ToLOVEる - FIRE GENERATION - 作:改造ハムスター
ー? ? ?ー
炎が揺らぐ。
黒い無機質な星の地表を、チラチラと照らす。
「私を、殺しに来たの?」
金色の髪をなびかせて、少女は静かにそう言った。
俺は、
フライパンを握りしめた。
なんでこんなもん持って来たんだろう。
銃にしときゃよかった。
いや、でも、これで良かったのかもしれない。
もしこれが「あの銃」だったら、
俺たちは、本当に……。
「当然か」
目の前の少女は、悲しげに首を振った。
「私のお母さんは……結城リトを殺すつもりだった」
黒い、ボロボロのドレスが揺れる。
「だからって、お前が罪を負うことじゃない。それに、ヤミさん、いや、お前のお袋だってもう……」
「彼女がそうでも、私に流れる血は消えない」
兵器としての宿命。
「お前、それじゃあ、
何でお前たちの親父が、ハーレムなんて作ったと思ってんだ!
親父は、たとえ兵器でも、変われるって、幸せに暮らせるって、そう信じてたから!
だから……」
「クロウ」
少女が、あどけない声で俺の名を呼び、
ボウ……
白い、透き通るような両腕を、青い炎に変える。
そして、
「あなたは、プリンセスを選んだ」
哀しげに、しかしはっきりと言い放った。
「でもお前だって」
『大事な友達だ』
思わず口に出かかった言葉を飲み込む。
でも、遅かった。
少女の赤い瞳が、底知れない妬みを宿して燃え上がる。
「やっぱり、そうなんだね」
少女の小さな頭から、 捻じ曲がった二本の角が生える。
「私とあなたは、殺し合わなきゃダメみたい……そうでしょ?」
黒いドレスが、白く染まり始めた。
「あなたの体に流れる「正義」の血。
聴こえるよね。 クロウにも……」
『何でもかんでも……』
「知らねえよ」
『燃やして解決っ!』
「知らねえっつってんだろ!!」
俺は、頭に響く言葉を掻き消すように叫んだ。
「フフ……いい言葉だよね……」
目の前の少女はもう、俺の知ってる姿じゃない。
『インフェルノ』
全宇宙に戦火をもたらす、究極の変身兵器。
「あなたは英雄。
私は兵器。
愛し合える訳ないもんね」
燃える両腕を広げ、彼女は真っ直ぐ俺を見据えた。
「私は、あなたのターゲット。
もし私があなたのものになれないなら、ここはもう、
私のいるべき世界じゃない。
だから……
燃え続けよう」
クロウ。
あなたが、
「私を殺してくれるまで」
金色の髪が暴れ、無数の獄門が口を開く。
「さようなら。甘くて温い、平和な日々」
俺たちの親父はどんな思いで、このおぞましい「楽園」を作り上げたのだろう。
「さようなら。お母さんが愛した、美しい惑星(ほし)」
こんなところで、全てが終わるのか。
「さようなら」
やっぱり、
「私の、大好きな……」
分かり合えない
「やめろおおおおおおおおおおおお!!!」
「トランス。
『業火』
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ー地球ー
パチパチと、鉄の焼かれる音が響く。
炎につつまれた肉塊が、血を滴らせ、黒ずんでゆく。
『料理はね…食べる相手のことを想いながら作るんだよ』
お袋の言葉が頭をよぎる。
「そんな奴いねぇけどな」
俺は、
ステーキをひっくり返した。
はじめまして、結城ザク郎です。
本当はもっとかっこいい名前が別にあるんですが、今はこれでいいです。どうか「ザック」とお呼びください。
俺は宇宙人です。地球に亡命しています。
もともとはデビルーク星の宮廷コックでした。
デビルーク星っていうのは、今銀河を支配しているむっちゃ強い星です。 俺はそこの王宮で働いていたのですが、ある日、料理に混じった暗黒物質(ダークマター)を捨てに裏口へ行ったら、王宮の庭からこんな会話が聞こえてきました。
(しかし王宮の食事は本当に美味くなったな)
(数年前とは比べ物にならん)
(これもあの新入りコックのおかげですな)
(結城ザク郎……さすがに地球人なだけあって、料理の腕は確かな様だ。
血は汚れているが)
(やはり本当なのか?彼が、王と、王の妹君との間に生まれた「王子」だというのは)
(きっと本当だろう)
(調理の仕方だって美柑様に似ているしな)
(何をおっしゃる。あれは嘘に決まっております)
(馬鹿なことを。彼の姓は結城ではないか)
(だからあれは養子でございます。見た目こそ人間ですが、確か……)
ヒソヒソ
(そんな!本当か?)
(だから皆んな、あんなに彼に冷たく……)
(しーーっ、こんなことが王宮の外に広まったら、俺たち生きていられねぇぞ)
(とにかく、この話は二度と……)
ズシャッ
(おじさんたち、楽しそうな話してるね)
(お、お前は「デビルークの死神」……!)
(僕にも聞かせてよ。
拷問部屋でね)
(た、頼む!誰にも話さないから、どうかっ……)
……
( 素敵っっ!)
一週間後、こいつらは処刑された。スパイ容疑ということだった。
この時、俺は王宮を脱走することに決めました。
俺のせいで誰かが死ぬのはもう嫌ですからね。
お袋には申し訳ないけど、俺はデビルークが馬鹿にしてる弱小惑星「地球」に引っ越してきました。ここなら流石に俺のこともバレないでしょう。ちょうどコックとしての武者修行もしたかったし、丁度いい。
でも、これで王宮はまた不味い飯に逆戻りです。
俺がいなくなったことで王宮は大騒ぎらしいが、ざまあみやがれ。デビルークの飯はマジで不味いからなwww
まぁ、俺がいなくなると困る理由が、もっと他にあるんでしょうが。
カラスは、自由に生きるもんです。
「あっ」
余計なこと考えてたせいで焼き過ぎた。
ただちに火を「引っ込める」。
ん、おかしい?俺は別にキッチンで調理してたわけじゃないですよ。今はソファに座って、テレビ見ながらフライパンだけ回してます。
自分は生まれつきどこからでも火を出せるんです。いわゆる特殊能力らしい。
その時点で地球人の子じゃないって気づけよ!っていうね。
俺は、フライパンに乗っかっている肉を口に放り込んだ。
ガツガツ
「まずい」
俺ミディアムレアが好きなのに。
オムライスとかも半熟が好きです。お袋の影響でしょうね。
お袋、か……。元気にしてるかな?
お袋には、ガキの時に拾われました。血は繋がっていません。
何の生き甲斐もなかった、宇宙のゴミみたいな俺に、地球の料理を教えてくれた恩人です。
…………
昔のこと思い出してたら、なんか言いようもなく虚しくなってきた。しかもステーキはまずい。これはやばい、憂鬱になりそうだ。
俺はスマホを取った。こういう時は、やっぱり友達を呼ぶに限ります。
「よお西連寺、ゲームしようぜ」
地球人の親友に声をかけてみる。
『ああ、結城くん!今ちょっと……』
「自主練か」
『そうそう!ごめん。もうすぐテニスの試合だから』
「へぇー」
相変わらず真面目な奴だ。
西連寺季虎。
俺と同じ、彩南高校の学生だ。
成績優秀で、テニス部のインターハイにも出てる。
普段はおとなしいが、やる時はやる頼もしい奴だ。
しかも「念力(サイコキネシス)」っていう、宇宙でも珍しい特殊能力を身につけている。並の宇宙人なら互角に闘えるだろう。デビルーク星人とかじゃなけりゃな。
でも弱点があって……
『来週やろう!どんなゲームなの?』
「ゾンビ撃ちまくるゲーム……」
『!!』
あ、やべ、
「西連寺、落ち着」
『ゾ、ゾンビぃ!?』
キーン!
スマホが俺の右手から吹っ飛ぶ。次の瞬間、
バチバチーン!
我が家のテレビに亀裂が入り、
ドーン!
俺はソファから投げ出された。
宙に浮いたテーブルとステーキが、俺の頭に落下する。
(そう……西連寺はお化けを異常に怖がるんだ)
しかもこいつは恐怖を感じた時、念力を暴走させるという、困った癖を持っている。
『ごめん結城くん!僕ゾンビとかお化けとかまじ苦手で、だからそのゲームは』
「……お前が一番怖ぇよ」
俺は液晶テレビを棚に上げた。
「おい西連寺、今すぐ俺の家に遊びに来い。嫌ならテレビ弁償しやがれ」
「……うん、すぐ行く」
「その念力、テニスの試合で使うんじゃねぇぞ」
ガチャ。
俺は電話を切った。
(あいつ、お化け無理って、誰に念力習ったと思ってんだ)
スマホはとっくに壊れている。西連寺の奴、反省のつもりか、念力で回線を繋げていたらしい。
……ちょっと言いすぎたかな。
どうもイライラしているみたいだ。
とりあえずソースまみれの体を洗うために、俺は風呂場に向かった。
ー俺の風呂ー
宇宙って、非常識だ。
宇宙人のくせに、俺はシャワー越しに映る鏡の顔にそう語りかけた。
逃げたつもりか?
今度は鏡の自分が睨み返してくる。
(ザック……行かないで……。あなたがいなくなったら、私は…………)
幾多の水が、涙の様に鏡を伝う。俺はバスタブに逃げ込み、頭の先まで湯船に突っ込んだ。
親父はすげぇ。
どんなヤバイ目に遭っても、絶対に王妃たちの想いから逃げなかった。1人残らずだ。
いろんな批判もある。だが少なくとも、たった1人の想いさえ受け入れられない俺よりずっと強い。王に相応しい男だろう。俺は会ったこともねぇけどな。
勘弁してくださいよ、プリンセス。
俺には無理だ、
次期デビルーク王なんて。
俺を包む湯が小さく波打ち、やがてぶくぶくと泡を吹き始める。
キィィイイン……
にわかに、水面が光り輝いた。
「あ……?」
俺はデビルーク王の養子だが、血は繋がっていない。
それなのに王位継承者の最有力候補になったのは、「彼女」の存在があるから。
でも、俺は王になんかならない。
そんなものを目指してたら、忙しいやら危ないやらで、気ままに生きることも出来ない。
そしてなにより……、
「っしゃあ!脱出成功っ」
「……アッシュ……様?」
こんなToLOVEるな日々を、乗り越えなきゃいけないから。
俺たちの父親であり、偉大なる銀河の覇者、
結城リトのように。
to be continued