次の日、今日は青大は学校を休んでいた。
柚希ちゃんに聞くと、まだ具合がよくないみたいだ。
柚希ちゃんもそれに比例するように元気がない。
結局、柚希ちゃんは放課後までどこか元気がなかった。
「2人ともまたなんかあったんかな?」
隣の席の七海ちゃんも柚希ちゃんを心配している。
柚希ちゃんが元気がない時は大抵青大絡みだ。
「具合が悪いだけが理由じゃないのは確かだね。」
昨日帰るときもなんだか様子がおかしかったし。
そういえば、柚希ちゃんは今日はどうやって帰るんだろ。
「柚希ちゃん!」
「ん?律人くん。どうしたの?」
「今日はどうやって帰るの?手段がないなら送っていこうか?」
「あ...ううん!大丈夫!青大くんが迎えにきてくれるから!」
風邪で寝てる青大が柚希を迎えにいくのか?
さすがに青大もそこまではしないだろ。
一応部活が終わったあと電話で聞いてみるか。
そして部活が終わり、青大に電話をかける。
「もしもし?」
「あ、青大?今大丈夫?」
「律人か、俺も電話しようとおもっとったとこじゃ。枝葉のことなんじゃけど、今日、家まで送ってやれんか?」
「ああ、俺もそのことについてだよ。柚希ちゃんに聞いたら、青大くんが迎えに来るからって言ってたけど?」
「は?あのばか!」
「その様子だと、聞いてないみたいだね。月にきいたら、柚希ちゃんは30分くらい前にもう帰ってたみたいだから。」
「悪い!律人!また後で連絡するわ!」
ツーツー。
電話がきられる。
ほんと、最近は青大は柚希ちゃんのことになると必死だな。
七海ちゃんのこと好きならあんまり誤解されるようなことは避けた方がいいと思うけど。
さて、俺も帰ろうかな。
「おーい!律人!一緒に帰ろうや!」
後ろから自転車に乗った尊がこちらに叫びながら向かってくる。
「ん?尊か。いいよ。帰ろう。」
俺は尊と並んで自転車を走らせる。
並走は禁止だけど、こんな田んぼしかない道じゃちょっとくらいは大丈夫でしょ。
「なー、律人。お前最近青大達のことどう思う?」
「柚希ちゃんは多分、青大のこと好きなんじゃないかな?青大は柚希ちゃんと七海ちゃんで、揺れてる感じはするけど、パッと見は仲良いカップルみたいだな。」
「ははっ!だよなぁ!もう付き合っとるんじゃないんかと思うよな!」
「まぁ、柚希ちゃんは昔から青大のこと気になってたみたいだからね。一緒に住んでみて気持ちが増したんでしょ。」
「そーかー、俺は最初は律人に気があるとおもーたんやけどなー。」
「そんなんじゃないよ。」
「わからんで?一緒に住んでたのが青大やなくて、律人やったら、多分、律人に気持ちいっとるわ!」
「そんな言い方したら、一緒に住んだだけで好きになるって言ってるようなもんだぞ。」
「律人みたいなイケメンで性格もよろしいやつと住んだら女はイチコロじゃろ!うらやましい!」
「そんなことないよ。俺は、尊みたいに一途になれるほうがかっこいいと思うよ。」
俺は尊が秘密にしていたであろうことを口にする。
「なっ!律人!気づいとったんか!」
「ばればれだよ。月のこと好きなんだろ?」
「くっ...まぁ律人には隠し事は出来んしな。おお、前から好きじゃ。」
「なぁ、人を好きになるってどんな感じ?」
「そりゃあ、幸せじゃろ!月と一緒におると、楽しいしの!」
「それだけ?」
「まだたくさんあるど?けど一番はあいつの笑顔と明るさじゃな!話すといっつも馬鹿にしてくるけんど、そんな些細なやり取りが俺は好きなんじゃ。」
「尊はやっぱり...いいやつなんだな。」
「なんじゃ、いきなり!俺がいいやつなのは当たり前じゃ!」
思わず笑ってしまう。
尊のこういう無邪気なところに俺も何回も助けられた気がする。
「それより、律人はどうなんじゃ?」
「えっ?俺?」
「神咲のことどう思っとるんじゃ?仲ええじゃろ?」
「ん...わかんない。俺、女の子を好きになったことないから...それに、七海ちゃんも俺のことはただの仲いい友達としてしか見てないだろ。それに...友達の好きな子を好きになれないよ。」
「モテる男は言うことがちがうのォ!まぁたしかに青大は今はフラフラしとるからのォ...しっかし、相変わらず鈍感じゃな、神咲の気持ちには気づいとらんみたいじゃな」
「七海ちゃんの気持ち?」
「まぁ、それは俺の口から言うことじゃないわ!あーあー神咲が可哀想じゃ!」
尊はやれやれとわざとらしいジェスチャーをしている。
「よく...わかんないぞ...」
「まぁ、いつか、分かる時がくるじゃろ!」
「...そうだね。」
そして俺達はそれぞれの家に帰った。
翌日、青大は柚希ちゃんを乗せて学校まで来ていた。
いつもはコンビニで降ろして、歩いてくるのに今日は駐輪場まで二人乗りだ。
俺は七海ちゃんが柚希ちゃんに本を返しに行くと言うので付き添っていると、その2人が階段の踊り場で口喧嘩をしていた。
「あれだけ弁当忘れるなって言うたじゃろ!」
「だから!謝ってるじゃない!」
「今日の昼飯どうするんじゃ!」
「青大くんがコンビニでなんか買ってきてよ!」
「なっ!どんだけ無責任なんじゃ!」
どうやら柚希ちゃんが弁当を家に忘れたらしい...
「どうしたんかな...?あのふたり...喧嘩?」
すると2人が、こちらを見上げる。
「あっ、神咲...」
「あっ、お取り込み中やったみたいやね!」
「やっ!ちがうんや!神咲こそどうしたんや!?」
「私の方は大した用じゃないから!気にしないで!律くん!行こう!」
「あっ...七海ちゃん!」
七海ちゃんは俺は引っ張って教室までいく。
「桐島くんて、柚希ちゃんのこと好きなんかな?」
「いや、そうじゃないとおもうけど...七海ちゃんて意外と鈍感なんだね。」
「りっ、律くんにだけは言われたくありません!」
「だって、そうじゃん。たしかに最近は柚希ちゃんと仲良いかもしれないけど、青大はどう考えても...」
最後までいう前に七海ちゃんが遮る。
「そんなこと、律くんから聞きたくない!」
そういうと七海ちゃんは友達のところに行ってしまった。
「え?...ちょっと!...どういうことだよ。」
俺はわけがわからないまま、授業を受けることになった。
結局、1日中、七海ちゃんは不機嫌だった。
なんなんだ...いったい...
そんな中、放課後、青大から相談される。
「律人ォ...聞いてくれー...」
「...どうしたのさ。」
「神咲に俺が枝葉に片思いしとるって勘違いされてもぉた...」
「やっぱりか...というか、七海ちゃんなんか不機嫌じゃなかった?」
「んー...別に普通じゃったけど?」
青大にはふつうに接してるのに俺だけに不機嫌なのか...
「...神咲となんかあったんか?」
青人が心配そうに尋ねてくる。
「いや...多分大丈夫。」
「そぉか?それで...誤解されてもーたって話なんじゃけど...」
「それは、仕方ないと思うよ?最近、青大と柚希ちゃんすごく仲良さげだし。付き合ってるようにしか見えないからな。 」
「付き合ってないわ!...律人!どーにかしてくれんじゃろーか...」
正直、俺が七海ちゃんの誤解をとこうとすると警戒されるしな...かといって青大のこと考えると助けてやりたい気もするし...
「てかさ、ほんとは青大は柚希ちゃんのことどう思ってるのさ?」
「...枝葉はただの同居人じゃ。」
「ただの同居人にしては構いすぎな気もするんだけど」
「あいつは、危なっかしいというか...ほっとけないというか...」
「それは、好きとは違うの?」
「違う!...俺は神咲が好きなんじゃ!中学の時からずっと!」
「そっか...」
なんだ、柚希ちゃんに気持ちが向いているって思ったのは勘違いか...青大は七海ちゃんのことが好きなんだ。
なら、応援するしかないな。柚希ちゃんには悪いけど...
「でも...神咲は... 」
「え?」
「なっなんでもない!...誤解は自分で解いてみるわ。いつも律人の力を借りる訳にはいかんもんな!」
「そうだね。確かにそれがいいかもな...」
「じゃあまた明日な!田植え遅れんなよ!」
そういって青大は柚希ちゃんを迎えにいく。
そっか、明日は田植えだったな...
もうそんな時期か...毎年腰とかやられるんだよね...
俺も帰ろう。
駐輪場に着くと1人の女の子の姿が見えた。
「七海ちゃん。」
「あ...律くん。」
「どうしたの?」
「律くんを待っとったんよ。」
俺を?
「あの...今日はごめんなさい!」
「え?あぁ...不機嫌になったこと?」
「そう...態度悪かったやろ?だから謝ろうと思ったんよ...」
俺も怒らせた理由であろうことを謝る。
「俺も、余計なこと言ったからおあいこだよ...俺みたいな人を好きにもなったことないようなやつから、鈍感だとか言われたくないよな...ごめん。」
「それはいいの!ただ...」
少しの沈黙のあと七海ちゃんが話し出す。
「好きな人から、他の人が自分のこと好きだとか聞きたくなかったの。」
あー、そういうことか...え?まてよ...好きな人?
「私は...律くんのことが好きなんよ?」
「え...?まっ、また冗談か!びっくりするからやめてよ」
「冗談やない!...私、本気だよ。」
「...まじですか。」
七海ちゃんが俺のこと好き?
七海ちゃんの好きな人が俺?
「律くんの気持ちが私にないことはわかっとるんやけど...もし、少しでも可能性があるんやったら...付き合ってほしい...」
...七海ちゃん真剣だ。冗談じゃないんだ。
でも、多分答えは決まってる。
「ごめん。付き合えないよ...」
「そっ...か。ごめんなさい...」
最初から分かってた事だ。七海ちゃんのことは好きになっちゃいけない。
友達の好きな人を好きになったらだめなんだよ。
「ねぇ、律くん!」
「ん...?」
「振られてしまったけど、これからも友達として仲良ォしてくれる?」
「...もちろんだよ。」
「よかった...じゃあ私帰るね!また来週ね!」
そういって七海ちゃんは自転車で走っていく。
七海ちゃんが無理して笑顔をつくってたのが去り際の涙でわかった。
これでよかったんだよ...青人のためにも...七海ちゃんのためにも...
そして、同時に分かってしまった。
いや、ほんとはもっと前にわかってたはずだ。
母さんに聞いた時も、尊に聞いた時も、浮かんできたのは七海ちゃんのことだったんだ。
やっと、気付けた。
これが人を好きになるという事だったんだと。
「そっか...俺、七海ちゃんのこと好きだったんだな...」
気持ちを伝えられたと同時に俺の中に温かい感情が溢れてきた。
同じものを一緒にみたい相手も、些細なやり取りに幸せを感じる相手も、七海ちゃんだ。
そして、それを押し殺した。
青大を応援するって決めたのにそれを裏切れない。
俺は心に虚しさを感じながら帰路を辿った。