君のいる町 if   作:中矢

11 / 33
11回目です!



おまじない

今日は、尊、青大、柚希ちゃん、俺で田植えを手伝うことになっていた。俺は、気怠い身体を引きずるようにしてベッドからでる。

 

「おはよう!律人!ご飯さっさと食べちゃいなさい!」

 

「...うん」

 

「あら?どうかしたの?元気ないわね」

 

「...大丈夫。田植えが少し憂鬱なだけだよ。」

 

ほんとうはそれだけではないが、昨日のことは誰にも話すつもりはない。もちろん自分の気持ちもだ。

 

 

「...そう、ほら!今日は田植えの手伝いするんでしょ!しゃんとしなさい!」

 

たしかにこんな調子じゃ何かありました。と言っているようなものだもんな。

よし!とりあえずしっかりしなきゃな!

俺は、ご飯を食べて田んぼに向かう。

 

「お!律人!きたな!」

 

「遅いよ、律人くん!」

 

「お前は張り切り過ぎなんじゃ...」

 

尊、柚希ちゃん、青大は先に着いていたみたいだ。

 

「おはよ、みんな。早いね」

 

「枝葉が急げってうるさかったからな...」

 

「だって、はじめてなんだよ!?田植えとか貴重な体験じゃない!」

 

「まぁ、柚希ちゃんや律人みたいな都会っ子は田植えなんてせんじゃろーな!」

 

確かに東京じゃ田植えなんかしないな、田舎の学校だと、学校行事で田植えの体験なんかもあるらしいけど。

 

「俺はここに来てから毎年やってるから大分慣れたよ。」

 

「毎年、こき使われとるからな...」

 

「だね...じゃあやろうか!」

 

俺達は各々で作業に取り掛かる。

「ふぅー!終わったー!」

 

「うう、腰が...」

 

「尊はじじいじゃな。」

 

「たかじいだね。あれ?そういえば柚希ちゃんは?」

 

「たしかに...あいつどこいったんじゃ?」

 

あたりを見渡しても柚希ちゃんはいない。

 

「あー、柚希ちゃんならさっき帰ったど?用事があるゆーてたな。」

 

「そっか。俺達も終わったし帰ろうか。」

 

「そうじゃな。」

 

2人は俺の言葉に同意し、片付けを済ませてそれぞれの家に帰る。

 

明日は確実に筋肉痛だな...

 

 

 

 

その夜、青大から電話が入った。

 

「なぁ律人。また相談なんやけど...いまええか?」

 

俺は、風呂上がりで、髪についた水滴をタオルでとばしながら答える。

 

「大丈夫だよ。柚希ちゃんのこと?」

 

「そうなんじゃ...実はな...」

「なるほどね。この前風邪ひいたときにキスされて、今日は柚希ちゃんに田植えの帰りに告白されたんだ。」

 

「そうじゃ...」

 

「どうりでこの前は様子がおかしいと思ったけど、まさかキスされてたとは思わなかったよ...」

 

「めっちゃ驚いたわ...」

 

「でも、青大はまっすぐに想ってくれてる柚希ちゃんに少なからずドキドキしたんでしょ?」

 

「...そうじゃな。告白されてから余計意識してしまうようになったわ。」

 

まぁそういうもんだよな。

この前、似たような状況になったばかりだからよく分かる。

 

「今まで通りでいいとおもうよ。宣戦布告みたいなものだって言われたんでしょ?柚希ちゃんの好きなようにやらせてあげなよ。」

 

「...そうじゃな!いきなり態度変えるのもおかしいけんの!わかった!ありがとな!律人!」

 

「ん。またなんかあったら話ぐらいなら聞くから。」

 

「ほんま頼りになるわ!じゃあまたな!」

 

青大との電話が終わる。

柚希ちゃん、告白したのか...柚希ちゃんは強いな。

相手に好きな人がいるって分かってても、想い続けることが出来るんだから。

 

あとは、青大がそれにどう感じていくか...だね。

 

俺はベッドにどさっと倒れ込み、心地よい疲労を感じながら意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

夢をみた。

青大と七海ちゃんが仲良く手を繋いで歩いている夢。

やけにリアルで、その光景は俺が望んでいたはずのものなのに、心は苦しくて仕方ない。

七海ちゃんは青大の手を取り顔を赤らめながら微笑む。

青大も照れて頭をかきながら、笑みを返す。

二人の幸せな光景から俺はどんどん遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

俺は勢いよくベッドから起き上がる。

 

「...あれ?」

 

頬には涙が流れていた。

 

「...」

 

結局、律人は朝まで眠れず、ぼんやりと月を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土日の休みは終わり、学校が始まっていた。

 

田植えによる疲れのせいか、少し頭がぼーっとして、身体がだるい。若干、熱っぽい気もする。

 

七海ちゃんはいつもと変わらず挨拶をし、他愛ない話を少し交わすと、友達のところにいった。

 

これからも仲良くしてとは言われたけど、ここまでいつも通りに会話できるとは思っていなかった...

きっと、気持ちの整理が出来たんだろうな...

 

「おはよ!律人!」

 

「...ああ、月か。おはよ...」

 

「なんか、疲れとるな...田植えどうじゃった?」

 

「ばっちり筋肉痛だよ...」

 

「もう毎年恒例じゃな!」

 

毎年、田植えのあとは筋肉痛がすごい。

部活をやっているとはいえ、普段使わない筋肉を使うためか、筋肉痛におそわれる。

 

「なんなら、うちがマッサージでもしましょうか?」

 

「お願いしようかな...」

 

「ははっ!うちのマッサージは高いで?」

 

キーンコーンカーンコーン

 

そんな会話をしていると、始業のチャイムがなる。

 

 

 

 

午前の授業が終わり、昼休みに入った。

身体のだるさは回復するどころかますますひどくなり、頭痛もするようになってきていた。

 

青大の風邪、うつったかな?

 

「おーい、律人!飯食おうや!」

 

昼休みには、尊、青大、七海ちゃん、柚希ちゃん、月、俺で弁当を食べるのが当たり前になっていた。

 

「ああ...そうだね。」

 

みんなに心配をかけたくない俺は、重い体を起こして弁当をだす。

 

「あ、律くん!そういえば私と律くん、先生に呼ばれてたから職員室行かないかんよ。」

 

呼ばれてたっけ?だるいから行きたくないけど仕方ない。

 

「そうなんだ。じゃあみんな先に食べててよ。行ってくるから。」

 

みんなから了承の声があがり俺と七海ちゃんは職員室に向かう...はずだったのだが...

 

「...あれ?七海ちゃん?ここ職員室じゃないよ。」

 

俺達は、職員室ではなく、保健室の目の前に来ていた。

 

「知っとるよ。先生に呼ばれたのは嘘なんよ。律くん、今日、具合悪いでしょ?」

 

隠してたつもりだったが、まさかバレてるとは...

 

「どうして分かったの?」

 

「そりゃ分かるよ!いいから、早く寝てて。立ってるのもきついんやろ?」

 

その通りだった。関節痛がひどくて、頭痛も時間が経つごとにひどくなっている。

 

「...ごめんね。迷惑かけちゃったな...」

 

俺はそのままベッドに倒れ込む。

ひどく熱っぽく、横になれてすごく楽だ。

 

「迷惑やないよ。ねぇ律くん、きついときは無理せんで頼ってよ。」

 

「...わかった。」

 

俺はそのまま眠りにおちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七海side

 

 

今日の律くんは朝からおかしかった。

最初は私が告白したから、気まずいと思ってるのかと思ったけど、そうじゃないみたいだった。

少しはそれもあったんかもしれんけど...

 

授業中もぼーっとしてて、いつもより顔が赤い気がした。そして、律くんが消しゴムを落として、私が拾って渡した時の体温の高さで確信したのだ。

 

でも、律くんはみんなに心配をかけたくないみたいで、具合が悪いことを隠しているようだったので、先生に呼ばれていたことにして保健室に連れてきたのだ。

 

ベッドに寝ている律くんの額を触ってみる。

...明らかに熱あるよ...

私は、タオルを水で濡らして律くんの額にのせる。

 

「...ありがと」

 

つらいのに律儀にお礼を言ってくる律くん。

 

いつもは、シャンとしてて、大人で、弱みなんかみせない律くんが、今はただの男の子に見える。

 

でも、私...振られちゃったんよね...

そんな私が付きっきりでいるのもおかしいので、額のタオルを取り替えて保健室を出ようとする。

 

「...かないで...」

 

うまく聞き取れなかったので、聞き返す。

 

「なに?どうしたん?」

 

「いかないで...七海ちゃん...ここにいて...」

 

そういって、布団から手だけを出す。

 

「っ!/////」

 

不謹慎なんやけど、今の弱っている律くんが私に頼ってくれることがたまらなく嬉しかった。

そして、なにより愛おしいと思った。

 

私は、出された手を少しだけ遠慮がちに握る。

すると、律くんも握り返してきた。

 

「わかった、どこにもいかんよ...」

 

そういうと、律くんは安心したように寝息を立て始めた。

 

やっぱり私はこの人が好きなんだ...

諦めることはやっばりできんよ。

きっと、律くんは熱で意識が朦朧としてたからあんなこと言ったんだろうけど、それでも構わない。

私はこの人のためならなんでもしてあげられる。

だから...せめてこれだけ...

風邪がなおるおまじないやから...

 

私は律くんの唇にキスをした。

 

 

 

 

 




今年はこれが最後の投稿になると思います!
それではみなさん!良いお年を!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。