ToLOVEる - FIRE GENERATION -   作:改造ハムスター

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第2話「彩南暴走族MBC」

「へーっ、ここがザックの家か」

 

「アシュラ様!服を着て下さい!それと……、

 

マ、マスクも」

 

「なんだよ。おまえしかいないんだからいらねぇだろ。あんなもん」

 

(いや、そうは言っても……)

 

う、宇宙一の美少女が、タオル一枚で俺の部屋をうろついているッ!!

 

ここは二階。何故か窓が開けっぱで超寒いが、俺はあぐらをかいたまま動けない。

 

「たっているのでたてません」ってやつです。

 

 

アシュラ・サタリン・デビルーク。

 

 

デビルーク王、リト様と、彼の正妻であられるララ・サタリン・デビルーク様との間に生まれたプリンセスだ。

 

デビルーク家の例に漏れず、とんでもない美貌をお持ちだが……この方のはそんなレベルじゃない。

 

「なあ、ザック」

 

短めのバスタオルを巻いたアシュラ様が、背中にかかる桃色の髪をなびかせ、

 

「元気にしてたか?」

 

一気に顔をつめてくる。

 

 

……やばい、むっちゃかわいくなってるッ!!

 

『チャームの能力』

 

これはアシュラ様のばあちゃん、セフィ様の能力だったのですが、覚醒遺伝して、孫の顔に備わりやがりました。

 

能力の説明?

 

「むっちゃかわいい」それだけです。

 

彼女の顔を見た「雄」は、肉親だろうが動物だろうが関係なしに理性がぶっ飛ぶ。襲いかかる。そして人生が終わる。

普通は死刑。そうなった奴が何人もいた。それがチャームの能力だ。

しかもこれは超強力で、耐えるとかそういう次元じゃないらしい。トラックが突っ込んでくるのと同じで、抵抗は不可能とのことだ。

 

だから王室でも、

 

アシュラ様が気をつけて当然、

 

っていう、暗黙の了解的な空気があって、アッシュは小さな時からマスクで顔を隠していた。いわゆる普通のマスクです。風邪の人がつけるやつ。アシュラ様の場合は、口元さえ隠せばチャームの能力は発揮されないらしいですね。

 

そうはいっても、はっきり言ってアッシュの能力は、家臣からも凄く迷惑がられてましたよ。かわいそうに。

 

一番ヤバかったのは、王の忠臣が部下に押さえつけられながら「殺してくれーーっ!!」って全裸で叫んでたやつです。

 

たまたまマスクを外してたアッシュに鉢合わせちまったんだろうが……周りはかなり戦慄してたな。なんせ押さえつけられていたのが親衛隊の隊長だったから。面目まる潰れだったよ。

 

 

ああ、そいつの名前?名前は確かーー

 

てんじょ

 

 

「おい、聞いてんの?」

 

「あ、ああ、もちろん。俺はどこでも食っていけますからね」

 

「はは!そーだよな」

 

アッシュが幸福そうに笑って、じっと俺の目を見つめる。

 

どうも俺には生まれつき、トラックにも負けない耐久力があるらしい。チャームの能力が効かない雄ってわけです。

 

たまにいるらしいですね。親父とか、先代王のギドとか。

 

でも今アッシュが唯一素顔でお話しできる相手は俺だけです。だから俺まで暴走して、この無邪気な御顔を絶望させることは許されない。

 

ってのはわかってるのですが……

 

 

「それで、いつお帰りになられるのですか?」

 

せっかく家出してきた王女に、俺はそう切り出した。

 

「え、ええっ!?」

 

びっくりされたお顔も可愛い。やっぱり危ない。こんなとこにいさせるのは危険過ぎます。

 

俺はこのお転婆な姫君を説得することにした。

 

「あのね、アッシュ。ここで楽しい時間を過ごしてしまうと、また別れが辛くなります。すぐにデビルークへお帰り下さい。

 

はっきり申しますよ。俺はね、面倒くさいんですよあなたがそばにおられると!せっかくここまで逃げてきたのに、これじゃさらに立場がヤバくなっただけじゃないですか。

 

私はここ両親の母星で、地球人に紛れて普通のコックとして生きていくんです。決めてます。私の人生です。そもそも「アシュラ様」には関係な……」

 

「ペケェッ!!」

 

え?

 

アシュラ様のドスの効いた声に、俺はちびりそうになった。

こんなキャラだったっけ? 笑

 

「ドレスフォーム!」

 

てけてーんてーんてーんてーんてーてーててーん(←懐かしい)

 

ペケと呼ばれる、なんか目がついたバッチみたいなのが、アッシュの胸元にくっつく。

部屋を、眩い光が照らす。

 

光の中、ドレスに着替えたアッシュの姿が現れ……

 

って、

 

ジャージwwwwwなんでwwwしかも白www真っ白www髪もピンクだしwww地球のヤンキーにしか見えねぇwwwww

 

ジャージの全体に、王家の紋章(@←こんなやつ)が黒色で刺繍してある。俺がいない間に何があったんだ。宇宙のお姫様がグレてたらみんな嫌だよ。

 

 

「ザック」

 

「はい?」

 

ドガァッ

 

テーブルがアッシュに蹴飛ばされる。今日何回目だこのテーブル吹っ飛ぶの。

 

 

「知らねえよ」

 

 

完全にグレてます。親の顔が見たいっ!

 

ってか親今どこいんだよまじで。子どものそばにいてやれよ。何で結城家は代々ダメ親なんだよ!だから俺が世話役なんてめんどくさい役目を負わされるんだ!

 

「私はアッシュだ。二度とアシュラ様とか呼ぶな。あとその下手くそな敬語もやめろ、腹が立つ」

 

「も、申し訳ありませんでした!!」

 

額を床に擦り付けつつ、上目でアシュラさ……アッシュの顔を見上げる。

 

信じられないかもしれませんが、

 

キレてる顔もかわいいwwwww

 

「私はおまえのごはんしか食べるつもりはないし、もう王宮に帰るつもりもない。だって……私は。

 

おまえのことが……」

 

 

急にアッシュが俯き、そう言いかけた時だった。

 

 

「アシュラ様ァーーッ!」

 

 

バリィーン!

 

 

窓が粉砕され、もう一人、招かれざる客が来やがった。

 

部屋に飛び込んできたのは、

 

ベジ◯タみたいなアーマーを装着した、銀髪ドリルヘアーのイケメン!

 

 

「やはり貴様か、結城ザク郎!」

 

 

そうだ。こいつが……、

 

 

「この私が来たからには、もう好きにはさせん!」

 

 

さっき俺が話してた……、

 

 

「我こそは……偉大なる……、

 

 

 

デビルーク王室親衛隊隊長!!!

 

 

天条院アーサーだあぁっ!!!!!」

 

 

変態だ。

 

 

「異星人の養子ふぜいが、やはり王位を狙っていたのだな!」

 

「興味ねぇっつってんだろ。

 

とりあえずあんた、アッシュの顔は見るな」

 

なぜなら、

 

「さあ、アシュラ様はどこへ……」

「だから見るなって!」

 

今、アッシュは、

 

「あ、あ、しまっ……」

 

なんと……、

 

「そ、その顔のせいで、わ、私は、くそぉっ、また……」

 

顔を隠していません。

 

「ウ、ウ……ウーリイイイイイイイイイイ!!」

 

ビリィィ!!

 

「アーサー様ぁっ!!」

 

側近の制止もよそに、「自称紳士」天条院アーサーが全裸になって、大剣を引き抜き、振り回し始めた。

 

だから見るなと言ったのに……。

 

早速チャームの能力にやられてしまいましたね。

 

天条院アーサー

 

デビルーク王室 親衛隊隊長。

 

この肩書を聞いただけで、大抵の奴は震え上がる。

こう見えてこいつは、銀河統一戦争で先代王ギド・ルシオン・デビルークと共に暴れまわった、デビルーク最強の剣士、ザスティン前隊長の息子なんです。こんな奴に暴れられたら、

 

自 宅 が やばい。まだローンも払ってねぇのに。

 

それに逃亡中とはいえ、目の前にアッシュがいる以上、世話役としてお護りしないとな。

 

俺はアッシュの前に躍り出た。

 

「はぁっ」

 

フライパンを引っ掴む。

ボゥッ

飛び上がり様に、燃えるフライパンをアーサーの側近2人に投げつけた。

 

慌てて燃えるフライパンをかわす側近。

 

だがその首はすでに俺の足が捉えている。

 

ドン!ドン!

 

「ぐぁっ!?」

 

二回空中で回って、2人の後頭部を蹴り落としてやった。

 

白目を剥いて気絶する側近2人。

 

これでこいつらがアッシュを見て、チャームの能力で暴走する心配はなくなった。

 

バシッ。

フライパンをキャッチ。

 

「さて……」

 

「うおおおおおお!!」

 

アーサーが剣を振りかざし、よだれを垂らしながら突撃してくる。気張りやがって、この星の重力がデビルークよりちょっと弱いこと知らねぇな。

 

ブォン!

 

フォトンを唸らせ、でっかい剣が襲いかかる。

俺は腰を落とし、剣をフライパンで受けた。

 

ドガァアン!

 

斬撃が跳ね返り、壁がブッ壊れる。

どいつもこいつも、俺の家に恨みでもあんのか。

 

シャッ!

俺は破れた壁を駆け上がり、棚の上にあるジェットブーツを足にはめた。

 

「アーサァァッ!」

 

ブーツの底から火を噴出させ、

 

ドゴッ

 

踏み込んだアーサーの右膝を思い切り踏みつけた。

 

「ぐっ」

 

一瞬引き退るアーサー。

 

続け様にハイキックを叩き込む。

 

ガッ

 

アーサーの顔が仰け反った!

 

と思いきや……

 

「はぁーー、ぐへへへぇっ!」

(効いてねぇっ!)

 

「ぬううううん!!」

 

真横から、アーサーの大剣が振り抜かれる。俺はとっさにフライパンでガードした。

 

ガギィィイン!

 

「ぐっ」

 

ドガァッ

 

「ザック!」

 

俺は壁に叩きつけられた。アッシュの心配そうな顔が見える。理性を失っているとはいえ、さすがは親衛隊隊長。なかなかやるじゃねぇか。

 

でもフライパンは傷一つついてねぇ。さすがオリハルコン製。

 

(よし)

 

「うおおおお!」

 

俺は素早く床を這いずり、

 

ビシュッ

 

フライパンをアーサーの「脛」に向かって投げつけた。

 

ゴスッ

「ぐぁっ!?」

 

堪らず、膝から崩れるアーサー。

 

俺はこいつの弱点を知っている。

こいつの親父は、常に紳士的な振る舞いを心掛けていたらしい(その割には馬鹿だったとも聞くけど)。

そしてお袋も財閥のご令嬢だった。地球人で、西連寺のお袋と同じ彩南高のOBだ。王宮の召使いたちをリゾートに連れていったり、いい人なんだが、とにかくプライドが高かった。そんな両親にアーサーは育てられた。

だから、こいつも常に「紳士」に拘る。戦いにおいてすら。

 

でも、それは違う。

命懸けの戦いは、どこまでも「汚い」もんだ。

こいつはそれを知らない。

 

(それじゃあ、俺には勝てねぇよ)

 

床を蹴り、飛び出す。

アーサーが膝を着く、その瞬間、

 

俺はアーサーの股間を、思い切り蹴り上げた。

 

ゴンッ

 

「ぬぉぉおうっ!?」

 

うずくまるアーサー。

 

アーサーの手から、剣が落ちる。

 

よし、退避だッ!

 

「アッシュ、マスクをつけてこっちへ!」

 

「う、うん」

 

少し威圧をこめて命じると、アッシュも黙って従い、俺の手を取った。

 

ダッ

 

 

二階のまどから、隣家へ、隣家へ、屋根を飛び移る。走る。

 

アッシュの小さな手から、高く脈打つ温もりが伝わる。

 

 

……楽しんでるのか、このプリンセスは。こんな時に。

 

 

しょうがない人だ。

 

「このまま、どこ行きましょうか?」

 

 

もう、あの家には戻れない。騒ぎすぎたし、壊れすぎた。

 

でも、なぜか不安じゃない。夜風が心地いい。あんなに面倒だった動乱も、この人となら、乗り越えられるかもしれない……そんな俺らしくない思いが、ふっと、

 

 

「あのさ……ザック」

 

「どうしました?アッシュ」

 

 

 

 

 

 

 

「ペケの充電、

切れちゃった」

 

 

 

 

 

…………え?

 

 

目の前で、アッシュの体から服が消えてゆく。

 

 

「ちょっ!何故こんなところで……」

 

ズルッ

 

うろたえてる間に、俺は足を滑らした。

 

なぜ地球の家は、こうとんがった屋根をしているんだ。

 

俺は背中から倒れた。目の前には、一糸纏わぬプリンセスの、泣きそうな顔。

 

落ちるっ!

 

とっさに受け身を取る。フライパンが手から離れ、ちょうど俺の股間の上に乗っかって……そしてその上に、

 

「んんぅっ!」

 

またがる……プリンセス。

 

グニュッ

 

(え?)

 

これ今、フライパンにささっ……

 

いやいや乗っかってるだけです!よかったいやよくはないけど。

 

それより……

 

ブゥンブゥン

パバラパパッパー

 

屋根の下。迷路のように広がる彩南町の道路から、爆音と共に、派手なバイクにまたがった男が群がってきた。

 

「おいなんだよあの屋根の上ぇ!?」

 

「え、あれヤッてんじゃね!」

 

「やべぇ、来てみろよ!」

 

男どもが、俺と、裸のアッシュを見て騒ぎ出した。

 

あれが噂の暴走族か。彩南も荒れたもんだ。

 

とりあえず俺はアッシュの体に覆い被さった。

 

 

どっと歓声が沸き起こる。

 

 

だがどういうわけか、急に暴走族たちが不気味な程静まりかえった。

 

 

目の前で、アッシュのマスクが、ひらひらと舞う。

 

 

「ごめん、ザック……」

なるほど。

 

暴走族の奴ら、アッシュの顔見ちまったんだな。

 

面倒臭いことになった。

 

 

ガチャ、ガチャ、

 

鎧の音が近づく。

 

「見つけたァ……」

 

アーサー……。

 

俺の上には全裸のお姫さま。

 

下には理性崩壊直前の暴走族約30名。

 

前から理性のない剣士(←こいつも全裸)。

 

 

「うっひょぉおおおーーっ!」

「あの娘とヤんのは俺だぁあっ!」

 

ケダモノと化した暴走族たちが、一斉に襲いかかってくる。

 

どうすんだよこれ……俺フライパンしか持ってねぇよ。

 

 

やっぱり、隣に誰かがいるから、面倒ごとが起こる。

 

仲間とか、大事でしょうよ。普通に生きる分にはね。

 

でも俺みたいに、勝手に飯作って適当に生きて、たまに強い奴と闘いたいだけの人間にはいりません。お互い迷惑です。なんか孤独が悪いみたいな風潮なんなんですか。いいでしょう俺みたいな奴がいたって。働いてるし。

 

まぁごたごた言っててもしかたねぇ。アッシュの側にいる以上、俺はこの方の世話役兼専属コックの使命を果たさなきゃならない。

 

俺はアッシュの体を抱きしめた。思ったよりもずっと細い。健康的だけど、やっぱり女の子なんだな。

 

爆音が近づく。理性を失ってもバイクに乗ってるのはさすが暴走族と言うべきか。

 

 

ゴゥッ……

 

俺は、自分の体に火をつけた。

 

「ザック!何を」

 

「大丈夫です」

 

「やめろ!離せ、私のことはいい!」

 

いや、俺が嫌なんですよ。自分を好きでいてくれる人を、男どもの中に裸で残せるわけがない。だから始めっから関わりたくもなかったんだが……。

 

せめて銃持ってくりゃ良かった。

 

仕方ない。こいつら全員焼き尽くすくらい余裕だ。

 

最後の料理は丸焼きか、俺らしい。

 

 

さようなら

 

………………

 

 

 

『そんなんじゃ一生ひとりぼっちだよ!!』

 

 

!………

 

 

誰だこれ?

 

昔の、お袋?と……

 

 

『少しは友達を頼ってよ!』

 

 

走馬灯……?

 

 

お袋の前にいるのは……だれ……?

 

 

「…………きくん!結城くーん!!」

 

 

この声は……。

 

 

「結城くん、遅くなってすまん!まさか俺の念力で家があんなことになるなんて……」

 

 

…………ふふ。

 

 

「おせぇぞ、西連寺」

 

 

おもしれぇ、

 

「友達」を頼ってみるか。

 

 

体の火を消す。アッシュは泣きはらして眠っている。疲れたんだな。

 

「結城くん……何が起こってるんだ?」

 

周囲を見渡した西連寺の顔が強張った。

 

「事情は後で話す。西連寺、

 

一緒に闘ってくれ」

 

「……わかった!」

 

西連寺は物怖じもせず、ケダモノの群れを見据えた。

 

「西連寺、あの暴走族は何なんだ」

 

「マルス・ビシャモ・クラブ、略してMBCだよ。ここ最近、急にこの町に出てきて勢力を伸ばしてる。でもバックについてるのがとんでもない奴見たいで、警察も手を出せないらいしんだ。

 

俺たちの彩南高にも、カツアゲや売春の被害にあった生徒がいっぱいいるってのにな……」

 

(ビシャモ……

ビシャモ・ベリア・デビルーク)

 

デビルーク第二王子か。

 

そりゃあ、地球の警察が手を出せない訳だ。

 

「西連寺、お前クラス委員だろ」

 

「……ああ」

 

「こんな奴らに、学校の奴ら泣かしちゃいけねぇよ。

 

今日、ここでぶっ潰す」

 

力強く頷く、西連寺。

 

「フフフ、地球人まで巻き込んで、どうするつもりだぁ?結城ザク郎」

 

アーサーが剣を構え、にじり寄ってくる。 俺はアッシュを後ろに隠した。

 

そして、一度全宇宙に言ってやりたいことをこいつに言うことにした。

 

 

「てめぇ、

 

地球人なめんじゃねぇぞ!」

 

 

まぁ、俺は異星人だけどな

 

to be continued


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