ToLOVEる - FIRE GENERATION - 作:改造ハムスター
ーメモルゼ戦艦ー
『キャー!』
『なんだこいつの銃……オンナにっ!?』
『た、助けて!』
『ホーレンさま〜!』
ついさっきまで男しかいなかった戦艦が、女の悲鳴で埋め尽くされている。
「どうなっているんだ!たった2人の侵入者になにを手こずっている。しかも両方女だろ」
『それがホーレン王子、1人の女が謎の光線銃を持っていて、それに撃たれるとお、女の身体に……』
『しかももう1人は着衣消滅ガス弾を投げてきますから、あっ、キャッ!見られちゃうぅっ!』
『もう戦えなーい!』
「助けにいってやれよ、ホーレンちゃん。部下なんだろ」
「そういう訳にはいかないよ、アシュラちゃん。あの銃に撃たれれば、僕まで女になってしまう。
君は新郎のそんな姿を見たいかい?」
「呆れるぜ。女の体になってでも戦い続けんのが男だろ」
「そ、そんなことは神が許さない!」
「……天使の掟はわかんねぇな」
私はウェディングドレスを着せられて、モニターの前に座らされている。横には慌てふためく、タキシードを着たホーレンちゃん。男らしくなったとか言ってるけど、昔のまんまだ。まぁ無理やり私を奪いにきた根性は認めてもいい、こんな卑怯な手段じゃなけりゃね。
っていうか、撃たれたら女になる銃って、他にもあったんだな。昔ママに教えてもらって、同じものを造ったことがある。名前は確か……そうそう、ころころダンジョくん!よく遊んだなー。あれどうしたっけ……。
そうだ。鉄砲みたいな形だから、もしもの時は、1番鉄砲が上手いザックに使って貰おうと思って、箱に隠しておいたんだ。
はぁ、
(ザック……)
「ん?」
私はモニターに映る、2人の侵入者を見た。
あれって……、
「マジカルキョーコとブルーメタリアじゃん!!」
うそ、なんでこんなとこに!?キョーコは火使ってるし、本物だ!!
「ねぇ、ホーレンちゃん!私あの2人に会いに行きたい!」
「な、なんでそんなこと」
「だってマジカルキョーコだよ!大好きなんだよ私。ブルーメタリアはお前のママも演じてたし、知ってるだろ?」
「そ、そんなの現実に存在するわけ」
「お願いっ、行かせて!じゃあ一緒に行こうよ!」
「駄目だアシュラちゃん。君を危険な目に合わせるわけには……」
はぁ。
かわいそうだけど、仕方がない。
ブチッ
私はドレスのファスナーから、隠していた万能ツールを取り出し、椅子に括られた両手の縄を解いた。
「ホーレンちゃん、ごめんな。お前かっこいいし、私よりいい女見つけられるよ。
だから私は、ザックと結婚する!」
椅子を蹴っ飛ばし、万能ツールを剣に変えて、ドアを斬り裂き、脱出する。
「アシュラちゃん!」
ホーレンちゃんの叫びを背に、わたしは艦内を走り抜けた。
タッタッタッタッ
(確かこの角を曲がった先に……)
私が角を曲がろうとした時だった。
「いい感じだね!ザラちゃん」
「うん、ここを曲がれば艦長室……」
ダッ
…………
探していた2人と、鉢合わせる。
「……アシュラちゃん」
そう言ったブルーメタリアは、私のよく知ってる奴だった。
「ホリー。なんでブルーメタリアの格好を?」
「そういう設定なのよ!私がこのザラちゃんと一緒に、あんたを助けに来たの」
私はホリーの隣にいる、マジカルキョーコらしき女の子を見た。
「私、夕崎ザラです。よろしくね」
黒髪で、真面目そうな顔の子が頭を下げる。
「あ、うん、はじめまして。助けに来てくれてありがとう」
私が人見知りなのは仕方ないとして、ザラも随分動揺している。隣のホリーに、何か隠していることでもあるのだろうか。それとも私に?
確かにキョーコに似てるけど、やっぱり違う。どうしてだろう、初めて会ったはずなのに、私この子のこと、よく知ってるような……。
でも私の思い巡らしは、ここで途切れた。
「アッシュちゃん。なんでウェディングドレスなんか着てるの?
あーもしかして、本当にホーレンと結婚するんだ!!仲良かったもんねーー」
ホリーのこの一言で、完全にブチ切れたから。
「は?私はザックと結婚するし。知ってるだろ」
私も負けじと言い返す。右肩に、学校の屋上で智子に触れられた感触が蘇る。
ホリーの眉が、ピクリと動いた。
「じゃあ、これで終わりね。ザックも脱獄出来たみたいだし、私も今日でアイドル辞めるから。
ザラ、一緒に帰ろ」
「う、うん。ザク郎も、アシュラに会いたがってたよ」
私に気を利かせたのだろう、ザラのこの言葉が、最悪の展開を招いた。
ホリーが鬼の形相で、隣のザラの首を絞め上げる。
「ねぇザラちゃん……何言ってるの?何でそんなこと言う資格あるの?何でアシュラの味方なの?ねぇ!?あなたざっくんの何を知ってるのよ!!」
かわいそうなザラは、恐怖に顔を歪めている。
「離せよホリー。八つ当たりすんじゃねぇよ。
余裕ないからって」
悪い癖で、私もムキになってくる。頭に血が上って、まともな判断が出来なくなってきた。
「へぇ、ザラ、ザックの知り合いなんだ。なんか似てるし、親戚かなんかか?」
「う、うん、まあそんな感じ」
「うるっさいわね!あんたざっくんのことなんて何も知らなくていいのよ!」
「あ?」
「てかなにそのドレス、ぜんっぜん似合ってないし。あんたいつものジャージでいいじゃん?結婚式も。ウェディングジャージwww」
プッツン
「……言ってくれんじゃねぇかこの糞ビッチ……。私だって着たくてこんなもん着てんじゃねぇよ!!
ペケ!!」
ポケットから簡易ペケバッジを引っ張り出し、首にかける。
「チェンジ!!ジャージ形態(フォーム)!!」
私は目の前のホリーをボコボコにするため、いつものジャージにフォームチェンジしようとした。
だが、
『……システム……故障中…………」
最近使いすぎたのか、ペケが不調を訴え、停止する。
ブゥン
そして、
私の体を覆ったのは、ジャージじゃなくて……
いつの日か、私がザックにだけ見せるために、こっそりデータに入れといた、
高級なランジェリーだった。
「…………ッ///」
女しかいないとはいえ、羞恥心で前が見えなくなる。ベールをしていないことを後悔した。
「あ、あなた、こんなとこでなんて格好っ……」
ホリーが顔を真っ赤にさせ、口を押さえる。
てかザラ……なんで女のくせに鼻血出してぶっ倒れてんだよ。やめて、死ぬほど恥ずかしい……。
私は頭に血が上って、もうわけがわからなくなって、開き直ることにした。
「そ、そうだよ。見せつけてやってんだよ!私はこれを自分で選んだんだ。ザックに見てもらうために」
「は、はぁ?なに言って」
「お前のその服は何だよ?ママのコスプレ?そうだよな、最近「男」と分離したばっかだし、私みたいにスタイル良くないから、こんなオトナっぽいの着れるわけないよな!」
「……言わせておけば……」
ホリーがブルーメタリアの衣装を脱ぎ捨て、どこに持ってたのか、瞬時にフリルのついたキャミソールに着替えた。ふ、ふん。アイドルだけあって、まあまあかわいい体型してんじゃん。お人形さんみたいだな。
待ってろ、すぐ木偶人形に変えてやる。
「おい、ザラ」
私たち二人は、目を回してふらついてるザラに向き直った。
「お前、ザックのこと知ってんだろ?」
「ざっくんと、私か、アシュラ」
「「どっちがお似合いかな?」」
私を助けるために、わざわざここまで来てくれた子に対して、私たちは怒りにまかせて超個人的な選択を押し付けた。
「うーん……」
沈黙の中、
困り果てたザラが、ゆっくり自分を指差す。
「……私、かな?」
「…………」
「…………」
「えへ?」
「……ふーん」
「ふざけるんだ……」
「燃やして解決ッ!!」
ドゥン!!
ザラは炎とともに姿を消した。
「……なにも解決してないんですけど?」
「その場しのぎはよくねぇなぁ」
後できっちり教えてやらなきゃな。
でもその前に……、
「お前だ」
目の前の、因縁の相手を睨みつける。
「お前とはいつか、殴り合わなきゃいけないと思ってた」
「私はずっと、その機会をうかがっていたよ」
そう言い捨て、ホリーが腕を上げて構える。ああ、はいはい、ムエタイね。最近アイドルの間で流行ってんな、スタイル良くなるとか言って。お前がやったところで怖くもなんともねぇよ……。
私は左足を前に出し、すべてを拳にかけるボクシングの構えを取った。
「馬鹿ね。私のキックに耐えれると思ってんの?」
「テメェの短足なんか当たんねーんだよ、この糞ビッチ」
「…………くたばれこのゴリラ女ァーッ!!」
「黙れメンヘラ野郎ーーッ!!」
ドゥッ!!
互いの距離が縮まる。
「シュッ!」
ホリーが背を向け、バックスピンキックを放ってきた。
(そんなもん当たるかよ!)
バックステップでかわした直後、一気に間合いを詰め、
ドゴッ
相手の肝臓にボディを入れる。
「うぐっ」
バン!バン!
ホリーのガードが下がったところに、私はパンチのラッシュを叩き込んだ。
「ホリー!私たち、前まで仲良かったじゃねぇか。好きな人が被ったからって、いきなり私にひどいこと言ったり、ザックに無理やり迫ったり、そんなっ……」
「仲良かった、って……?」
ガツン!
(ッ!)
こいつ、私のパンチを、肘で止めっ、
「あんたは私を、発明品の実験に使ってただけじゃない!!」
ホリーが言い返し、
ドッ
「っく!」
強烈なフロントキックッ!
私のお腹が弾かれ、一気に間合いが開く。マズい、これはキックの距離……、
「いっつも!」
ズバン!
「いっつもっ!」
ズバン!ズバン!
「私がざっくんと、おままごとするたびに、
あんたの発明品で、私を勝手に男にしたり、動物と入れ替えたりしてっ!
私がお嫁さん役になるの、邪魔したじゃない!
絶対に許さないっ!!」
ズバァン!
ミドル、ハイとキックを喰らい、私はグラつく。相当練習してやがる、凄いキックだ。
だが私も負けてられない。
ビュンッ!
最後のハイをウィービングでくぐり抜け、再び間合いを詰める。
「お前こそ、私が勉強してる前で、これ見よがしにザックとおままごとなんてしやがって……、
お前がお嫁さん役になったら、マジで、あ、あんなこととか、しようとするだろ!
それに」
胸を反らせ、右手を振りかぶる。
「ペットになって喜んでんじゃねーーっ、この変態ぃいっ!!」
ブゥン
私の右腕が風を切り、
ドガッ
ホリーの頭に命中する。手が痛い。でも流石に顔を殴るわけにはいかない。アイドルだしな……
ガスッ
(ッ!?)
……ホリーの拳が、思いきり私の顔面を打ち抜いた。
テンメェ 笑
「それの何が悪いのよ?ざっくんは「私の王子様」なのに……っ。
だって、ざっく、ぐすん、ざっくんはぁっ」
言い終わらない内に、急にホリーがベソをかき出す。
「アシュラの、チャームの能力に惑わされてるだけでぇ!
本当はあんたのことなんて、なんとも思ってないんだからぁっ!
ず、ずるいよ。アッシュは……、何であなたばっかり、私には……」
こいつも何も変わってないな。
「だからっ!私が、あんたの顔をボコボコにして、チャームの能力なんか無くしてやる!ぜったい、絶対ざっくんを、私のものに」
「いい加減にしろーーっ!!」
ドゴォッ!
私はホリーの顎に、全力でアッパーを放った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……怖い 笑 怖すぎる。
俺はダッシュで道を戻り、角に隠れた。生きた心地がしねぇ。宇宙一かわいいお姫様と大人気アイドルが下着で殴り合ってる光景とか、滅多に、いや絶対に見れるもんじゃないが、今は正直近づきたくない。もうあいつらの前で「夕崎ザラ」にはならないほうがいいな。
でも……2人とも、あんなに俺のことを……。
俺はどうなんだろう。
ホリーは、申し訳ないが、ちょっと好きにはなれないな。推しが強すぎるし、好き嫌いも激しすぎる。そりゃかわいいとは思うし、たまにドキッとすることもある……けど。
意志の弱い俺のことだ。これからどうなるかわからん。
アッシュ……あんたはずるい。ずるいですよ。俺のこと、好きだ、って言うくせに、自分からベタベタしたりはしてこない。結構あっさりしていながら、さりげなく気配りしてくれる。そんな風にされたらこっちが意識してしまいます。
ちょっと見ない間に、ずいぶんしっかりしたもんだな。
学校でも、俺との関係は知り合いとしか言ってないらしい。宇宙の混乱を避けているのか、あるいは、俺の気持ち……俺がまだ、ゴウカを忘れられないことを、配慮しているのか。
俺は下っ端の料理人だ。アッシュの能力と権力なら、俺を無理やり惚れさせて夫にするくらい簡単に出来たのに……。
「いい加減にしろーーっ!!」
廊下から響く、アッシュの怒号。次の瞬間、ホリーの膝が床に着いた音が聞こえる。
出た!あれはデビルーク伝家の宝刀「いい加減にしなさい(しろ)パンチ」ッ!
全盛期のララさんが、数々の婚約者候補をぶっ飛ばした技だ。
やっぱり、アッシュもちょっと怖い……、
「ザックは「もの」じゃねぇよ!」
……え?
「どいつもこいつも、自分の都合でザックを振り回して……、自由にさせろよ!!」
アッシュ……。
「あいつは、ずっと……子どもの時から、悪い大人の道具にされて、デビルークでは、私みたいなガキの世話させられて、
今やっと、やっと自由になれたんだよ。地球で。こんなに遠いところまで、たったひとりで逃げてきて、やっと……」
ホリーに向かって、泣きながら、絞り出すように紡がれるアッシュの言葉に、俺は身動きが取れなくなっていた。
「……そんなこと言って、それじゃあアシュラちゃん、ざっくんと結婚したくないの?」
「……向こうにその気がないんなら、結婚もなにもないよ」
「……なら何のために」
「……私、決めた。
王宮(うち)に帰る」
!?
「ここにいても、今回みたいに、皆んなに迷惑かけるだけだしな」
「な、なな何言ってるの!?あなた、今そんなことしたら殺される」
「構わねぇよ。
ザックが自由に生きれるなら、私はそれが一番いい」
……俺が、自由に生きる。
そんなこと、誰かから言われたのって、久しぶりだな。
「お前の言う通りだよ、ホリー。私はこの顔のおかげで、周りも、自分も不幸にしてきた。
だから初めて、私の顔を真っ直ぐ見てくれたザックと、ずっと一緒にいたいって……私とザックさえ幸せなら、他の人なんてどうでもいいって、最初はそう思ったよ。
でも、違った。
今、ザックには友だちがいて、私にも、心配してくれる友だちがいる。
だから、一人、幸せにしたいと思う人がいるなら、他の誰も不幸にしちゃいけない。地球に来て、私はそれがわかったの」
「…………」
「私は、もう誰にも、好きな人の自由を邪魔させない。
それが私自身だっていうなら、私は…………」
………………。
アッシュの、この言葉を聞いた途端、
俺の中で、何かが燃え上がった。
「……い、いみわかんないことゆうなぁーーっ!!」
「なんでわかんねーんだよこのくそガキーーっ!!」
ドガッ
ボガッ
バガン
(……何でそうなる)
せっかくアッシュがいい事言ったのに、2人がまた喧嘩を始める。
その時、
俺の頭上に巨大なハンマーが振り下ろされた。
ガッ!
すんでのところで腕を上げ、ハンマーを払い、横に避ける。廊下がめり込み、煙を上げる。
「マジカルキョーコ、まさか本当に存在していたとはな」
……やっと出てきたか。
この戦争の首謀者、ホーレンがハンマーを持ち上げる。
「君は地球人じゃないだろう?なのに、なぜ僕の邪魔をする。
君は何者なんだ、答えろ!」
「おぼえてねぇのか、「ホーレン王子」。昔よく遊んだのによ」
「……何?」
「仕方ねぇ、また遊んでやるか」
俺は立ち上がり、自分のこめかみにころころダンジョくんを当てる。
「今度は本気でな」
バチチッ!
結城ザク郎に戻り、ホーレンを睨み上げた。
「……よお、上がって来たぜ。地球から」
「お、お前はっ」
ホーレンが後ずさる。
「久しぶりだな。ちょっとは強くなったのか?」
「き、貴様……」
「こいつは使わねぇ、これは男の闘いだ」
ダンジョくんを廊下に投げ捨て、殺気を放つ。
「俺が相手だホーレン。よくもやってくれたな、俺は今ブチ切れてんぞ。これ以上、お前には地球にも、アッシュにも触れさせねぇ。
さあ、殺り合おうぜ!」
俺はハンマーを踏み折り、ホーレンの顔に殴りかかった。
to be continued