗ってよ。」

 

「でも...」

 

二人乗りで登校するのが嫌な理由があるのかな?

 

「そんなに断られると落ち込むんだけど...」

 

七海ちゃんは慌てて否定する。

 

「ちっ違うんよ!...二人乗りで登校したら、学校で噂されるかもやから、律くんが嫌かな?と思って...」

 

なんだ、そんなこと気にしてたのか...

むしろ、それが嫌なのは七海ちゃんの方なんじゃないのかな?

 

「俺はそんなの全然気にしないけど...七海ちゃんは気にする?」

 

「えっ?...私は...律くんが嫌やないんやったら大丈夫だよ...」

 

少しだけ、顔を赤らめながら、控えめにそう呟いた。

俺はなんだか少しだけ嬉しくなり、七海ちゃんに後ろに乗るように再度促す。

 

「だったら、問題ないね!ほら!早く乗らないと遅刻しちゃうかもしれないよ!」

 

そして、七海ちゃんは俺の後ろにちょこんと横乗りに座る。

ギュッと控えめに俺の制服の端を掴む七海ちゃんにドキドキしながら自転車をこぎだす。

掴まれた制服のあたりから身体が熱くなるのを感じる。

俺って案外重症だな...こんな些細なことでドキドキするなんて...

俺達は二人乗りをして学校に向かった。

 

 

 

 

学校に到着し、駐輪場に自転車を入れる。

思ったより、余裕を持って学校につけたみたいだな。

 

「ありがとうね!律くん!」

 

七海ちゃんの顔は気のせいか少しだけ赤かった。

もしかしたら、七海ちゃんもドキドキしたのかな...?

 

「大丈夫だよ!自転車が直るまではこうやって乗せてあげるよ!」

 

「ありがとう...」

 

そして、俺達は校舎に向かって歩き出す。

 

ふと、ちりんと鈴の音が聞こえた。

 

七海ちゃんのバックを見ると、俺があげたストラップがついていた。

 

「あ、七海ちゃんそれ...」

 

「あっ!これつけてきたんよ!いつも見えるところに置いておきたくて...」

 

そう言って、七海ちゃんはストラップを大切そうに握る。

こんなに大切にしてもらえるなんて嬉しいな...

 

「俺もつけてるよ。カバンだと何かの拍子に外れちゃいそうだから、ケータイに。」

 

俺はケータイを取り出し、ストラップを見せる。

 

「...嬉しい。律くんもつけてくれとるんやね...」

 

「もちろん!大事にするって約束したから。」

 

すると、七海ちゃんは、カバンからストラップを外し、自分のケータイにつけた。

 

「えへへ...私もこっちにつけようかな。おそろいみたいで律くんは嫌?」

 

「そんなことないよ。嬉しいよ!」

 

七海ちゃんはそれを聞いて校舎に歩き出す。

 

「ふふっ!ありがとう!律くん!」

 

俺も、それを追いかけるように校舎に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室に入ると、青大と尊が話しかけてきた。

 

「律人!聞いてくれ!葵さんが今日から、教育実習でこの学校に来るんじゃって!」

 

「え?葵さん帰ってきてるの?ていうか、教師になるの?」

 

「この前から帰ってきとるんじゃ。母ちゃんの話じゃと、教員免許もっとくと、何かと就職に便利やからそのためじゃろうてゆーとった。」

 

桐島葵さん。青大のお姉さんで今は東京の大学に通っている。

美人だけど、意外と不器用なひとだった。

なぜ不器用かと言うと...料理をしようとして、材料を焦がしたり、野菜を切ろうとしたら、指を切ったり...

ただ勉強はできるし、身の振り方はきちんとした人だからその実態を知っているのは家族と俺と母さんくらいだろう。

なぜ、俺と母さんが知っているかと言うと、葵さんが俺の母さんに懐いていたからだ。

広島に引っ越して来た時から葵さんは母さんにべったりで、何かと家に来ては母さんと話していた。

 

ガララっ

 

教室の扉が開き、担任と葵さんが入ってきた。

 

「おーい!お前ら!席につけ!今日から教育実習にきた先生を紹介するぞ!」

 

「おはようございます!みんな。今日から教育実習を行う、桐島葵です。歳もみんなと近いので仲良くしてください。」

 

ペコリと頭を下げ顔をあげた葵さんと目が合う。

葵さんが一瞬微笑む。

クラスメイトからは「綺麗な人じゃな〜」「桐島くんのお姉さんなんじゃって...」

という声が聞こえる。

 

確かにますます綺麗になった...というか、母さんに似てきたな...

母さんも黒髪のロングだし、大学生になって雰囲気まで似てきた。

昔から、母さんの真似をする人だったからな...

相変わらず、母さんは憧れの存在なんだな。

 

隣の七海ちゃんが俺に話しかけてくる。

 

「桐島くんてお姉さんいたの?」

 

「うん。俺たちより6つ上だよ。」

 

「へ〜そうなんや!綺麗な人やね!それに、何となく律くんのお母さんに似てるよね!」

 

「葵さん、母さんにべったりだったからね。」

 

「律くんのお母さん綺麗で優しい人やもんね!」

 

確かに、自分の母親をこう言うのも変だけど綺麗だと思う。

年の割にはすごい若く見えるし、なんなら大学生でも通用するのかもな...

いや、流石にそれは言いすぎか...

 

 

葵さんの挨拶が終わり、いつものように授業に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、俺達はみんなで集まり、弁当を食べていると、尊が葵さんの歓迎会をやろうと言い出した。

 

「葵さんは、青大がええならやってもらいたいてゆーとったから!あ、それと、やるなら、律人は強制参加なんじゃと!」

 

「俺は別にええけど、律人は?」

 

まぁ久しぶりに帰ってきて、話したりもしたいしな...

 

「俺も大丈夫だよ。」

 

「じゃあ決まりやな!今日青大ん家集合な!」

 

「あの、私も行ってもええかな?」

 

「ん?当たり前じゃ!もともと、葵さんも入れて7人でやる予定だったんじゃから!」

 

「うん!ありがとう!」

 

七海ちゃん、最近は積極的に距離を縮めようとしてきてるな...

もう、心配はなさそうだ。というか、もともとあんまり心配はしてなかったんだけど。

 

俺達は放課後の予定を立て、午後の授業に臨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、俺は今日の歓迎会に備え、早めに帰ろうとしていた。

七海ちゃんを自転車で送ろうとしたのだが、帰りは家の人が迎えに来るというので1人で帰ろうとしていた。

 

「律人!久しぶりに一緒に帰ろ!」

 

「月か、いいよ。帰ろう。」

 

俺と月は自転車に乗り、帰宅する。

 

「葵さんと会ぉたの何年ぶりくらいやろ?」

 

「うーん...葵さんが上京してから、3年と少しぐらいだから、俺らが中学上がる前ぶりくらいじゃないかな?」

 

「そっか...葵さん、綺麗になっとったねぇ...大人の女の人って感じじゃったし、広島弁も抜けとったね。」

 

「確かにそうだね。前は、月みたいな話し方だったのに。」

 

「私も大人になったら、あんな風になれるんかな?」

 

「きっとなれるよ。」

 

今でさえ、高一に見えないくらいなんだから...

月は北欧の血が色濃く受け継がれてるみたいだし、同年代の子の中ではスタイルはバツグンだ。

 

「でも、七海ちゃんも柚希ちゃんも綺麗じゃから自信なくすんよね...」

 

「七海ちゃんも柚希ちゃんも確かに美人だけど、月も充分綺麗じゃん。」

 

月は驚き、顔を赤くしながらこちらを見る。

 

「ほんまに...そう思う...?」

 

「え?もちろん!七海ちゃんも柚希ちゃんも美人だからあんまり目立たないけど、月も同年代の子達に比べたら飛び抜けて美人でしょ。」

 

「...そんなふうに思ってくれとったんやね...。」

 

月は顔を赤くし、照れたように笑う。

 

「でも!こんなもんやないんやからね!これからもっとええ女になるんじゃから!覚悟しときんさいよ!」

 

「あ...うん。楽しみにしてる。」

 

えらく気合い入ってたな...というか、なんの覚悟だ?

俺は少しの疑問を持ちながら、自転車をこぎ、月と別れ、家に帰る。

 

 

 

 

 

 

着替えてから青大の家に向かうと、すでに尊が来ていた。

 

「尊、集合時間よりだいぶ早いな...俺も早く来たつもりだったんだけど。」

 

「当たり前じゃろ!なんたって葵さんの歓迎会じゃからの!」

 

そういえば尊の初恋の相手って葵さんだったな...

 

「あら、久しぶりね!律人ー!!」

 

葵さんが会うなり俺に抱きついてくる。

胸が...

 

「葵さん、苦しい。というか、学校で会ったじゃん。」

 

「学校ではこんな風に抱きつけないでしょ!それより、涼子さん元気!?」

 

抱きつくの前提ですか...まぁ昔からのこの人の挨拶みたいなもんだからな...

 

「元気ですよ。近いうち家に来なさいって言ってました。」

 

「うん!いくいく!涼子さん懐かしいなー!」

 

葵さんと母さんのことなどを話していると、青大と柚希ちゃんが2階から降りてきた。

 

「おぉ、律人。来とったんか。」

 

「うん。早めに来て葵さんと話そうかなと思って。」

 

「そりゃ物好きなことじゃな。」

 

「ちょっと青大、どういうことよ?」

 

さらに、玄関の方から月と七海ちゃんの声が聞こえてきた。

 

「おじゃましまーす!」

 

「おっ!月と神咲もきたな!じゃあそろそろはじめよか!」

 

俺達は、テーブルを囲み、尊が葵さんに乾杯の音頭をお願いする。

 

「コホンっ...えーと、今日は私のためにみんな集まってくれてありがとうね!これから、しばらく教育実習でお世話になるから、仲良くしてね!乾杯!」

 

「「「カンパーイ!」」」

 

テーブルには様々な料理が並べられていてどれもなかなか美味しい。

 

「これ、青大が作ったの?」

 

「ん、そのつもりやったんじゃけど、姉ちゃんが作ったんじゃ」

 

これを、葵さんが...?葵さんて料理できなかったような...

 

「あー!律人、疑ってるでしょ?でも、私も涼子さんに教えてもらって、少しは料理出来るようになったんだからね!」

 

「そうなんだ...美味しいから、青大が作ったんだと思った...」

 

「ちょっと、失礼ね!なんたって涼子さんに教えてもらったんだから出来るようになるわよ!」

 

「でも、ほんとに美味いです!葵さん!」

 

「美味しいね!」

 

尊も柚希ちゃんも料理をどんどん食べている。

葵さんも相変わらず、母さんのこと大好きだな...

 

葵さんは東京の話を俺たちにしてくれた。

大学は楽しいけど、就職に向けて今は大変なこと。

彼氏と最近別れて、その愚痴など。

 

そうこうしているうちに料理が足りなくなっていることに気づく。

 

「青大、キッチン借りていい?そろそろ料理足りなさそうだから。」

 

「ええよ、俺が作るから。」

 

「いいって、青大はたまにはゆっくりしてなよ。」

 

「じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。材料はテキトーに使ってええから。」

 

青大にお礼を言って、キッチンに向かう。

すると、七海ちゃんもついてきた。

 

「律くん!私も手伝うよ!」

 

「いいよ、座ってなよ。」

 

「私にも手伝わせてよ!少しは役に立つよ?」

 

七海ちゃんは腕をまくり、握りこぶしを作ってやれますよ。という仕草をする。

 

「じゃあお願いしようかな。」

 

そう言って、俺達はキッチンに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちがいなくなり、葵さんが切り出す。

 

「ねぇあのふたり、付き合ってるの?」

 

「いや、まだつきおーとるわけじゃないみたいですよ。」

 

「そうなの?それにしても、なかなか積極的ねあの子。それに、気の利く子だし。」

 

「あの2人はそのうち付き合うじゃろ。時間の問題じゃな。」

 

「律人くんと七海ちゃんお似合いだもんね。」

 

そんな話で盛り上がっている中、少し不機嫌な人が1人。

 

「付き合うかどうかはまだ分からんでしょ...」

 

「ん?月、急にどうしたんや?」

 

「なんじゃー?ヤキモチか?お前、もしかして律人のこと...」

 

月は尊が言い終わる前にその言葉を口にする。

 

「好きよ。多分、出会った時から。」

 

「は?お前、この前まで神咲先輩のこと好きってゆーとらんかったか?」

 

「好きじゃと思ったんやけど...ほんとに好きなのは誰なのか気づいてしまったんよ。いざ、神咲先輩に告白しようと思うと、律人の顔が出てきて分かったんよ。」

 

「んー...まぁそういうこともあるものよ。」

 

「確かに、転校してきた時、一番最初に月が心開いたのは律人じゃからな。」

 

「うん...そういうことじゃから。」

 

「こりゃーとんだ修羅場になりそうじゃな...」

 

青大は誰にともなくそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあそろそろ帰ろうかのー!」

 

「そうだね。時間も時間だし。」

 

「青大!葵さん!今日はありがとうね!」

 

「おじゃましました!」

 

「気をつけてね!」

 

「また明日な!」

 

俺達は桐島家から出る。

あの後、料理を作り、持っていったのだが、なぜか青大と葵さんと尊の哀れみの目と柚希ちゃんの心配そうな目で見られたのだが、あれは一体なんだったんだろう...

 

「ほんじゃ、俺と月はこっちじゃから!またな!律人、七海ちゃん!」

 

「またね!律人!七海ちゃん!」

 

「うん、気をつけてね。」

 

「2人とも、またね!」

 

俺達は月と尊に別れを告げ、夜道を歩いて帰る。

 

「はー!楽しかったね!律くん!」

 

「そうだね。久しぶりに葵さんと話せて良かったよ。」

 

「ふふっ!葵さんて面白い人やね!律くんのお母さんの話ばっかりしとったよ。」

 

「どんだけ母さんのこと好きなんだって思うけどね。まぁ悪い気はしないけど。」

 

「そうやね!好きなんだってことはすごく伝わってきたよ!」

 

俺達は今日のことを振り返りながら歩く。

 

ぽつぽつ...

 

すると、急に雨が降ってきた。

雨は次第に強さを増していった。

 

「うわっ、雨だよ!律くん!」

 

「とりあえず走ろう!もうすぐ俺の家だから!」

 

俺達は雨に濡らされながら駆け出す。

 

数分ほど走って俺の家につく。

 

「あーあ、濡れちゃった...」

 

「とりあえず、あがりなよ。そのままだと風邪ひくし。」

 

「うん。ありがとう!」

 

そう言って俺は家の扉を開ける。

 

「ただいま!」

 

「おじゃまします!」

 

奥の方から母さんが出迎える。

 

「おかえりなさい!あら、七海ちゃん。いらっしゃい!」

 

「こんばんは!」

 

「母さん、それより、タオルちょうだい。雨で濡れちゃったから。」

 

「わかったわ!ちょっと待っててね。」

 

母さんはタオルを持って、戻ってくる。

 

「あなた達お風呂はいっちゃいなさい。そのままだと、風邪ひくわよ。」

 

「え!?いや、悪いです!大丈夫ですから!」

 

「いいからいいから!」

 

「でも...」

 

七海ちゃんは申し訳なさそうに俺の方を見る。

 

「入りなよ。風邪ひくよ。」

 

「そうよ!ほらほら、あがって!律人!あなたの着替え、貸してあげなさい!」

 

母さんは七海ちゃんを半ば強引にお風呂に連れていった。

 

俺はタオルで服や髪を拭きながら2階にあがり、着替えを済ませて、七海ちゃんの分の着替えを持って1階に降りる。

 

そして、脱衣所に着替えを置き、居間に座る。

すると、後ろから母さんに話しかけられる。

 

「歓迎会どうだった?」

 

「楽しかったよ。久しぶりに葵さんとも話せたし。」

 

「そう、葵ももう、大学4年生だったわよね?綺麗になってた?」

 

「うん。」

 

「ふふっ、あの子は昔から可愛らしい子だったからね。」

 

そうこう話しているうちに七海ちゃんがお風呂から出てきた。

 

「あの、ありがとうございました!」

 

七海ちゃんは俺のパーカーとスウェットを着ていた。

少し...というか、そこそこダボダボで手は指先しか見えない。

ズボンは折り曲げられて履かれており、なんだか普段見れないゆるい七海ちゃんで無性に可愛く、抱きしめたい衝動にかられたが理性で抑える。

 

七海ちゃんが俺の服着てるって...変な感じだな...

 

「いいのよ、風邪ひいたら大変だもの。」

 

「迷惑かけてすみません...」

 

そんな中、母さんが爆弾発言をする。

 

「あ、そうだ。今日は泊まっていけば?明日は休みなんだから。」

 

泊まっていけば?嘘でしょ?何言ってんの母さん。

 

「えっ!さっさすがにそこまで迷惑かけれません!」

 

七海ちゃんもすごく驚いてるし...

 

「あらそう?残念ね...服は一応乾かすから、少し待っててね。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

そう言って母さんは七海ちゃんの服を乾かしにいく。

いや、びっくりでしょ。ほんとにうちの母さんは時々とんでもないことを言うな...

 

「びっくりしたぁ...」

 

「ごめんね。母さん時々とんでもないこと言うから...」

 

「ううん、大丈夫だよ。それより、変な気分。律くんの服着とるなんて。」

 

七海ちゃんは俺の隣に座る。

お風呂に入ったばかりで、まだ少しだけ髪が湿っていて、いい匂いがする。

俺と同じシャンプーのにおいだ...

それにほんのり顔が赤くて、なんだか...エロい...

 

「律くんのにおいがする...」

 

七海ちゃんは恥ずかしそうにそういった。

 

可愛すぎます。なにこの子。

俺も、なんだかんだ男なわけで、こんな可愛い子が自分の服を着てて、お風呂上がりで、こんな可愛いこと言われると理性がやばい。

 

「律くん...?どうしたん?顔赤いよ?もしかして熱?」

 

七海ちゃんは上目遣いで心配そうに俺をのぞき、綺麗な手で俺の額に触れてくる。

その瞬間、俺はたまらなくなり、七海ちゃんを抱きしめる。

ギュッと抱きしめると七海ちゃんのにおいや柔らかさや温かさが一気に感じられる。

愛しさでいっぱいになる。

七海ちゃんの全てが欲しくなる。

俺だけのものに...

ずっとこうしていたい...

 

「ん...り、律くん...?/////」

 

はっと我に帰り、俺は七海ちゃんから離れる。

 

「ごっごめん!」

 

七海ちゃんは寂しそうな顔で俺に言う。

 

「謝らんで...律くんになら、何されても平気やから...」

 

えっ?今、なんて...

 

そこにタイミング悪く...いや、良く?母さんが入ってくる。

 

「七海ちゃん!服、ある程度乾いたわよ...どうしたの?2人とも?」

 

俺は慌てて、母さんに答える。

 

「なっなんでもないよ!」

 

「あっ、ありがとうごさいます!」

 

「そう...?七海ちゃん、完全には乾いてないから今日はその格好で帰りなさい。あんまり遅くなると心配するでしょうから。」

 

「え?あ、はい!」

 

「じ、じゃあ帰ろっか七海ちゃん!送ってくよ!」

 

「う、うん!律人くんのお母さん、今日はほんとにありがとうございました!」

 

「いいのよ!それと...次に来る時はちゃんと付き合って、泊まりにきなさい。」

 

「えっ!?えっと...はい!おじゃましました!」

 

「またね!七海ちゃん!」

 

母さんの最後の方の言葉は聞き取れなかった。

なんて言ったんだろ...もしかして、見られてたとか...

母さんは勘が鋭いからな...

 

俺達は外に出る。

雨は上がっていたので通り雨だったのだろう。

 

俺は、自転車に乗り、七海ちゃんを後ろに乗せる。

さっきの出来事のせいで、なんとも気まずい雰囲気になっていた。

 

あーあ、やっちゃったな...

でも、あの最後の言葉ってなんて言ったんだろ。

謝らないでってことは...

いや...ありえないな。

とりあえず謝っておかないとな。

 

「七海ちゃん。さっきはほんとにごめん。困るよな、急にあんなことされたら...」

 

「う、ううん!びっくりしたけど...困らないよ...」

 

「その、ごめん...出来れば忘れてほしい...」

 

こんなことで七海ちゃんに避けられるのだけは嫌だ。

勢いに任せて好きな子を抱きしめて、それで嫌われるなんて...

だから、忘れて欲しかった。

 

「なんで...忘れて何て言うの...?」

 

「え?...」

 

「っ!もういい!降ろして!」

 

俺は自転車を止める。

 

「七海ちゃん!」

 

「律人くんなんか大嫌い!」

 

そう言って走り去っていく。

大嫌い...か。それに律人くん...か。やっぱりな...

好きでもない相手にあんなことされたら、嫌だよな...

 

でも、なんで忘れてって言った事に怒ったんだろ。

 

もうそんなこと考えても意味無いな...

俺、告白する前に振られちゃったな...

 

俺はそのまま七海ちゃんの後ろ姿が消えていくのを見ながら、立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は今までで一番長い話になりました!
いやー最近はほんとに寒いですね!
みなさん、風邪や事故にお気を付けて!

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