ToLOVEる - FIRE GENERATION -   作:改造ハムスター

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第11話「爆熱少女リターンズ Ⅱ」

ーデビルーク星 宇宙連合本部ー

 

「デビルーク王は……例によって「不在」か」

 

俺は、デビルークと書かれた札の席に着く、双子の王子を見た。

 

(いつまで兄弟喧嘩を続けさせるつもりなんだ。俺たちの親父は)

 

「なんだよ、クジョー。俺じゃ不満だってのか?」

 

俺の視線に気付いたのか、デビルーク第一王子ハンニャが噛み付いてくる。

 

「ハン!仮にも銀河警察の代表だよ。口を慎もうか」

「けっ、ビシャはすぐいい子ぶりやがって……」

 

第二王子ビシャモにたしなめられ、ハンは口を閉じた。

 

 

ゴーン

 

「これより、会議を始める」

 

重厚な鐘の音とともに、議長が口を開く。

 

 

「地球人!」

 

「は、はい!」

 

開始早々、ハンニャに呼ばれて、地球の代表がおずおずと立ち上がった。

 

「ハン……名前くらい覚えて来い」

「う、うっせーぞビシャ!え、えーと、そうだ!そ、

 

そーりだいじん!」

 

「はい!」

 

(ん、総理大臣?)

 

地球の代表は米大統領じゃないのか?

 

「首相……今日は我々デビルークに「言いたいこと」があって来たんだよね。

 

何かな?」

 

急にビシャの声色が変わる。

 

やはりこいつは、ハンより脅威になりそうだ。

 

我が国の首相は、額に汗を滲ませた。

 

 

「実はその……そちらのアシュラ王女様が……

 

我が国日本で、アイドル活動を始めたという情報が」

 

 

「なに!?」

 

誰かが声をあげ、

 

会場が騒つく。

 

「デビルークの王女といえば、チャームの能力の」

「あの力によって滅んだ文明がどれだけあるか!」

「地球はただではすまん」

 

「へ、へぇー。姉上が」

 

「げ、現在では、まだ人前にも出ておられませんが、なにせアイドルですから、もしアシュラ様が国民の前で素顔を見せられれば」

 

「それだけじゃない!動画サイトを通じて、世界中がチャームの能力に犯されるぞ」

 

「地球は滅ぶな……

確実に」

 

会場がどよめく。辺境とはいえ、今や地球が宇宙に及ぼす影響は小さくない。

 

「なんでそんなことが許されたんだ!?」

「地球の公安はどうなっている!」

「そ、それは……」

 

「ソルゲムだな」

 

俺の言葉に、地球の代表は目を泳がせた。

 

どうせ「キラキラ芸能」だろう。ここはヤクザと深く関わっていて、俺も何度か聞いたことがある。

 

(ソルゲムの残党が、地球の暴力団組織と密ルートを築いているのは知っていたが……こんな抜け穴があったとはな)

 

「ソルゲム……宇宙の密輸集団か」

「確かに、昔から打倒デビルークを掲げていたが」

「奴ら、アシュラ様のお力を利用して、地球を滅ぼすつもりだ!」

 

「ふ、ふん。でも地球なんか潰したところで、俺たちには関係ねぇだろ。姉上なんか、どうでもいいしな」

「そうだね……むしろお姉さまには、死んでくれた方が好都合だし」

 

「それは違う」

 

俺は、デビルークの愚かな王子たちに向き直った。

 

「デビルーク王……結城リトの血を引くのはあなた達だけではない」

 

「へぇ、僕たちが地球の兄弟を恐れるとでも?

九条「先輩」」

 

ビシャが挑発的な視線を向ける。

俺は窓の地球を眺めた。

 

「そうだな、たとえば

 

 

生体兵器」

 

 

会場が凍りつく。

 

 

「地球が大好きな、宇宙最強の殺し屋がいるな。

そいつの親父は誰だ、えぇ?

 

俺たちと同じ、結城リトだ」

 

「伝説だ!」

「もうとっくに死んだはず……」

「やめろ!あの、あの小娘の名前を出すのは……やめろ!」

「やめるんだもん!!やめるんだもーーーんんん!!!」

 

あちこちから、悲鳴の様な声が上がる。

 

いやガーマ星の代表ビビりすぎだろ。何があったんだ?

 

「残念だが、目撃情報がある」

 

俺は無情にも、話を続けた。

 

「本屋のおじさん、銭湯のおばさん、たい焼き屋のおっちゃん」

 

「確実にいるじゃねぇか!!」

「しかも地球に来ているとは」

 

「今の地球は、他のどの惑星よりも危険だ。

 

もし、奴の心の拠り所を刺激してみろ。

 

デビルーク星など、簡単に消し飛ぶぞ」

 

震え上がるハン。

 

「ソルゲムはそれを狙っているのかもしれん。軽率な行動は慎むべきだ」

 

だが対称的に、ビシャは腕を組み、見下すように俺を睨んだ。

 

「殺し屋を盾にして脅しをかけるなんて、銀警も落ちたね」

 

やはり、こいつは一筋縄ではいかないな。

 

「我々デビルークは、1人の暗殺者に怯えて行動を制限しない」

 

「なら関係ない。我々銀河警察が、地球には指一本触れさせない」

 

「立場をわきまえなよ、九条麟。

 

あとで消すぞ」

 

ビシャがそう言い終わらぬ内に、

 

 

スパァンッ!!

 

 

俺は刀を抜いた。

 

 

「ここで斬るぞ」

 

 

縮地。

 

地球人の中でも最も貧弱な民族が編み出した、足捌き。

 

一瞬で距離を詰め、ビシャの喉笛にブラディクスをかざす。身体能力に甘んじるデビルーク星人には反応出来るはずもなかった。

 

「お、おまわりさん。会場で武器を抜くのは」

「俺なりの治安維持だ。邪魔をするな」

 

他代表の忠告を制し、さすがに身を硬ばらせるビシャに顔を近づける。

 

「よく聴けよ、皇太子どの。

 

俺は今までの警察とは違う。あんたが支配してきた、どの惑星とも同じじゃない」

 

そして、俺の母星である地球の代表を睨んだ。

 

「俺は一つの惑星に媚びはしない。中立の立場で正義を行う」

 

 

「俺が宇宙にいる限り、

 

いつまでも、お前たちの時代が続くと思うな。

 

デビルーク」

 

 

再びデビルークの席に目を移し、俺は言った。

 

王子たちの視線が刺さる。

 

 

「まだ続きがあるのだろう。地球人」

 

「はい」

 

議長に呼ばれ、再び日本の首相が立ち上がった。

 

 

「この問題を解決するためには、アシュラ王女をとめなければなりません」

 

「女だけで、デビルークの王女をとめるというのか?」

「うちはお断りだ」

 

他惑星の代表が騒めく中、首相は続けた。

 

「はい、我々地球人だけでは、不可能です。

 

しかし、今の地球には、たった一人、チャームの能力をまったく受けない、しかも強力な異星人がいます。

 

デビルーク皇太子殿下、

 

死刑囚、結城ザク郎の釈放を、許可して頂きたい」

 

……なるほど、そういうことか。

 

アシュラ様、急に地球でアイドルになるなど、何を考えているのかと思えば、

 

ご自身を利用して、結城ザク郎を釈放させようとしていたとは。

 

まったく、とんだプリンセスだ。

 

「た、確かに彼なら、王女を止められるし、ソルゲムにも負けないだろうが……」

 

(奴はアシュラのNo.1婚約者候補だぞ。ハンニャたちが一番煙たがっている)

(それをしゃ、釈放させてくれなどと……)

(あいつ、殺される!)

 

「……クロウ・キリサキ」

 

議長が、重々しく口を開く。

 

「素性は不明。幼い頃から、裏社会で有名な運び屋だった。だが「例の事件」をきっかけに失踪。霧崎 玄凰という名で地球に潜伏していたところをデビルーク王室に保護され……結城 ザク郎と名付けられる。

 

そうだったな?九条君」

 

「はい、そうです」

 

「その男が、地球の学校で暴走し、君でも止められなかったそうじゃないか」

 

「……はい」

 

俺は反論したい気持ちを抑えた。

 

「彼が地球でテロを起こすつもりだったという見方もある。

結城ザク郎を解放するのは、それはそれで、あまりに危険なことではないのかな?」

 

「それは誤解です議長。あれは、

 

デビルークに操られた彩南の生徒たちを止めるために」

 

「証拠あんのかよ、クジョー!?」

 

俺の弁明に対し、待ってましたとばかりにハンが怒鳴る。

 

「そうだよ、君が弱かっただけだろう。警察のくせに」

 

便乗するようにビシャも声をあげた。

 

(……こんな時だけ息合わせやがって)

 

デビルークは、あの事件の痕跡を全て消し去っている。

 

俺は何も言えなかった。

 

「……いずれにしても、この案は通せんな。リスクが高すぎる。

 

他にはないかね」

 

議長の問いに、一瞬静寂が訪れる。

 

だが、

 

「男らしい僕が行こう」

 

最高に気色悪い返事とともに、一人の男が立ち上がった。

 

「……メモルゼ星代表、ホーレン・エルシ・ジュエリア王子」

 

議長と俺は立ち上がった少年を見た。

 

 

ホーレン・エルシ・ジュエリア

 

 

メモルゼ星の王族、ジュエリア家の王子。

 

そして俺と同じ、デビルーク王結城リトの息子。つまり俺やザク郎と変わらない歳だ。一国を担うには幼すぎる。

 

「アシュラちゃんと結婚するのは、この僕だ!野蛮な地球の男たちに渡す訳にはいかない。もちろん、結城にも」

 

「どういうことかな?」

 

「ゲリラ戦は得意だ。数日後にアシュラちゃんの初ライブがある。そこでアシュラちゃんがベールを外し、ファンたちが暴走する瞬間、僕たちメモルゼ軍が、ファンや関係者を殲滅させて、アシュラちゃんを救い出すんだ。キラキラ芸能には片割れの妹が働いてるから、情報も得やすいしね」

 

(……くだらない、馬鹿げた話だ)

 

俺は思わず鼻で笑った。

 

その時だった。

 

 

「なるほど……それで被害の拡大を防ぐと」

 

議長が、深く頷いた。

 

 

「まぁ最小限の犠牲は必要かもな」

「それくらいの騒動なら、”あの”殺し屋も気にしないだろう」

 

会場全体が、この王子の謀略に賛成し始めている。

 

 

(なんだと、こいつら……)

 

「では、この件はメモルゼ星に任せるとする。異議はないな?総理大臣殿」

 

「やむをえません」

 

地球の代表までもが賛同した。

 

(命をなんだと思ってやがるっ……!)

 

「では、決定」

 

会場を立ち去る、無数の足音が響く。

 

「お待ち下さい!これでいいのですか、首相!」

 

 

俺は、自分の母星の代表に詰め寄った。

 

「もう決まったことだ」

「そんなことが許されるかっ……」

 

「九条君」

 

議長の杖が、俺の前を遮る。

 

「君は純地球人だから、宇宙の常識を理解出来んのだろうが、

これが最良の判断だ。星を存続させるための、当然の処置だ。

地球人はそれを知らないばかりに、他の惑星に遅れをとっている」

 

「ホーレン王子は、地球のことなど考えていない!」

 

「宇宙の平安に関わらなければ、気にすることはない」

 

「しかし議長!」

 

「九条君!

 

自分で言っていただろう。

 

宇宙の中立を保て」

 

 

議長は出て行った。

 

 

「よく頑張りましたよ、九条さん」

 

ビシャが、涼しい顔を向ける。

 

「あなたさえいなければ、我々が地球を侵略するつもりでしたからね」

 

「まぁそれか、メモルゼにぶっ潰されてるかもな」

 

にたつきながら、ハンも会場を立ち去った。

 

 

すまん、結城ザク郎。

 

俺は無力だった。

 

 

法の番人でありながら、お前を救えないばかりか、地球の危機さえも止められなかった。

 

俺はどうすればいい…………。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ー地球 危険星人種隔離獄連ー

 

パクられた。

 

完全にパクられた。しかも死刑囚。そしてここは絶対逃げられない、危険度Sクラス以上の宇宙人専門のブタ箱です。どうすりゃいいんだ。

 

確かに俺は学校を破壊した。でもそっから先は何も覚えてない。気がついたらしょっ引かれてて、ここにいた。

 

俺、死刑になるようなことしたっけ?

 

あの火災で死者は出なかったはずだけどな……。

 

まぁ、今はとりあえず、逃げる方法を考えてみますか。

 

作戦としては、ちょびっとの間体が動く死刑執行直前の脱出くらいしかない。それにしたって、武器もブーツも没収されてるから、可能性はほぼ0だ。

 

はぁ、いつなんだ?殺されるのは。

 

死を覚悟するのはいいが、焦らされるのは気分が悪い。俺にそういう趣味はない。

 

「おーい、おまわりさん」

 

俺は独房の側にもたれている看守を呼んだ。

 

「なんだ?」

 

スマホから目も離さずに答えてくる。とても死刑囚に対する態度じゃねぇw

 

「俺の死刑いつ?」

「知らん」

「ねぇ、教えてくださいよ」

「俺が知ってるわけないだろう。ただの牢番だぞ」

「暇だから九条さん呼んできてよ」

「あの方は連合会議でデビルーク星に行っている」

「じゃああんたでいいから、なんか遊びましょうよ〜」

 

「じゃまするな!

 

俺は今だいじな、だいっじな瞬間を……」

 

そこまで言って、ふいに看守の顔に満面の笑みが浮かんだ。

 

 

「ふわああああああっ!!!

 

Hollyちゃんだあーーーっ!」

 

 

陰気な牢獄に、看守の気色悪い絶叫がこだまする。

 

Hollyってのは、今地球、つか日本で一番人気のあるアイドル歌手です。

 

 

ん、

 

ほりぃ?

 

 

ホリー!!アッシュの友達か!?

 

 

思い出して、俺はつい顔が熱くなった。

 

いや、あの子も、アッシュに負けないくらい(他人に言わせれば勝負にならんらしいが)かわいいんだが、そんな子が俺に抱きついて「いつか私、ママみたいなアイドルになって、ざっくんを振り向かせる!」って言ってきたことがあってな……

 

いやまさか、本当にアイドルになったとは。

 

 

でも、今の俺のこと知ってるんだろうか。

 

思わず物思いにふけっていると、看守のスマホから 懐かしい声が聞こえた。

 

『こんにちわーーっ。みんな、Hollyだよ。聞こえてるーーっ?』

 

看守が拳を握りしめる。

 

「うんっ!聞こえてるよ、ぜーんっぶっっ、

 

聞こえてるよおーーっ!!」

 

「うるせえええーっ!最期の時くらい静かにさせやがれっ!」

 

他の死刑囚にキレられる看守。当たり前だ。どんな看守なんだこいつは。

 

『今もどこかで、な……なんの罪もない人がっ、殺されそうになっています。

 

でもわたしは、その人のためにも、ぐすん、歌いますっ!』

 

「そっ、それ俺だっ!おい看守、ファンなんだろ!?ホリーのために俺を出してくれ!」

 

檻の隙間から顔を出して叫ぶ。

 

 

「うんっ!頑張れ、ホリーちゃん!」

 

「聞けやこらーー!!」

 

 

囚人の声などまったく耳に入らない様子で、看守はディスプレイに向かって唾をとばしていた。

 

看守のスマホからは、依然としてホリーの可愛らしい声が聞こえている。

 

 

『そして、なんと今日はっ、

 

わたしのお友達も来ていまーす(チッ)』

 

 

(今、舌打ちしたよね?)

 

心なしか、ホリーの声色が低くなった気がした。あの娘、ちょっと怖いとこがあったんですよね。

 

 

ところで、

 

お友達?ホリーの?

 

 

アイドル仲間かなんかか……。

 

 

不思議に思う俺の耳に、こんな声が飛び込んできた。

 

『みなさん、こんにちは。

 

Ash!デース』

 

 

痛w

 

この娘は……多分売れないな。

 

そんなことを思っていた。

 

 

『今は、まぁこんな風にマスクで顔隠してますけど。

 

もうすぐ外しまーす』

 

 

……なぬ?

 

 

『だから、それまでに……、早く、出てきて下さい』

 

 

………………

 

 

「うんうん、ふぅーんん、ホリーちゃんのお友達かぁ。

 

わかるよ!ちょっと緊張してるけど、声もきれいだし、お顔もちょ〜〜かわいいんだろなぁー!

 

僕きっと死んじゃうよ!!」

 

「その通りだ、看守。よく聞け、今すぐ俺を解放しろ。取り返しのつかんことになる」

 

 

俺は身を乗り出して真剣に訴えた。久しぶりに背筋がひやりとする。

 

アッシュめ、本当に無茶をなさる。

 

 

「うるさいな!さっきから。だいたい俺にそんな権限あるわけないだろ。

そんなことよりさ、最期くらい、お前も一緒にホリーちゃんたち見て癒されようぜ。ほら」

 

無神経過ぎる看守が、俺にスマホの画面を見せてきた。

 

 

ああ、久しぶりぶりだな、ホリー。ちょっと、いやかなりめんどくさい奴だったけど、なんか憎めなかったのも確かだ。

 

輝いてんなぁ……

 

そして、そのとなりには、

 

マスクをしたアッシュがいる。

 

アッシュ……

 

まさか、俺を釈放させるためにこんなことを?

 

いや、いずれにしてもデビルークはそんなに甘くない。仮にアッシュが顔を晒して地球を脅そうが、地球の犠牲など構わずに、確実に俺を処刑させるだろう。

 

俺が死んだら、アッシュはどうされるんだろか。

 

地球にも、デビルークにも居場所を失う。生きる場所を求めて、冷たい宇宙を彷徨うのか、あるいは戦うのか、たった1人で……まぁ、アーサーはいるけど。

 

いつからか、アッシュの隣に俺がいないことが、不自然に思えるようになった。

 

何でだろう。

 

畜生、

 

急に、死ぬのが怖くなってきやがった。

 

 

なぁ、ゴウカ。

 

お前がいなくなってから、俺は、自分のことなんかどうでもよくなったよ。

 

生きていようが、死んでいようが。

 

お前がいない世界なんて、なんの価値もなかったから。

 

 

それなのに、

 

今は……

 

あの鬱陶しい王宮で、

 

見ず知らずの俺を引き取って、美味い飯を作ってくれた、人間のお袋と、

 

アホで、わがままで、気分屋で、

 

でも実は、めっちゃ優しくて、

 

めちゃくちゃかわいい、あのお姫さまと一緒に暮らした、

 

あの日常が、

 

ずっと続いて欲しい、と……

 

 

『ずっと、一緒だよ。

 

ザック』

 

 

「な、なんだ、これは!?

 

俺の拳銃が、勝手にぃッ!!?」

 

看守の叫びが聞こえる。今までと全く違う、

 

恐怖。

 

 

あ、れ……

 

「いやだ!結城ザク郎、助けてくれ!!」

 

意識、が………………。

 

「あ、Ashちゃんの顔を、この目で見るまでは……」

 

ア、アッシュを、この手で助け出すまでは……

 

 

死んで、

 

た、ま、る、か、

 

 

 

バン!!!

 

……

 

…………

 

………………

 

 

ここは……

また夢か?

 

誰もいない。岩だらけの、地球じゃないどこかの惑星。

 

ドン!ドン!

 

遠くで、小さな隕石が降り注いでいる。

 

 

いや、

違うな、あれは……

 

殺し合いだ。

 

 

距離をつめて、岩山に体を隠す。

 

 

ザンッ!ガンッ!

 

カン!ドシッ!ドゥッ!

 

誰かまではわからないが、見える。一撃一撃が、星を破壊できるほどの斬撃。それらを一発一発、高速で消し潰す銃撃。

 

すげぇガンテクニックだ。あんな風に撃ちてぇ。

 

だがそれより、気がかりなことがある。

 

殺し合い、なのか?

 

銃を撃ってる方からは、ほとんど殺気を感じない。

 

 

両者の動きが止まる。

 

(やっべ、見つかったか!?)

 

 

『…なぜオレを狙う』

 

 

ガンマンの奴が口を開いた。

 

『オレたちが戦う理由は もうないはずだ』

 

……なんだろう、この声。

 

知ってる。

 

『お前を”兵器”として仕立てあげた組織はオレが潰した』

 

 

なんだか、すごく懐かしい。

 

子どもの時に聞いたような……。

 

 

『好きに生きろ…と?』

 

 

もう1人が、声を発した。女……まだ子どもの、女の子の声だ。

 

『戦い以外の生き方なんか』

 

 

この声……ゴウカか!?

 

『私にはわからないのに?』

 

いや違う。

 

あれは……

 

ゴウカのお袋、

 

ヤミさんだ!

 

 

じゃあもう1人の男は、

 

いったい、、

 

 

駆け出した瞬間、地面が崩れる。

 

ぞぷん……

 

暗い、銀色の液体が、海のように自分を取り囲んで、体を砕いていく。

 

 

ぐあっ、苦し…………

 

……

 

また景色が変わった。

 

今度は、血の匂い。

 

「なんだぁ!?このガキゃあ」

 

筋肉質な異星人が、俺に大砲を向ける。

 

「雑魚は消えな!」

 

ドゥッ

 

俺は迫り来る砲弾を飛び避け、

 

ドカッ

 

そいつを蹴り倒した。

 

 

「……なんだ、貴様は」

 

 

俺の背後で、無数の異星人たちが一斉に刃を向け始める。

 

 

「この新参者に教えてやれ」

 

 

眼を見ればわかる。こいつら全員殺し屋だ。

 

 

「惑星キルドは、甘くねぇってなぁ」

 

 

俺は何故か、ちゃんとジェットブーツを履いていた。

 

 

「死ねぇッ!」

 

 

ギャギャギャギャギャギャーーン

 

ギャーーーンンン!!!

 

そして何処からか、ギターの音色が響き始めた!?

 

 

 

「うりゃぁあーーっ!!」

 

ギュィイーーン!

 

 

ドゴォッ

 

BGMに合わせて、敵を蹴り飛ばす。肘で刃を弾き、掌底で鎧を叩き割る。バッタバッタ倒れやがって、甘いのはどっちだ!殺意のない俺に負けてるようじゃ、底が知れる。

 

キュキュキュキューーン

 

「この程度か?惑星キルドォッ!?」

 

 

ズズゥン……

 

 

調子づく俺の前に、突如として現れた、

 

巨大な、光の刃。

 

「なんだ、ありゃ」

 

あんなもんで斬ったら、この星ごと……

 

 

(.思い出したぞ、あれはっ……)

 

 

「ヤミさん、やめろーーっ!!」

 

 

俺は夢中で止めに走った。

 

だが、過去は変えられない。

 

 

キィーーン!

 

ヤミ、いや「ダークネス」の右手が、俺の脳天めがけて振り下ろされる。

 

 

『プラネットスライサー』

 

「くっそおぉっ!!」

 

 

ドゴォッ

 

ギャアアーーーンンン…………

 

………………

 

…………

 

……

 

やっと目が覚める。

 

俺の頭上には、エレキギターが乗っかっていた。

 

「いい夢見れましたかぁ?ザク郎先輩」

 

「……久しぶりだな、タナ。

 

お前が俺の処刑人ってわけか」

 

「そうっすよ」

 

目の前の顔見知りが答える。

 

「……わざわざご苦労だな」

 

「……ふふ」

 

俺に跨ったまま、そいつはギターを背負った。フードで顔は見えないが、殺気がピリピリと伝わってくる。

 

黒咲 汰奈。

 

西連寺たちと同じ、親父の実の息子。でも継承戦争には参加せずに、デビルーク情報局の局長として影でデビルークを操っている。宇宙一凶悪なスパイ。

 

そして……

 

俺の忘れられない人の、弟でもある。

 

もちろん異星人だ。

 

「つーか、別に地球の警察に任せてもいいけど、それだと僕の怒りがおさまらないって感じ、かな?

 

あ、でもその前にこれ」

 

タナが腰まで垂らした真っ赤な三つ編みを揺らし、俺に何かを突きつけてくる。

 

受け取ると、それはかわいらしく包装された小包だった。

 

……手紙が貼ってある。俺はその手紙に目を通した。

 

「えっと……、

 

『ザックへ。ここにはザックの大好きな鉄砲が入っています。私がこっそり預かっていました。本当は渡したくないです(>_<)だって、こんなアブないもの振り回して、ザックがおかしくなるのは嫌だから……。

でも、もし、本当に身の危険が迫った時は、これを使って下さい。そして生きて帰って来て!その時は、これがあなたを守る武器になることを信じています。アッシュ』」

 

「気の利いたお姫様っすね。アシュラちゃんは」

 

俺の大好きな……銃。

 

ハーディスのことだろうか。

 

運び屋時代に使っていた、愛用の銃。

 

遂に、俺の手元に戻ってきた……。

 

(ありがとうございます、アッシュ!)

 

「よし、これで脱獄できる!」

 

「待ちなよ、先輩」

 

そう言って、タナは俺から離れた。

 

「……使うのは、僕だ」

 

 

俺宛の小包を掴み、タナが俺を押さえつける。

 

 

「忘れたとは言わせないよ、先輩。

 

先輩がこの銃を持っていた時、俺の姉貴が、どれだけ君を愛していたか……」

 

「タナ、離れろ」

 

「それなのに君はあの日、宇宙の平安を選んだ。姉貴を棄ててな!」

 

「タナ、違う。俺はあいつを棄ててなんかない。もう、あいつに何も傷つけて欲しくなかったんだ」

 

ギチィッ

 

タナの指が、俺の首を絞めつける。

 

「……クロウ・キリサキ。お前も運び屋だったじゃねぇかよ。そんな生温い嘘で姉貴を裏切ったのか、ええ!?」

 

「……本心だ、タナ。どんな奴でも、変われるチャンスが」

 

「ねぇよ!いま夢で見てきただろ!俺たちは、親の代から兵器なんだぞ!俺も、姉貴も、マスターも、皆んな同じだ!半分くらい人間の血が混じったところで変わりはしねぇ。死ぬまで屑なんだよ。一生な」

 

…………

 

やっぱり、アイツと似たようなこと言いやがる。

 

「……先輩、どうしてあの時、姉さんと一緒に燃えてくれなかったんですか?」

 

…………

 

「恋人より、パートナーより、地球の方が大事なんですか?」

 

…………

 

「……まぁいいや。ここでこんな話してても仕方ない。

 

先輩、

今回は、あんたを逃しに来たんですよ」

 

「……え?」

 

今までの怒りは何処へやら、タナは急にいつも通りの、艶かしい声に戻った。

 

フードを外し、あどけない顔を俺の耳元に近づけてくる。

 

「ちょっ、離れろ」

「メモルゼ軍が来ます」

 

なに?

 

タナはそれだけ言うと、俺の小包を破り始めた。

 

「でも、助けてあげるには条件があるよ」

 

男のくせに、短いパンツを履いた脚で、俺の体を固定する。

 

「本当なら、先輩の目の前でアシュラちゃんを犯してやってもいいんだけど……ねぇ、先輩」

 

小包から取り出された銃口が、俺のこめかみに当てられた。

「どうしても姉さんと結婚出来ないなら……あんなメスガキじゃなくて、僕を貰って下さいよ」

 

男とは思えない華奢な腕を、俺の首に回し始める。

 

「僕、ずっと尊敬してたんすよ、先輩のこと……」

 

ヤバい。こいつは顔とか体格とか、ぶっちゃけただの美少女にしか見えない。

 

それでも俺は男とは……。

 

「は、離れろ、タナ」

「ふふ、ここで僕を抱くか、それとも地球ごと滅ぼされるか……。

 

迷うわけないっすよね、

素敵!」

 

タナの顔に、母親譲りの狂気的な笑みが浮かんだ。

 

 

だが……

 

だがそんなことより、気になることがある。

 

 

それハーディスじゃなくね?

 

 

「……タナ、嫌な予感がする。撃とうとしてるだろ?」

「うん、足くらいなら死なないでしょ?」

「頼む、それを撃つな。それだけはやめてくれ」

 

「だーーめ」

「やめろおぉーーっ!」

 

俺の抵抗も虚しく、引き金に手がかかった。

 

 

バチチッ!

 

「…………」

 

…………

 

 

「ちっ、何だよそれ。つまんないの」

 

興ざめしたように、タナが立ち上がる。

 

「仕方ない。今回はみのがしてあげるよ、先輩。

 

「お友達ごっこ」の相手に報告しなきゃならないし、

 

「女」には興味ないっすから」

 

じゃぁねーー。

 

そう言い、タナは姿を消した。

 

俺はタナが捨てていった銃をひろった。

 

 

うん、見れば見るほどハーディスじゃない。デビルークのマークがついてるし、第一ハーディスは光線銃じゃない。

 

そう、こ、これは……

 

 

 

どう見ても、ころころダンジョくんです。

 

 

ころころダンジョくん

 

 

名前の雰囲気でわかったかもしれませんが、アッシュのお袋、ララ様のメカです。

 

これで撃たれると、強制的に性別が変わります。

 

 

これを大好きだった覚えがねぇ!!アッシュ、何考えてんだ!?

 

いやでも、これに助けられたのは確かだ。

 

 

ん?

 

足元に、血が流れてる……

 

 

「看守!!」

 

 

俺は檻の前に倒れている看守に駆け寄った。

 

「看守、おい、しっかりしろ!」

 

いや、駄目だ。

 

自分で頭を撃ち抜いている。タナに操られたんだ。

 

……地球人の死体を見るのは、これが初めてだな。

 

畜生、ちょっと面白い奴だったのに。

 

「……あの野郎……」

 

なぜか怒りが込み上げてくる。ちょっとの付き合いだが、大事な友人を失った気がした。

 

(でも、とりあえずどかさねぇとな)

 

看守の死体を抱える。

 

「重てぇっ!?」

 

看守を持ち上げた俺は、腕力が落ちているのと、声が甲高くなってることに気付いた。

 

あーそうだ、

 

今、

 

俺は女体化してるんだったw

 

 

仕方ねぇ。

 

こうなったら、このまま脱獄してやるぜ。

 

 

俺は看守の服を着て、破られた牢屋を後にした。

 

to be continued


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