「君!魔法を習得したいみたいだね!」
カズマ君とアクアの漫才を見ていたら、後から声を掛けられた。多分カズマ君の方に用があるんだろうけど。
振り返って声の主を確認すると、そこにはまさに盗賊って感じの軽装備をした、右頬に傷がある短い銀髪の女の子が立ってた。後ろの方に金髪で長身の女性がいるけど、パーティーのメンバーかな?
「話が聞こえてきたんだけど有用なスキルが欲しいんだろ?盗賊スキルなんてどうかな?」
どうやら、スキルを習得したがってるカズマ君におススメを紹介しに来たみたい。それにしても、【盗賊】のスキルかぁ……ボクも教えてもらおうかな?
「えっと・・・盗賊スキルってどんなのがあるんですか?」
「盗賊スキルは【罠解除】に【敵感知】、【潜伏】に【窃盗】。持ってるだけでお得なスキルが盛り沢山!キミ、初期職業の【冒険者】なんだろ?【盗賊】のスキルは習得にかかるポイントも少ないしお得だよ?どうだい?今なら、クリムゾンビア一杯でいいよ?」
「安いな!……よし、お願いします!すみませ~ん、こっちの人に冷えたクリムゾンビア1つ!」
あぁ……。話がどんどん進んでいく……。
ま、いいや。ついて行こ。
◇
人気の無い路地に入った。
女の子とカズマ君が数メートルくらいの間隔を空けて立ち、少し離れた所で女の子と一緒にいた女性とボクが様子を見ていた。
「…まずは自己紹介しとこうか。あたしはクリス。見ての通りの【盗賊】だよ。で、こっちの不愛想なのがダクネス。キミは昨日ちょっと話したんだっけ?この子の職業は【クルセイダー】だから、キミに有用そうなスキルはちょっと無いと思うよ」
「ウス!俺はカズマって言います。クリスさん、よろしくお願いします!」
「ボクは【探索者】のチズルだよ。ボクはただの見学だから、気にしないで進めてね」
ふむ……。金髪長身鎧の女性がダクネスさん、活発系銀髪少女がクリスちゃんだね。覚えた。
「へぇ!チズルって言ったら、冒険者登録から三日で一億以上稼いだって言われてる人じゃないかい?キミ、よくそんな人捕まえれたね」
「あー、まあ成り行きというか……?」
「ボクから頼んだんだよ。カズマ君と一緒に行動したらいろいろとおもしろそうだと思って。……ほらほら、クリスちゃん。ボクに意識向けずに、スキルの紹介しないと」
「おっとそうだった。…コホン。では、まずは【敵感知】と【潜伏】やってみようか。【罠解除】とかは、こんな街中に罠なんてないからまた今度ね。じゃぁ……、ダクネス、ちょっと向こう向いてて?」
「……ん?……分かった」
ダクネスさんは言われたとおりに反対を向く。……別にボクが罠作ってもいいんだよ?所長からそのくらいの技術は教えてもらってるから。
いや、でもここはクリスちゃんのペースでいこう。
クリスちゃんは少し離れた樽の中に入って、上半身だけを出す。……それから、普段からの恨みか何かからか、そこら辺の石をダクネスさんの頭に投げつけ、そのまま樽の中に身を隠した。
えっと……何してるのかな?まさか、これで【潜伏】してるの?
ダクネスさんが怒ってクリスちゃんの入った樽を転がしてるのを見て思ったけど、ボクのギルドカードの中にあった【隠れる】、クリスちゃんが今使った【潜伏】ってどう違うんだろ?
名前が違うだけで、効果が全く一緒とかじゃないよね……あ、ギルドカードに【潜伏】が追加されてる。……後で【隠れる】の方を取っとこうか。
「さ、さて。それじゃあたしの一押しスキル、【窃盗】をやってみようか。これは、対象の持ち物をなんでも一つ奪い取るスキルだよ。相手がしっかり握ってる武器だろうが、カバンの奥にしまい込んだ財布だろうが、なんでも一つ、ランダムで奪い取る。スキルの成功確率は、ステータスの幸運値に依存するよ。強敵と相対したときに相手の武器を奪ったり、大事に隠してるお宝だけかっさらって逃げたり、いろいろと使い勝手のいいスキルだよ」
さっきまで目を回してふらふらしてたクリスちゃんが復活。スキルの解説をするけど……。幸運値かぁ、ボクには難しそうだね。
「じゃあ、まずはキミに使ってみようか」
そう言いながら、クリスちゃんはボクの方を向くけど……。うん。一回体験して、対策立てれるようにしとこうか。
「取れるのはランダムだよね?だったら、【月の怪物】……これでクリスちゃんの幸運値がどのぐらいか見てみようか」
ボクは【月の怪物】を使って体のいたるところに槍を仕込む。ランダムだったら、これで良いのが取れる確率も下がるよね。
「おっと、もう対策されちゃってる。そう、【窃盗】の弱点は物を沢山持たれると、自分が奪いたい物を取れる確率がぐんと減ることなんだ」
あ、なんだ。これで正解だったの?
……でもねクリスちゃん。多分、【窃盗】の弱点は他にもあると思うよ?
「あたしが狙うのは……そうだね。財布にしようか、多分ポケットの中に入ってるでしょ。……【
クリスちゃんが【窃盗】スキルを使うのと同時に、一本槍を掴んで肉薄する。クリスちゃんは自分が盗ったものの確認に意識を向けてたから、この攻撃は避けれないはず。
クリスちゃんの頭を狙って振った槍は、吸い込まれるように側頭部に当たり、ピコンという音を立てた。
槍は怪我しないようにピコピコハンマーと同じ構造にしといたから、安全だよ。見た目は本物だけど、当たっても斬れない安心設計。まぁ、結構力入れて振ったから痛いだろうけど。
頭を抱えて涙目にクリスちゃんの手から財布を返してもらって、頭をさすってあげる。痛かったねー、よく耐えたねー。
「これも【窃盗】スキルの弱点だね。盗れるものがランダムってことは、『何が盗れたか確認するために手元に意識が向く』。何事にも弱点は付いてくるんだから、気を付けようね」
「はぁぃ……」
うん、いい返事。
「うぅ、まだ痛い……。つ、次はキミにやってみようか。……さっきみたいに盗った瞬間狩りに来ないようにお願い……」
「大丈夫。あんな動き俺にはできないから」
クリスちゃんは左手で頭を押さえつつ右手をカズマ君の方に突き出す。
ボクはそこらの壁に寄りかかって様子見だね。
「じゃあ、いくよ?【
さっきと同じく【窃盗】をしたけど、まだボクを警戒してるように見えるね。もうしないよ~?
それで、取り合えず【窃盗】は成功したね。また財布を盗ったみたい。お金が好きなのか、財布が握りやすいからか……。
「よし、当たりだね。それじゃ、財布を返……」
クリスちゃんは、カズマ君に財布を返そうとして伸ばした手を引っ込め、にんまりと笑った。あ、かわいい。
「ねぇ、あたしと勝負しない?キミ、早速【窃盗】スキルを覚えてみなよ。それで、あたしから何か一つ、スティールで奪っていいよ。この財布の中身だと、間違いなくあたしの財布の中身とか武器の方が価値があると思うよ。それで、どんなものを物を奪ったとしても、キミは自分の財布と引き換え。……どう?勝負してみない?」
おぉ、ライトノベルとかで見る冒険者同士の賭けみたい。カズマ君も手早くギルドカードを操作してスキルを覚えたみたい。
「早速覚えたぞ。そして、その勝負乗った!何盗られても泣くんじゃねーぞ?」
カズマ君は右手を突き出す。……【窃盗】が盗るのって、『対象が持っている物』だよね?
RPGだと、確か[装備]の欄に所持品が来たりするのもあるよね……。それで、初期の装備は……[普通の服]。え、流石に服盗られるのはまずいよね?
「【
「ちょっと待った!」
遅かったか……しょうがない、別の物を盗ってることを祈ろうか。
「当たりも当たり、大当たりだあああああああ!!!!」
「いやああああああ!ぱ、ぱんつ返してえええええええ!」
駄目だった。やっぱり、衣服も対象になるんだね。……多分あれなかなか返してもらえないんだろうなぁ。
よし、取り返してあげよう。
「【鎖術】!取ってきて!」
鎖ちゃんはしっかり取ってきた模様。
あと、チズルちゃんのスキルにも弱点は設定してます。
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追記:アンケート終了しました