ToLOVEる - FIRE GENERATION -   作:改造ハムスター

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第19話「炎の臨海学校 Ⅱ」

「フフフ……。

 

みんな、遅かったね」

 

 

にたつきながら、白衣を着た「アイツ」が挨拶した。

 

「臨海学校に同行してくれました、養護教員の皇先生でしゅ」

 

 

骨川先生の横で、不敵な笑みを浮かべる。奴は、あからさまに俺を睨んでいる。

 

 

ドクター・スメラギ。

 

 

さっきの事件は、あいつが絡んでいるのか。それとも何か知っているだけなのか。

 

「みんな無事だったことだし、海行こうぜ、海!!」

 

あんなことがあったというのに、妻村始めクラスメートたちはさっさと海へ行っちまった。

 

ちなみにバスの運転手は助かったらしい。飛んで来た車にも誰も乗ってなかったそうだ。

 

スメラギの陰気な視線からも逃げたかったし、俺もとっととみんなについて行くことにした。

 

 

ー10:30am 海岸ー

 

 

水着に着替えて海へ出ると、なにやら浜辺に女子生徒が群がっている。

 

(何だ、ありゃ)

 

……気になる。

 

「行くしかねぇ!」

 

俺は水着の女子の群れに単独、向かっていった。ある意味敵と戦うより緊張します 笑

 

「よぉ、何してんの?」

 

俺は一番手前にいる、背の高い女子に声をかけた。

 

俺を見るなり、そいつは満面の笑みを浮かべた。

 

「おおっ!ヒーローが来たよっ」

「アッシュー、結城君!」

「ほら、恥ずかしがらないで」

「あんたが見せたいって言ったんでしょ!」

 

女子たちがキャーキャー言いながら輪を広げる。その中心には、恥ずかしそうに顔を下に向けた、水着姿のアッシュがいた。

 

「おお……」

 

俺はただただ、感嘆の声を漏らすしかなかった。

 

こんなに、アッシュの顔以外の部分でドキドキしたのは初めてかもしれない。

 

「ちょっと〜、何とか言ってやりなよ結城ぃ」

「おっ、それともハグしちゃう!?」

「キャーそれやっばあい!!」

 

……だんだんウザくなってきた 笑

 

「……ど、どうかな?

この前、買ったんだけど……」

 

 

上目遣いで、アッシュが尋ねてくる。

 

「は、はぁ」

 

俺は改めて、アッシュを見た。

 

 

水着の縁からは、艶のある肌が日差しを反射している。きわど過ぎるわけじゃない。でも、決めるところはしっかりと強調している。彼女のスタイルを十二分に引き立たせてるデザインだ。

 

やっぱり水着はいい……。水着にしかない特別な魅力がある。

 

そりゃ今まで、もっとセクシーな格好を見ちゃったことはあるけど…………

 

 

(ランジェリーとかな)

 

ちょっと前の、メモルゼ戦艦での激闘が脳裏によぎる。

 

 

あの時はアッシュとホリーが、すげぇ喧嘩してたな……。

 

 

アッシュの眩しい姿を見ながら、俺はふと、そんなことを考えていた。

 

もし、こんなに魅力的なアッシュをホリーが見たら、また嫉妬するんだろう。

 

(女の闘いは怖い)

 

俺は思わず、ホリーがこの場にいないか見回した。

 

(そっか、あいつは撮影会で休んでるんだった)

 

俺は安心した。そして、

 

 

「ホリーは、来てないんだな」

 

 

なんと俺は、

 

この言葉を、声に出して言ってしまっていた。

 

 

その場が凍りつく。

 

 

「……何で今、そんなこと言うの?」

 

震える声でアッシュが呟く。

 

そして、

 

アッシュの目から、大粒の涙が溢れた。

 

 

あ、

 

……これ、俺やらかしたやつだ。

 

 

「何言ってんのこいつ……」

「マジあり得ないんだけど」

 

女子たちから、刺すような視線を浴びる。

 

もうアッシュは両手で顔をおさえて、本格的に泣き出してしまった。

 

 

やめて!やめてよ、アッシュ。いつもみたいにヤンキーっぽくキレてくれよ!なんでこんな時に限って女の子っぽいの?

 

 

女子たちは散々罵倒しながら、アッシュを連れてどっかに消えた。何言ってんのかほとんどわからなかったけど。

 

 

「……ホリーが転校して来た時から、アッシュがどれだけ気にしてるか、あんた知ってる?」

 

ひとり残った猿山が、静かに、冷徹に言葉を投げかけてくる。

 

「水着だって、本当は恥ずかしいのに、ホリーのグラビアを意識して、勇気出して私と買いに行ったのに。そこまであんたのこと、意識してるのに。

 

かわいいとも、一言も言わないで……。

 

最低だよ」

 

そう言い残し、猿山は去っていった。

 

 

「ウーーイ!!」

「どんまい!ザァーック!!」

 

歓声をあげながら、今度は男子共が飛びついてきた。

 

「何で泣かせたんだよ?」

 

目を輝かせて指野が聞いてくる。くそ、こいつに言ったらあっという間に広まるからな……。

 

まぁ、もう女子たちには知られてるしいっか。

 

「いや、なんかあいつが、新しく買った水着見せてくれたんだけど、そん時ホリーいねぇなとか思ってたら……それが声に出た」

 

「馬鹿だろ、お前」

 

珍しく妻村が憤っている。こえぇ。

 

「いや、言うつもりなかったんだよ。気づいたら喋ってて」

「はい!言い訳〜」

 

みんなにはやされる。悔しい。でも否定出来ねぇ。

 

「よし!じゃあ男同士で遊ぼうや!!」

 

「悪りぃ、今はそんな気分じゃねぇから」

 

指野の好意はありがたいが、とても遊べるテンションじゃなかったので断った。

 

男子たちは飛び跳ねながら、遠くの浜辺に消えていった。

 

 

 

……波の打ち寄せる音が聞こえる。

 

俺一人が、ビーチに残った。

 

 

あーーあ。

 

 

やっちまったな、俺……。

 

 

………………

 

 

ザザーン 笑

 

 

 

 

「クロウ?」

 

 

波の音に混じって、あの透き通った声が聞こえる。

 

 

「ゴウカ……」

 

 

俺は振り返らずに、海に向かってその名を呼んだ。

 

 

金色の髪を揺らし、ヒラリと、波打ち際に姿を現わす。

 

「冷たい」

 

打ち寄せる波に足を入れ、ゴウカは小さく叫んだ。

 

 

「まだ、水は嫌いなのか」

 

 

「冷たいものは全部嫌い。水も、風も、お菓子も……。

 

人も。

 

熱いのが好き」

 

 

俺に向けられた瞳が、炎の様に揺らぐ。

 

 

「さっきバス襲ったアゼンダとか言う奴、知ってるか?」

 

「昔、お母さんに負けた殺し屋の……子どもかな」

 

「殺し屋の子どもか」

 

「フフ」

 

 

俺の言葉にゴウカは小さく笑い、羽織っていた白いレースの上着を脱いだ。

 

 

俺はまた、言葉を失った。

 

 

水着姿のゴウカは、背中や脚を日の光にさらし、ステンドグラスの様にキラキラ揺らめいている。砂と海に区切られた単色の世界に、無数の色に輝く星が現れたみたいで、俺はその美しさに見入ってしまった。

 

「プリンセスのこと、好きですか?」

 

急にゴウカが、そんな言葉を投げかけてくる。

 

「そ、そんなことねぇよ!!」

 

思わず、俺はそう怒鳴っていた。

 

嘘だ。

 

でも、そう言うしかなかった。しかも、今まで聞いたこともない様な話し方で聞いてくるもんだから、何かゴウカであってそうじゃない、別の誰かに訊かれた様な気がして焦った。

 

 

「……じゃあ、花火の日、来て」

 

 

花火の日……。

 

 

ああ、臨海学校最後の夜か。

 

 

……その日に2人で会うなんて、まるでデートじゃねぇか。

 

 

「行かない、っつったら?」

 

ちょっとビビりながら、俺は聞いてみた。

 

 

ゴウカは黙って、海に飛び込み、

 

そして、

 

 

「海が干涸らびるかもね」

 

 

そう言った瞬間、

 

海に浮かべたゴウカの両手から、青い炎が放たれる。

 

 

ボウ……

 

海がどんどん干上がり、遠くまで、痛々しい地表を晒す。一瞬で、地球の裏側まで干上がってしまうだろう。

 

「……やめろ」

 

狂気じみた「無表情」を浮かべるゴウカに、俺は小さく、そう言うのが精一杯だった。

 

干上がった海に、1匹の焼け焦げた魚が上がってくる。

 

 

ゴウカはそれを見ながら、

 

 

「……たい焼き」

 

 

そう呟いた。

 

 

 

……怖すぎる。

 

 

 

「冗談だよ」

 

ゴウカはそう言い、いつもの優しい笑みで、焼け焦げた魚を撫でた。すると魚は、嘘のように鱗を輝かせ、ピチピチと跳ね回り、やがて海に消えていった。

 

いつの間にか、再び静かな海が広がっている。

 

 

「あなたと一緒なら、冷たい海も楽しいかもね」

 

 

ゴウカはそう言い、

 

 

『変身。

 

マーメイド』

 

 

組んだ足を、さっきの魚と同じ様な尻尾に変えた。

 

 

「じゃあ、待ってるからね」

 

 

パシャッ

 

 

ゴウカは、輝く水面に姿を消した。

 

 

俺は、波に残った僅かな波紋を、ずっと見つめていた。

 

 

 

(俺のせいだ)

 

さざ波の音を背に、俺は宿舎に戻った。


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