ToLOVEる - FIRE GENERATION -   作:改造ハムスター

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第17話「ハーディス vs ゼウス」

ーメモルゼ戦艦 会堂ー

 

ガシャーン!

 

ホーレンの体を壁に叩きつける。勝敗はあっさり着いた。さすがに兵役一年目の奴に負けるほど俺もなまっちゃいない。

 

「テメェのせいで、たくさんの人が死んだ。地球人も、メモルゼ星人もな。お前に王子の資格はねぇ。冠を脱いで銀警に出頭しろ。

 

それが嫌なら」

 

チャッ

 

「これで終わりだ」

 

俺は地球の看守が持っていた拳銃を、ホーレンの額に構えた。

 

「……お前に、何の権利があるんだ。結城」

 

ホーレンが、薄眼を開けて訴える。

 

「地球の権力者でもないお前に、僕を裁く権利があるのか?」

 

(権利……?)

 

俺は何故、ホーレンにこんなことを聞かれるのかわからなかった。

 

「……一応アッシュの護衛だからな。地球に侵略しなかったとしても、アッシュをさらった以上、お前を消す権利は十分あるだろ」

 

「それはアシュラちゃんが勝手に決めたことじゃないか。アシュラちゃんが、お前のことを好きだから、そうなっているだけだ!恵まれた奴め……」

 

壁に手をつたわせ、ホーレンが必死で立ち上がる。

 

「僕は、お前がアッシュに出会うずっと前から、あの子のことが好きだった。どの婚約者候補よりも早くから、アシュラちゃんは僕と結婚するはずだったんだ。

 

もちろん、アシュラちゃんの顔を優しく見つめることまでは出来なかったさ!

でも、それが何だ!?僕は歯を食いしばって欲と闘ったよ!本当に、彼女のことを幸せにしたかったから……それで、上手くいっていた。

 

アシュラちゃんはまだ、結婚のことはよくわかってなかったけど、いつか僕を、本当の王子さまだって認めてくれる日を信じて、僕は……生きてきた。

 

そしたら、

 

お前が来た」

 

ホーレンが、憎悪を込めた目で俺を睨む。

 

「チャームの能力が効かない。それだけの理由で、アシュラちゃんは、お前に恋に落ちた。

 

なんて不平等な世界だろう。

 

お前は僕から、無垢なお姫様を奪った。はじめにアシュラを奪ったのはお前の方だ!!」

 

「……勝手な奴だ」

 

「黙れ!僕はアシュラちゃんがいないと生きていけないんだよ。彼女がいるから、僕は……男らしく、生きていけるッ」

 

膝を震わせながらも、ホーレンはしっかり立ち上がり、俺に指を突きつけた。

 

「僕はアシュラちゃんの婚約者候補として、当たり前のことをしただけだ。もし、もしもお前と僕の立場が逆だったら、お前も僕と同じことをしていただろう」

 

「何?」

 

「愛する人が、自分のものにならなかったら、力づくで奪うしかない。お前もそうしていたはずだ」

 

「そんなこと……」

 

「いいや!絶対そうしたな、お前なら……僕は知っているぞ、結城ザク郎。

 

いや、

 

クロウ・キリサキ」

 

ホーレンが不敵に笑う。

 

「お前はそういう奴だ。そうだろ、運び屋め」

 

ガタ……

 

体に布をかけたアッシュが、同じように布を被せたホリーを抱え、会議室に入ってくる。

 

「……ザック……っ!」

 

こちらを見るなり、アッシュは目に涙を浮かべた。

 

……嫌なタイミングだな。

 

「アシュラちゃん、やっぱり、まだ結城のこと……。

 

くそっ!

 

ゲムー伯爵!」

 

怒り狂ったホーレンが部下の名を呼ぶ。すると奥から、燕尾服を着て、ステッキを持った紳士が登場した。

 

ゲムー伯爵。こいつもよく知ってる。モジャック将軍と同じ組織にいた奴だ。見た目は人間と変わらない。

 

顔がディスプレイになっていること以外は。

 

「さぁ、ゲムー伯爵。結城ザク郎に、

 

この宇宙を滅ぼす、ラスボスを見せてやれ!」

 

「了解」

 

ホーレンが命じるなり、ゲムー伯爵の顔に砂嵐が走り、

 

パッ

 

地球が映し出される。

 

半壊の彩南町。その中で座る、西連寺、古手川、そしてその前に……、

 

「見よ!これがこの宇宙のラスボス……、

 

金色業火だ!」

 

 

画面に、懐かしい少女の姿が映る。

 

 

 

「ゴウカ……」

 

 

俺は思わず、その名前を呼んでいた。

 

「……ゴウカちゃん、この子が……」

 

アッシュが、微かな声で呟く。

 

気配を感じたのか、画面の向こうから、チラと、ゴウカがこちらに顔を向け、

 

あどけない顔で、微かに笑った。

 

見えてるのか?

 

「この子がお前の「忘れられない」人だろう。

この子のせいで、アシュラちゃんがどれほど悲しんでいるか……」

 

「……なんでテメェがそんなこと知ってる」

 

「調べたんだよ。軍に入隊した後、僕はお前を倒すために、必死で重要機密書類を漁った。お前のことを知るためにね。そしてわかった……結城ザク郎の正体」

 

 

「僕とホリーの母さん、ルン・エルシ・ジュエリアの友人に、地球でアイドル活動をしていた「霧崎恭子」という人物がいた。

地球人とフレイム星人のハーフ、つまり「炎を操る」人物だ」

 

「!?……マジカルキョーコ……まさか……」

 

アッシュの体が、小さく震える。追い討ちをかけるように、ホーレンが話し続ける。

 

「その人物に、1人、

 

子どもがいるという情報があった。

 

お前だ。クロウ・キリサキ。お前は偉大なるデビルーク王であり、我らが父、結城リトと、彼のハーレムの1人、霧崎恭子の間に生まれたんだ」

 

アッシュが、怪訝そうに眉をひそめる。

 

俺は何も言わず、こいつの話を聞くことにした。

 

「お前はどういうわけか生まれたと同時に捨てられ、宇宙の密輸組織に利用された。運び屋としてな。

 

その時、お前は初めて、ゴウカ……いや、「エリス」と出会った。

 

まだ兵器になる前の「商品」としてのだ。

 

彼女を忘れられないのは、贖罪のつもりか?」

 

「…………」

 

「その後、デビルーク王室で、結城美柑に養子として迎えられ、そこで料理を学んだそうだが……。その炎、料理をする前は、なんのために使ってたのかな。

 

お前は犯罪者だ、クロウ・キリサキ。闇に生きるべき存在だ。お前なんかに、アシュラちゃんを渡してたまるか」

 

「そんなの、お前が決めることじゃない。ザックは……」

 

アッシュがホーレンに言い返す。

 

「そう言うけどね、アシュラちゃん。結城ザク郎が君のことを好きじゃなかったら、どうしようもないよ」

 

「っ……!」

 

「言ってたよね、アシュラちゃん。結城が君のことを好きじゃなかったら、デビルーク星に帰るって。

 

だからその時は、

 

僕が護ってあげる」

 

「……お前がデビルークの奴にかなうわけが」

 

「約束しろッ!!」

 

ガチャン!

 

ホーレンが、真っ白に装飾されたアサルトライフルの銃口を、アッシュに向けた。

 

「…………ッテンメェエッ!!」

 

俺は思わず叫び出しそうになる。

 

「もし結城が君と結婚する気がなかったら、僕のお姫様になるんだ。アシュラちゃん。

 

子どもの頃、約束しただろう?」

 

「……おぼえてねぇよ」

 

「さあ結城ザク郎」

 

今度は俺に銃を向け、ホーレンが声高に叫ぶ。

 

「今、この場で答えろ!

 

お前は、アシュラちゃんのことが好きなのか!?

 

言え!!」

 

 

アッシュが、力なくこちらに顔を向ける。

 

ゴウカは何も言わず、ゲムー伯爵の画面からじっとこちらを見つめていた。

 

ホリーも、微かに目を開けている。

 

俺がYesと言えば、ゴウカによって、地球が燃える。

 

俺がNoと言えば、アッシュはホーレンと結婚する。

 

 

……そういうつもりだったんだろうな。

 

 

「言う必要ねぇよ」

 

俺はホーレンに向かって答えた。

 

「……何?」

 

「言う必要はねぇ。お前に脅されねぇでも、俺は好きになった人と、結婚したい時に結婚する。地球人がやってるのとおんなじだ」

 

「そんなことを言って……」

 

ホーレンが銃を下げ、二、三歩近く。

 

「そんな風に煮え切らないから、皆んなが悲しむんだ。お前は地球人じゃない。異星人、しかもデビルークの王女に愛された男だ。宇宙の命運を背負う覚悟がいるだろう!

 

お前は僕らの父、結城リトのように、皆んなを愛せるのか!?またハーレムをつくるのか!?そしてこんな争いをまた繰り返すつもりなのか!!?」

 

「パパを否定するなっ……」

 

小さな声で、アッシュが訴える。

 

 

「俺は結城リトの子どもじゃねぇ」

 

俺は、勘違いしているホーレンに言った。

 

「……なんだと?」

 

「さっきのお前の情報な、だいたいあってるぞ。俺のお袋のことも、俺がなんの罪もない女の子を闇の組織に運んでって、それが金色業火になったってのもな。

 

贖罪?ふざけんな、そんな甘いもんじゃ済まねぇよ。今でもまともに眠れねぇんだよ、こっちは。

死ぬまで許されるつもりもねぇ。

 

でもな、二つ抜けてる。一つは、何で俺が捨てられたのか。これは俺も知らねぇ。お前が知ってるかと思ったんだが、期待外れだな。

 

そしてもう一つが、

 

俺の親父だ」

 

「…………」

 

「俺に結城リトの血は通ってねぇよ、ホーレン。俺はお前ら兄弟と何の関係もねぇ。どこで暮らそうが、誰を愛そうが、

 

俺は自由に生きる」

 

もう、隠しはしない。

 

慄くホーレンに「黒い装飾銃」を構える。

 

「そ、その銃は、まさかっ……!」

 

あのドクター・スメラギに出会ったときからつっかかっていたものが、晴れた気がした。

 

 

「よう、ジュエリア王子。

 

不吉を届けに来たぜ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「クロ……お前が、あの伝説の殺し屋の、息子……」

 

ホーレンが後ずさりながら、そう呟く。

 

バリィン!

 

「グッ」

 

ゴウカちゃんが映っていたゲムー伯爵の画面が真っ二つに割れ、真っ黒になった。

 

 

ザックが、殺し屋の息子。

 

噂は本当だったんだ。

 

 

ザックの両眼から、猛烈な殺気が放たれている。学校の校庭で暴走していた時とは違う。自分の意思で、闘いを覚悟している眼だ。

 

「くっ」

 

バリバリバリバリバリバリッ!

 

ホーレンちゃんが、白い小銃を撃ちまくる。プラズマみたいな弾丸が、柱を壊す。あの銃は「ゼウス」と言うらしい。アダマンという金属で出来ていて、ザックの「ハーディス」に対応して作られたそうだ。さっきホーレンちゃんから聞いた。

 

でも、いくら銃が強くたって……。

 

ドウッ、ドウッ!

 

柱に身を隠していたザックが、二発、炎の弾丸を放つ。

 

「フンッ」

 

ホーレンは回転してかわし、

 

バリッ!バリバリバリバリッ!

 

壇に隠れて稲妻を連射した。

 

その瞬間、

 

「シャッ!」

 

ザックが飛び出し様に包丁を振り抜き、

 

バヂッ

 

ドガァーン!

 

雷を弾いた。

 

会堂の壁に、痛々しい穴が空く。

 

「くそぉぉおーーっ!!!」

 

ホーレンが歯を食いしばり、銃剣を取り付け、突撃する。

 

ハーディスと包丁をクロスさせたザックが、今まで見たこともないスピードで交わった。

 

ダン!

 

ホーレンは、真っ二つに折れたゼウスとともに、ゆっくりと宙を舞い、

 

ドスン

 

地に落ちた。

 

 

ゴウッ

 

「……燃やして、解決だ」

 

 

ザックはそう言って、ゼウスの残骸を燃やした。

 

 

 

「ザック……」

 

「……遅くなってすいません、アッシュ」

 

寂しく笑いながら、愛しい人が答える。

 

「それと……ごめん。今まで黙ってて。

 

アッシュ、俺は悪い人間です」

 

「でも、誰も殺してない。今も、学校でも、ザックは」

 

「偶然ですよ。俺は殺し屋の」

 

 

私はザックにかけ寄り、

 

そっと、頬に唇を押し当てた。

 

 

「……私こそ、ごめん、ザック。 お前のこと、何にも知らなかった」

 

「アッシュ……」

 

 

「あ、あのさ。本当に、私なんか邪魔かもしんないけど、やっぱり……ほら、お前、私の家臣だしさ!一応ね」

 

 

ああーっ!

 

なんでこんな馬鹿なこと言うんだよ。

 

 

「私のこと、まだ好きにならなくていいけどさ。

 

もうちょっと、一緒にいていい?」

 

 

上目遣いで、恐る恐る、ザックの顔を見上げる。

 

 

「は、はい!俺なんかでよければ」

 

ちょっと慌ててたけど、やっぱりザックは優しい笑顔で、そう言ってくれた。

 

「じゃあ行き先は……」

「もちろん、地球に帰ろうぜ」

「ホリーも連れてこう。ホーレンは自分で帰れるだろ。

えっと……」

「抱えてやってくれよ。寝てるし、気づかねぇよ」

 

ホリーを抱えて出口へ歩く、ザックの背中を追う。

 

 

ゴウカちゃん。

 

 

あの子が、画面に出てきた時の……、

 

ザックのあんな顔、初めてみた。

 

 

胸が締め付けられる。

 

 

聞いてみようかな。

 

 

(やっぱり、ゴウカちゃんが好きなの?)

 

 

言えない。それだけは絶対に……。

 

 

「あ……あれ?」

 

目の前がかすむ。

 

(なんで、なんでだよ?

ちくしょう……止まれよっ)

 

後ろを向き、涙を拭う。払っても払っても、涙は止まってくれない。

 

「アッシュ、大丈夫ですか?」

 

ザックの呼ぶ声が聞こえる。

 

「な、何でもないよっ!」

 

 

どうしよう……。

 

そうだ!忘れてた。

 

私はベールを付け、かけ出した。

 

「ごめんごめん。行こうぜ」

 

やっぱり私には、これが似合って……

 

「それ、いらないっすよ」

「え?」

 

ザックが、私のベールを一気に剥がす。

 

「うわっ!?」

 

びっくりして、かかとを滑らす。後ろにこけそうになった時、私の背中を、ザックの左手が支えた。

 

すぐ上に、大好きな人の顔がある。

 

私の泣き顔も、きっとまっ赤になってる顔も、全部見られちゃってる。

 

 

せっかく隠してたのに……。

 

 

「俺は他の奴とは違います。だから、

 

俺の前では、それ、付けないで下さい」

 

少し吃りながら、それだけ言って、ザックはまた歩き出した。

 

再び、でも、さっきとちょっと違う涙が溢れてくる。

 

もう隠すものはない。

 

「おりゃーーっ!」

 

私はザックに飛びかかり、両目をふさいでやった。

 

「いてててっ!何するんすかっ!?」

 

涙を流して、笑いながら、必死でザックの頭にしがみつく私の顔は、きっとものすごく不細工だろう。ザック以外の、チャームの能力なんかにやられる全宇宙の男たちに、この顔を見てもらいたいと思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

複雑な思いで操縦桿を握る。

 

大気圏を抜けたら、もう彩南町上空だ。

 

 

(ゴウカ……まだいるのかな)

 

さっきはアッシュに、凄いことしちまった。

 

アッシュが泣いてるのに、耐えられなかったから。

 

(俺も勝手だよな)

 

ホーレンの問いを振り返る。

 

(俺は、アッシュが好きだ)

 

自分の中に、はっきり断言出来る自分がいる。

 

でも、さっき久しぶりにゴウカを見た時、心が揺らいだ。昔を思い出してしまった。

 

(直接会ったら、また抜け出せなくなんのかな)

 

それが怖くて、ゴウカがいるのか、不安だった。

 

 

地上に着く。

 

俺と、ホリーと、ベールをしたアッシュが、アックスを降りる。

 

「お帰り!結城君、アシュラさん、ホリーさん。無事だったんだね」

「あんなとこから3人で抜け出してくるなんて、や、やるじゃねぇか」

 

「お前らこそ、生きててよかった。悪いな。巻き込んじまって」

 

西連寺と古手川が迎えてくれる。

 

「……え、えっと、なんか金髪の女の子、いなかったか」

 

俺は辺りを見渡し、恐る恐る聞いた。

 

「ああ、ゴウカちゃん!」

 

西連寺からその呼び方を聞いてドキッとする。

 

「もう、どっかいったぜ。しばらくいたんだけど、急に空を見上げて、何も言わなくなったと思ったら、また青い火になって消えちまった」

 

「ずっと結城君の話してたんだよ」

 

俺は安心したような、残念なような思いで、二人の話を聞いていた。

 

だが、

 

「そうだ、アーサーは?あいつはどうした!?」

 

急に他の仲間を思い出し、背中に冷や汗が流れる。

 

西連寺と古手川が、苦しそうに俯く。

 

(嘘だろ、アーサーッ!)

 

俺は瓦礫の山を駆け上がった。

 

「アーサーッ!!」

 

瓦礫の向こうに、跪いたアーサーが見える。

 

「アーサー、大丈夫か!?」

 

「……ザク郎殿……」

 

アーサーの悔し涙が、膝に落ちる。そこには、俺のよく知ってる人が、目を堅く閉じて横たわっていた。

 

 

「…………九条……先輩…………」

 

 

「彼は精神が砕けちまったヘア」

 

隣で、モジャック将軍が呟く。

 

「お前が行った後、デビルークの援軍が来たヘア」

「!……やっぱり来たか……」

「そいつらに対抗するために、わしらは戦った。この九条さんが一番頑張ってくれたヘア。だが……あの「赤い死神」が、九条さんの精神を刀に侵食させて、暴走させたヘア。止められるのは、この天条院さんしかいなかったヘア」

 

デビルークと戦って、よく生き残れたな……。

 

「申し訳ないッ……、九条殿……」

 

確かに、先輩は息をしている。

 

「そうか、よく止めてくれたな。大丈夫だ。この人はそんなヤワじゃない、絶対復活する。とりあえず銀河病院に連れてってくれ」

 

 

……参ったな。

 

地球人唯一の銀河警察官がいなくなったら、

 

 

今回、いやそれ以上の動乱が増えるだろう。

 

しかも……、

 

(「変身兵器」)

 

ゴウカも、タナも動き出したんなら、もう一人、「あいつ」が出てこないはずがない。

 

 

もう、逃げ場はねぇな。

 

 

アッシュが、瓦礫を登って来る。

 

「これからどうするんだヘア」

 

モジャック将軍が口を開く。なんでこいつスキンヘッドなんだ?

 

「地球に残る」

「そうか。わしは髪が伸びるまで、宇宙に帰るヘア。このままじゃ、家族に顔見せ出来んヘア……」

 

「達者でな。モジャック」

「ありがとう」

「早く行け。お前らのサラサラした髪を見てると、アフロにしたくなってくるヘア……」

 

「じゃあなアーサー、また学校でな」

 

「西連寺、古手川、みんな、本当に迷惑かけたな」

 

「いいよアシュラさん。無事で良かった」

 

「ふん、お前ら、俺のいねぇとこでハレンチなことしてたらぶっ殺ぉす!!」

 

「し、してねーよ!」

 

俺たちは無理やり笑い合いながら、それぞれの家に帰っていった。

 

 

ー翌日ー

 

 

目覚まし時計の音で、目を覚ます。

 

微かな日差しが、顔を照らす。

 

「ああ、終わったんだな」

 

たった1日の出来事とは思えないほど、疲労が溜まっている。

 

今日は……、

 

「よっしゃあああっ!!日曜日ッ!」

 

テンションのおもむくままに、俺は右手でガッツポーズを……、

 

 

ビクンッ!

 

 

……えっ?

 

 

布団が跳ねたんだが。

 

俺はゆっくり、握りしめた右手を見た。

 

 

(……尻尾ぉ?)

 

「アッシュぅっ!」

 

布団を剥ぐ。その瞬間、俺はまた鼻血を出しそうになった。

 

「ザック……私、怖かったから、ちょっとザックの隣で寝ようと思ったら、眠っちゃって……」

 

「ななな、とにかく服を着て……」

 

 

コロコロッ

 

 

床に、黒くて楕円形な物体が転がってくる。

 

「これ……爆弾?」

 

ドガン!

 

壁が崩れ、

 

「アシュラ……さっっそく、ざっくんたぶらかしてるじゃない。

 

許さないっ!」

 

ホリーが現れた。

 

「ホ、ホリー!勝手に入ってくんなよ!」

 

「なんで?私はただ忘れ物を届けに来ただけだよ」

 

「わ、忘れ物?」

 

「バーン」

 

ホリーは腰をくねらせ、西部劇のガンマンのようなポーズで「ころころダンジョくん」を取り出した。

 

「そっ、それは」

 

「えいっ!」

 

バチチッ!

 

 

2人の前で、俺は「夕崎ザラ」になる。

 

「やっぱりねー!」

 

「あ!う、うそ、お前、ザック……」

 

 

ヤバい。

 

 

「ねぇアシュラちゃん?私ざっくんと空飛んだんだよ!ロマンチックでしょー?」

 

「く、なんだよ!ザックは私を助けにきてくれただけだろ!」

 

「えーそうかなぁ?」

 

「おい、ザラ!」

「は、はい?」

 

俺は無抵抗のまま、甲高い声で答えた。

 

「忘れてないよね?ザラちゃん」

「もう逃げんじゃねぇぞ」

 

二人の顔が、俺の目の前に迫る。

 

 

「ザックと、私か、ホリー」

 

 

 

「「どっちがお似合いかな?」」

 

 

 

俺はどこにいても、動乱に巻き込まれるようです。

 

 

to be continued


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