ボクの旅路に幸あれ!……無理か。   作:隔離場

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※ 今回でてくる女神はアクアではありません。


えっ...ちょっ...おまっ女神さま!?
運悪く、死にました。


(さかき)千尋(ちずる)さん、ようこそ死後の世界へ。貴女はつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」

 

 意識が自分に戻ってくるのと同時に、金髪の美少女……美女?にそんなことを言われました。うん、知ってる。

 

「そうだね。走行中の電車に向けて放り出されたらそうなるよね」

 

 確かボクは電車に乗るためにホームに立ってたんだけど、いざ電車が来るって時に後ろから押されて線路上にダイブ。あとは……ミンチだね。多分。

 

「『放り出された』……?私には自分から飛び込んだように見えたわよ?死因も『自殺』で書類が届いてるし」

 

「え?」

 

 

 …………。

 

 

「まぁいいわ、後で確認しとくわね」

 

「あー、うん。よろしく」

 

 ……記憶違いかなぁ?押した人の顔も思い出せないし……身体つきは分かるのに、おかしいなぁ。

 

 

「というか、貴女ずいぶんと落ち着いてるわね?ここに来る人って大抵狼狽えるのに……」

 

「お構いなく。転移させられるのに慣れてるだけなので」

 

「……普通、転移させられるのに慣れるって人はそういないと思うのだけど」

 

 そうなの?同僚の白樺さんとか汐見さんとか、職場で似たような体験したことがある人多いから普通が分かんないや。

 

「あー、それはいいのよ。本題に入りましょう。私のことは……まぁ好きに呼んで頂戴。私は日本において、まだ若いのに死んでしまった人間を導く女神の補佐をやってる別の女神よ。貴女は……残ってる記憶には『押された』感覚があるのよね……じゃあ何者かの怨恨か、偶然狙われたのかは不明ですがつい先ほど亡くなりました。そこでこの後の選択肢が三つあります。この三つについてはこの後ね。ここまでで何か質問がある?あ、死因は今天使たちに調べてもらってるから、それ以外ね」

 

 金髪の美女―――仮称『女神』さんはそう言ってくるけど……そうだなぁ。

 

「『女神の補佐の女神』っていのはどういう事?日本での死者が多いから二人でやってるってこと?」

 

「あぁ、それね。んー、まぁ死者が多いってのも確かにあるんだけど、今メインでやってる女神――アクアが結構お調子者でね。よく死者の魂をからかって遊んでるのよ。で、そのお遊びが最近長くなってきて、順番を待つ魂が多くなったから補佐をつけて回転率を上げてるの」

 

「仕事が遅くなるのは困るねぇ……補佐はキミ一人が?」

 

「女神はね。今この瞬間も別の空間で私の分身が仕事してるけど」

 

「分身?NARUT〇の影分身みたいな感じ?」

 

「うーん、厳密には違うけどその認識で大体合ってると思うわ」

 

「ありがとう、今気になるのはこんなとこだよ」

 

「分かったわ。……質問が多かったのは探偵としてのクセかしら?」

 

 あ、女神さんも質問してくるんだね。

 

「うん。所長の補佐くらいしかできないヘボ探偵だけどね」

 

「あの所長についていけてる貴女は十分凄いわよ」

 

 そう言って手に持ってる紙を見てるけど……その紙何が書いてあるんだろう?個人情報?

 

「さて、続けるわね。三つの選択肢のうち、一つ目は人間として生まれ変わり、別の人生を歩むこと。俗に言う『転生』ね。二つ目は天国のようなところに行って生活することなんだけど……うん。貴女ならいけるわね。まぁ、ゆっくり過ごしたいならおススメよ。最後は、一つだけ”特典”を貰って、異世界に転移すること。これも説明が結構面倒だから少し後にするわ。とりあえず、質問があるかしら?」

 

「天国のようなところって?天国じゃないの?」

 

「あ、やっぱり気になる?」

 

「それなりには」

 

「分かったわ。じゃあ簡単に説明するわね。私たちの言う天国って、日の光以外特に何もないことのことなの。人の魂も確かに存在するけど、そもそも霊体に食事は必要ない訳だから食べ物は無し。材料も何も、そこらにあるのは雲だけだから何も作れない。あなたの好きなゲームもないし」

「ありがとう。もう天国に行かないって決意したよ」

 

「あら、そう?」

 

「ゲームが無いとかどんな地獄なんだい……」

 

「天国よ。……でもまぁ、確かに地獄の方が物はあるけどね」

 

「拷問器具とか?」

 

「そ。三つ目の選択肢の説明を始めるわね。といってもよくあるファンタジー小説みたいな展開よ」

 

「魔王が現れたから云々ってヤツかな?」

 

「魔王がいるにはいるんだけど、主な原因はその世界で死んだ人が別の世界への転生を望んじゃって、全体的に数が減っちゃったことなんだけどね。」

 

「なるほど。とりあえず、三番目の選択肢を選んだ時に手に入れることが出来る”特典”?ってどんなものがあるの?予備知識だけだとチート級の能力ってことしか分からないんだ」

 

 そういうと、女神さんが何もないところから分厚い書類のようなものを取り出して差し出してきた。

 

「ここにあるリストには基本的にさっき貴女が言ったチート能力の例が書かれているわ。異世界に行くつもりでも、そうじゃなくても見とくといいんじゃないかしら?こっちの調査もそろそろ完了しそうだし」

 

 渡されたリストには箇条書きでびっしりと何かの名前が書いてあるんだけど、《怪力》や《超魔力》は想像するのが簡単なんだけど、《聖剣アロンダイト》とか《魔剣ムラサメ》とかってどんなものか分かんないんだよね。

 

「ねぇ、選べる特典ってこっちで詳細とか提示したらその通りの物が貰えるの?」

 

「そうね。間違ってないわ。…でもちょっと決定は待って貰いたいの。そろそろ―――あ、来た」

 

 女神さんが言い切る前に、どこからか翼の生えた女の子が飛んできて真剣な顔で書類を手渡して報告をし始めた。女神さんも真剣な顔で聴いて、報告が終わると「ご苦労様」って言って労ってあげてる。……いいなぁ。こういう職場。ここで働きたい……。

 

「お待たせ。うちの子が死因の食い違いの調査をしてくれたわ。結果から言うと……貴女面倒なのに殺されたのね」

 

「『面倒なの』?」

 

「なんて言おうかしら……。『闇に棲むもの』『這い寄る混沌』『顔のない黒いスフィンクス』なんていう異名を持つ怪物よ。こいつらの情報は開示するのを制限されてるからここまでしか言えないけど、多分貴女で遊ぼうとしてたんでしょうね。それよりも前に私のとこの天使が魂を持ってきたみたい」

 

「やだなぁ……物騒なワードがある……」

 

「本来こいつらの存在には触れられないように私たちも気を付けてるんだけど……監視の目をかいくぐってまで遊ぼうって訳ね。ほんとに厄介なヤツら……。しかも貴女たちの探偵事務所の人たちにも目つけてるし」

 

「会っちゃったのは運が悪かったんだね。そういえば、なんで特典を決めるのを止めてたの?」

 

「あぁ、それね。万が一こいつらに関わった人物が死んじゃった場合、接触の具合にもよるけど特典を増やすように上から指示受けてるの」

 

「へー……。ちなみに、ボクの接触の具合はどんな感じ?」

 

「ちょっと待ってね……。貴女は……ランク3の処置をされるようになってるわね。具体的に言うと、転生を選んだ場合エスカレーター方式で有名になれるように、天国を選んだ場合は30年ほどかけて魂を浄化、特典を得る場合は3つまで選択可能よ。というかどれにするか聞いてなかったわね」

 

「ボクは……特典を選んで異世界に行こうかな」

 

 記憶が無くなるとはいえ、楽して有名になったりしたらうちの所長に悪いからね。あの人も一から頑張ったんだし、天国(ゲームが無いとか)は論外。

 

「そう。じゃぁ特典を三つまで選択して頂戴?」

 

「えっと、一つ目は《絶対に壊れない鎖》、二つ目は僕がやってたゲームから、《『Evolve Stage 2』のモンスターのアビリティを全て》。あ、パークは無しでいいや。三つ目は《前の二つを自在に扱える能力》かな。」

 

「《絶対に壊れない鎖》……HUNTER×HUNTERかしら?」

 

「いや、あんなに機能はいらないよ。縛ったり引っかけたり巻き付けたりしたいんだ」

 

「ふーん…。三つ目の特典の意図は何?」

 

「ボクは舌で人やモンスターを引っ張ってこようとは思わないよ。そんなに舌長くないし、舌で引っ張られていい思いする人なんていないでしょ?なにより攻撃方法がはしたないと思う」

 

「あ、それで鎖?」

 

「そうそう」

 

「というか、貴女しょっちゅう所長さんに嚙みついてるじゃない。いろんな意味で」

 

「それはいつまでも同じ場所の捜査をしてる所長さんが悪い」

 

「所長さんはゴハンじゃないのよ?」

 

「夢に出てくるおいしそうなお肉が悪い。ボクは悪くない」

 

 女神さんはその言葉を聞くと呆れたように肩をすくめながら、

 

「……そろそろ送り出す時間よ。久しぶりに楽しい人が来たと思ったのに、もうお別れよ。神様って残酷よね?」

 

「キミがそれを言うのかい」

 

「そうれもそうね。……では、貴女の旅路に幸あらんことを」

 

 女神さんが綺麗なお辞儀をし終わるのとほぼ同時に、ボクの視界は明るい光に覆われた……

 




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