無慈悲な剣をねじ込まれて、塔白小猫は壁にまで吹っ飛ばされた。元々彼女は華奢な身体をしているが、それでもこうも簡単に押し負ける事は今までに無かった。小猫は別に弱い訳では無い。寧ろ下級悪魔の中では上位クラスに位置している。
ただフリードが強すぎたのだ。リアスや朱乃のみならず、木場に一誠までも簡単にあしらう彼が異常なのだ。自分達を此処まで追い詰めておきながら尚、無表情で迫り来るフリードにリアスは叫ぶ。
「皆、撤退よ! 一度体勢を建て直して……ッ」
「させるかよ、悪魔共が」
一瞬眼を離してしまった隙を突かれ、彼女は剣の一撃を喰らった。痛みに耐えきれず苦しむリアスはそのまま地に倒れ付した。慌てて他のメンバーが駆け寄っていく。悪魔の弱点である光を浴びたのだ。並の悪魔なら消滅、上級悪魔レベルでも重傷は免れない。
このまま戦ってもリアスの傷が悪化するのみ。そう判断した朱乃は即座に指示を下した。
「一誠くん、祐斗くん! 少しでも時間を稼いで下さい! 私はリアスを冥界の医療機関に転移させます!!」
真っ先に呼応し、飛び出したのは一誠だ。赤い籠手を掲げて解りやすいパンチを放ってくる。彼は怒っていた。想い人を傷付けたフリードに。そして守れなかった自分自身に。故に支離滅裂な言葉を吐きながら殴り掛かった。
しかし彼は避けようとしなかった。避ける素振りすら見せずに立ち尽くしている。
不味い。嫌な予感がした木場は咄嗟に一誠の名前を呼び、注意を促した。だが時は既に遅く、何かが貫く音が響いた。それは二度、三度と連続して。数瞬後に兵藤一誠はゆっくりと前方に倒れた。フリードの右手には祓魔銃が握られていた。
「兵藤くんッ!!」
悲痛な表情に一同が染まる。近くに居る木場が持ち前のスピードを活かして救出しようと風に紛れた。『
確かに速い、とフリードは頷いた。身体能力を強化しているだけはある。しかし言い換えればそれに対処すれば良いという事だ。
彼は指を鳴らした。何を企んでいるのか。警戒を強めながらも木場は包囲網を縮めていく。が、急に脚が止まった。絡まったかのように動かなくなり、当然身体は前のめりに落ちていった。何がへばりついている。脚に視線を移した。
肉片だ。最初に床に転がっていたバイザーの頭が意思を持つかのようにかじりついていた。トラップだと脳が理解した時には視界は影で覆われた。
「じゃあな……」
冷たい声。次いで一閃の音が首に溶けた。その日、リアス・グレモリーの『騎士』、木場祐斗は何の抵抗も出来ずに呆気なく殺されたのである。
誰だって死ぬさ、と彼は嘯く