ToLOVEる - FIRE GENERATION -   作:改造ハムスター

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第15話「対メモルゼ防衛戦線Ⅲ」

ー地上ー

 

煙を上げて堕ちる、日の丸の機体。

 

悲鳴を上げる地上部隊。

 

空を舞う、黒いベンツ。10式戦車。

 

 

「念力……集中っ!」

 

「効かねーよ雑魚」

 

バチッ

 

念力がかき消され。尻尾から放たれる電流が体に走る。

 

僕は声も出ないまま、地面に崩れ落ちた。

 

「西連寺ッ!」

 

「クッソォッ」

 

バシィッ!

 

古手川君の拳が、女兵士に虚しく止められる。

 

「無駄だと言ってるのに」

 

ブゥン!

 

紙切れのように古手川君の体が宙を飛び、

 

ガシャアアアン!

 

瓦礫に突っ込み、動かなくなる。

 

「せ、せめて髪型だけでもアフロに……」

「やめて下さい!逆上させるだけです!」

 

 

僕たちは、たった6人のデビルーク星人に、壊滅寸前まで追い込まれていた。

 

「こんなもんかよっ、地球人!」

 

バチィッ!

 

ドゥンン……

 

1人の尻尾から放たれたビームに、東京タワーが崩される。

 

 

「ま、まさか本当に……」

 

 

世界の、終わり……?

 

 

「西連寺、古手川、生きてるか?」

 

後ろで、聞いたことのある声がする。

 

「先輩の前だぞ、シャキッとしろ。

 

お前たちしか、奴らは倒せない」

 

僕と古手川君は、声のする方へ振り返った。

 

「九条……さん」

 

「行くぞ。奴らに星を潰された種族がいくつもある。東京のシンボルが壊されたくらい問題ない。

 

指揮官殿!!」

 

九条さんの声に、自衛隊の指揮官が反応する。

 

「我々が敵の3人に集中して攻撃します。そちらも、同じ3人を集中的に爆撃していただきたい」

 

「了解」

 

「行くぞ、西連寺、お前はあのデカいオールバック、古手川、お前はあの女兵士だ。俺は奥の覆面を狙う。

 

いいか、尻尾「だけ」だ。

 

何が起こっても、尻尾だけを狙っていけ!」

 

そう言うなり、九条さんが懐から何かを取り出し、

 

シュン!

 

デビルーク兵めがけて、目にも留まらぬ速さで投げつける。

 

ガチィッ

 

それはドーナツのようになって、1人のデビルーク兵の尻尾に挟まった。

 

あれは、もしかして……

 

バイブ!!!

 

「ああ?何だ、これは……」

 

カチッ

 

ブゥゥゥン!!

 

「はあっ!?

 

ダメだ、やめろぉっ!ち、力が抜ける……」

 

「ぬううううん!!!」

 

ズバァアアン!!

 

瞬間、数十メートルもの距離を詰め、

 

九条さんが、刀を縦に一閃した。

 

「ぐわ、嘘だ……俺が、地球人ごとき、に……」

 

血しぶきをあげて、デビルークの兵士が倒れる。

 

 

『グヘへ、マジかよ!デビルークの血なんて何年ぶりだァ!?最高だぜ、地球人』

 

「……黙ってろっ」

 

右腕を抑え、九条さんが刀に話しかける。何してるんだろう……

 

「危ない!」

「死ねぇっ」

 

覆面の兵士が跳躍し、九条さんの頭上に剣を振り下ろす!

 

「ハァッ!」

 

ガキィン!

 

強烈ななぎ払いで、九条さんが距離を取った。振り回される度に、まるで悦ぶように赤黒く光る、九条さんの刀。あれは何なんだろう。なんか、あれはあれで危ない気がする。

 

「信じらんねぇ、九条さん。あのデビルークと互角って、どうなってやがんだ」

 

こんな時だと言うのに、僕も、古手川君も、九条さんの闘いに目を奪われていた。

 

「何をやってる!さっき伝えただろ。自分の敵に集中しろ」

 

僕は我に帰り、右側にいる巨体の兵士めがけて駆け出した。

 

ダダン!ダン!ダン!

 

自衛隊の援護射撃が、デビルーク兵の全身に突き刺さる。

 

「調子に乗るなよ、地球人め」

 

バチィッ

 

またビームを喰らい、僕は後ろへ飛ばされてしまった。

 

「怖ぇえのは長髪の奴だけだ!あいつを潰せ!」

 

巨体の声に、残りの2人の兵士が、同時に九条さんに飛びかかる。

 

ああ、また仲間に迷惑を……。

 

ドガッ バキッ ザンッ

 

「よっしゃあっ!」

 

古手川君の声に、左を見る。

 

そこには、激闘の末、女兵士の尻尾を掴むことに成功した古手川君の姿があった。

 

「ああっ、あんっ!は、離せ、汚らわしい、んんうっ」

 

戦場に似つかわしくない、悩ましい声が上がる。

 

「な、なんだよその声……」

 

古手川君が後ずさりながら、せっかく掴んでいた尻尾を離した。

 

「……な、なんのつもり?尻尾を離して、バカじゃ」

「お前、こんな声、尻尾さわられたくらいでそんな……

 

破廉恥かぁっ!!」

 

バチーーン!

 

「ぶほぉっ!?」

 

ビ、ビンタ!?

 

さっきまでの美しい闘いぶりはどこへやら、古手川君が隙だらけの動きで女兵士の顔をひっ叩く。まるでプロレスだ。

 

「くっ、この」

 

ドガッ

 

女兵士の反撃が、古手川君の腹を直撃した!

 

死ぬ!

 

バチコーーン!

 

だが古手川君はびくともせず前進し、女兵士の顔に平手を浴びせ続ける。

 

「べぶっ!?そんな、こ、攻撃が効かないっ!なんでぇっ!?」

「はぁー、指導!指導が必要だなぁ」

 

駄目だ、こうなった古手川君はもう誰にも止められない。

 

ベチ!ベチィン!!

 

「もうやめ、い、息がっ」

 

「こ、の、

 

変態ぃぃいーーっ!!」

 

バッチコーーーンン!!!

 

古手川君の渾身のビンタを喰らい、女兵士はきりもみしながら地面にめり込み、動かなくなった。

 

……なんか可哀想になってきたな。

 

いや、敵に同情してる場合じゃない!

 

「こっちだ!」

 

2人を相手に立ち回る九条さんへ、なおも襲いかかろうとする3人目の敵兵に、僕は念力をかけた。

 

「邪魔をするなぁっ!」

 

3人目とともに、僕の相手である巨体のオールバックが再び接近してくる。狙い通りだ!

 

「セイッ!」

 

迫り来る敵を足刀蹴りで突き放し、

 

「ふん!」

 

ズン……

 

オールバックの振り下ろす大剣を、空手の型で受ける。

 

「お前の念力じゃ、俺のパワーは防げねぇよ」

 

ギリギリギリッ

 

ぼ、僕だって……

 

尻尾を掴むことぐらいはっ……!

 

「潰れろぉっ!」

 

キキキーーッ!

 

潰されそうになる寸前、僕の視界に黒ベンツが飛び込んでくる。

 

「負けんなヘアーーッ!!」

 

ドシュウッ

 

組員から発射されるロケット弾!

 

バガンッ

 

オールバックの足に命中!

 

「この野郎っ!」

 

(ありがとう、モジャック将軍!)

 

敵の足が僅かにぐらつく。

今だ!

 

ガシッ!

 

「っあつ!!」

 

僕に尻尾を掴まれ、オールバックがその巨体を無様にくねらせる。

 

「終わりだっ!」

 

体制を取り直し、再び迫り来るもう1人の敵を僕は見逃さなかった。

 

バシッ!

 

僕は白刃どりの要領で、2人の尻尾を頭上でくっつけた。

 

「念力集中ッ!」

 

ビシィッ!

 

「「ッツ!?」」

 

僕の手から、敏感な尻尾に直接流される念に耐えられず、2人の体が宙に浮く。

 

とどめだ。

 

「念力拡散ッ!!」

 

僕は全ての念力を右足に集中させ、

 

「セイヤーーッ!!」

 

渾身の後ろ回し蹴りを放った。

 

 

ブォオッ!

 

周囲に竜巻が起こり、

 

「「ウワァーーッ!」」

 

2人の敵兵は宙高くまで吹き飛んでいった。

 

 

中央には、既に2人目を屠り、最後の1人を圧倒している、九条さん。

 

「ば、馬鹿な。自衛隊の援護があるとはいえ……たった3人の地球人に……」

 

恐怖に顔を歪め、後ずさるデビルーク兵。そして、

 

「う、うわぁーーっ!」

 

脇目も振らずに逃げ出した。

 

「待ちやがれヘアーっ」

 

追いかけようとするモジャックさん。自衛隊員も銃口を向け、僕と古手川君も、かろうじて首を向ける。

 

だが、九条さんだけは下を向いたまま動かない。

 

「……を、よこせ……」

 

右腕を抑えて、何かを呟いている。

 

バァン!

 

銃声。

 

ドサッ

 

逃げていたデビルーク兵が倒れる。

 

「敵前逃亡は軍規違反だ。恥さらしめ」

 

急に姿をあらわす、新たなデビルーク兵。

 

(そんな、どこから!)

 

 

ジジ……

 

空が揺れ、

 

ブォン

 

突如、輸送艇が出現した。

 

あのマーク……メモルゼの舟じゃない。

デビルークだ!

 

「九条家……乱世において、弱小貴族、天城院家を護り続けた、最強の武闘派士族」

 

すぐそばで、艶めかしい声が響く。

 

「その末裔が、生体兵器に侵食されちゃったら……どうなるのかなぁっ!

 

素敵ッ!」

 

ギャーギャギャギャギャギャギャーーンン!!

 

強烈なギターの音と共に、

 

赤い髪を垂らした、女?が、楽しそうに現れた。

 

そして、その後に続く様に、

 

ザッ

 

2……30人はいる、デビルークの軍勢。

 

「う、嘘だろ……」

 

古手川君が、そう漏らす。

 

しかも……

 

「お、お前らっ、俺から離れろ……」

「九条さん、その刀離すヘアッ!」

「もう遅いっすよモジャおさん」

「モ、モジャおぉ?」

「いま九条さんから刀が離れたら、心がくだけちゃう」

 

赤毛の異星人が、その赤い髪を伸ばし、触手のように九条さんに纏わらせる。

 

「僕が侵食を手伝ってあげよう」

 

何者なんだろう、尻尾は生えていないからデビルーク星人じゃない。

 

「そうだよね、九条先輩。この宇宙で地球人を守るには、生体兵器に頼るしかないもん。仕方ないっすよ」

「あ、あああ」

 

力なく呻く九条さんに、なおも赤毛が近寄る。

 

「でも、もう我慢しなくていいよ。

心の赴くまま、暴れちゃって……斬って斬って、 斬りまくって、僕と一緒に、ここにいる地球人たちの血を、吸い尽くそうよ……一滴たりとも残さずにね。

 

いい?」

 

赤毛が、九条さんの肩に手をかける。

 

「今の先輩は、もう警察じゃない。

 

生体兵器、ブラディクス」

 

「ああああああああああーーーーっ!!!!」

 

ザンンッ!

 

 

粉塵の舞う中、黒い髪を逆立たせ、唸る刀を構える姿は、もう、僕たちの知ってる九条さんじゃなかった。

 

握られたブラディクスが、僕らをあざ笑うように、赤黒く光る。

 

「終わった……」

 

誰からともなく、そんな声が上がり、

 

ギュィィイーーーンン!!

 

ジャーーン!!!

 

悪魔たちの蹂躙が始まった。

 

轟音とともに崩れるビル。

 

逃げ惑う人々。

 

自衛官たちも、瓦礫に伏せたまま、なすすべもなくしている。

 

僕の念力をかき消す尻尾ビームに、古手川君を圧倒するパワー、しかも光線銃を持った相手が数十人なんて、もう勝ち目がない。

 

たとえいま天城院先輩が来ても、或いは結城君やアシュラさんが戻って来たって、きっと何も変わらない。

 

ぞぷん!

 

「ッ!」

「念力使ってたのって、あんただよね、西連寺先輩」

 

あたり一帯が、急にどす黒く変色し、僕の目の前に赤毛の異星人が現れる。

 

「精神侵入(サイコダイブ)……」

「へえ、知ってるんだ」

 

村雨師匠から聞いたことがある。僕が使う念力の原動力「思念体」を、科学的に行う技術。宇宙のどこか、闇の組織が開発して、ある生体兵器に実装させた。それが第2世代変身兵器。またの名を……メア。

 

「あ、あなたはもしかして、メアさんの……」

「始めまして、「兄貴」」

 

ズズ……

 

古手川くんと同じ、僕と血の繋がった弟が、僕の首を刈る大鎌へとギターを変身させる。

 

「僕のことは「タナちゃん」でいいですよ。まあ、もう呼ぶこともないだろうけど、

 

九条先輩はあんなだし、ハレンチ先輩は九条先輩が抹殺するし、もう邪魔な人間は西連寺先輩だけなんすよ。

 

だから、悪いけど……」

 

ズァアッ

 

「ぐ、がああっ!」

 

(僕の思念体が……飲み込まれるっ!?)

 

「じっとしてて下さいね」

 

僕の体に紅い鎌が振り降ろされ、

 

 

世界は再び修羅に戻る。

 

精神を抜かれた僕は、

 

遠く、赤毛の死神が掻き鳴らすギターの音の中で、

 

壊れゆく町を前に、座り込んでしまった。

 

 

「がぁっ、くそ……」

 

左腕を押さえた古手川君が、僕の左側に叩きつけられる。腕が折れているようだ。

 

「血を……よこせ」

 

九条さん、いやブラディクスが、古手川君の頭に振り下ろされる。

 

「ヤッ」

 

ピシッ

 

最後の力を振り絞り、僕は念力で刀の軌道を変えた。

 

ズズゥン

 

裂ける道路。

 

「西連寺ッ……」

 

ブラディクスは僕を確認するなり、一、二、三歩下がり、刀を鞘に収め、そして腰を落とした。

 

居合だ。

 

「西連寺……お前だけでも逃げろっ」

「はは、僕ももう、力が出ないや」

 

僕たちは地にへたり込んだまま、死を覚悟した。

 

 

ブシューーッ!

 

突如、九条先輩の足元から、白い霧が勢いよく噴き上がる。煙に視界を遮られ、ブラディクスは不愉快そうに半歩下がった。

 

これは、

 

消化器!?

 

「お前ら!わしの宇宙船を持ってきたヘアッ。

ここはわしに任せて、宇宙に逃げるヘア」

「モジャックさん!」

 

背後に浮遊する小型ロケットから、モジャックさんが降りてくる。

 

火炎放射器を持って。

 

「でも、どうやって……」

 

モジャックさんは、覚悟を決めたように、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「今わしのアフロには、特殊なワックスが塗られているヘア。これでこのアフロは、一度燃え始めれば、例えわしが死んだ後でも、2時間以上は燃え続けるヘア。範囲は小さいが……、

 

その炎は、どんな鋼鉄も、あのオリハルコンすら溶かし尽くすというヘア」

 

「でも、そ……そんなことしたら、モジャックさんが死んじまう」

 

声を荒げる古手川君。そんな彼をモジャックさんは極道とは思えないほど優しい目で見下ろし、次に僕に目を向けた。

 

「……地球人の若者よ、わしはな、お前たちと同じくらいの時、一度だけ、たった一度だけ、ストレートパーマをかけようとしたことがあったヘア」

 

「モジャックさん……」

 

「でも、駄目だったヘア。あらゆる矯正器具も、わしのアフロの反発には耐えられず、ぐにゃぐにゃになった。5時間、8時間、一週間たっても、わしの髪はまったくまっすぐにならなかった。しまいには床屋が精神崩壊を起こし、わしは床屋を出て行ったヘア。

 

くやしかった。思春期まっさかりの時ヘア。なんでわしだけアフロなんだ。なんでみんなは髪をいじり、女と並んで歩いているというのに、なんでわしには出来ないんだ……そう思った時、わしに恐ろしい力が宿ったヘア。

 

そうだ!全宇宙人をアフロにしてしまえば、わしはもう惨めじゃなくなる!

 

楽しかったヘア。わしの攻撃でアフロにかわり、泣き叫ぶリア充たちを見るたび、ざまぁみろと思った。苦しめ、もっと苦しめと……。わしは闇に染まって行ったヘア。

 

そんな時、

 

奴に出会った」

 

奴……?

 

 

モジャックさんがそこまで話した時、消化器の霧が弱まり、再びブラディクスが姿を現した。

 

モジャックさんはもう喋らない。目を瞑り、下を向いている。

 

その時、不思議なことが起きた。

 

モジャックさんの言葉が、思念体を通して、僕の精神に流れてきたのだ。

 

まるで、止まった時の中、僕の感覚だけが、モジャックさんの思い出を泳いでいるみたいだった。

 

 

(わしはそいつをよく知っていたヘア。そいつの母親とは、昔、地球のテレビ番組で共演したことがあったから、一目でわかったヘア。ああ、あの女の息子だと。

 

なんでこんなとこにいる?こんな宇宙の掃き溜めの、汚れた仕事場に、どうして人気アイドルの息子が?

 

そう思ったが、奴はその時、わしのボスが求めていたものを運んでいたから、わしはすぐさま奴に杖を向けたヘア。

 

『止まれヘア!将来イケメンになりそうな顔しやがって、ムカつくヘア。その荷物を頂くついでに、貴様の髪もアフロにしてやるヘアーー!』

 

するとそいつは、それだけで5人は殺せそうな睨みをきかせて、わしに殺気を放ってきた。情け無いが、わしはちびりかけたヘア。

 

そしたら奴は、ふいにわしの後ろの部下たちに目をやったかと思えば、急に子どもっぽく笑って、こう言ったヘア。

 

『あんた、あの女の人、好きなんだろ』

 

わしは顔が熱くなった。図星だったヘア。

 

『さっさと告白しとけ。

 

殺される前にな』

 

そう言って、奴は俺に銃口を向けたヘア。

 

『……そんなこと、出来ないヘア』

 

『何で』

 

『こ、こんなダサい髪型で、恋愛なんて出来るわけないヘア!ずっと、ずっとそうだったヘア!生まれつき……』

 

 

ドゥッ!

 

 

わしは全身から煙を上げて、後ろへ吹き飛んだ。

 

奴の銃口から煙が上がる。

 

だが、わしは無事だったヘア。ただひとつ、どんなに切ろうとしても、伸ばそうとしても駄目だったわしのアフロヘアーだけが、綺麗になくなってスキンヘッドになっていたヘア。

 

『将軍!』

 

駆け寄ってくる部下の中で、わしが好きな女は泣いていたヘア。わしはうれしかった。

 

その時、

 

奴はこう言ったヘア。

 

 

『なんでもかんでも、

 

燃やして解決だ』

 

 

しばらくして、わしは勇気をだしてその人に告白したヘア。そして、わしに家族が出来たんだヘア。妻はアフロの時からわしが好きだったんだと、言ってくれたヘア。

 

わしは気付いたヘア。逃げていたのはわしヘア!決して変えられないハンデがあっても、幸せは掴めるのだと。それを、まだ幼い運び屋に教えられたんだヘア。

 

それからというもの、わしはもう他人の髪をアフロに変えることはなくなったヘア)

 

(いや、さっきやってましたよね……)

 

(その後も、これは後でわかったことだが、組織が摘発されて、わしが銀警に捕まったとき、奴はわしの家族を地球に送ってくれたヘア。

 

わしはずっとわからなかったヘア。なんで奴は、わしをここまで助けてくれたのか。

 

そして、

 

「燃やして解決」って、

 

どういう意味ヘア……?)

 

 

再び、世界が戻る。

 

 

「でも、今わかったヘア」

 

 

口を開くモジャックさん。

 

 

僕もわかった気がする。

 

 

「奴」は知ってるんだ。

 

 

 

なにもかもが燃えて、

 

 

最後に燃え残るものが、

 

 

きっと、

 

 

一番大事なものなんだ。

 

 

 

だから、

 

 

「わしも、

 

燃やして解決ヘア」

 

ボゥッ

 

火炎放射が、モジャックさんを包み、

 

誇り高きアフロが、真っ赤に燃え上がった。

 

「わしが燃えても、地球が焼けても、お前たちが生き残れば……、

人間の血は、宇宙のどこかで燃え残るヘア」

 

「モ、モジャック、さん……」

 

涙を流し、古手川君が這いずる。

 

でも、もう止めることは出来ないだろう。

 

「最後に、奴……、クロウ、いや、結城ザク郎に、

ありがとうと、伝えて欲しいヘァアッ!」

 

「モジャックさん!!」

 

 

九条さんが踏み込む。

 

それより早く、モジャックさんが、頭をかがめて突進した。

 

 

「なんでも、かんでも、

 

燃やして、

 

解決じゃーーーーーっ!!!」

 

「モジャックさーーーんんんんん!!!」

 

 

真っ赤な炎が渦巻き、

 

 

ズパァン!

 

九条さんが、こちらに姿を現した。

 

モジャックさんの姿はない。

 

「そん、な……」

 

斬られた、のか……。

 

 

九条さんが、怪訝そうな顔で刀を見る。

 

「血……血ガ、ナイ」

 

 

「おい、

 

あれ、見ろよ」

 

古手川君が頭上を指差す。

 

 

空に、翼を生やした、モジャックさんが浮いている。

 

(いや、あれはモジャックさんから生えてるんじゃない)

 

後ろに誰かいる……!?

 

 

「駄目だよ。

 

誰も燃えてはいけないの」

 

 

空から、声が聞こえる。

 

 

ボゥ……

 

 

ふいに、青い炎が燃え上がり、モジャックさんがゆっくりと地に落ちた。アフロを燃やしていた火は、すでに消えている。

 

 

ズァアッ……

 

 

青い炎は、キラキラと輝きながら固まり、

 

青白い服を着た、小さな金髪の少女に変わった。

 

 

「燃やすのは、クロウ。

 

燃やされるのは、私。

 

他の誰でもないよ」

 

 

「コ……金色、業火……」

 

 

ブラディクスが、怯えるように声を上げる。

 

 

「姉貴」

 

タナが、ギターを弾く指を止めた。

 

「金色業火!死んだと聞いていたが、やはり生きていたんだな」

「我等が銀河の平和を脅かす殺し屋め」

「生体兵器など、もう必要ない」

 

「姉貴……なんで、なんでそんな奴のこと、助けたりするんだよ!

 

くそ……くそ、くそ!やっぱりあいつのせいで!!」

 

 

破壊に興じていたデビルーク兵たちが、反重力ウィングを出現させ、一斉に少女に襲いかかる。

 

ビュゥン!

 

彼方から、機械的な翼を生やしたタナが、猛スピードで飛来してきた。

 

 

ビルの上に立つ金髪の少女が、腕を交差し、下を向く。彼女の両手両足から、水晶のような刃が出現した。

 

「変身(トランス)。

 

シルフィード」

 

彼女がそう呟いた瞬間、フッと体から色が抜け、青空が透き通った。シルクのカーテンのように、微かに彼女の輪郭がなびいている。

 

彼女は、ビルを蹴った。そしてデビルークの軍勢の中、まるでバレリーナが舞台を舞うように、1人、儚げに舞った。

 

戦場であんな動き、地球人にはあり得ない戦い方だ。でも僕も古手川君も、格闘技をやっているからわかる。あの小さな少女が、兵士たちとの間にとっている、完璧な間合い。

 

あれが彼女、金色業火の闘い方なんだ。

 

数十人のデビルーク兵たちは、音も、形も無く、そよ風が吹き抜けるように全滅した。

 

 

「変身ッ、ガトリング!」

 

ガガガガガガッ

 

唯一逃れたタナが、血だらけの両腕を機銃に変え、乱射する。

 

「変身。ノーミーデス」

 

一瞬、空に少女の姿が映る。だがそれはすぐに、醜い岩塊に姿を変えた。

 

ドガァン!

 

さっきとは真逆の荒々しい突撃に、タナは声も出ないまま、遥か彼方へと消えた。

 

「も、もう敵が……」

「いや、まだだぜ。九条さんがいる」

 

「モジャック殿ーー!只今戻りましたーー!」

 

やっと、天条院さんが戻ってきた。遅すぎる……。でも皮肉なことに、グッドタイミングでもあった。

 

「九条殿!?その姿は……」

 

「血ヲ……ヨコセ…………」

 

「ブラディクス……九条殿から離れろぉっ!!」

 

ガキィンン!!

 

後方で、ブラディクスとイマジンソードが激しくぶつかり合う。

 

 

そんな中、空から、あの少女が僕と古手川君の前に降りてきた。

 

 

「あなたたちが……クロウの、オトモダチ」

 

 

燃えるような赤い目で、僕たちを見つめる。

 

 

こ、殺されるのか……?

 

 

すると彼女は、今まで見たこともない、優しい笑顔で言った。

 

 

「私にも話して。

 

地球での、クロウのこと」

 

 

……なんてきれいなんだろう。

 

なんだか、胸が痛くなる。アシュラさんが人を虜にしてしまう美しさなら、この子のは、決して触れてはいけないような、触れば壊れてしまいそうな……そんな美しさだと思った。

 

この子が殺し屋なんて、信じられない。たった今デビルーク兵を抹殺した事実も忘れるほどに、僕は彼女の笑顔に魅入ってしまった。

 

「……どうせ俺ら、もう使いもんにならねぇしな。話してやろうぜ」

 

古手川君が腕を押さえ、僕に提案する。

 

「……そうだね、九条さんは、天条院さんしか止められないし」

 

「じゃあ、ま、話すか。俺はまだあいつとちょっとしか関わってねぇけどよ」

 

「君のことは、ゴウカちゃんでいいかな」

 

僕たちは、ゴウカちゃんに向き合った。

 

「あいつは地球じゃザックて呼ばれて……あ、それは知ってんの?」

「人気もので、皆んなに慕われてて……」

「なんでも出来るのに、すげぇぬけてんだよな」

「そうそう!この前なんか……」

「でも、絶対諦めねぇ。根性ある奴だ」

「彼とは、ずっと前から一緒にいた気がするよ……」

 

半壊した街で、僕たちは結城君の話を続けた。ゴウカはあまり話さなかったし、返事も、耳をすませないと聞こえないくらいだったけど、楽しそうにしてるのが伝わってきたから、話は弾んだ。なんとなく、アシュラさんの話はしなかった。

 

ずっと、この時間が続いて欲しい。スキンヘッドのモジャックさんに見守られながら、僕はそう思った。結局モジャックさんのアフロは、二時間どころか、一秒も燃え残っていなかった。

 

to be continued


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