隣で支えるとまり木〜夢のような日々〜 ※凍結 作:マウス254
お昼の時間。授業が終わって一息ついていたら向こうから絢辻さんが。なんの用だろうか?
「橘君、貴方は進路調査に関してのプリントまだ提出してないよね?」
「……あ。そういえばまだプリントは手持ちのファイルの中だった。ごめん、今すぐ出すよ」
「分かったわ」
えーと、確かここに……あった。記入漏れは……ないな。といってもまだ完璧に決まった訳じゃないから、これは可能性の1つでしかないんだけれど。
「遅れてごめんね、はいこれ」
「ありがとう、これで多分全員分揃ったわ。クラスの人数分ありそうだし」
「僕が最後か……ちゃんと朝出しとくべきだったね」
「気にしないでいいわよ。ただ、次からは気をつけてね?」
「分かってる、完璧に守れるかは分からないけど」
忘れ物って無くなってからしばらくの間はしなくなるんだけどね。しばらく経って気が緩んでるといつの間にかやっちゃうんだよね……
あと、僕は絶対〜〜とか、完璧に……という時には根拠をしっかりと用意しておくべきだと考えている。嘘ついたとか言われないための保険だけど、こういうのがしっかり出来ないと信用が無くなっちゃうよね。
「それで良いから。手紙とかプリントの整理はしっかりしておくべきよ」
「頑張りまーす。……そうだ、今回遅れたのは僕のせいだし、いつもの様に手伝おうか?」
「あ、確かに周りの皆と比べて提出は遅れてるけど、期限は今日の放課後までだから別に問題ないのよ?」
「良いから良いから。何時も沢山の仕事をやってるんだからたまには他の人に負担してもらっても良いと思うよ」
こちらが勝手に後ろめたさを感じてるだけなんだけどね。今まで何回か手伝ってきてたし、仕事が出来ないなんて事は無いとは思うんだけど……
「はあ……それなら、頼りにさせてもらうわよ? じゃあ、こっちのプリントをお願い」
「任された」
このプリントはこの前出した別の提出物だ。アンケート式だったけど……
「それを元にデータを整理してほしいの。何回か手伝って貰ってるし、慣れてるでしょう?」
「そんな事なら任せてよ! ちゃちゃっと終わらせるぞ!」
「ふふっ、頑張ってね」
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このプリントで最後かな……お昼休みの間に処理できる量で良かったよ……
絢辻さんの方を見ると僕の3倍くらいはありそうな量のプリントが。毎回こういうのを見てるとちゃんと手伝えているのか不安になる。うん、ちょっと外見てよう。
……
性格も出来ていて、顔も良い。勉強ができる上に運動神経もトップクラス。1年の頃から絢辻さんはそんな感じで有名だった。
初めて聞いたとき冗談だろと思ったのは僕だけじゃないと思う。非の打ち所がない人なんて普通いないし、本人と知り合うまでは大きくなりすぎた噂の類だと思ってたよ。
告白もそれなりにされてるらしいが、全部断っているらしい。釣り合う人がいないんだろう、というかいると思えない……
「橘君」
「うおっ! っと、絢辻さんか。どうしたの?」
「そんなに驚かなくても」
絢辻さんは困ったように笑う。話しかけた時に驚かれたら誰も良い気にはならないよね。反省は後でするとして、話しかけられたって事は絢辻さんの方も終わったようだ。
「そっちも終わった様だし、この纏めたプリントは絢辻さんに渡しちゃっていいかな?」
「あ、終わってるのね。ちょっと多いかも、って思いながら貴方に渡しちゃったけど、問題なかったようね」
「そりゃまあ、何回か手伝っているし。流石に慣れるよ」
「あら、頼りになるのね」
「頼りにしていいよ、クラスメイトだしね!」
絢辻さんは少し働き過ぎな所あるからな。今回クリスマス関係で仕事も多いんだろうし、手伝えるものは手伝った方がいいよね。
高校生が書類仕事してて、過労で倒れるなんて何か違うよね。学ぶのが本業なのに大人みたいに仕事やってて、その仕事で倒れちゃうのは学生の過ごし方としては違うと思う。
「……これからも頼んでいい?」
「全然問題無いよ! あ、でも手伝えない時もあるからその時はごめんね」
「貴方のしたいことの邪魔をしてまでやらせるつもりは無いわよ」
「ははっ、良かったよ」
「その反応で私の事をどう見てるのか分かったわ。酷い人ね」
「ごめんごめん、ちょっと面白かったから」
「その対価として、今度手伝ってもらう時までに沢山貯めて貴方にその山を頼もうかしら?」
「やめてくださいしんでしまいます」
なんて恐ろしい事を言うんだ絢辻さんは。そんな事したら僕は干からびて死んでしまうぞ。
「冗談よ」
そう言ってクスクスと笑う。絢辻さんと冗談を言い合える位の仲になれたのは素直に嬉しい。2年で初めて同じクラスになったんだけど、最初の頃は近づけなかった。
いや、だって絢辻さん凄い人だからさ。僕みたいな凡人にしてみれば近寄りがたいんだよね。本人が親切で友好的な人だから良かったけどさ……
「橘君は昼食済ませてきたらどう? 私は貴方に纏めてもらったプリントを念のため確認しなくちゃいけないからまた後で昼食は後でになるけど」
「なんか悪いね、最後は結局任せる形になっちゃって」
「別に良いのよ。一人でやるより早く終わったのは事実だし、助かったわ」
「助けになったのなら良かったよ。それじゃ、頑張ってね」
「分かってる。橘君、手伝ってくれてありがとう」
「どういたしまして〜」
女子を一人で働かせてるのは男子として酷いんだろうけど本人に大丈夫だって言われた上で手伝おうとして要らないお節介を焼くのは違うよね。
それに、前と違ってある程度はちゃんと手伝えたんだ。よかったよかった。さ~て、弁当を早く食べちゃおう。
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もうすぐ下校。そろそろ帰ろうかな、と考えていると。
「先輩じゃないですか」
「あ、七咲」
七咲に会いました。ちょうど良いから少し話していこうかな。
「七咲は……そうだ、水泳部。水泳部内でどれ位速いんだ?」
「私の速さですか? えっと……多分同じ1年の中では1番速いと思います。先輩たちも含めると、流石に私より速い人はいますけど」
1年の中でトップか。それは凄いけど、どれくらい速いのかな。あと練習とかどれ位してるんだろう。
僕は水泳は人並みにしか出来ないから、速く泳ぐ、というのはあまり考えたことがない。
中学でも水泳部はあったけど、速く泳ぐには体力も必要なようで、走り込みを行ってたな。その時は遠目で見ながら大変そうだな、とか小学生みたいな感想しかなかったけど。
「先輩は何か部活に入ってないんですか?」
「帰宅部。部活に入るのはちょっと遠慮したかったんだよね。僕は何か1つを極め続けられるような人間じゃないし、そんな人が頑張ってる人達の中に入るのも悪いでしょ?」
「まあ確かに練習で手を抜く人に好印象は抱けませんが……入学してあまり顔見知りがいない時、友達を作るには部活って結構役に立つんじゃないですか?」
「それは否定しないよ。ただ、普段の生活の中でもクラスメイトと仲良くなってればそのクラスメイトの友達と仲良くなれることもある」
「そうやって友達を増やしたんですか?」
「中学校の頃からそうだよ。1人の人間と仲良くなっておけば3人位はその人と特に仲いい人と話す機会がある」
というより、部活に入って友達を作るとなるとその部活の友達とつるむことが多くなり、結果的に上手く時間が合わないとクラス同じ部の奴がいないとぼっちになる。
僕はそういうリスキーな狭く深く、よりかは広く浅くを選択した。勿論、趣味が合うやつとは結構クラス越えても喋ることはあるし、打算込みだが仲良くしておけば助けてくれる奴とは出来るだけ敵対しない様にしてる。
この立ち回りと、梅原や棚町のお陰で中学の友達で仲良い奴は結構いる。男子の方が多いから去年そいつらと集まって色々遊んだのは良い思い出だ。
「部活を頑張れる人は素直に凄いと思うよ。皮肉とかじゃなくてこれは本心ね。僕はさっきも言った通り、没頭するタイプではないから」
「そうなんですか……先輩と水泳やるのも面白いな、と思ったんですが」
「えっ?」
「冗談ですよ食いつかないで下さい。目が完全に変態さんの目ですよ」
「……」
ホントこの子僕の事馬鹿にしてるよね。絶対先輩だと思ってないよね。なんか後輩の態度としては違いすぎると思うよ。
「まあ水泳部の件は冗談ですけど、先輩も何か部活やってればよかったんじゃ、と思ったのは事実ですよ? 部活やらない人がいるにしても、ここはそういう人は少なくありませんか?」
「確かにね。ほとんどの人が文化部であれ運動部であれ何かしら入ってる」
進学でうるさい訳ではないから、部活をせず家で猛勉強している人は少ない。そもそも僕のように帰宅部だけど帰ってもあまり勉強しない、っていう人も多いだろう。
そう考えると確かに帰宅部はちょっと浮くかもしれない。梅原だってあまり行くことはないけど剣道部には所属しているし……
と言われても今更部活入るのはそれはそれで浮くな。そこでコミュニティが出来上がっているのに突然僕が入ってきてもやり辛いだけだろう。
「ま、七咲の言う通りではあるんだけどね。これでも結構大変なんだよ」
「何でですか? ただ帰るだけなのに」
「帰るまでが問題なんだよ。ほら、帰宅部の人って他の人と比べて暇になること多いから、人手が必要な時に声をかけられやすい」
「まあ確かにそうですが……そんなに声をかけられるんですか?」
「まあ活動日が少ない部活と同じくらいの活動はしてるんじゃないかな」
宿題処理を手伝わされたり、授業の解説をお願いされたり、学校内の教材等の運搬を手伝わされたり……様々な依頼が持ち込まれて来る。
嫌って訳ではないから別に構わないんだけど、毎日では無いにしろ1日おきに別々で声をかけられていた時は最後の方は面倒になっていた。
面倒なことを頼まれたりするんだよね。ただ単に借りた物を返すだけの筈が、ずっと返すの忘れてて相手が怒ってるかもしれないから一緒に着いてきてくれって……自業自得だ。
あ、勿論此方から他の人に依頼するために帰りが遅くなる事もある。僕は理系は得意だけど文系は普通だから、文の読み取りを手伝ってもらったり、人の名前の覚え方を教えてもらったり……
持ちつ持たれつの関係ってことだね。たまに勉強を手伝う約束だったのに何時の間にかショッピングモールをブラブラしてたなんて事もあったけどさ。
「そんなに友達が多いんですか?」
「多い訳じゃないよ。友達の中でも頼んでくる人は結構限られてるし同じだから。30人位かな? 普通の友達を幼・小・中・高で合わせると3桁は軽く行くけど」
「人気者なんですね」
「本当の人気者は逆にちょっと離れて見てみると近寄り難かったりするけどね」
「どういうことです?」
「その人が完璧な人、非の打ち所が無いから人気な場合」
「成程……」
昼休みに彼女からの依頼(独断)と言う事で書類整理してた時を思い出していたけど、実際彼女は同じクラス出ないと近寄り難いと思う。
何をやらせても出来てしまう彼女は、普通の人間からすると雲の上……は言い過ぎかもしれないけど同じ場所にいるとは思えない。
僕もそんな事を考えながら仕事してたな……
「そういう七咲はやっぱり友達多いのか?」
「えーと、多いってわけではないですが流石に一桁とかではありませんね」
「ぼっちかと思ってた」
「先輩と違って私部活やっているので。人付き合いを捨てて水泳に熱中するのはおかしいですし」
「それはそうだけどね」
「あと私は先輩と違って普通の人なので」
「僕が普通じゃないみたいな言い方だけど?」
「違うんですか?」
「……七咲は良いキャラしてるね」
「ありがとうございます」
「褒めてないよ!」
七咲はクスクス笑う。何か敗北感がするけど気にしちゃ駄目だ。というか気にしたら何かを失う。
「……はぁ」
「ため息すると幸運が逃げますよ?」
「ため息しているのは七咲のせいだけどね」
「私は何もしていませんよ?」
これ僕泣いていいかな。てか泣きそう。誰かヘルプミー。
なんて、助けを求めていると神様はいたようで。向こうから見知った顔が……
「あれ、純一じゃん!」
前言撤回。神様なんていなかった。なんでよりにもよって薫がここで来るんだよ。僕が弄られまくる最悪の組み合わせだよ!
「薫か……なんでここに?」
「あれ? テンション低いわね。私がここに来たのは散歩してたからよ」
「あれ、今日はバイト無いの?」
「今日の担当は何時もより遅い時間なのよね、で、暇になったから話し相手を探してたのよ」
「成る程ね。そう言えば七咲を紹介していなかったか」
「1-Bの七咲 逢です」
「七咲さんね。私は棚町 薫、この子とは同じクラスよ」
「この子、とか年下扱いしないでよ」
「実際に年下じゃない」
七咲がいるこの状況で薫が来たら最早僕には手に負えない。というか誰でもそうだろう。
僕をいじる時も静かだけど内容でこちらの心を鋭く抉ってくる七咲、
からかう時は大体僕がターゲットな上に、気分屋でもあるから対処が難しい薫。
普通に話をするにはどちらも可愛くて嬉しいのに実際こんな感じだとちょっと付き合うのは難しいよね。
「まーた変なこと考えてるわねあんた」
「棚町先輩もそう思いましたか」
「あら、七咲さんもなの? 気が合うじゃない」
勘が鋭いのも同じな模様。何故だ。
「そんな変な事は考えてないよ、薫じゃあるまいし」
「なんでそこで私を引き合いに出すのよ」
「だって何時も下らないイタズラ考えてるんだろ?」
「下らないとか言っちゃう時点で純一のセンスは残念なことが丸分かりね」
「イタズラを理解できるのは同じ様にイタズラをする奴しかいないよ。梅原みたいな」
「そんなの分からないわよ。この地球には何十億人と人がいるんだから、分かる人がいたっておかしくない」
「分かったよもう……この話は止めにしよう」
「純一の負けだからジュース奢ってね」
「なんで負けたことになったのさ。」
「橘先輩はまた誕生日じゃないんですか?」
「僕はまだ。もうすぐ誕生日ではあるけど、よくクリスマスプレゼントと一緒にされちゃうからそこは残念だな」
クリスマスと誕生日が近い人の宿命。ケーキもプレゼントもお祝いもすべて一緒にされてしまう悲しさと言ったらもうね。まあ慣れたけど。
その分ちょっとケーキが高いものだったりするから実際のところ不満もそれほどある訳じゃない。家族に感謝しながら……
いや、みゃーにケーキの3分の1持ってかれそうになった時は流石に焦った。何故お前が我が物顔でケーキを確保して切り分けるのか、とあの時大喧嘩になった記憶が。
「その分プレゼントとか高いものだったりするんじゃないの?」
「まあね。この前の誕生日で『決められないからこれで勘弁してくれ』って言われて2万円渡された時は微妙な顔してたと思うけど」
「現金渡されたんですか……」
「夢も希望もないクリスマスだったよ」
「まあ純一らしいわね」
「どこに僕らしい要素があったのさ」
「なんか残念な結末の話って大体純一出てこない?」
「それは気づかないでほしかった事実かな」
考えてみるとそうなんだよね……梅原と話してる時も何気ない会話の中で僕が話すネタは大体残念な結末を迎える話だし。
それを聞いて梅原は決まって、俺の肩を掴んで『お前も苦労してるんだな……』とか言ってくる。いや当たり前でしょうそんなの。
「あっ、先輩。私はそろそろ」
「うん? ああ、もうすぐ閉門か」
結構話が長く続いていたようで、僕が予定していた下校時刻を過ぎていた。彼女が聞き上手だったからかは分からないが、あっという間だったようだ。
途中から薫が入ってきたのも原因だろうけど。
「じゃあ私もおさらばしましょうかね。バイバーイ」
「薫じゃあなー、じゃ僕も帰るから。七咲、またね」
「はい。では、失礼します」
七咲とも別れを告げた後教室に置いていたカバンを取って下校した。
あ、宿題が今日多いんだっけか。急いで帰らなきゃ。
ちょっと感じが違うかもしれないですが、それはきっと途中まではもう1ヶ月位前に仕上げていたものに2日前位の自分の書き方を足したからだと思います。(感じてなければ良いのですが) 兎に角、この自己満足作品をたまにでも読んでくれれば嬉しいです。