隣で支えるとまり木〜夢のような日々〜 ※凍結 作:マウス254
ーは時間+場所の変化
□は時間のみの変化
を表しております。因みにあまりにも文が少ない所での変化はこのルールから外れると思います。
それでは、どうぞ~
プロローグ
僕の名前は
そんな普通の僕はクリスマスに嫌な思い出がある。中学生の頃、僕は思い切ってある子に告白した。
その娘は、多くの友達にアイデアを出してもらった僕が一生懸命考えたサプライズやプレゼントを喜んでくれていた。
そしてその告白の返事をすると言われ、公園で彼女を待った。僕は寒いクリスマスの夜に、その返事がどんなものか想像しながら。
しかし、彼女が来ることはなかった。
僕が残れるぎりぎりまで待っても、彼女は来てくれなかった。ふられるにしても、会いに来て断ってくるのだろうなと思っていたのだが、それよりもっと酷い、
『無かったことにされ、見向きもされない。相手にされない』
という結末だったことに、僕はすごいショックを受けた。あの時の事は今でも覚えているよ。
そしてその時からあの寒い冬の夜は、クリスマスは、僕にとって一番嫌いな日になった。
友達と過ごした去年のクリスマスは結構楽しかったのだが、それでも僕はクリスマスと言うものに良いイメージと言うものを全く抱いてなかった。
その去年のクリスマスだって、その時の事が頭をよぎると、楽しめるものが楽しめなかった。友達も心配してくれたが、こればっかりはどうしようもなかった。
そんな僕の転機は11月の下旬。最も信頼してる親友の一言だった。
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「おーい橘ー!」
あれは……梅原じゃないか。
「どうしたんだ梅原」
「いや、普通にお前を見かけたから、一緒に登校しようと思ってな」
「成程」
この話しかけてきた奴は
「もうめっきり寒いよな」
「冬だしね。朝起きるのが辛いよ……」
「それ分かるぜ。布団から離れるのが辛いんだよな」
「春が待ち遠しいね……あ、そういえば例の写真集。どうだった?」
すると梅原はキリッとした表情をする。ただの感想を語るだけなのにここまでなるのは結構稀だな。
「……かなり、いいぜ」
「おお、どんな感じのやつだった?」
「結構過激だったな。お宝コレクションの中でも貴重なものになりそうだ」
梅原をして過激と言わせるとはな。かなりのレベルの様だし、面白そうで安心したよ。
「聞くだけでもかなり期待できそう……」
「ちゃんと貸してやるから落ち着けって」
「僕は落ち着いてるって……うん?」
「どうした?」
「あの人、森島先輩じゃない?」
僕は友人らしき人と2人で歩いている先輩を指差す。2人共楽しそうな顔で話しており……まあ先輩がもう一方の人を振り回している様だが。
何故分かるかって言うと……そのもう一方の人から苦労人の気配を感じるんだ。気のせいじゃないと思う。うん。
「本当だ、ラッキーだな! ああいう絵になる人を朝から見れるとは今日一日何かいいことありそうだ」
「確かにね」
相変わらず綺麗だな、森島先輩。僕は年上の人が好きだけどそれを差し引いても彼女にしたいという人は沢山いるだろう。告白して撃沈した人は何十人といる。
「そういえばこの間、森島先輩にB組のカズがふられた、って話を聞いたな」
「告白したんだ……」
結構みんなってチャレンジャーだよね。この前も別のクラスの奴が先輩にふられたそうだけど……
「まあ、この時期だしな……そうだ橘、お前に相談したいことがあってな」
いきなり梅原が真面目な顔になった。珍しい。こちらも真面目に聞いてみるか。
「ん? 何かあった?」
「この時期、世間的にはもうすぐクリスマスじゃねえか」
「……確かにそうだね」
「野郎だけで過ごすには、勿体無いイベントだろ?」
「そこまで言われれば次に言うことも想像できる。挑戦してみよう、ってことだよね?」
「察しが良くて助かるぜ。俺の言いたいことはそういう事。『今年のクリスマスは二人共彼女を作って幸せに過ごす』という目標を作ろう、っていう提案したいんだよ」
へえ……まさか梅原からこんな事を提案されるとは思わなかった。正直、朝の会話だけ聞いたら僕達二人が付き合うのって結構難しくなるよね。聞かれてないからいいんだけどさ。
「でもどうして急にそんなことを? お前らしくない……っていうのは少し言い過ぎかもしれないが、去年の様に僕達男で集まるのも結構面白いんじゃない?」
「それもそうだが、俺たちもう二年だろ? 来年から受験や就職で忙しくなりそうだから、ちょっとそういう暇はこの次終えたら無い」
「確かに。考えてみればこの冬がリミットか」
「やらずに後悔するよりも、やって後悔した方が良い」
無駄にキリッとした顔にならないでよ。いや、確かにかっこよく聞こえるけどさ。その言葉通りに行くと僕達失敗するという事にこいつは気づいてるのかな?
「……座右の銘?」
「ご名答」
「この前は、『宵越しの金は持たない』だったよね?」
「色々あってて面白いだろ?」
「まあいいけど。というか、その目標を考えたのはなんで? まさか……好きな人が出来た?」
「それについてはここじゃ言えねえよ」
「通学路で好きな人暴露するのも良い思い出になりそうじゃない?」
「黒歴史になるだろうが……と、このままじゃ遅刻しちまう。少し急ごうぜ」
「了解」
梅原も色々と考えてるんだな、と思いながら、自分のことについて考えてみる。あの日からもうすぐ2年が経つ。でも僕は、その日からずっと止まっている。怖いから。また同じような辛い目にあうのが嫌だから。
「……でも」
こうやって発破をかけてくれるのなら、タイムリミットが迫っているのなら、もう一度頑張ってみてもいいんじゃないか?
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「やっと学校に着いたな。早く教室行って話の続きしようぜ」
「梅原」
「どうした?」
「僕も……頑張りたい」
「……何をだ?」
「……お前の提案に乗りたいんだ。何時までもクヨクヨしてたら何も始まらないと思うし、今年の冬は頑張ってみたい」
僕は悩んだ結果、もう一度だけ頑張ってみることにした。前から僕もクリスマスの過ごし方に悩みがあり、しかしそれを口にしなかった。
理由はもちろんトラウマの件のせい。友達にクリスマスの相談をして頑張ってもまた失敗するんじゃないか、と考えていたから。
怖いものは怖いよね。僕は近づく必要が無いリスクなら全力で避けることを目指すような性格なので尚更話を切り出せなかった。
だから、今朝の話は僕にとってはありがたかった。道連れにするとかその様なつもりは全く無い、同じ目標に向かって進む仲間がいるから凄い安心するということ。
「おっ、やる気になってくれたか!」
「お前に焚き付けられたからね……まあ、僕は梅原よりはモテる自信があるし」
「おっ? 言うな。俺のほうが早く彼女作ってやるからな!」
「そんなこと言って、僕を妬むような事になるなよ?」
「お前がそうならないか、俺は心配だ」
「そうならないよう努力しておくよ」
「はははは! まあ、お前が前向きになってくれたようで、俺は嬉しいぜ」
「そこまで心配される……?」
「この頃になるとお前は更に暗くなるからな」
「元から暗いみたいな言い方はやめてよ」
「すまんすまん」
梅原なりに僕の事を心配してくれていたようだ。一言多いけど。クリスマスが近づくにつれ、僕は喋れなくなっていくわけじゃないんだよ?
「でも、ありがとう」
「おうよ! まずは対策会議だな!」
「対策会議?」
「女の子と良い感じになるテクニックとか調べたんだぜ? お前にも教えてやるよ!」
「その出処はどこ?」
「兄貴の部屋にあった雑誌」
「それは大丈夫なのか……」
「ま、大丈夫だきっと。とりあえず……」
キーンコーンカーンコーン
「やべ、遅刻しちまう。橘、急ぐぞ!」
「そうだね!」
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教室内では、多くの人がそれぞれの席につきながら周りの人と喋っていた。僕達もそれぞれの席について、高橋先生を待つ。
「おはようございます」
「待ってました麻耶ちゃん!」
「梅原君、私のことは『高橋先生』と呼ぶように。分かりましたか?」
「う、うぃ〜っす」
「返事は『はい』でしてください」
「……はい」
「これは橘君もだけど、遅刻ギリギリで入ってくるのは止めなさい」
「す、すみません……」
「全く……さて、今日はクリスマスパーティーの実行委員を選出します。」
「高橋せんせー。実行委員ってなんすか?」
「何故2年生の貴方が実行委員の事を知らないのかしら?」
「過去は振り返らないんすよ(キリッ)」
「その顔はやめなさい。……はあ。梅原君みたいな人のために一応説明しておくわね。毎年、この学校で12月24日にクリスマスパーティーが開催されるのは知ってるわね。」
「そしてこれは、学校近隣住民及び父兄との交流を目的としています。クリスマスイヴに行なわれるのは、学校の創設者の誕生日が12月24日だから」
それは知らなかったな……
「そんな理由から、この行事は通称『創設祭』と呼ばれています。分かりましたか梅原君」
「大変勉強になりました……」
「返事は『はい』でしてくださいとさっき忠告したばかりだと思うのだけれど……説明を付け加えると、皆さんも知ってる通り一般市民のバザーや、生徒たちによる模擬店なんかも出店されます」
「校内の飾り付けや、プレゼント大会。と、軽くあげてもこのくらいあるわ。それに、今年は去年よりもっと規模が大きくなるだろうから、仕事は今までより確実に増えてるわね……」
かなり力を入れてるようだったから簡単では無いだろうなとは思ってたけど……ここまでとは。
「ですので、創設祭は毎年、クラスから実行委員を選出し管理運営を行う事になっています。さっきも言った通り、今年は昨年までの実績によって市からの協力を得た一大イベントになっているの」
「大変そうっすね……」
「楽ではないわね。やりがいはあるわよ?」
ま、そうなると……
「はい。ここら辺で説明を終わりにして……誰か実行委員に立候補してくれる人、いる?」
予想通り手をあげる人はいないか。まあ、誰が仕事に忙殺されるだろう日々に飛び込んでいくのかという話だ……
「あ……もし、誰もやる人がいないのでしたら、私がやりましょうか?」
あれ?……ああ、絢辻さんか。
「私に務まるか、正直自信はありませんが……」
「さすが、クラス委員ちょ!」
「梅原君、その余裕があるならクラス委員をやってる絢辻さんに代わって、一度やってみる?」
「俺には無理っす。計画が頓挫する未来しか見えないです先生」
「なら黙ってて。……絢辻さんは大丈夫? クラス委員と掛け持ちになるでしょうから、仕事がより増えることになるけど……」
「大丈夫です。クラス委員の仕事は大分慣れましたし、この時期はやることは減りますから。」
「……流石ね絢辻さん。色々と任せてる事は申し訳ないけど、助かるわ」
「い、いえ……そんな事無いです」
「はい。それでは実行委員は絢辻さんにお願いすることにします。絢辻さん、よろしくね」
「はい。えっと、皆さん。至らぬところも多いと思いますが、一生懸命頑張ります。宜しくお願いします」
「はい、拍手〜!」
流石だな絢辻さん。あんなに面倒くさそうな仕事を、クラス委員と両立させようとしている時点で立派だし、それでミスが増える、と言う事がないからな。いや、元々ミスがあるかと言われれば1個見つかるかどうかだけど。
「さて、これでホームルームを終わります。次の授業の準備をしてから休憩してね」
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「おーい橘」
「ん? どうした梅原」
「ああ、さっきしてたテクニックの話だが」
「早速教えてくれるのか?」
「勿論。だがその前に……」
「うん? ……ああ成程。対価を払えってこと?」
そういう所はきっちりしてるよね。普段宿題とか僕よりも忘れて直前に済ませるような人なのに。
「そういう事。いくらお前でも無償は無しだぜ。お宝本2冊、よろしく頼むぜ。」
「……1冊じゃ駄目?」
「それならその分しか教えられないぜ?」
「うっ……その2冊は僕が選んできていい?」
「いやいや、そんな訳ねえよ。お前なら俺が欲しいお宝本、分かるだろ?」
「……モモクリサンネン写真集と、くりぃむそーだデラックスだな」
「大正解だ。その2冊、頼むぜ?」
「お気に入りなんだけどな……」
「お前は十分見ただろ……それに、俺もその2冊を独占してお前にこれから一切見せないってわけじゃないんだから安心しろよ」
「それなら全然大丈夫」
「よし、交渉成立だな……んじゃ、お宝本を持って校舎裏に来てくれ」
「教室じゃ駄目なの?」
「人前でする話じゃねえだろ? それに、こういうのは雰囲気が大事なんだよ。雰囲気」
「まあいいけど。それじゃ、後者裏でね」
「おうっ!よろしく頼むぜ!」
う~ん…、梅原と話が合うのは良いんだが、お宝の趣味が僕と一致してるとこういう問題が起こるんだよな。まあ、仕方ないか。それじゃ取りに行ってこよう。
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僕は屋上に着いてから、辺りを見回して誰もいないことを確認する。僕がこれから向かう所は誰にも知られる訳にはいかないから。入学して間もない頃からこの場所を発見できたのは幸いだったなあ。
南京錠を外し、中に入り、鍵をかける。こうすれば誰も入ってこれない。……相変わらずホコリの匂いがすごい。
窓にはカーテンがかかってるから薄暗いし……でも、何故かここにいると落ち着くんだよね。押し入れといい、この場所といい、僕はちょっと薄暗い場所が好きなのかも……
古い鍵が壊れて放置されてて、この部屋を自由に使える事ができるのはついていた。廊下側の扉から人が入ってくる可能性はあるが、ほぼないと言っていいだろう。
万が一誰かが入ってきてもお宝本はバレないようにちゃんと隠してある。見つかった時の言い訳も用意してあるから問題はない。
っと、のんびりしてる場合じゃないな、早くお宝本を回収しないと梅原との取引に遅れが生じる。それはお互いにとって良くない。
……それにしても学校にお宝本を隠している人は他に何人いるだろうか?普通いないか。僕だって、この部屋が無かったら隠していないだろうし。
よくよく考えてみると、僕がやってる事って結構不良に近いんだよね。
校内にお宝本を隠し、その隠した部屋の入り口に鍵をかけてる。
バレたら確実に怒られるだろうな。絢辻さんにバレたらそれこそ終わりだ。なんて言われるか想像もつかないが、軽蔑されてしまうだろう。
クリスマス委員に立候補するくらい真面目だからな。
……クリスマス。それは僕にとって、あまり良い日ではない。
でも今年の冬は、なんか違う気がする。そんな予感がしてる。
いや、違うものにすると決めただろう、橘 純一。
覚悟したなら、前へ進む。あの時を繰り返すような未来は嫌だが、中途半端なままはもっと嫌なんだ。
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さて……約束通り校舎裏に来てみたけど、あいつはどこかな。
「おっ、来たな橘」
「色々教えてもらわないと、どうにもならなそうだしね。はい、約束してたお宝本」
「悪いな橘……おほっ! 相変わらず魅力的な表紙だなぁ」
「すぐに見たくなる気持ちは分かるけどさ……」
「すまんすまん…、よし、じゃあ取り敢えず、お前にこのメモを渡しとく」
渡されたメモには話す時のポイントとか、女子が好きそうな話題について幾らかピックアップされていた。
また、自分の魅力を上げるためにはどうしたら良いか等の方法も書かれていた。しかし。
「……このメモだけならここに来る必要は無かったんじゃ……」
「雰囲気重視って言ったろ。それに、そっちのほうが後で何回も見返せる分、お前にとって助かるだろ?」
「まあ……」
僕の記憶力は人並みなので、1回言われただけだと忘れてしまうだろうな。
「……なあ、橘」
「ん? 何?」
「これから、頑張ろうな……」
「誘ったのはそっちでしょ? 先にギブアップしないでよ?」
「勿論だ! これから2人でさ、頑張っていこうぜ!」
「クリスマスを幸せに過ごすために、ね」
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これが僕の冬の始まり。この時にはまだどんな未来が待っているか想像もつかなったけど、今なら分かる。
この一歩は決して無駄にはならなかった。そして先で掴んだものが、その一つ一つが宝石の様に輝いてるのは、間違い無くこの瞬間に決めた目標のお陰だって。
これから僕が話すのはその後の軌跡。僕が歩いてきたその道程……つまらない話にならないよう努力するから、聞いてほしいな。
初めの所は原作からほぼ変わってません。ただ、あらすじにも書いた通り、この主人公は私の理想の橘君であるため、結構話の先を察する力がありますし、紳士発言が減ります(鈍感なのはデフォ)。その関係でこれから起こるイベントや、その結果もかなり変わってきます。ですので、その違いを知ってる人も知らない人も楽しんでくれると幸いです。
何か誤字などが見つかったり、変な所が見つかったら感想欄とかで報告してくれるとありがたいです!