ボクの旅路に幸あれ!……無理か。   作:隔離場

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ウィズ

 そこで簀巻きになって転がってるアクアが浄化しかけたリッチーさんのところに歩いていき、話しかけた。……カズマ君が。

 

「おい大丈夫か?えっと、リッチー……でいいのか?あんた」

 

「だ、だ、だ、大丈夫です……。あ、危ないところを助けていただき、ありがとうございました……っ!えっと、おっしゃる通り、リッチーです。リッチーのウィズと申します」

 

 半透明だった体がくっきり見えるようになってから話し始めたリッチー……ウィズさん。

 話しながらフードを取ると、そこには二十歳くらいにしか見えない茶髪の美人さんが。……いろいろと羨ましい……なにとは言わないけど。

 

 てか、RPGの鉄板アバターみたいに骸骨ローブじゃないんだね。……あー、でも骸骨よりも話しやすくて助かるね。

 

「えっと……。ウィズ?あんた、こんな墓場で何してるんだ?魂を天に還すとか言ってたけど、アクアじゃないが、リッチーのあんたがやる事じゃないんじゃないのか?」

「ちょっとカズマ!こんな腐ったミカンみたいなのと喋ったら、あんたにまでアンデットが移るわよ!ちょっとそいつに【ターンアンデット】をかけさせなさい!ほら、この鎖を解いて……ングゥ!」

 

「高圧的なことしか言えないのかな?この人は」

 

 アクアが簀巻きのままウィズさんを威嚇してたから、鎖を口に巻く。口を動かそうとしたらきつく締まるようにしたから、流石に静かになるでしょ。

 

 アクアの言葉に怯えたのか、ウィズさんはカズマ君の背後に隠れちゃった。……多分ボクにも怯えてると思うけど、向こうではよくあることだったからね。もう慣れた。

 

「え、えっと…。私は見ての通りリッチー、ノーライフキングなんてやってます。アンデットの王なんて呼ばれてるくらいですから、私には迷える魂たちの話が聞けるんです。この共同墓地の魂はお金がないためにロクに葬式すらしてもらえず、天に還ることなく毎晩墓場を彷徨っています。それで、一応はアンデットの王な私としては、定期的にここを訪れ、天に還りたがってる子たちを送ってあげているんです」

 

 おお、いい人だ。人間じゃないけど。

 ボクこういう、善意で行動する人は大好きだよ。人じゃないけど。

 

「それは立派な事だし善い行いだとは思うんだが……。……そんなことは街のアークプリーストとかに任せておけばいいんじゃないか?」

 

 あ、それは確かに。

 駆け出し冒険者の街なんて言われてるけど腕のいい冒険者はいるだろうし、【プリースト】系の職に就いてる人がやってあげればいいよね。

 

「そ、その……。この街のプリーストさん達は、拝金主義……いえその、お金がない人たちは後回し……といいますか、その……」

 

 地面に転がってびったんびったん跳ねてるアクアを気にしているようで、チラチラとアクアを警戒しているようにも見える。

 拝金主義ってことは……

 

「つまり、この街のプリーストは金儲け優先の奴がほとんどで、こんな金のない連中が埋葬されてる共同墓地はんて、供養どころか寄り付きもしないってこと?」

 

「え……、えと、そ、そうです」

 

「それなら、まぁしょうがないか。でも、ゾンビを呼び起すのはどうにかならないか?俺たちはここにゾンビメーカーが出たから、討伐してくれって依頼を受けてここにいるんだが」

 

「あ…そうでしたか……。その、呼び起してる訳じゃなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです。……その、私としてはこの墓場に埋葬される人たちが、迷わず天に還ってくれれば、ここに来る理由もなくなるんですが……。……あの、どうしましょうか?」

 

 

◇◆◇

 

 

 墓場からの帰り道。

 

「納得いかないわ!」

 

 アクアは帰るときに鎖を解いたけど、怒って【ゴットブロー】とかいうスキル(?)を使って殴りかかってきたから勢いそのままに遠くまで巴投げの要領で投げ飛ばしたら大人しくなった。

 

 と、思ったけどウィズさんを見逃すという話になったときに猛反対してた。けどカズマ君の「しねーよ。こんないい人討伐できるわけないだろ?」の言葉に沿った賛成意見に押し通された。

 

「しかし、リッチーが街で普通に生活してるなんて、この街の警備はどうなってるんでしょう?」

 

 いままでずっと空気みたいな存在だった樹ちゃんがカズマ君の持ってる紙切れを見ながら呟いた。

 

 内容はウィズさんが営んでいるマジックアイテムのお店への行き方が書かれた地図。『ウィズ魔法具店』……って、街の南側で見たことがあるね。確か、店の周りに男性冒険者がやけに集まってたお店だったかな?

 

「ま、ザルだね。もしかしたら他にもアンデッドとかモンスターが潜んでるかもよ?……もしそうだったらここの警備ランクはザルからワクに格下げだよ」

 

「でも、何はともあれ穏便に済んでよかったです。いくらチズルやアクアがいるといっても、相手はリッチー。もし戦闘になってたら私やカズマ、それにイツキも死んでたと思いますよ?」

 

「げ、リッチーってそんなに危険なモンスターなのか?ひょっとしてヤバかった?」

 

「ヤバいなんてもんじゃないです。リッチーは強力な魔法防御、そして魔法のかかった武器以外の攻撃の無力化。相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収する伝説級のアンデッドモンスター。むしろ、なぜあんな大物にアクアの【ターンアンデッド】が効いたのか不思議でならないです」

 

「ただ、そんなヤバいモンスターの姿を見るなり攻撃を仕掛けて、なおかつ挑発しているアクアの精神を疑いたくなるよね。……あと、めぐみんちゃん?樹ちゃんが本気で暴れようとしたら魔王と協力して封印しないといけないようになるから、ある意味このパーティーで一番怖いのは樹ちゃんだよ?」

 

「「えっ」」

 

 SCP……ボクが抑え込めるとしても数体を数分が限界だと思うしね。KeterクラスのSCPの捕獲を[ちいさな魔女]とかにお願いしないといけないと思うし。……そう考えるとボクの力なんて塵同然だね。

 

「……ところで、ゾンビメーカー討伐のクエストはどうなるのだ?」

 

「「「「あっ」」」」

 

 やばい…忘れてた。

 

 

 クエスト失敗……。初めて失敗した……。




塵(能力はモンスター並み)

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