ボクの旅路に幸あれ!……無理か。   作:隔離場

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のんびり進んでいきましょう。


疑問

「ねぇカズマ君。もしかして、さっきの【窃盗】て、狙ってやった?」

 

「いやいや!やってない!取れるものはランダムなんだし。むしろ、パンツを剝ごうって考えたこともないし!」

 

「……そっか。ごめんね、変なこと聞いて」

 

 うーん。本気で狙ってたと思ったんだけどなぁ……。

 

 さっきのクリスちゃんの【窃盗】はボクとカズマ君の財布を狙ったものだったけど、両方ともお目当ての品をクリスちゃんは手に入れてる。

 だから『[幸運値]が高い人は狙ったものを手に入れることが出来る』っていうのを仮定して、カズマ君が望んだからクリスちゃんの下着を盗ったんじゃないかなって思ったんだけど……。

 

 まぁ、ボクはクリスちゃんとカズマ君の[幸運値]は知らないんだけどね。

 

◇◆◇

 

 僕たちがギルドに戻ってくると、そこではちょっとした騒ぎになっていた。

 

「アクア様、もう一度!金なら払うので、どうかもう一度【花鳥風月】を!」

「ばっか野郎、アクアさんには金より食い物だ!ですよね!?アクアさん!奢りますから、ぜひもう一度【花鳥風月】を!」

 

 アクアのところに人だかりができてる。えっと、【花鳥風月】ってクリスちゃんが来る前にやってた宴会芸のスキルだよね?あんなに人気なの?確かに地球で「手品です」って言ってやれば一気に売れっ子になれるような気がするけど……。

 

「あのね、芸って物はね?請われたからって何度もやる物ではないの!良いジョークは一度きりに限るって、偉い人が言ってたわ。ウケたからって同じ芸を何度もやるのは三流の芸人よ!そして、私は芸人じゃないから、芸でお金を受け取るわけにはいかないの!これは芸を嗜む者の最低限の覚悟よ。それに【花鳥風月】は元々あなた達に披露するつもりだった芸でもなく――――あっ!ちょっと二人とも、やっと帰ってきたわね、あんたたちのおかげでえらい目に……。って、その人どうしたの?」

 

 自分を囲んでいた他の冒険者に芸人とは何たるかを語っていたみたいだけど、全部どっかで聞いたことがあることだったね。それが真理なのかもしれないけど。

 

 アクアが興味を持ったのは、スカートを押さえながら涙目になってるクリスちゃんなんだけど……。

 

「うむ。クリスは、カズマとチズルにスキルを教えたところ、チズルに側頭部を叩かれた上にカズマにパンツを剥がれたから落ち込んでいるだけだ」

 

「おいアンタ何口走ってんだ!?」

 

 うーん。ボクは【窃盗】スキルの弱点を説明しただけなんだけど……そうか、傍から見たらそう見えるんだね。

 

「公の場で思いきなり叩かれて、パンツ脱がされたからって、いつまでもめそめそしててもしょうがないよね!よし、ダクネス。あたし、悪いけど気分転換に稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるよ!」

 

 顔を上げたクリスちゃんはギルド全体に聞こえるか聞こえないかくらいのくらい声量で言うと、冒険者募集の掲示板の方に歩いて行っちゃった。

 

 あれは逆襲のつもりなのかな?だとしたら凄い可愛らしいね。

 ちなみに、ボクが一番凄いって思った反撃は、大内さんが汐見さんと柳さんにちょっかい出してた時、二人がほぼ同時に思いっきり回し蹴り入れてたことかな。その後大内さんは一時間ぐらい気絶してたかな?

 

「えっと、ダクネスさんは行かないの?」

 

「……うむ。私は前衛職だからな。前衛職なんて、どこにでも有り余っている。でも、【盗賊】はダンジョン探索に必須な割に成り手があまり多くない職業だ。クリスの需要ならいくらでもある」

 

 カズマ君はいつの間にかテーブルに座ってたダクネスさんに質問するけど……。

 つまり、ダンジョン探索においては【盗賊】のクリスちゃんは皆から必要とされてるけど、【クルセイダー】のダクネスさんはあまり必要とされてない……というか前衛職は有り余ってるから入る枠が無いってことかな?

 

 あ、クリスちゃんもうメンバー見つかったんだ。いってらっしゃーい。

 

「もうすぐ夕方なのに、クリス達はこれからダンジョン探索に向かうのか?」

 

「ダンジョンの前とかで夜を過ごすじゃないかな?ボクも見たようなこと一週間くらい前にしたし」

 

 まぁ、ボクは馬車移動中の馬車で寝たけどね。あれはもうごめんだよ。

 

「そうですね。チズルの言う通り、ダンジョンの前でキャンプするのです。ダンジョン探索は朝一に行うのが理想的ですからね。……それで?カズマは、無事にスキルを覚えられたのですか?」

 

 あっ。いや、どうなんだろう?カズマ君は女の子の下着を剥ぎ取ることを望んでるようには見えないけど、カズマ君の【窃盗】はもう既に信用できなくなってきてるんだけど……。

 

「ふふ、まぁ見てろよ?いくぜ、【窃盗(スティール)】ッ!」

 

 スキルを使ったカズマ君の手に握られているのは、黒い布。

 

 ……また取ったの?

 

「……何ですか?レベルが上がってステ-タスが上がったから、【冒険者】から【変態】にジョブチェンジしたんですか?……あの、スースーするので、パンツ返してください……」

 

「あ、あれっ!?お、おかしーな、こんなはずじゃ……。ランダムで何かを奪い取るってスキルのはずなのにっ!」

 

「あのねカズマ君、ボクはもう君を庇える気がしないよ……」

 

「わざとじゃない!狙ってないから!」

 

 あぁ、頭痛くなってきた……。

 

 すると、ボクの隣のダクネスさんがいきなり机を叩いた。おぉ!いいぞ聖騎士!叱ってやってください!

 

「やはり。やはり私の眼に狂いはなかった!こんな幼げな少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るなんて、真の鬼畜だ許せない!ぜひとも……!ぜひともわたしを、このパーティーに入れてほしい!」

「「いらない」」

「んんっ……!?く……っ!」

 

 おっと、つい反射的に……。というか、ダクネスさん悦んでる?

 職業【変態】?

 

「ねえカズマ、この人だれ?面接に来たの?」

「あれ?ちょと、この方【クルセイダー】ではないですか。断る理由なんて無いのではないですか?」

 

 さっきクリスちゃんが『ダクネスは【クルセイダー】』と言っていたので、うまく編成すれば……前衛二人に後衛二人、最後に遊撃一人でいい組み合わせにはなると思うけど……な~んかいやなよ予感……。

 

 ん?カズマ君がこっち見てる……。カズマ君、目で会話できるの?

 

(こっちとしては、この人は駄目なタイプだと思う。そこの二人が同調してるのがいい証拠なんだけど……どうする?この人はパーティーに入れる?)

(……一芝居やって諦めさせるとか)

(よし、それちょっと試してみる。行けそうだったら合わせてくれ)

 

 やればできるもんだね。カズマ君凄いなー。

 

「……実はなダクネス。俺とアクア、それにチズルはこう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」

 

 うまくいくといいけど……。




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